七話 鑑定氏と策略
ラフォルト王国が有する国土の広さは大陸の三分の一を占め、南部に位置する中央都市である王都を中心に王国に属する有力貴族の下で約二世紀近くの間、多種多様な種族の中では最大の繁栄を築き上げた超大国。
過去数百年に渡る歴史の中で一度、大きなクーデターが起きた。その際に国を代表する王族のみならず、国の在り方そのものが一変し、現在の王権体制を築いた偉大な国としても知られる。
この国は主に『平民』と『貴族』という特権階級に分けられ、城下町を南と北に分断する大きな川を境に階級毎の居住地区が設けられている。
王宮に面した南側が貴族の領地となり、その反対の北側が平民達の居住区あるいは商業エリアとされる。 細かい規定として、貴族の中でも有力な位を持つ伯爵、公爵は王都の守備を要とするため、王都外に土地を有していたとしても内部での生活を優先される。
そのため、貴族街に象徴されるは絢爛豪華な高級レストランを始めとしたブランド力。国自慢の高度な技術を持つ職人達がその腕前を発揮し、富裕層に飽きない贅沢な暮らしを与える。一方で平民街に象徴されるのは城下に住まう人々が賑やかに、満足して暮らせる普通の生活。貴族街と比べて品の整った暮らしではないものの、王都に住まう上では最低限度の営みで暮らせることで知られる。
しかし、階級という隔たりと居住地の区別によることで生じる差別的問題も中にはある。両者が互いの領域に不可侵であるといったルールは定まっていないものの、人々の中に根付く潜在意識により『平民』は貴族街へはあまり立ち入らない。その一方で貴族側は庶民の娯楽や普通さを求めて、下りていく者もいる。そんな彼らを差別せず、逆に大量のお金を落としていく良き客として扱っている光景には暫し頼もしくさえ見える。
かくして、この王都の中では比較的安全で人々が笑い安心して暮らせる風景が絶えず映る。
「お、あったあった」
城下町の南側。先程、紹介した貴族街を俺は歩いているとその中でも異質と言えるほど、平凡であまりにも素朴なとある店の看板を見つける。周りを見渡しても何処のお店も外装に力を入れていると分かるほど、派手な作りをしているにもかかわらず、この店だけは素材の味をそのまま活かしたシンプルな造りである。ガラス越しに中を拝見するとそのままドアを開く。
「んー、らっしゃいませ~」
ドアに仕掛けられたベルに反応した店員が無愛想な顔で適当に迎える。
中には店員一人で営むも、誰一人として客が来ないため暇そうに今朝の朝刊を眺めている。
「久しぶりだな、ラドルフ」
自身の呼び名に反応を見せると目をこちらに向け、手に持つ朝刊を机の上に置く。
彼の名はラドルフ。貴族街にて鑑定屋を営む青年。
年齢は俺とほぼ近く、ドワーフと人間の混血の為、少し肌が褐色に染まっている。しかし、ドワーフの様な剛健な身体ではなく、どちらかと言うと人間よりなスリムな体型をしている。
「お前……元の世界に帰ったんじゃ?」
「まぁ、色々あってな。これからまた、旅に出るんだ」
「へー、魔王関連か?」
「そうじゃないけど、ちょっとな」
「そうか、なら達者でな」
「待て、話は終わっていない」
「ん?あぁ、鑑定か?」
「話が早くて助かる」
収納魔法を展開させ、これまでの旅や戦いで入手した素材の全てを床に置けるだけ放り出す。
「おいおい、これ全部鑑定しろってか?」
「それだと、何日かかるか分からないから大まかな値段で全部、買い取って欲しい」
ラドルフは鑑定氏を生業としている。
彼自身、カンナの家。ラフォルト王国の三代伯爵家の派閥に属しているため、ここでは主に王室御用達の鑑定氏として店を構えている。
本人の希望もあってか、内装はそこまで豪華なものではないが、整って綺麗な状態ではある。
ちなみに本人の希望の内容は他の派閥連中に目を付けられたくないからだそう。
「これ、ハリケーンドラゴンの牙か?それに伝説の魔獣、クジャの羽!?」
名前からして値打ちが高く付きそうで高揚感にそそられる。
今まで死闘を繰り広げてきた魔獣の名前は定かではないが、協力な魔獣の戦利品であれば価値は高いに決まっている。俺の心に潜むハンター精神をもとに密かに集めていたコレクション。
今では収納魔法の空きスロットを埋める高級な粗大ゴミに過ぎない。金になるのであれば遠慮なく売る。
「どうだ、いくらになる?」
「いくらって……こりゃ王宮の財宝が動くレベルだぞ。こんなのうちで扱えるか!」
「そんなにするのか……」
「当たり前だ!」
その返答は予想外であったとしか言えない。かと言って、ラドルフの他に良い鑑定屋を知る頼りもない。
「なぁ、これ国王様に見てもらった方が早いんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「なら、持ってくんな!」
「仕方ないだろ。今、それどころじゃないから」
「知らねーよ」
「取り敢えず、買い取れる物だけでも頼む」
「いや、全部買い取るよ」
先程は否定されたのに、今度はあっさりと了承した。
「え、いいの?」
「まぁ、どうにかなる。ただ一度に全額は支払えない。だから、分割払いにはなるが……」
「それでいいよ」
「分かったよ。少し待ってな」
そう言われ、店の奥へと入っていくラドルフに俺はすまない、と小声で謝る。
そして、数分後。
「ほれ」
パンパンに膨らんだ麻袋には金色に輝く大量の金貨が収められていた。
一体いくらの金額が入っているかは分からないが、兎に角ヤバい。
「金貨1000ネルだ」
「……マジか」
金貨1000ネル。日本円に直すと約一億。
「これを後で五回分払う」
「5回分!?」
完全に大金持ちじゃないか。
この足元にあるガラクタ、じゃなかった…貴重な素材だけで五億円の価値があるのか。
人間、物に値段の価値が付くとその物の見識までも変わるのはまさにこの事だろう。
「まぁ、全部ちゃんと鑑定すればもっといくかもしれないが、取り敢えずは見積もってだな」
「あ…あぁサンキューな」
三十キロくらいある金貨1000ネルの入った麻袋受け取り、そのまま収納する。
「それじゃあ、もう行った行った。この鑑定にめっちゃ魔力使うだろうから一週間以上はかかるしな」
「そんなにか」
「だから、早く行ってこい。お前の新しい旅に」
厄介者を払いたいという態度の裏側には新たな門出を祝福する意も感じる。
「あぁ、行ってくる」
俺はドアノブに手を掛けて、回した次の瞬間……
パチッと、掌から肩にかけて、ピリッとした電流の様なものが身体に流れると反射的に手を離す。
「静電気か?」
ラドルフは俺の行為を見てそう言ったが、静電気とは少し違う。
以前も感じた事のある独特な感覚。
「これは……っ!」
脳裏に過ぎった憶測が正しければ、このまま前から出るのは確実に危ない。
「ラドルフ、裏口使わせてもらうぞ」
慌てて、俺はラドルフの店の奥へと向かった。戸口を開け、そのまま突っ切ると裏口から裏路地へと出た。
店の入口の大通りとは違い、裏通りはこの辺の店の従業員達が使う裏地の為、かなり狭く入り組んだ作りになっている。
「今はちょうどいい」
俺はそのまま違う大通りへと繋がる道を沿って進んでいった。
▲
「ん、なんだったんだ?」
悠馬の突然の慌てぶりに理解しかねた、ラドルフは直ぐに切り替えて鑑定の作業へと入る。
すると、もう一人。一ヶ月に一人来れば珍しいこの鑑定屋に本日二人目となる新たな客の姿が映る。
「いらっしゃい……って、ユリナ様ですか」
冒険者用の戦闘服を身に纏ったユリナは店の中に散乱として置かれ、足元に広がる普通ではない異形の物々に気づく。
「その素材、悠馬様の……」
「あぁ、悠馬の奴が今置いていきまして」
『今』という言葉に反応を示し、一度店内をよく見渡す。
「悠馬様はどこに?」
「さっき慌てて裏口から出ていきましたよ」
「そうですか、すみませんが私がここで失礼します」
「あ、ちょっと待って下さい」
「何か?」
「この悠馬が置いていった素材なんですが……俺みたいな一介の鑑定氏が扱える代物ではなくてですね……」
「分かりました。専門の者を一人こちらに寄越します。後はその方に従って下さい。では」
そう告げると早々に店から出る。
「珍しいな。ユリナ様があんな表情するなんて」
余裕の無い顔。
端的に表せばそう言えるが、表情から察するにかなり慌ててる様だ。
悠馬もそうだか、二人共妙に焦った面立ちで去っていった。十中八区、悠馬に何かしら原因があるのは察せた。
こういうのは首を突っ込まない事が一番。
「にしても、何したんだ。あいつ」
▲
「クソっ!何でもうバレてんだ?」
大通りの店と店の隙間にある路地。建物と建物の間にある陰から何人の兵士達が俺の名前を出しながらウロウロと歩いているのを目にする。
無論、探しているのは彼らだけではない。街の警備を務める衛兵達に捜索指示を出している者がいる。
それも俺の直ぐ近くにだ。
先程、ラドルフの店で感じたあの静電気に似たモノ。あれは魔力。
高密度な魔力は時に金属に静電気の様な微弱な魔力を伝達し、触れた者にその魔力の余波とも言うべき小さい反発力を与える。過去に一度、さっき同じ様な現象を俺は経験したことがあった。
それほど高密度な魔力を有する者でなければ先ず、そんな事は起きない。
そして、それが可能となる人物は思い浮かんで、一人。
英雄の先祖返りとも称される程の強大な魔力を持って産まれたお姫様である、ユリナにほかならない。しかし、彼女が動くのはあまりにも早過ぎるのもそうだが、何よりも国王の足止めは全く役に立っていない。
既に大通りへ警備を回され、徐々に俺を王都外へ逃がさんとする包囲網が作りあげられつつある。
「不味いな、どうするべきか………」
この貴族街から出るには先ず、上れば王宮へ、下れば平民街に行ける大通りに出て、そこから平民街と貴族街を区画するラーセント川の上に掛けられた橋を渡って行く必要がある。
橋があるのは三ヶ所。
現在地である、中央通り。目の前にあるこの大通りを真っ直ぐ進んでった場所に一箇所、そして後の二つが両側にある左右の大通りの二箇所。
どの橋を渡ろうとも掛かるリスクは全て同じ。
いや、時間と距離を焦点に当てれば今いるこの通りを真っ直ぐ駆け抜けていく方がいいかもしれない。
ここは石橋を叩いて渡るべきなのだろうが、時間との勝負を求められる以上、ある程度のリスクはかけていく必要がある。
「なら、手段は一つか」
建物の屋根を見上げ、静かに跳躍、屋根に着地。
出来る限り、人目に付かないよう移動するとなると、店の屋根を伝って忍者の様に飛んで移動しかない。多少、上から丸見えになると分かっていても。
早速、実行に移す。
出来る限り屋根音を響かせないよう、静音の着地を心掛けながら八艘跳びを繰り返す。
「……やっぱり、居るか」
案の定とも言うべきか。
周囲の気配を敏感に感じながら進んでいると、身を潜めながら同じ様に動く黒い影の物体がチラチラと視界の隅に映り込む。
姿をしっかりと確認出来ないがおそらく五人。
網を形成しながら、俺の動きに合わせている。
「ユリナめ、本気で止めに来ているな」
周囲に潜む彼らの隠密性は素晴らしいものだ。音を立てず、気配を消し、最小限の気付かれない程度の視線のみをこちらに向けて動くなんて芸当は普通の人間であれば出来ないし、気付かれないだろう。
相手が俺や国王みたいな人間でなければ。
そして、姿や形が見えずとも、彼らの正体が何であるかは自ずと分かった。
彼らは王国の特設部隊。通称『影』
情報収集に長け、影から俺達勇者パーティーを支えてくれた存在。
彼等の存在無くして魔王討伐は達成出来なかった。
だが、そんな彼らも大半が魔王に手をかけられ死んでいった。今ここにいるのはこの国の兵士と同じ、 予備役の者達。
実力はそこまで無いにしても、この隠密能力は正直相手にするとかなり厄介だ。
俺がラドルフの店に居たのも彼等が逸早く見つけてユリナに知らせたに違いない。
となると……もう、ユリナはこの街の何処かで俺を捕まえる手段を用意していてもおかしくない。
「まさに時間との勝負か」
風魔法を自身に付与し、疾風の如く、彼等の包囲網を突破する速さで移動する。
この速さなら、あと数分で橋へと着く。
そこからは橋を渡るのではなく、助走を付けて横幅六メートルある川岸をジャンプで渡り越す。
多少無茶な作戦ではあるが、聖剣の力を使えればおそらく可能だ。
応えてくれるかは分からないが、それに賭ける他あるまい。
そう頭の中でイメージをしていると直ぐに川が見えて来た。
橋の両端にはかなりの兵士達が待機して、通行を監視している。
「思った通りか、ならこのまま………」
更に加速し、勢いをつけて飛ぼうとしたその矢先……
「見つけました」
突然、空から舞い降りたユリナは行く先に熱い蒸気を作り出す。気付くのも束の間、加速で止まれなかった俺はヒリヒリと肌を軽く火傷する空気に蒸され、そのまま川の手前にある整備された道路の上に転がり落ちた。
「あっつ~」
一気に全身を熱されたあまり、川の水を見た途端、反射的にダイブしそうになるもここは敢えてその気持ちを必死に押さえ込んで濡れた顔を手で払う。
ここで水の中に入れば完全に水を使った魔法で拘束される。故にダイブは悪手だ。
「逃がしませんよ、悠馬様」
目の前に降り立ったユリナが杖を眼前へと向け、抵抗しないようにと告げてきた。
「さぁ、戻りましょう」
「俺は今日、街に降りてるだけだとしたら?」
「逃げる理由をお聞かせてもらえますか?」
おっと、痛い所を突かれた。
仮にラドルフの店に居たあの場面で逃げていなかったら「ただ、街に降りているだけ」で通せたかもしれない。という、心理的戦いで俺は既に後手に回った。
「分かったよ。降参だ」
手を挙げて意思表示するもユリナは杖を引かない。
俺の往生際の悪さを知っているから『俺が諦めた』とは思われていないみたいだ。
「お父様と悠馬様が何を結託しているのかは知りませんが…今、悠馬様を遠くへは行かせません」
「ちなみに、俺は何をしに行こうと聞かされているんだ?」
「魔王復活の阻止です」
魔王復活の阻止。そのワードを聞いた俺は顔を少し下に向けニヤリと口元を緩め、瞬時に言い訳の台詞を脳内で考えた。
「それは俺にとって、いや勇者としての責務だ。これ以上、この世界に危機を訪れさせたくない。これが俺の意思であり、願望なのもユリナは知ってるだろ?」
情で訴える作戦。
言ってることは100%嘘ではない。
どの道、帰還の方法を探る途中でそう言った手掛かりは見つかるかもしれない。
この世界から一刻も早く出て、帰りたい。という気持ちは俺の中では消えつつある。
全ての事を終わらせ、本当の平和を体現したら勇者の存在をこの世界から消すつもりでいる。
その事を仮にユリナに伝えたとしても彼女はおそらく認めないだろう。
「分かってくれとは言わない。だけど、ここは……」
「駄目です。ダメなものはダメです」
……意地っ張りめ。
「今ここで悠馬様を国外に出す訳にはいきません!」
ユリナの魔力に起因した川の水がいつの間にか周囲に無数の水玉となって展開されていた。
それが悠馬の方に集まって水の中に閉じ込める。
息が出来ない俺は聖剣を抜く。
そのまま一刀両断で切り裂くとただの水へと戻る。
「びしょ濡れかよ」
俺が身に纏う装備は魔法の付与が施された魔法礼装ではあるが水の撥水性はない。
そのため、心理的に俺は帰って服を乾かしたいという心理状態に陥る。
「あんまり、ユリナを相手にしたくはないんだけど」
「私もです。ですから、自ずと戻るように仕向けさせてもらいます」
杖を縦に振り下ろすと線を描いた風の斬撃が一直線に向かって襲いかかるも俺は聖剣で振り払う。
「えっ?」
しかし、聖剣は本来の力を発揮しなかったせいか力で押し負けた。
後方へと倒れ、硬い道路に打った背中が火傷と相まってヒリヒリと痛む。
本来であれば、この程度の火傷は聖剣の持つ治癒の能力で既に治っている筈。
クソ、何で……
「やはり、聖剣の力を使えないのですね」
その指摘に俺は顔を上げずに、拳を強く握りしめた。
誰にも話さずに黙っていた事をユリナには知られていた。
「いつから……気付ていたんだ?」
「なんとなくです。聖剣を手放す様子が多かったので」
「……もしかして、行かせたくない理由って……」
「これも一つです。聖剣が力を発揮しない以上、悠馬様を一人で遠くに行かせるのは危険だと思いまして」
ユリナの過保護とも言えるその言葉に少し残念な気持ちを抱いた。
確かに俺は聖剣有り気での戦いをしてきた。けど、仮に無かったとしても十分実力はある方だと思う。
しかし、この状態で聖剣抜きでの状況突破はかなり厳しい。ユリナが仮に空間魔法で俺を閉じ込めよう ものなら、聖剣を使わずして突破は不可能に近い。
ここは一旦捕まって、何処かのタイミングでもう一度逃げる方法を模索するしか………
「逃がしませんよ」
「えっ?」
俺は急に足の力が入らなくなると膝先から崩れ落ち、アスファルトの地面に倒れる。
「これは……麻痺毒?」
聖剣には状態異常に対する浄化作用の効果がある。毒などにかかったとしても直ぐに治るはずだが、おそらく遅延性のある弱い麻痺毒を使用しているのだろう。
「いつの間に……」
「先程の蒸気に含ませていました。空気中に撒いていたものを水で薄めて皮膚から溶け込むように練りましたので」
一番思ってもいなかった方法で身体の自由を奪われた。
手先にも力が入らなくなり、聖剣を握る事すら出来なくなる。
すると、周囲に五人の忍者ともとれる黒ずくめの格好をしたもの達が俺の身体を取り押さえ、聖剣を奪う。
「多少手荒ですが、こうでもしなければ悠馬様は必ず行ってしまいますので」
「…………」
下が回らない。
クソ、次第に意識を消え失せてくる。
仕方ないここで諦めるしか……。
『今回だけ、だよ?』
ふと、知らない者の声が聞こえる。
優しくて何処か懐かしい声。
『またね、私の主様』
その声と共に淡い光が俺の身体を包む。
「これは……」
ユリナですら知らない魔法の現象。
それを行うなっているのはおそらく……。
「聖剣の力?」
悠馬の身体の光が強くなるとそのまま霧散して消える。
跡形もなく消えてしまった悠馬の身体を魔力の痕跡を頼り追おうとも、一切感知することは出来ない。
「一体どこに……」
相棒の聖剣は隠密の一人が回収し、所持している。
聖剣は手元から離れてしまったら、力の供給は出来ない。と予想していたが、根底から覆される事象を 目の当たりにして困惑する。
「もう……何処にも行かないって言ったじゃないですかぁ」
弱気な声を漏らし整備されたアスファルトの上に跪くと、ユリナは項垂れた。




