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「今更だけどさ、凛ちゃんっていくつ?」


彼はふらりとまたうちにやって来て、今1番ナイーブなことを何の気なしに聞いてきた。


「27。」


店でもよく聞かれる質問に、内心げんなりしながら答える。


「えっ同い年?うそ、一個下かも。」


「あ、間違えた29。もうこの歳になると自分が何歳か忘れんだよね〜。」


私は咄嗟に嘘をついた。

花音と凛を1ミリも結びつけたくなかったからだ。

気を落ち着かすように、タバコを手に取った。


「やっぱり歳上だと思ってた。俺とあんま変わんないけどさ。落ち着くんだよね、なんか。」


「ふ〜ん。歳上好きなの?」


煙を吐きながら、確かに彼には歳上の女性が合いそうだ。と、思った。

落ち着いていて、包容力があって、優しい人。

彼の弱さを丸ごと包んで抱きしめてあげられるような、成熟した女性。


「うーん。どうだろわかんない。俺ほんとに恋愛してこなかったから。」


彼の言葉を、私は鼻で笑った。


「好きな人くらいいたことあるでしょ?」


「あー。まあいたことはある。」


自分で質問したくせに、彼の返答に胸がチクリと痛んだ。


「どんな、人だった?」


聞きたくないのに、聞いてしまう。

そもそも私がこんな気持ちになることすら、烏滸がましいのに。


「どんな人…か。強い人、だったかな。明るくて、前向きで、キラキラしてた。」


そう語る彼の横顔を、ただ見つめていた。

その人を思い出したのか、彼はそっと優しく微笑む。

美しくて、私の目には眩しすぎる。

どんな徳を積んだら彼にこんな表情をさせられるのだろうか。


「あつっ!」


すっかり吸っていたことを忘れていたタバコが、私の手からすり落ちて脚に直撃した。

急いで灰皿へ投げたが、落ちた灰が手持ちの中で1番可愛い部屋着のショートパンツを少しだけ燃やした。

まあ、誰に見せるわけでもないからいいけど。


「大丈夫?」


そう言って、脚に落ちた灰を払おうと伸びてきた彼の手を避けるように立ち上がる。


「大丈夫大丈夫〜」


笑ってみたが、なんだか上手に笑えていない。

彼の前だと、やはりいつも上手くいかない。

髪を一本に結い上げて慌ただしく掃除をし始めることにした。


「ねえ、ちょっとこっち見て?」


「えー?」


急に彼に肩を叩かれて、どうしたのかと振り向いた。

彼は私の顔をまじまじと見て、


「やっぱり、なんかちょっと似てる気がする。凛ちゃんと。」


「は?なにが?」


なんのことかわからず、眉間に皺が寄った。


「好きだった人。」


その話はもう終わったと思っていたのに、また蒸し返された。

もうあまり聞きたくない内容に、一瞬白目を剥きそうになるがなんとか堪えた。


「私、前向きでキラキラしてて〜とかいう性格じゃないけど?」


「うん。性格っていうより、雰囲気?顔?なんだろわかんない。」


「なんだそれ。」


呆れたように笑って、また掃除を再開した。

でも、そういうことか。と、少し腑に落ちる。

彼の好きだった人と私に似ているところがあるから、彼は私の家を訪ねるのかもしれない。

つまり、代役。

そう思うと少しだけ楽だった。

彼が私を見ていない理由になるから。



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