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芝さんが作ってくれた売上。
それは私の心に余白を生んだ。
例え数ヶ月で返済額に飛ぶ金だとしても、その間の猶予になってくれた。
焦らなくていい。
売上に追われない時間は心をほんの少し軽くさせた。
そんな時、私の携帯が1件の通知を受けて震える。
“凛ちゃん、明日ランチ行こう”
藤村だ。
ため息が出る。
でも、こうなるよう育てたのは私だった。
金のために自分を見失っていたんだ。
キャバ嬢を辞めたあとの、藤村との未来なんてない。
そんなことはわかりきっていたのに、
金のためだから仕方ない。
この人に見合う時間を提供している。
必死に言い訳を探して、嘘をついてまで藤村に執着をしていた。
“ごめんなさい。明日のお昼は忙しくて…”
そつない断りの返信を入れた。
藤村のことを考えると、やはり頭が重くなる。
自分が犯した罪の罰からは、逃げることはできないからだ。
次の日、藤村は早速店に来た。
「き、昨日、い、忙しかったんだ、ね?」
私を捉えた目から、逃げるように目を逸らした。
「うん。ごめんね。」
「あ、いや、そそ、そんな日も、あるから…」
もうランチは行かない。
あんたとの未来はない。
そう伝えたいけど、言葉にできない。
まだ、私の心の中に迷いがあるからだ。
この男が店に来なくなった時、芝さんが作ってくれた猶予が底を尽きた時、私は生きていけるの?
「じゃ、じゃあ、来週はど、どうかな?」
「ごめん!私、お昼も働き始めたの。だからもうランチは難しいかな…」
私は咄嗟に嘘を重ねた。
そういえばどこかで聞いたことがある。
人を傷つけないための嘘は、時には必要だと。
「ん?……そ、相談とか、し、してほしかった…けど…」
この嫌悪感は、私が作り上げてしまったもの。
許可を取らずとも、私の中に踏み込んでいいと思い込んでいる。
少し、やり過ぎた。
私は藤村との距離を改めることにした。
これは私のためだけでは決してない。
藤村にも、ちゃんと見合う額を使ってもらうため。
店にいる限られた時間の中で、納得できる分だけの金を払ってほしかった。
私にこれ以上、幻想を抱いて欲しくはないから。
「でも同伴は今まで通りできるから!」
「ああ、同伴…。うん、連絡するよ。」
藤村はわかりやすく顔を歪めた。
私は取り繕うように、いつもより明るい声で話した。
今までだって、他の客にも腐るほど色恋営業をしてきた。
未来の話をしたり、必要以上に体に触れてみたり。
私はLacisの“凛”として、夢を売っていたんだ。
そして、どの客も夢から覚めると店に来なくなった。
今回が今までと違うのは、借金の話をしたこと。
これは“凛”の奥にいる私の一部を見せてしまった。
そして、短時間で熱心に育ててしまったこと。
これも、焦っている私の心がさらけ出てしまった。
全て、キャストである意識を欠いた結果だった。
もう自分も他人も傷つける嘘はつきたくない。
これ以上自分を嫌いになりたくないから。
その代わりに向き合いたい。
偽りのないの心で、一人ひとりと。
少しだけ、自分の未来にも光が差した気がした。
今まで金にしか見えなかった客たちの話をちゃんと聞いてみると、それぞれの気持ちがそこにはあった。
この人は、今までどう生きてきたのか。
どうしてその言葉を発するのか。
思考の根本になったものは、なんなのか。
そんなこと、今まで何の興味もなかったはずだ。
それなのに、人を知ることは思っていた以上に面白かった。
そして同時に自分の経験値までぐんぐんと上がっていくような不思議な感覚。
私はもう、色恋営業をしない。
夢は売らない。
現実を、私の心を売って生きる。




