百五話
「終わったかしら?」
人間の祭りに溶け込むためにと、自身が愛着する漆黒のゴスロリドレスではなく、袖や帯にフリルを備えた黒い浴衣を纏ったザラが結界の解除よりも一足先に戻った。
結界から出るには魔法範囲外の領域に出ればいつでも抜け出せる。だが、この山々の谷に囲まれたこの街から出るには大森林に続く一本道と街の出入口を担う関所に行かなければならない。
悪魔にでもなれば山の一つや二つ、容易に飛ぼ超えられるのは可能性ではある。
しかし、ザラは自分が着ていたこの浴衣なる衣服を大層気に入り、下手に汚したくないという理由で敢えて安全な大森林へと向かうルートで合流を果たした。
瀬戸雄二を回収した兄は既に彼と共に帰還している。当初の通り、一緒に連れて来た白鬼が結界を出た直ぐそこで待っていた。
ザラの問いに「見ての通りだ」と無愛想な声で答える。
「怒っているの?」
その指摘に仮面の奥から垣間見れる瞳が狭まる。
「魔王様との契約でね。あなたと勇者をあの場で戦わせても意味はないから」
「意味がない……だと?」
「結果の通りよ。あの二人が戦ったことでお互いに覚醒した。あなたとでは今日のようにはならない」
「……ちっ、別にいい。奴、本来の力が戻ったなら、それはそれで構わない。次に奴を殺すのは俺だ」
白鬼が悠馬に執着する理由、それは己の中に渦巻く怨讐である。
これまでに悠馬に倒されてきた悪魔達の魂。
それらの憎しみの部分を抽出し、用意された器へと押し込めた存在。それこそが白鬼の本質。
そして、その復讐鬼を生み出したのは死霊術士のザラである。
「残念ながら、今のあなたじゃ無理ね」
「……」
「聖剣を手にした以上……いえ、勇者は以前よりも強くなった。兄上もそれを見て大人しく手を引いていたし」
私が昨日知らせた話を聞きつけ、わざわざ大陸の端から端まで全速力で駆け抜けてここまで辿り着いていた事には些か驚いたし、引いた。
そして、私の立ち位置を上手く利用して勇者の追撃を防ぐことで今日は難を逃れたというのがつい先程の出来事。あのまま、興味本位に手を出していれば、確実に兄上は死んでいた。
今の勇者にとっての討伐優先順位で言えば、兄上は堂々の一位であろう。
私が彼の立場であればそうする。
だってあれを野放しにしていたらウザイし。
ってな訳で今の勇者に何の準備も無しで戦うのは自殺行為に等しい。
だからこそ、人間らしい弱点に付け込み、いくつかの枷を課せなければならない。
「あなたも悪魔であるなら、悪魔らしく戦ってはどう?」
「黙れ、俺は俺のやり方で奴を殺す。邪魔だけはするな」
あの獲物は俺のだ。
強い殺意と共に伝えられた明確な意志を受け取り、ザラは珍しく怯んだ。
決して自身に向けられた刃ではないにもかかわらず、恐怖が一瞬身を支配した。
ははっ、これはとんでもない化物を生み出したかな。
死霊術士として自分は最前線に出る事はなく、ただ死体を搔き集め、魂を魔法で縛られた死霊を生み出していた。
本来であれば意志無き亡者として傀儡の様に支配するのだが、兄上の時と同様に彼にも自我は残し、代わりに少しばかり細工を施した。
それが勇者に対する怨讐の塊。
それをある人物の空っぽの身体に埋め込むことで彼という最高傑作を生み出した。
まぁ調整を加えなければ、あのままではいずれ根底となる自我そのものが崩壊し、植え付けた魂の居場所が無くなり消えて、意志無き死人へと戻ってしまう危惧もある。
だが、それでいい。
その方が面白くなる。
兄弟揃って絶望に満ちた表情を私に向けてくれる事が私の楽しみなのだし。
この回をもちまして三章閉幕となります。
もう少し早く終わらせる予定でしたが、現在同時平行で進めている『美少女になったので地下アイドル始めました』(宣伝)という作品を書いたりしていたため、六月のギリギリまでかかってしまいました。
ここまで読んでいただいていつも本当にありがとうございます。
本作品はこれからも連載していきますので、継続して読んでもらえると幸いです。
次回以降から四章に入っていきますが……四章に入る前に!
二、三章の改稿を行いたいと思います。
設定も大きく変更した所があり、私自身把握し切れていないキャラや能力があるので、それをもう一度見直すのとこの回までのキャラクター設定を分かりやすくするための資料を掲載します。
なので、四章に突入するまで少し時間がかかってしまうのでご了承ください。
これからも『元の世界に帰りたいのに、帰れなくなりました』をよろしくお願いいたします!
※定期文
感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。
毎週金曜日を目安に随時更新していきますのでよろしくお願いします。




