第三章『《神焔教会》』Ⅱ
皆様読みに来てくださり、ありがとうございます! 今回のEpisodeは8000字超えと何時もより長くなってて、投稿するのが遅くなってしまいましたです(え? 何時も遅いだろ? はい。亀の子更新でございます。まことに申し訳ございません(泣))。
「凄い――」
近くで荘厳な鐘の音が鳴り響く中。
眼前に広がる光景に思わず、小さく言葉を零し大量の疑問符を頭に浮かべるリィン。
隣にいるネーヴェもまた言葉を零すことはないものの、控えめにきょろきょろと辺りを見回してはリィン同様眼前に広がる光景に教会とは――? とその顔に疑問の色をのせ碧の瞳を瞬かせている。
今、双子とシエルは《遺跡都市》に五箇所存在する神焔教会本部の一つ。神焔教会ニムル地区本部へと足を運び、筆舌に尽くしがたい光景に二人して教会の敷地入り口にて呆然と立ち尽くしては辺りを見回していた。
そう、敷地面積からして双子の知るそれとは掛け離れた広大なその敷地と、教会に属する建築物群が何らかの法則にのっとり建ち並んでいるそれへ視線を釘付けにして――。
「……――ハッ! え? いやいや何コレひっろ!! 聖堂――何処さッ?! って言うか此処、神焔教会であってるのッ?!」
突如ハッと我に返り、誰ともなくそんなツッコミを入れては驚愕するリィン。
本当に、色々と自分達の知る教会と違い過ぎる――。
直ぐ側にいる、何度か訪れたことのあるだろうシエルも「私も初めはびっくりしました」と苦笑気味に言葉を紡ぎ、過去に自分も驚愕したことを語ってくる。
それにしても本当に凄い――。
教会の敷地面積、広さだけの話ではない。その見渡せども荘厳な建築物に、幾つもの悠然と聳え立つ塔。そして見た事のない程超巨大な、この敷地周辺を囲むよう円を描き建つ白亜の建築物に、碧の瞳を向け息を呑む。
(……もしかして、この建築物群自体が何らかの機能を有している?)
次第に落ち着いてきた思考に、眼前に広がる荘厳な光景の情報を処理していくリィン。
本当に、“生きた”遺跡が残る都市とはよく言ったものだ。あの幽霊屋敷然り、この神焔教会本部然り、何だかびっくり箱の中に居るようで驚きが尽きない。
(あの幽霊屋敷があった森。彼処も何だか不思議な力が働いていたしな――)
今思い返せばあの、深緑樹海の広さなども何処かおかしかった気がする。
しかしそれはそうと取り敢えず、此処へ来た目的を果たさねばならない。
面白そうなものが見れそうなのは良いのだが、これでは時間が幾らあっても足りはしない。なので、今はノエマのお遣いである。
(って言うか、気を引き締め直さないと。何が起こるか分からないんだから――)
二人に気付かれないよう、一度だけ深呼吸。
気を取り直し、この広大な敷地の何処が目的の場所なのかを、訪れたことがあるだろうシエルに試しに尋ねてみる。
「……ねえ、エル。此処へは何度か来たことあるんだよね? 何処行けばよさそうか、分かる?」
「……申し訳ございません、リィン。確かに此方へ来たことはあるのですがその、よく似た建物ばかりで――」
途中で言葉を止め、少し肩を落として恐縮するシエル。そんな彼女に「やっぱそうだよね。この広さでよく似た建築物だらけだとね――」と苦笑混じりにそう返しをして視線を戻すリィン。
目的の場所となるのはこの広大な敷地の何処かなのだがこれではまるで、教会本部を護る迷路の要塞だ――。
そんなことを周辺を囲むよう存在する、円形に建つ建築物や幾つもの塔を見てリィンは胸中で呟き小さく息を吐く。
シエルも分からないとなるとやはり、誰かに聞くしかないか。そう思い辺りを見回すも、目につく全員が何故だか慌ただしく行き交っていて。何とも声が掛けづらい様相に言葉が出なかった。
「――オイッ! 何をもたもたしているッ!! 早く来んかッ!!」
突如上がる男の怒声。
その声に、先程まで慌ただしく行き交っていた者達が足を止め、顔を顰めては頭を下げ道を開けていく。
そんな光景に一体何事なのか――、と不快さを滲ませる彼等の視線の先を追い、怒声が放たれた一つの大きな集団にリィンは視線を向けその顔を顰めた。
「――ッ?! 貴様ッ! 貴重な遺物を壊す気か、馬鹿者ッ! 慎重に持ってこんかッ!! そんなことすら出来んのかッ!!」
「……す、すみませんッ」
眼前で遣り取りされる光景にリィンの表情が不快さに染まる。
結局の所早く来て欲しいのか、それとも慎重に荷物を持って来て欲しいのか――。よく分からないそんな恰幅のいい男に、「感じの悪いオジサン――」と小さく呟き、成り行きを見守るリィン。下手に此処で男の後を必死に追うメガネを掛けた青年を擁護すれば、彼にさらなる害が及ぶやもしれないと。何より、シエルの為にも今此処で悪目立ちするべきでは無いとそう思い――。
(出来る事ならどっちなのさって、あのオジサンに言いたいところだけど……)
辺りを見回しても誰一人として横暴な男へ注意をする者はおらず、それどころか視線さえ向けている者はもういない。そしてこの男という嵐が早く去りますように、と皆一様にそんな表情をしている。
恐らくこの光景は常習的なのものなのだろう。それならばやはり、部外者である自分が口出しするのは火に油を注ぐ行為にしかならない。
のだが――
「あッ!」
ふらつき、抱える遺物の一つをグラつかせるメガネを掛けた青年。それを見て、咄嗟に体が動くリィン。
介入するつもりは一応、無かった。
だが、地面へと落ちていく遺物をそのままにも出来ず。なにより落下し、遺物が壊れでもしたらメガネを掛けた青年が酷い目に合いそうで。一息で距離を詰め、掴んでしまった。
(あ〜。掴んじゃった……)
掴んだ遺物を両手で持ち、やってしまったと体を小さくしては頭を悩ませるリィン。
近くでは我に返った集団の者達が突如、彼等の前へと現れたリィンへ警戒の刃を突き付けてくる。
さて、どうしたものか――。
まず、手に持つ遺物は返すとして、その後は? さり気なく返してこの場を去る?
でもこの人達、絶対此処から去らせてくれないよね――?
ちらりとネーヴェ達へと視線を向け、眉を垂らすリィン。
やってしまったことへの謝罪と、この後どうしようと言う思いを込めて――。
「な、何だこの小僧はッ?! 一体何処から現れたッ?!」
降ってくる恰幅のいい男の声に向こうから――、と場違いな言葉を胸中にて返しつつ、さらに悶々とするリィン。
本当にどうしよう――。
このままではこの恰幅のいい男の命を狙った不審者か、遺物窃盗犯に仕立て上げられそうな雰囲気だ。ただ、落下する遺物を守っただけであるというのに――。
「あッ! やっと見付けた、坊や! 探し物は見付かった――?!」
声を上げ、慌ただしく此方へと駆けて来る、リィンの知るシスターとどこか違う妙齢の女性。
そんな彼女が蹲るリィンの元までやって来るなり、更に口を開き言葉を紡いでくる。
「もお、ずっと此処に居てたの? 全然気付かなかったよ。……誠に申し訳ございません、ボズマン様。直ぐ、連れて行きますので――。さあ、早く――」
よく分からないがどうやら、彼女は自分のことを助けてくれようとしているようだ。
だったら――
「……コレ。割れなくて、良かった」
出来るだけ自然に。両手で持つ遺物をメガネを掛けた青年に小さく言葉を掛け返すリィン。それをそっと青年が呆然と受け取る。
「……ええいッ! 邪魔だ! さっさとその小僧を退かせろッ!! あと、今度遺物を落としてみろッ! ただでは済まさんぞッ!!」
リィン達のそんな遣り取りを見てか。恰幅のいい男が声を荒らげ、メガネを掛けた青年を急かしズカズカと先を歩んで行く。そしてその後を慌てて追う青年と、男の声にリィンに突き付けていた刃を収め後を追う集団。
そんな彼等の後ろ姿を見詰め一息。
なんとか連行される事を免れ、安堵に体の力を抜いた。
「――あの。ありがとう、おネエさん。助けてくれて」
そっと、よく見掛けるシスター服とどこか違う服装をした彼女を見遣り言葉を掛ける。ちゃんと、榛色のミディアムボブの髪にベールも被り、神焔教会の象徴もその服にあるそんな彼女に――。
「あはは、良いの良いの! それより此処は初めてかしら? 良かったら案内する、けど……? ああ!」
何かに気付いたシスターとおぼしき女性が言葉を区切り、その人が良さそうな顔に微笑みをのせ胸を張る。
「これでも私、れっきとしたシスターだよ。大丈夫! 歩きながら説明するからさあ、行きましょ!」
ふふっ、と笑い声を零し。ほんの少しだけ強引にリィンと、少し離れた場所ではらはらとこちらの様子を見ていた二人を連れそのシスターは、教会の敷地を歩んで行った――。
「それで、えっとどれかな? 《魔素》を込める《魔導器》は――」
多少、強引と言えなくもない案内をしてくれたシャルロッテと名乗るシスターが、リィン達の本来の目的である《魔導器》について尋ねてくる。
今、リィン達が居るのは数多くの植物や教会を覗ける吹き抜けの回廊の先。先程居た正面出入口となる場所から直進した、一棟の白い巨大な建築物の中。
そんな磨き抜かれた大理石の床が広がる役所のようなロビーにて。否。シャルロッテ曰く、《ニムル》研究地区の役所となるロビーにてリィンは、彼女にノエマから預かっていた《魔導器》を渡す為その背負いカバンの中をごそごそと探ってはそれを、中から取り出し彼女に手渡した。
「……それにしても何かあったの? 皆バタバタしてて、気が立ってるように見えるんだけど――」
ノエマの《魔導器》である羽根付きの万年筆をシャルロッテへと手渡し、浩々たるロビーへと視線を向け疑問を口にするリィン。
実はこの総合受け付け塔に来る前から気にはなっていたことなのだ。
(教会関係者の人になかなか声、掛けられなかったもんね)
敷地出入口同様周辺には、前が見えない程高く書類等を積み上げ慌ただしく駆け回る者や、他のカウンターにて列をなす者の処理に追われる者と酷く混沌とした様相を呈している。そんな、周辺で慌ただしくする同僚へ視線を向けシャルロッテが、
「……ああ。実はここ最近、遺跡研究者の方や助手の方、それに護衛騎士の方々が立て続けでお亡くなりになっていて――。皆、その処理とか日々の業務で慌ただしいの」
「……遺跡探索中にそんなに?」
「いいえ。街中、でね。だから皆ピリピリしてて――」
そう、ロビーを駆け回る者達をこっそり見遣りつつ、この塔で受け付けをするシャルロッテがリィン達へと耳打ちをする。
街中での連続殺人事件――。
何か、エルの命を狙った犯人や、彼女の兄の事件に関連があるのか――。
確かエルの話によると彼女の兄ノルトさんは遺跡研究者だと言っていた。
だったら、この事件に何か関係が?
しかし、それならノルトさんのことを誰も覚えていないのは一体、何故なのか――。
疑問が次から次へと湧き上がっては溜まっていき、何一つ疑問が解消されないことに首を傾げるリィン。
「――あっ、あのッ! お亡くなりになられた遺跡研究の方々の中に“ノルト・コーディナー”という男性はいませんでしたかッ?! 助手の方々の中とかッ!!」
悲痛な面持ちでシャルロッテへと詰め寄るシエル。
兄の生存を心より願う彼女だが、最悪の事態を考え確認せずにはいられなかったのだろう。
「……大切な方?」
そんなシエルの様子にシャルロッテが彼女の琥珀色の瞳を見詰め、そっと問い返す。
そしてシエルがシャルロッテのその言葉に顔を歪ませ、静かに頷いた。
「…………分かったわ――。少し時間を貰うけど、待っていて! 行方不明者名簿とかも探ってみるわ!」
熟考の後。
リィンに《魔導器》へ《魔素》を込め終わるのは明日になると伝えてきたシャルロッテは努めて明るい声音でシエルへとそう言葉を発し、彼女の兄ノルトのことについてその後聞きながら、幾つもの書類か綴じられた分厚いファイルを持ってきては台に積み上げそれを捲っていった――。
どれ位の時間、紙が捲られるそんな光景を眺めていただろう。
他にもこなさなければならない業務があるだろうにシャルロッテは、真剣にシエルの兄ノルトの名がないか膨大な書類に目を通してくれた。
「……――結論から言ってそのお名前の男性は死亡者リストにも、行方不明者リストにも記録は無いわ――」
すっと静かに最後のファイルを閉じ、気遣わしげにシエルへそう言葉を紡ぐシャルロッテ。
「……そう、ですか。でも、死んではいないって事ですもんね――。ちゃんと調べてくださり、ありがとうございましたシャルロッテさん」
その顔に複雑な感情の色をのせ、調べることに尽力してくれたシャルロッテへと微笑みを向けるシエル。
以前、教会関係者に話を聞いた際はこんなにも親身になって調べてはくれなかった、とそう言葉を零しながら――。
「……ねえ、コーディナーさん。お兄様の手紙にはその、遺跡研究者の方のお名前などは書かれていなかったの? 何処の遺跡に何時行ったとか――」
無理をし、微笑むそんなシエルを見てシャルロッテが、何か手掛かりにならないかと彼女に問い掛ける。
(確かに、遺跡研究者の人とノルトさんが行った遺跡って、どういう所なんだろ――)
シャルロッテの言うよう何処の遺跡に何時赴いたのか分かれば何か、手掛かりが得られるかもしれない。
そう思い、ネーヴェと視線を合わせ頷き合う。
「シエルさん。今、ノルトさんの手紙はお持ちですか? もしお持ちなら見せていただくことは――」
「? は、はい。全部は今持っていませんが、幾つかなら――」
シャルロッテとネーヴェの問に目を瞬かせ、手紙を探し差し出すシエル。
「……えっと、この数通です」
出されるノルトの手紙。その手紙を開きシエルへの愛ある文章は割愛し、人物名や場所を指す単語言葉を虱潰しに書き留めていく。
「「「…………」」」
さて、うん。はっきりと言ってさっぱりである――。
三人して苦笑気味に視線を合わせ、書き出した文字とにらめっこ。
まあ、分からないのは当たり前と言えば当たり前である。そもそも自分達は《遺跡都市》について何も知らないのだ。土地勘など皆無である。
「……シャルロッテさんは何か、この手紙で分かること、ある?」
先程から共に手紙を見ていたシャルロッテへと言葉を掛け、何か知っていそうなことが無いか尋ねてみるリィン。
「……カルディア深緑樹海に、ロフスト遺跡。あとは、この日付け――。この日付けの日の翌日は確か、“魂鎮めの儀”があった、日――?」
シャルロッテが手紙に書かれている日付けを見てどこか、不快さが見て取れる面持ちで言葉を零す。
“魂鎮めの儀”――。
その言葉からして霊魂を鎮める儀式だと思われるのだが何故、彼女はこのような表情をするのか。そんなことがふと、リィンの脳裏を過ぎった。
「――貴様ッ!! 何を部外者にペラペラと喋っとるんだッ!!」
ツカツカと――。
リィンがシャルロッテの違和感に思案していると、磨き抜かれた大理石の床を鳴らし正面出入口で会った先程の恰幅のいい男――ボズマンが怒声を上げ側へとやって来る。
そんなボズマンの声にシャルロッテの肩がビクリと跳ね上がる。
「貴様。先程の受け付けの娘だな。それと――」
側へとやって来るやボズマンがシャルロッテへと憤怒の視線を向け、まるで汚い物を見るかのような目で此方を見てくる。
本当に今といい先程といい、このボズマンという男はどうしてこうも高圧的なのか――。
リィンはそんなボズマンの高圧的な態度に内心嫌悪を抱くも、できる限り穏便に事を済ませる為言葉を紡ぐ。
「シャルロッテさんはただ、自分の仕事をしてただけだよ。オジサンが目くじらを立てるようなことなんて何もしていない――」
「何ぃ?」
リィンの言葉にボズマンが片眉を上げ、不快さの滲み出る表情で言葉を放つ。どうやら言葉を返したことがこの男には気に入らなかった様子。
しかし、ここで確りとこの男に伝えておかなければこの後、シャルロッテに害が及ぶのは火を見るより明らか。それに、幸いな事と言うべきかこの男は直情型。そして今、この男が意識しているのは自分とシャルロッテだけ。それならばいっそ、この男の悪意を自分だけに向ける――。この後、教会関連で少々身動きが取りづらくなってしまうがそれでも、彼女を巻き込んだのはそもそも自分の行動のせいだ――。だったら、やる事など一つである。
「だって総合受け付け塔は一般人が助けを求めて相談をしにやって来る、教会の窓口なんでしょ? だったらオレが相談して彼女がそれに答えていても何も、おかしな事なんてないじゃないか――」
「――貴様ッ! この儂に口答えする気かッ!!」
思った通りボズマンが顔を赤くし、声を荒らげてその手に持つ綺羅びやかな杖を振り上げてくる。
全く。今言ったことは先程説明を受けたばかりだから間違いでは無い筈なのに。どうして此処で働いていそうなこの男がそれを知らないのか――、理解に苦しむ。
あれこれ思っていると、男が振り上げた杖が此方へと振り下ろされて――。
迫るその杖に視線を向けリィンはその後、自分の選択に直ぐ様後悔する事になった――。
「――う゛ッ!!」
鈍い音と。自分ではない、誰かの呻き声がリィンの耳朶に妙に響く。
目の前の光景が突如何かに遮られたかと思えば、振り下ろされていた筈の杖は見えなくなり代わりに、体を強く、しかし優しく包み込むよう抱き締められて。
リィンの思考が一瞬。白く、染まった――。
「「「シャルロッテさんッ!?」」」
目を剥き、リィンが我に返りネーヴェとシエルと三人同時に声を上げる。
杖を振り下ろし、顔を赤くし荒い息を吐くボズマンに目もくれず、彼女の名を叫び痛みに呻くその体を抱き止める。
どうして。
一体、どうして彼女が――?
あんな、遅い杖の振り下ろしなど避けることも、掴むことも出来たのに――。
それなのに――。
「ふ、フンッ!! 神子様につぎ尊い存在たる遺跡研究者の儂に口答えをし、盾突いた罰だ!! 身の程を弁えろッ! この、下賤な下々めッ――!!」
男のその言葉に。急速に何かが冷めていく感覚がするリィン。
アア――。
コノオトコハ、ダメダ――。
「……そんなに。そんなに、遺跡研究者が偉いの? 誰かを傷付けてもいいくらい、オジサンは偉くて立派な人間なの?」
リィンの静かな怒りが周囲をピリつかせる。
この男が言う遺跡研究者とはそれ程までに素晴らしい存在なのだろうか。何をしても許されるような、尊ばれるそんな存在なのだろうか――。
コンナニンゲンガ――?
それなら、同じ遺跡研究者同士なら――?
何をしても許されるのなら。――“対等”――な遺跡研究者同士ならこの、一方的に暴力を振るう者から弱い立場の人を守ることが、出来る――?
「……ごめんね、シャルロッテさん。オレのせいでこんな怪我させて――」
ネーヴェによって手当てされているシャルロッテに言葉を掛け、なんとか大怪我だけは免れてくれていたことに小さく安堵の息を吐く。自分がこの男を挑発したばかりにこんな事になってしまい、本当に申し訳無いと思いつつ――。
そして、静かにボズマンへと碧の瞳を向けリィンは、目の前の男に口を開いた。
「ねえ、オジサン。遺跡研究者になるのに試験とかって、ある――?」
「ッ?!」
近くでシャルロッテを治療するネーヴェが息を呑み、自分と同じ顔を驚きに染めているのが見なくとも分かる。
まあ、驚くか。
後でどやされそうだ。
そう思うも――。
「……此方が提示する筆記ならびに、遺跡探索調査試験――。何だ? 小僧。まさかとは思うが貴様、遺跡研究者になろうとでも言うつもりか? 貴様みたいな下賤なガキが?」
シャルロッテを打った事により、怒りを発散したのかボズマンが何やら余裕な態度でリィンを見下し下卑た表情で言葉を吐く。そして、そんなボズマンと違いまだ体が痛むだろうシャルロッテが声を上げ、リィンに制止の言葉を放つ。
「だ、駄目だよ、坊やッ!! 遊びじゃ、ないの。死ぬことだって、あるん、だよッ!? それにッ――!」
自分を心配するシャルロッテに感謝の気持ちが募り、小さくだが口元が笑みの形になる。
分かっている。遊びではない事など。
だから――
「死なない」
シャルロッテの言葉を遮り、強い意志を持って断言する。
「ネーヴェを一人にするつもりは無い。二人を傷付けるような奴から必ず守るって。エルのお兄さんを見付けるって、オレはオレに誓った。だから、オレは死なない――」
そうだ。死ぬつもりなど毛頭ない。
だが命を掛けてオレは、オレの誓いを守る――。
「それに――。遺跡研究者が偉いと言うのなら、何をしても許されると言うのなら、遺跡研究者になってオレは、誰かを傷付けるような奴から二人だけじゃない。虐げられ、苦しむ人々を守る。オジサンのような誰かを傷付けても何とも思わない、権力を振りかざし人を傷付けるようなそんな奴から皆を、オレは守るッ――!!」
相手が誰であろうと。
この想いは、絶対に曲げたりなど、しない――。
お読みいただきありがとうございました! 次話もまた、読んでいただけると嬉しいです!
……それにしてもやっと話が進む、です? 若干、行き当たりばったりな作者ですが、頑張って執筆するですよ!




