7.療養
※エピソードタイトルを「魔法習得1」→「療養」に変更しました。
私が異世界に来てから10日が経過した。初日の夜に色々問題を起こした私は、カイトと話し合いの末、ここ10日間は自主軟禁生活を送ることとなった。ちなみにこの世界は10日で1週らしいので彼らの感覚だと1週間という区切りでそう提案してきたようだ。
なぜ軟禁生活になったかと言うと、まず、迂闊にも町中をうろついてしまったこと。これにより一夜にして城下町一帯に「サリアが蘇った!?」という噂が駆け巡った。それにより当然民衆は事の真相を訊ねにお城に押し寄せ、門兵やら文官やらがこの対応に追われた。一時的に行政はストップする羽目になり、最終的に国王が「サリアに酷似した異世界人が来訪している」という公表をして、騒ぎの鎮静化を図ったのである。完全に私の短慮のせいで多くの人々の仕事や手間を増やす事態となってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
次に、私の体調?の問題だ。手の怪我はそれほどでもなかったのだが、カイトが私の顔色が良くないと主張してきたのだ。そりゃあ現代社会に生きているのだから、目の下にはクマが在住しているし、デスクワークだから青白く血の気のない顔色をしていたって別に不思議じゃない。これが普通だと伝えると、カイトは首を横に振った。
「誰が見たって十分な休息と栄養が足りていない病人の顔だ」
そう言われると私も何も言えず、ここ10日間は規則正しい生活を送ることとなった。
(やっぱりカイトの言う通り、私の普通っておかしかったんだな)
10日間経って、自分の健康状態を比べてみると差は歴然だった。慢性的にあった身体の倦怠感は取れ、クマはなくなり、顔色もずっと良くなって、なんと肌ツヤまで改善した。お肌の調子が良いと何だか気分まで明るくなってくる。私は何だか子供の頃に感じていた生きることの喜びのようなものを久しぶりに味わっていた。
「アリサ様、大分お加減は良くなりましたか?」
侍女のリリアンさんが昼食の皿を下げながら訊ねてくる。
「はい。おかげ様ですっかり元気です」
リリアンさんは私の専属侍女である。私が異世界から来たことや魔法が使えないこと、サリア様ではないことなど事情を全て知っている1人だ。見た目は30代くらい、使用人らしい丈の長い黒いワンピースに白いエプロンをつけた仕事をてきぱきとこなす頼もしい女性である。最もこの世界の人間は見た目と年齢が合致していないので、実際のところどれくらい長生きしているのは分からない。
ちなみに私は国王の食客として城に滞在することを許されているので国賓レベルの好待遇を受けている。初日の夜にカイトたち近衛兵がわざわざ助けに来てくれたのもそのためだ。
(元の世界に帰る手立てがないこと以外、快適なのよね)
歴史やマナーなど、この国で生活していくのに必要な知識については今後専門の教師がついて教えてくれる予定になっている。ノープランでお城なんか抜け出すんじゃなかったと改めて反省せざるをえない。
気になっている魔法に関しては仕事の合間を見て、リリアンさんに色々と質問をしていた。
「リリアンさんはどうやって魔法を使っているんですか?」
軟禁生活はじめの頃、部屋を掃除しに来たリリアンさんに私は訊ねた。正直、もう2度とあんな怖い思いはしたくない。魔法が使えるようになれば自衛ができるかもしれないので、もし私でも使えるのであれば習得したい。
「どうと言われましても…」
リリアンさんがさっと右手の人差し指を指揮棒のように振り、「カサリシェ―片づけろ―」と唱えると、透明なケセランパサランがワラワラと集まってきて、ベッドメイキングやらはたき掃除やら整理整頓やらを始めていた。
「魔力を使って、ケセランパサランにお願いしているの?」
「ケセラン…何ですかそれ?」
流石にこっちの世界でそれを知っている者はいないだろう。私は慌てて訂正した。
「あ、えっと、ほら、このフワフワ漂っているやつ!」
私はちょうど近くを通ったケセランパサランを指さした。
「え、やだ、ホコリ舞ってました?」
侍女失格だわとリリアンさんが落ち込んでしまった。
「いや、そうじゃなくて…ほら、これですこれ」
私は暇そうにしているケセランパサランを両手でそっと捕まえてリリアンさんの前に持っていった。しかしリリアンさんは私の両手を見て首を傾げる。
「アリサ様、何も見えませんが?」
「え?」
私とリリアンさんは顔を見合わせる。リリアンさんは私の体調が優れないばかりか幻覚まで見えていると思ったらしく、憐れみの目線を送ってきていた。
「アリサ様、部屋掃除が終わったらお昼寝でもいかがですか?」
「あ、いえ、体調が優れないわけじゃないので…」
あははと誤魔化してみるがリリアンさんは心配そうだった。
(どうやら他の人には見えていないみたい)
私は不用意にケセランパサランについて聞くのは止めようと心に固く誓い、強引に話を逸らした。
「あ、ねぇ、魔法には種類があるの?」
「はい。魔法は大きく属性魔法と無属性魔法に分類することができます。属性魔法とは火や水、風など主に自然現象を操るものを指します。無属性はそれ以外のものですね。こうやって片付けをしたり料理をしたり、属性魔法以外のものは全て無属性に分類されます」
なるほど、エレメントのようなものは属性魔法で、それ以外は無属性魔法と分類しているようだ。
「この世界の人はみんな魔法が使えるんですか?」
「はい、無属性魔法と最低1ついずれかの属性魔法が使えます。私は火を使えますよ」
優れた魔法使いなどは属性魔法が3つ使えるらしい。これらは後天的に習得はできず、何種類の属性魔法に適性があるかは先天的に決まっているとのことだった。
「ちなみにステータスとかレベルアップとかはありますか?」
「すみません、なんと仰いましたか?」
元の世界固有の概念は通じないみたいだ。
「ああ、すみません。ええと、自分の魔力量を数値化したり、こう何か魔法の強さや技量を示す数値はあるんですか?」
「いちいちそんなことはしませんよ。戦闘職の場合は入団試験で魔法石という石でおおよその魔力量を測ったり、魔法のテストを行なって採点したりはしますけどね」
つまり元の世界と似たようなものか。テストで成績や偏差値が決まるけれど、「数学レベル99カンスト」みたいなことにはならないのと同じように、この世界もゲームのような魔法のレベルが云々といったことはなさそうだ。
「そうなんですね。私も魔法を使ってみたいのですが難しいでしょうか?」
私は思い切って一番気になっていることを訊いてみた。
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。