第29話「統一戦争-神の使い-」
ーーー勇者は白装束と対峙していた
勇者
「戦えるか?」
ウェイド
「お望みなら」
ウェイドは剣を回してガシッと構えた
睨み合う両者
白装束が土の上に杖をトンとやると
勇者達の周りにある木の上に複数体の白装束達が現れた
臨戦体制に入る二人に
白装束は物言わず土を蹴り
木の上にいた者たちも一斉に飛びかかり
勇者達に襲いかかったーーー
咄嗟に剣を構えた勇者に
白装束が杖を振り下ろす
勇者
「くっっ…!!」
白装束
「……」
必死に剣で抑える勇者には
頭巾の奥に光る赤い目が見えていた
両者一歩も譲らず
勇者の方がわずかに押され
足が土に埋もれる
勇者は歯を食いしばりながら負けるものかと必死に耐える
ウェイドも木から木へと飛び移りながら
白装束を捌いていた
ウェイド
「(この太刀筋、並じゃないな…)」
白装束の止まぬ猛攻に
二人はかなりの苦戦を強いられていた
勇者
「ぐぐぐっ…お前たちは…!!」
勇者は神の力を使いながらも
体力は限界に近くなり
腕もプルプルと震えていた
またウェイドも影に潜り、攻撃から身をかわすも
地上に降り、影から出たところを囲まれ
包囲されてしまう
勇者の頬を汗が伝う
すると白装束たちは突然攻撃をやめ、その場から下がった
勇者
「っっ…!?」
勇者は反動でよろけ、グッと土を踏みつけて
バランスを整えた
『勇者よ、急ぐな』
勇者
「!?」
どこからともなく声が響く
『逆らうなら容赦はしない
よく考えるんだ、これは警告だ』
そう言って白装束が杖をトンっとやると
地響きが鳴り、海の中から巨大なピンクのブヨブヨが八方に出てきて、島を包み込むように閉じた
勇者
「これは…!?」
『私は常にこの世界を見ている
お前の動きもな』
勇者
「くっ……!!」
勇者は鋭い視線で白装束を睨みつけた
『空っぽな正義が人を不幸にするのだ』
勇者
「やっぱり…!!猶予をやるとか言って
僕に油断をさせてこの世界を滅ぼす気だったんだな!!神!!」
『お前の浅はかさが今の現状を作り出している、私はそれを終わらせにきた』
『全てを元に戻すのだ、お前は…お前はただ見ていればいい、片隅で…人間達が滅び、世界が穏やかになるところを…』
勇者が剣を構えると、白装束は杖をトンとやり
地面を大きく抉った
怯んだ勇者の懐に素早く潜り込み
杖の底で腹をこづく
勇者
「ごあっ……!?」
勇者は物凄い勢いで空高く吹き飛び
すぐに追いついた白装束の裏拳で地面に激しく衝突、木々を何本かへし折り、砂煙が周囲に漂った
すぐに半身を起こした勇者は
白装束に丸太を投げつける
白装束は特に慌てる様子もなく
手をかざし、目に見えない波動を出すと
飛んでくる丸太をバキバキと真っ二つにへし折った
勇者
「ぐっっ…!!」
立ち上がった勇者が悔しそうな顔で白装束を見上げた
『お前はもう少し、経験を積む必要がある
世の中をもっと知るのだ、頃合いになれば
こちらから歓迎しよう』
勇者
「待て!」
神の使いはそう言い残すと光に包まれて消えていったーーー
ウェイド
「平気か?」
ウェイドが勇者の方へ駆け寄る
勇者
「僕は平気だ…それより…」
勇者は村の現状を心配し、ウェイドと共に急ぎ足で村に戻った
勇者
「くっ……!!」
ウェイド
「これは……」
村へ戻るとそこは惨状へと変貌していた
カゲ族たちは何人かが死骸となり倒れ、村の奥では激しい戦火の音が響いていた
「「ギュピィイイイイッッ」」
芋虫状の巨大なマモノ達が無数の足を走らせながらカゲ族達を虐殺していた
何人かは応戦し、マモノ達に食らいついていたがマモノが放つ青い光線に焼かれて小隊はほぼ壊滅寸前にまで追い込まれていた
勇者
「奴らも神の波動を…、やはり神の仕業だったか…!!」
勇者は剣を構え、加勢に加わろうとした
ウェイド
「待て、勇者!!お前は大事な要人だ
ここで死なれたら、誰が指揮を取るんだ」
勇者
「しかし、このままじゃ…」
ウェイド
「ここは我々に任せてほしい
お前は体を休めるんだ、さっきの戦いでかなり体力を消耗しただろう」
勇者はカゲ族たちの方を見る
勇者
「(いや、ダメだ休めない…!!
奴らの力は強大だ、彼らだけでは…!!)」
勇者はウェイドの提案を跳ね除けて
マモノの方へと向かった
ウェイド
「勇者!!」
ウェイドも急いで影の中に潜り勇者を追いかけた
カゲ族に向かって青い光線を放とうとするマモノに勇者は神の力を解放した一撃をぶつける
マモノは真っ二つに両断されその場で倒れた
勇者は後ろで構えるカゲ族たちに呼びかけた
「早く逃げろ!!この場から離れるんだ!!」
その剣幕に一瞬怯むも、マモノの方へ向かう勇者を見てカゲ族たちはしきりに口を開き勇者の名を叫ぶ
「勇者様…ッッ!!」
ウェイド
「ッッ……!?」
ウェイドはその声に反応し、足を止めた
ウェイド
「あの口の固い連中が、一斉に声を発した…!!」
「我々がどれだけ呼びかけても
伝統に忠実だった彼らが……」
ウェイドは目を丸くしながら
現状を理解しようと頭を働かせた
長老
『(勇者どのの話をお前も聞いていたじゃろう
やはり、時代の流れというのはそう簡単に変えてはならんのじゃ)』
『(流行だかなんだか知らんがの
文明はやはり維持していかねばならん
変化は時に毒となって我々に返ってくるのだ)』
『(いつも通りで良いではないか
我々は確かに興味に突き動かされるもの
しかし、それは利得があってのことだ
損があれば、それは無益、必要のないものだ)』
『(いつも通り…
言葉は外交だけにとどめておけばよい)」 』
ウェイド
『興味の抑圧は俺たちにとって毒だ
俺たちの存在意義を否定するものだ』
長老
『(感情の話ではない、将来の話だ
過剰な変化は我々を不幸へと導く
今の世がそうであるように、どこかで抑えが必要じゃ)』
ウェイド
『俺たちは今幸福なのか?
このままズルズルと昔と同じように生き、変化のない世界で文化だけを押し付けられる
今の方がよっぽど俺にとっては不幸だ
俺たちには自由が必要だ!』
長老
『(今の話ではないウェイド、将来の話だ)』
ウェイド
『もういい、あんたには付き合ってられん!』
ウェイドは長老とのやりとりをふりかえり、静かに悟った
ウェイド
「意味がなかったのか、どっちも…」
マモノと戦う勇者
勇者が戦線に立っていると
遠くの方で一人マモノの攻撃を紙一重で交わしながら善戦するカゲ族が見えた
勇者
「……!?あ、あれは……!!」
前線に立っていたのは次期村長のザバだった
影に潜り、マモノの攻撃を交わしながら激しい戦闘を繰り広げていた
勇者
「(マズイッッ……!!)」
勇者は焦り、急いでザバの元まで向かったーーー
青い光線を避けるザバ、しかし全てギリギリの攻防戦
少し油断をすれば攻撃が当たってしまう状況だった
勇者はマモノの攻撃をかわしつつ
ザバのいる付近まで迫った
ザバ
「…ッッ!!…ッッ!!」
他のカゲ族もザバを最優先で守り抜くべく
マモノ達を退こうとしていたが、強大な力になす術なく倒れていった
勇者がザバの居るところまで辿り着いた頃、
ついにその時が来てしまう
ザバ
「…ア"ッッ」
勇者
「ッッ…!!」
ザバはマモノの放った光線に撃たれて地上へと真っ逆さまに落ちていった
勇者は急いでザバの元まで走り、抱きしめるように彼を受け止めた
重さの反動で足がくの字に曲がったが
そんな事は意に介さず、勇者はザバに呼びかけた
勇者
「ザバ!!ザバ…!!」
ザバは何も返さず、目もグリンっと上を向いたまま、まるで人形のようにダラリとしていた
腹から下は光線によって焼き切れており、切れ目からは贓物のようなものが顔を覗かせていた
勇者
「ザバ……くっ……!!」
勇者はザバの意識が永久に戻らないと悟ると
歯を強く食いしばり、ザバの体に顔を埋めた
ウェイド
「……!!」
その様子を遠くで見ていたウェイドは
口を開けながらしばらくの沈黙の後、何が起きたのかを把握した瞬間頭を強く抱えて唸りを上げた
ウェイド
「(なんて事だ…くだらない事に気を取られてる間に…?ザバ様をみすみす死なせてしまったのか…??)」
ウェイドはその場に頽れて
激しい後悔の念に駆られた
ウェイド
「(何をやってるんだ俺は…!?)」
長老との会話や伝統に批判的な自分を
頭の中でめぐらせてどうにもならない現状にウェイドは混乱しながら
手をザバの居る方へと伸ばした
ウェイド
「(すまない…ザバ…俺は…)」
二つの後悔が響く中
マモノは容赦なく暴れ回っている
勇者
「グアアアアッッ…!!!」
勇者の虚しい叫びが洞窟内を轟かせた
ウェイド
「くっ……!!」
ウェイドは剣を手にマモノ達に突進していった
勇者の体が激しい光に包まれる
今までの力とは比較にならないほど、それは大きな力だった
勇者の瞳から黒がなくなり
激しい風が全体に吹き荒れ、
髪は逆立った
ギザギザの歯を噛み締めた勇者は
そっとザバの遺体を床に置き、
マモノ達の方へ向かっていった
その速さは最早、光のようなものだった
人知や生態系を遥かに超越した
勇者は神の子として
その時、完全に目覚めたーーー
勇者の光に触れた
マモノ達が一瞬のうちに破裂し、肉片へと化した
先程まで好き放題に暴れ回り、カゲ族たちを苦しめてきた強大な存在が
緑の体液を飛ばすだけの物に成り果てた
マモノたちは永久に生産され続けるーー
どこかに核の部分があると勇者は戦いながら冷静にそう考えていた
黒龍と戦った時のことをふりかえり、
そのマモノにも核があったからだった
光線と化した勇者はマモノたちを次から次へと破壊しながら、核が出てくるのを待った
やがて勇者の瞳に黒が戻ってきた
暴れ回ってる間に怒りが段々と沈静化し、
理性が戻ってきたのかもしれない
勇者
「(どこにいる…、姿を見せろ臆病者め…!!)」
勇者の瞳はこれまでとは違い、青白く光り輝いていた
勇者
「(これが本来の神の力なのか…、今までとは比べ物にならんな……ザバ…待っていろ、必ず終わらせてやる、お前の生は無碍にはしないぞ!!)」
勇者は神の力を自覚しながら
目をカッと見開き、地表を眺めた
勇者
「あの辺りか……!!」
勇者は剣を構えると、投げる姿勢を見せ
地面へと勢いよく投げつけた
勇者の剣は地表に深く刺さった
するとマモノが一斉に声を上げて苦しみ出した
「「ギュピィイイイイチィィッッ」」
勇者
「よしっ!!」
勇者がガッツポーズを決めると
地表から人の叫びのような声と共に
巨大な顔のようなものが姿を現す
「「ウヲオォォォォオオォ!!!!」」
勇者
「あいつが核の部分だな…!!」
勇者は光線になって剣を拾いあげると
核の部分に目掛けて斬撃を放つ構えを取る
核は叫びながら口のような部分を大きく広げて
そこから青白く光る巨大な光線を放とうとする
勇者
「最後の悪あがき…、お前がそれを使う資格はない!!」
勇者は剣を大きく振り下ろし、核目掛けて斬撃を飛ばした
斬撃は核を切り裂き、遠くの方で消滅した
核はしばらくの沈黙の後、全身から光の柱が飛び出て、苦悶の表情を浮かべながら爆発した
それと同時に島を覆っていたピンクのブヨブヨが揺れ出してパカっと開くように海面に沈んでいった
戦いが終わり、勇者はしばらく立ち尽くした後、静かに剣を背中の鞘に収めた
ーーー
マモノが暴れ回った事により、島の大半が焼けこげてしまった
村の人達は儀式の場へと集まり、勇者と共にザバの死を弔った
勇者たちが自身の不甲斐なさや尊い犠牲を出した事で悲しみに暮れていると
中央にある人の形を模った木の影から
なにやら人型のようなものがヌルッと伸びてきた
勇者たちが驚き、その光景を眺めていると
影は段々と目や鼻、口などを形成し始め
やがて人間のような姿になった
勇者
「あ…えっと…あなたは…」
影
「アッ…アッ…」
一同
「!!」
その声には聞き覚えがあった
先程まで弔っていたザバ本人の声であった
青年のような姿で発光しているその影を見て
村の人がふとつぶやく
村人
「ーーー彼は人の影から生まれた
この方は次の村長様だ!!」
勇者達は驚き
カゲ族たちは大歓声を上げた
勇者
「お前…ザバなのか…?」
影
「いえ…ですが精神はザバの物です」
勇者はその返答に首を傾げた
影
「私はザバの精神を介して
いろんなものと繋がっています
勇者様の声も聞こえていました
無碍にはしないと」
勇者は理解してはいないものの
なんとなく安堵した表情を浮かべた
影
「彼の肉体は滅んだが
精神は生き続ける、我ら影ある限り」
影は持っていた剣を天に仰ぐと
そう叫んだ
「私はアルディオーレ、村を治めるものなり」
村中が歓喜に包まれたーーー
ーーー
カゲ族たちが船へと乗り込んでいく
新村長
「ではこれより我々は勇者と共に神討伐へと向かいーーー」
「ちょっと待って!」
ここで勇者が止めに入る
勇者
「すまない、実はまだやり残したことが…」
新村長
「うむ、では我々は先に行って待機していよう
準備が済んだらいつでも声をかけてくれ」
勇者
「すまない、迷惑をかける…」
新村長
「お前は英雄だ、いつでも待っている」
ーーー勇者は本島に渡った後、カゲ族と別れ
ひとまず城へと向かったーーー
統一戦争-神の使い-(完)




