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第三章『《神焔教会》』Ⅲ

 皆様読みに来てくださり、ありがとうございます! 今回のEpisodeも8000字超えとなっております。

 

「ふっ、フワッハッハッハッハッ――!」


 ボズマンの哄笑が広大なロビーに響き渡る。

 一体何がそんなに可笑しいのか。

 実に可笑しそうに肩を揺らし、片眉を上げこちらを()め付け言葉を放ってくる。


「何を言うかと思えば、守る? 一体、貴様は何を言っておる? 貴様らの今の生活があるのは日々、古代の叡智を復元する為研究に勤しむ儂のような深い知識と教養を持った高貴なる者、一流の遺跡研究者たるこの儂のお陰だ。貴様らのような何の学も、価値も無い下々と全く価値が違うのだッ! そのような存在たるこの儂に口答えなどしよってッ、身の程を弁えろ小僧ッ――!!」


 ボズマンが手に持っていた綺羅びやかな杖を勢い良く振り上げ、不可視の神秘なる力――万物の根源たる《魔素(アニマ)》を杖に流し込む。


 空間に生じる紅き炎――


 それは次第に姿を強め、赤く、紅く、その猛りを大きくさせリィンの視界の先を赫く染め上げていく。


(鉱術――いや、違う。これは古代遺物(アーティファクト)の《奇跡》かッ――!!)


 視線の先で拡大していく赫く燃え滾る豪炎に視線を固定し、ボズマンが杖の先に生じさせた力を瞬時に分析するリィン。

 その逆巻く灼熱の豪炎は思考する間も更に、更に強さを増し、温度を急速に上昇させては辺り一帯を熱していく――。

 周囲に積み重ねられていた書類を、音を立て煽り散らばらせていく――。

 肌を、チリつかせていく――。

 それはリィンだけではなく、近くにいるネーヴェやシエル、シャルロッテといった付近に居る者、この総合受け付け塔ロビーにいる多くの人達にまで波及する――。


「ぼ、ボズマン様ッ! お止め下さいッ!」


 周囲で上がる悲鳴と、ボズマンの同僚とおぼしき者の制止の懇願。

 しかしその声はボズマンの耳に入らないのか尚、大きさが増す古代遺物が生成する灼熱の豪炎。


(一体何を考えているんだ! こんな人が多いい場所でこの男はッ――!!)


 煌々とその姿がまだ膨れ上がる灼熱の豪炎に視線を固定し、腰のハーネスに下げた収納石に手を当て目を剥き思考する。

 これでは自分だけではなくネーヴェやシエル、周囲にいるシャルロッテ達教会の者達にまで被害が及び、怪我人が多く出る。

 それを、この男は分かっているのか――。


(くそッ――! 遺跡研究者なら何をしても良いのかッ!!)


 周囲の人々に被害が及ぶかもしれない事態に、ボズマンを煽り啖呵を切ったことに後悔を覚え胸中で悪態をつく。

 後ろにはネーヴェが居る。最悪の場合、自分の半身が周囲の者達何割かを守ってくれるだろう。


 しかし――


(多分、全員は無理だ――)


 大なり小なり被害は免れない。

 この規模の炎熱系奇跡が出せる遺物だ、威力は見せ掛けなどではない筈。

 

 それでも、全員を守らないと――


 遺物の奇跡により生じた灼熱の豪炎がより一層その熱を、光度を強めていく。

 振り上げ高く掲げられていた杖に力が籠められる動作。その様子に――


 来るッ――!!


 双剣を手に腰を落とし、駆け――


 出せず、視線が足に向く。


「ッ――?!」


 放たれる灼熱の豪炎。


 何だ? どうして動かない――?


 刹那の思考に、逸れる注意。


 一体、何故――?


 駄目だ、違う。今は放たれた豪炎の対処が――……


「「ッ?! リィンッ――!!」」


 ネーヴェとシエルの叫びが、ロビーに響く。

 迫りくる遺物による灼熱の奇跡――。

 上がる周囲の悲鳴に――
















「ソール――」
















 響く、すっと通った女性の声。


 瞬間――


 逆巻き荒れ狂っていた迫りくる灼熱の豪炎がその姿を掻き消し、高く、澄んだ音を鳴らせ氷の華が咲いた。


「ッ?!」


 ひらひら、きらきらと――


 振り散っていた豪炎の火の粉がその姿を変え、静かにリィンの眼前に煌めいては落ちていく冷気を帯びた小さな氷の華達――。

 先程まで辺り一辺を焼き尽くさんとばかりに熱され上がっていた温度はその鳴りを潜め、温度が下がり肌を焼く熱さが消えていく。


(何だ。何が今、起こった――?)


 眼前で起こった光景に訳が分からず息を呑み、驚愕する。

 誰かの声が聞こえたと思えばあの巨大な豪炎が一瞬にして凍り、砕け散ったのだ。無理もない。

 それに自分だけではない。周囲でも豪炎の脅威で怯えていた人達が驚愕のあまり、何処か呆けたように舞い散る氷の華を見詰めている。

 そんな氷の華が舞い散るロビーで――。

 リィンの手から双剣が消え、視線が、眼前の人物に縫い止められた。


 さらさらと揺れる漆黒の髪に――


 風に揺らされはためく黒衣のコート――


 手には一振りの青銀色の長剣――


 彼はその一振りの長剣を手にただ、静かにリィンの視線の先で只々静かに佇んでいた。


(昨日の、おニイさん。それと――)


 更に、もう一人の人物へと視線を静かに向ける。




「ゴルド・ボズマン、これは一体何事です――? 何故、危険な遺物の力を此の様な場所で使用したのですか?」




 先程のすっと通った声を発した女性がゆっくりと、氷の華を舞い散らせた青年の元までやって来ると静かに、言葉を放つ。


(綺麗なおネエさん――)


 青年から女性へと視線を移したリィンはそっと、彼女を見遣り胸中にて呟く。

 艶めく長い空色の髪に、ぞっとする程美しい銀色の瞳。歳はまだ二十歳ぐらいだろうか。リィンから見ても酷く整った見目麗しい相貌に、女性が羨みそうな女神も斯くやという完璧なまでのプロポーション。その官能的な身に纏うは漆黒の、妖艶なイブニングドレスで――。しかし、そんな煽情的な雰囲気が漂う中に貞淑さを兼ね合わせた、どこか神秘的な妙齢の女性がリィンの視線の先に居た。


「――聞こえませんでしたか? ゴルド・ボズマン。貴方は何故、ロビー(ここ)で彼等に対し遺物の力を使用したのですか?」


 女性の声に、何が起こったか分からず呆然としていたボズマンがその肩を小さく跳ねさせ、我に返り片膝を床に着かせる。

 周囲でも騒然とし混乱に陥っていた者達が一斉にその場で片膝を折り、頭を垂れ静まり返っていく。


「み、神子様……」


 静まり返ったロビーに、名を呼ばれたボズマン――ゴルド・ボズマンの声が小さくだが響く。


(……今、“神子”様って言った?)


 零れ出たその言葉の単語に意識を集中させる。


 ――神子――


原初の神焔(ウェスタ)》と同じ、神焔教会のもう一つの象徴――神の血を引く人類の導き手――。

 そう呼ばれる存在がゴルドへ、このロビーでの出来事について訊ねている。


「お、恐れながらそ、其処な受け付けの小娘が一般人にペラペラと内情を喋った挙げ句、“魂鎮めの儀”の事まで喋ろうといたしまして――。それに白髪の小僧に至っては生意気にも儂に物を申し、軽率にも遺跡研究者になるなどとほざき、それで――……」


 語尾を次第に小さくさせていき、頭を垂れ言葉を紡ぐゴルド。


「しゃ、シャルロッテさんは行方不明になった私の兄の事を調べて、お教えくださっただけですッ! それにリィンはッ――!!」


 ゴルドの物言いに堪らず、シエルが声を上げ目の前の神子と呼ばれる女性に言葉を放つ。

 だがそのシエルの言葉に隙かさず、ゴルドが食って掛かる。


「だ、黙れ小娘ッ! 誰に物を言っ」

「黙りなさい、ゴルド・ボズマン――」


 顔を赤くし怒声を上げ威圧するゴルドに対し、冷徹とも言える声音で男を黙らせる至高の存在である神子。


「し、しかしッ!!」


 尚も言葉を放つゴルドに


「貴方は何度同じことを言わせるつもりですか? 私は、黙りなさい(・・・・・)と言った――」


 至高の存在がその銀色の瞳をすっと眇め、静止の言の葉を今一度紡ぐ。

 その言葉にゴルドだけでなく、リィンもまた息を呑む。それは神子という存在が姿を現したからではなく、彼女の放つ圧――


 圧倒的な存在が放つ圧に、畏怖の念を抱き――


 これが、この人が、神の血を引く存在――“神子”――


「――それで、彼女の怪我の具合は?」


 ゴルドを大人しくさせた至高の存在がネーヴェ達の前まで来るとそっと膝を折り、シャルロッテの怪我の具合を訊ねる。


「みっ、神子様?! いっ、いけませんッ!! お汚れになられてしまいますッ!!」


 綺麗に磨き抜かれた白の大理石の床に膝を付け、シャルロッテやネーヴェに目線を合わせる至高の存在に驚愕の声を上げるシャルロッテ。

 恐らく汚れることにではなく彼女が膝を折り、大理石の床に膝を付いたことに対し驚愕から出た言葉だろう。

 斯く言うリィンも少々、驚きを禁じえないでいる。


(権力――、階級社会の強い都市かと思ったけど、違うのか――?)


 静かに様子を見遣っていたリィンはふと、そんな事を思う。何故なら其処で顔を青褪めさせるも此方を睨むゴルドがいい例だから。それともこの男だけが例外で、実はそうでもないのだろうか。


「神子様ッ! 其処な受け付けの小娘が申す通り、お汚れになられますッ! その様な下々などに対し高貴なる貴女様が床に膝を付かれるなどなりませんッ!!」


 目の前の最大権力者である至高の存在の彼女に、尚も言葉を吐くゴルド。

 いい加減、この男は黙ったほうがいい。

 シャルロッテを気遣う至高の存在の表情が、銀色の瞳が徐々に鋭さをましてきている事に何故、この男は気付かないのか。


「いい加減に――」

「いい加減その位にしてをおけ、ゴルド――」


 思わず、ゴルドに対し出たリィンの言葉と重なる男のバリトンボイス。

 その声に途中まで紡いでいた言葉を呑み込み、声の主へ視線を移す。


「ッ!? 何を申すかハンクッ――!! 神子様がお汚れになられても良いと申すかッ!!」


 ゴルドの言葉に、ハンクと呼ばれた厳粛な雰囲気を放つバリトンボイスの男性が静かに、小さくだが首を振った(のち)言葉を重く放つ。


「――ベルクローズ様。此奴と同じ遺跡研究者として自分が代わりに謝罪を。誠に申し訳ございません」


 暫しの静寂の(のち)

 片膝を付き(こうべ)を垂れ謝意を示すハンクに、至高の存在が口を開いた。


「……貴方の謝罪を受け入れましょう、ハンク。頭を上げなさい」


 ゴルドの代わりに謝意を示したハンクの顔を立て、至高の存在――神子ベルクローズが彼の謝罪を受け入れる。


「ですが、このまま――とは()きません」


 青の瞳の青年のお陰で甚大な被害は免れたものの、灼熱の豪炎が逆巻き荒らした、特に書類等の用紙が実は大理石の床に散乱している有り様。

 中には焼けた物もある様で――


「先ずは書類整理……いえ、それよりも誰か、シスターシャルロッテ以外に怪我をした者はいますか?」


 その整った相貌の(おとがい)に、白く細い指を当て思案した(のち)。神子、ベルクローズが一連の騒動で固まっていた周囲の者達に怪我をした者はいないか、すっと通る声で言葉を飛ばす。


「シスターシャルロッテ、それと少年。申し訳ない――」

「ッ! そ、その様な! バーグ様、お止め下さいませッ!!」


 ベルクローズが周囲の者達へ訊ねる最中(さなか)

 厳粛な雰囲気を纏う男性――ハンクが側へとやって来ると片膝を折り、今だ座り込んでいるシャルロッテと近くで様子を見守っていたリィンへと静かに謝罪してきた。

 そんな彼に律義なオジサンだな、と胸中で呟き口元を綻ばせるリィン。

 一見貴族然とした風貌をしたこのハンクと呼ばれる男性だが、悪行を見過ごせない厳粛にして厳格なこの人物にリィンは好感を持った。


「……少年?」

「ああ、ごめんなさい。オレはリィン・オルクス。オジサンが謝る事なんて何もないよ、ハンバーグさん――」


 反応の無かったリィンに対し、再び呼び掛けてきたハンク。

 そんな彼の言葉に、自身の名を伝え謝罪は必要ない旨を口にしたリィンは笑顔で握手を求める。

 実際、彼は何も悪くなど無いのだ。リィンからすれば寧ろ彼の謝罪は何だか申し訳なく思うくらいだ。


「ふっ、ふふ。彼はハンク――ハンク・バーグよ、リィン・オルクス少年――」


 周囲で怪我人の確認と事態の処理について指示を飛ばしていたベルクローズが思わず、声を漏らし艶然と微笑みをリィンへと零し言葉を紡ぐ。


「うん、分かってる。ハンク・バーグさんだから、『ハンバーグ』さん」

「……リィン」


 どこか、残念な子を見るような目で此方を見てくるネーヴェにどうしてそんな目で見てくる――、と言葉にせず妹を見返すと再び、声を漏らしベルクローズが言葉を紡いでくる。


「――ふふっ。確かにハンバーグ、ですね」


 名を一字抜かれ、略称され呼ばれたハンクはリィンと握手を交わす中軽く眼を見張るに留まるも、尚も笑い声が零れ出るベルクローズとそんな二人に申し訳なさそうに頭を下げるネーヴェと微苦笑するシエル。

 シャルロッテに至っては忙しなく、二人と此方を何度も見てくる始末。


 解せない、何故だ――。

 

「ところでオルクス少年。ゴルドが先程、君が遺跡研究者になる――と言っていたとそう聞こえた覚えがあるのだが……本当なのか?」


 話題を変える為、ハンクが先程ゴルドが話していた遺跡研究者についてリィンへと確認の為話を聞いてくる。


 そうだった――。


 ゴルドの暴走に青の瞳の青年との再会、そして話に聞く神子であるベルクローズの登場に遺跡研究者試験について聞きそびれる所だった。


「うん、言った――。遺跡研究者になるってことは口だけじゃないよ。だから、試験を受けたいんだけどどうすればいいかな?」

「……そうか」


 その翡翠色の瞳を軽く見開き、細めたほんの少しの(のち)――。


「そうだな。認定試験を受けるのならまず、護衛騎士を見付けるところからになる。実地の際最低でも三級以上の護衛騎士の同行が必須となる為、初めに護衛騎士を見付け申請書にその者の名を登録せねばならぬからな。そのアテはあるのか――?」


 問われて言葉を反復するリィン。


「……アテ」


 アテ。


 アテ――、か。


 そもそも護衛騎士というのが教会騎士とどう違うのかリィンには分からない。

 だが、分かっている事が一つだけだがある。


「……ねえ、青い瞳のおニイさん。おニイさん、オレの護衛騎士っていうのになってくれない――?」

「「ッ!!」」


 そっと視線を青の瞳の青年へと移し、彼に言葉を放つ。

 側ではネーヴェの驚愕する様子と、そして何故だかネーヴェ同様驚愕するハンクの姿。


「だっておニイさん、教会騎士の人だよね? だったら――」


 ハンクの様子に何か引っかかりを覚え、彼が教会騎士である事に間違いないか確認を取る。


 すると――


「……そうですね、あの子は教会騎士で間違いありません。それと“専属”にはさせられませんが、試験時などの護衛騎士としてなら私は構いませんよ」


 笑いが落ち着いたベルクローズが青年に視線を向け、ハンクの代わりにリィンの問いに答える。

 しかし、一体今の言葉はどういう意味なのか。疑問に思っていると


「……ベルクローズ様、それでは貴方様の護衛は一体、如何なされるおつもりなのですか――」


 頭痛を堪えるハンクが微かに呆れを含んだ言葉を放つ。


「あら、あの子が何時もずっと私の側に居る訳ではないでしょう? 何処かの誰かさん達が私のシュヴァリエであるソールを勝手に使っているくらいですもの。試験時ぐらい私の側を離れても、何も問題など無いわ――」


 洗練された笑顔で小さな棘を含ませた言葉を紡ぎ、ハンクの言葉を受け流すベルクローズ。

 そして、その言葉に反応を示した者達がビクリと肩を小さく跳ねさせる。

 

 どうも話が見えない――。


 護衛騎士に専属、シュヴァリエとリィンには分からない単語と内容に疑問符が湧き上がっては停滞する。


 その間にも――


「ソール。貴方はどう――? この子の護衛、するのは嫌かしら?」

「ベルクローズ様の御心のままに――」


 受け付け塔で働く者達に混ざり事後処理を静かにこなしていた青の瞳の青年――ソールへと話を向けるベルクローズと、流れるよう彼女に返事を返すソール。

 これはもしや、自分の護衛騎士に限定だがなってもらえた――で良いのだろうか。

 話の成り行きが気になるネーヴェと、今一状況が分かっていなさそうなシエルと視線を交わしつつ。

 更に黙って成り行きを静かに見守る。


「……嫌かどうかと聞いたのだけれど。まあ、良いです。では、決まりですね。ハンク――、認定試験官には貴方がなりなさい」

「ベルクローズ様の御心のままに――」


 頭を垂れ、胸に手を当てソール同様、ベルクローズからの指令に承諾の意を示すハンク。

 何やら話がどんどん進んで行く。

 しかし、それに待ったをかける者の声が上がる。


「お、お待ちくださいませ神子様ッ!!」


 ベルクローズに黙りなさいと言われたきり、黙って彼女の命令を遂行していたボズマンが痺れを切らし堪らず、声を上げた。


(ああ。ちょっと忘れていたな、この男のこと――)


「……何ですか、ゴルド・ボズマン」


 ボズマンの存在を思い出したリィンの側で、銀色の瞳を細め言葉を放つベルクローズ。

 その瞳は先程までと違い、周囲の温度を下げるかの様などこか、冷めた雰囲気を漂わせている。


「お、恐れながらシュヴァリエであるソレ(・・)をこのような小僧に付けるのは、神子様の威厳を損ねることになられます。それに試験など――」


 なんと言うか此処まで来るとある意味この男は凄い奴なのか――、とリィンは口を硬く閉じ思う。

 だがどうか、彼女のあの周囲の温度を下げていく銀色の瞳を正確に読み取って欲しい。


(それにあのおニイさんの事をどうして、ソレ呼ばわりするんだ?)


「威厳を損ねる……、ふふっ。ゴルド・ボズマン。貴方、私に意見をするのですか――?」


 リィンがゴルドの言葉に引っかかりを覚えていると。艶然とした零度の微笑を零したベルクローズがとうとう、その(かんばせ)に小さな怒りを滲ませ言葉をゴルドに刺す。


「ッ!! い、いいえッ! いいえッ! その様なつもりはッ!! ただッ、ソレにも色々と職務がございましょう!!」


 顔を青褪めさせ、慌てて弁解を試みるゴルド。

 流石に彼女の怒りが伝わったのだろう。必死に彼女の怒りを解こうと大理石の床に頭を擦り付け、言葉を放つ。


 だが――


「職務――ですか。それは貴方達遺跡研究者が持ち帰った碑文等の解読などの事かしら? それとも、雑務――?」


「ッ!!!」


 小首を傾げ、ゴルドに問い掛けるそんなベルクローズにバッ――と。勢い良く彼女に向ける事のない表情でソールを振り返り、歯が根を鳴らすゴルド。

 そんなゴルドの表情を見る事のないベルクローズが怒りと若干の呆れを含ませ、ゴルドに対し補足を行う。


「ああ――。その子は何も私へ言い付けたりなどしていませんよ。逆に何も、自分にあった出来事を喋らないくらいです」


 すっとその銀色の瞳を更に眇め、静かに佇む青の瞳の青年をちらと見遣るベルクローズ。

 だが馴れたものなのか。その感情の読み取れない表情で全ての者が身を竦ませる至高の存在の視線を受けて尚、表情を崩さずさらりと受け流し事後処理に戻るソール。

 そんな彼に溜め息を一つ。再びゴルドへと視線を向け、ベルクローズは今一度ゴルドへと問うた。


「それで、あの子の職務とは? 私の護衛等以外の職務とは一体、何かしら――?」

「ッ――……」


 暫しの沈黙の(のち)

 声を振り絞り「いえ、何も、ございません――」と言葉を零したゴルドはその後、口を硬く閉じた――。


「……では、細かい事は場所を移して話しましょう。さあ、手を止めてしまいましたね。それでは皆、持ち場へ戻って――!」


 軽く手を叩き、手を止め此方の様子を盗み見していた周囲の者達へと意識を自身の仕事に戻すベルクローズ。

 その号令で我に返る周囲の人々。

 次第にロビーに慌ただしさが戻り、一連の騒動から日常の業務へと戻っていく。


「――そうでした。的確な処置を彼女にして貰っていますが誰か、シスターシャルロッテを念の為救護塔へ。ソール、ハンク行きますよ。さあ、貴方達も――。では皆、後はよろしくお願いしますね」


 ベルクローズが最後に、今だ目を白黒させ座り込んでいるシャルロッテの事を周囲に居る者へと任せ、静かにその歩を進めて行く。

 さて、何だか凄い事になってしまった。

 共に至高の存在であるベルクローズに呼ばれた二人と視線を交わし、彼女の後を静かに追うリィン達。


 そして背後では一人――


 その顔を赤く染め上げ、大理石の床に額を付け、歯を食いしばるゴルドの姿。


「……覚えておれよ、小僧ッ!!」


 リィンは知る由もない。


 憤怒の形相でゴルドが、ドス黒い、その身の内から静かに生み出し舞い上がらせる黒い粒子の存在を――


「……――」


 そんな彼を、肩越しに静かに見詰める青の瞳を――











 お読みいただきありがとうございました! 次話もまた、読んでいただけると嬉しいです!

 ああ、語彙力よ、文章力よ。私の元までやって来てー(切に!!)


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