第38話「統一戦争-天秤-」
『勇者よ…』
遠くの方で勇者を呼ぶ声が聞こえる
勇者がふと目を開けると
そこは白く、何もない静かな空間だった
狭間の世界と似ているが、何かが少し違う
勇者はなんとなくそんな感じがした
奥の方で声がする
『勇者よ…こっちへおいで…』
勇者は首を傾げつつも、声のする方へと歩いていったーーー
やがて、前方に何やら巨大な人影らしきものが見えてきた
手を横に広げて、まるで出迎えてくれてるかのような形をしたそれがそこにあった
それは女のような姿に見えた
『よく来ました、勇者よ』
勇者
「お前は…」
勇者はなんとなくその声に聞き覚えがあった
『そう私です』
勇者
「…意識の者か?」
その声は度々勇者に力を貸してくれた
天の声と同じだった
『私はずっとあなたがくるのを待っていました』
『勇者よ、我が子よ』
勇者
「我が子…?」
勇者は訳がわからないという顔をした
『私はこの世界の未来を選ばせるため
あなたを生みました』
『人を知り、学び、どちらの選択を取るのかを』
『厄災たちはあなたが選択するその助けとなるため、この地に生みました』
『彼らは姿が違えど、みなあなたと同じ生まれ、兄弟なのです』
勇者
「な、何を言ってるんださっきから…
ここはどこだ…お前はなんなんだ…!?」
『私はこの世界の最大の責任者
人間達からは主に"女神"と呼ばれる者です』
勇者
「女神…!?神…!?」
勇者は徐々に戸惑い、汗を流しはじめた
『あなたは目的を見事に果たしここまで辿り着きました、あとは選ぶだけです』
「選ぶって…?」
『この世界の破滅か、存続か』
女神と名乗るそれは差し伸べるかのように
手のひらをそっと勇者の前に出した
勇者は驚いた顔で立ち尽くすしかなかったーーー
『ーーー私はこの世界が生まれる遥か前から
この世界を管理するために生まれた存在
人間の言葉で言うなら上位存在でしょうか』
『紀元前から現代まで私はあらゆる選択を
我が子に委ねてきました』
『世界の破滅か、存続かーーー』
勇者は唖然とした表情で女神を見上げていた
女神
『私はこの世界の管理人
私の自己判断でこの世界の命運を
決めてはならない、だから我が子らで
選ばせているのです、どちらが良い選択かを』
勇者
「僕の役割は…」
女神
『選ぶことです』
『この世界の存続か破滅かを』
勇者
「……」
『あなたが冒険をしてる間
私はずっとあなたの中にいました
隠された記憶、我が子ムースでも奪えなかった記憶』
『厄災達はきっかけーーー
人間の本質を手早く引き出し
選択の幅を広げるために
この地に生み落としました』
『そして彼らは見事にその役割を果たし
あなたをここまで誘いました』
厄災たちとの戦いがフラッシュバックする勇者
女神
『疲弊した世の中、二つの争い
淘汰される人々』
『厄災にかかった者は
不治の病に苦しみ、やがては怒り、嫉み、悲しみが生まれそれは他者へと向けられる』
『献身的な者は理解を示そうとする
しかしそうでない者は彼らの言動に疑問を抱き
拒絶する』
『無理解、無関心、決めつけと嘘』
『噂を信じた多くが彼らを避け
やがて理解者もいなくなり
彼らは孤独と疲労に苛まれ、更なる失望と悲しみを背負う』
『意識の差、認識の差、理解の差』
『理性で抑えても我慢には限度がある
伸し掛かる罪悪、心無い声
無理解者達からの攻撃、偏見、差別、いじめ、迫害ーーー』
勇者
「……」
女神
『全ての生物には本能があります』
『生きるために成すべきことをやる
それが生存本能です
仲間を作り群れをなす、子孫を残し後世に意志を伝える』
『他者を蹴落とす、または踏み台にして
生物はありとあらゆる知恵を絞り
目標を目指します』
『時に己の身を守るため
孤立や死に対して拒否反応を示し
病気や怪我、対人トラブルなどを避けます』
ー
『楽しいことや希望が叶った時
不安がなくなった時などに人は嬉しい気持ちになります』
『反対に、悲しいことや辛いこと
不安があったり、希望が叶わなくなった時などに人は悲しみ、または悔しい気持ちになります』
『抗いは怒りに繋がり
諦めは悲しみにつながる
どちらも同じ感情ーーー』
ー
『人は興味のあるものに惹かれ
それを探求しようとします
そしてそれが不要であるか必要であるかを
判断するのです』
『必要であればそこに価値観が形成され
同時に不要なものには偏見や悪いイメージなどがつきます』
『こうして人は学んでいきます』
ー
『人間は仲間には誠実です
慰めたり、励ましあったりします』
『しかし、他人には驚くほど冷たいです
仲間と同じように悲しんでいたり、落ち込んでいたりしても見て見ぬふりをしたり、声をかけてもどこか他人事であったり』
『仲間意識にはこれほどに差があります
価値観が同じかどうか、立場などが対等であるかどうか、関心と無関心はそこで決定づけられるのです』
ー
『これら本能は時に対立を招きます
自分たちと違う価値観を持ったものや人種、容姿が伴わないもの、能力の劣るもの、否定するもの、上下関係の有無などに違和感を覚えると人は
それらを異質と見做し仲間外れにして群れから追い出すのです』
『群れから孤立したものや迫害を受けたものは
怒り、反乱を起こします』
『巻き込まれたものは疲弊し、楽な道を探します』
『理解は本能により潰されます
一時的に人々をまとめても
違和感が生まれれば
また同じことの繰り返し』
『果てのない虚無ーーー』
ー
女神
『これらを愚かと捉えるかそう言うものだと受け止めるかが判断の分かれ目です』
『あなたは人間をどう思いましたか
あなたはこの世界をどう思いましたか』
『選びなさい
必要なら存続を
不要なら破滅を』
『破滅を選べば病に侵されたもの、淘汰されたものは苦しみから解放される
しかし生きたいと願うものまで巻き添えになる』
共に戦う兵士たちや助けた人たちを考える勇者
『存続を選べばこれまでどおり、人々は平和と愛を謳歌し、幸せは後世まで引き継がれる
しかし苦しむものは未来まで苦しみ続ける』
厄災に苦しむ兵士や少女のことを考える勇者
『役目を終えたあなたは
私と一体となり
永久の眠りにつきます』
女神は腹の部分を開いた
そこには培養液のような液体がぷかぷかとしていた
勇者は悩む
勇者
「状況整理が必要だな…」
女神
『構いません、ゆっくりお考えください』
勇者
「巻き戻すことはできないのか…」
女神
『不可能です、この二択しかありません』
勇者
「……」
勇者は選択を迫られたーーーー
統一戦争-天秤-(完)




