表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/39

第28話「統一戦争-影の島-」

ーーー影に囲まれた勇者は

周囲の様子を慎重に伺いながら背中の剣に手を置いていた


影達も戦闘の構えを取ったまま

ピクリとも動かず、勇者をまっすぐと見つめている


その様子を上から眺めていた男は

両手の拳を静かに合わせると

「カッカッ」と、火打石のように鳴らし始めた


すると影達は突然構えをやめ、武器もしまったあと静かにその場から引き下がっていった


「しっしっし、すまんのう

人間には少々この歓迎の仕方は伝わりませんか」


不気味な笑みを浮かべた男が勇者に語りかけてくる


「申し遅れました、私はこの影の島を統治する者、長老ですじゃ、以後お見知り置きを…」


男がそう言うと突然両手を広げて、交差させるように下げると男の周りにあった暗闇がモゾモゾと動き出し、どこかへと消えていった


洞窟の暗闇に見えていたものは

全てカゲ族の擬態だった


「これが本来の私たちの住処(すみか)でございます」


勇者の目の前には緑の空間が広がっていた


人一人入れるスペースの穴ボコや、段差

壁には四角い空洞があり、外の光が眩しく差し込んでいた


辺りを見渡す勇者を尻目に

男は静かに背中を向けて「しっしっしっ」と笑いだす


「私の部屋へお越しください、話はそこでお聞きしましょう」


男がそう言うと静かに暗闇の奥へと消えていったーーー


カゲ族たちからの無言の視線が注がれる中、勇者は長老の元を辿ってなんとか部屋の前へと到着した


長老の部屋に一歩、足を踏み入れると

奥からけたたましい怒声が響き渡ってきた


見るとそこには赤茶色の太い長髪を後ろに束ねた若い出立ちをした男が

鋭い目をしながら長老に詰め寄っていた


「あんたとじゃ埒が明かないな!」


「……」


椅子に腰掛けた長老は少し不機嫌そうな顔で若者を見上げている


ふと長老が勇者に気がつくと若者を目で部屋の端に追いやり、柔らかい笑顔を見せた


「しっしっしっ、お待ちしておりましたよ勇者殿」


長老は勇者を席に座らせ、話を進めた


「何やら世界が大変だとか」


「あ、あぁ…」


勇者は戸惑いつつも

これまでの経緯を長老に話し始めた


長老

「なるほど…愚かな人間を滅ぼすために神が動いたと…」


長老は腕を組みながら難しそうな顔で「うーん」と頷く


長老

「元々は世界の均衡を守っていた彼らが

人間の一部の禁句(タブー)に触れて

そのような行動に出るとは…やはり時代や変化という物はさっぱりわからんのぅ」


長老の部屋にはしばらくの沈黙が流れる


壁にもたれた若者が腕を組みながら

勇者の方をギロリと睨んでいる


「それで兵が足らないため

我々の力を借りたいという事じゃな?」


勇者がごくりと唾を飲み込むと

長老は少し考えたあと、大きく頷く


長老

「あい、わかった!我々も神を討伐するためそなたに協力しましょう!」


勇者

「ほ、本当か!?」


長老

「世界の危機とあらば放ってはおけませんからな」


勇者

「すまない、恩にきる…!」


勇者は深く頭を下げ感謝の気持ちを示した


長老

「準備があるので少々時間がかかりますが、勇者殿はその間、島を回ってくると良いでしょう、そこのウェイドに案内を任せましょう」


若者の方を見る長老


勇者

「す、すまないが…あまり長居は…」


長老

「これからお世話になる顔ぶれです、どうかお顔だけでも見せてやってください」


勇者

「う、うむ…(奴らがいつ心変わりするかわからないが、仕方ない…頼んでるのはこちら側だからな)」


不安を抱えつつも勇者は

長老の言葉に甘えることにした


長老

「(ウェイド、島を案内してあげなさい)」


長老が無言で若者に指示を出すと

若者は鋭い目線で長老を睨んだ


睨み合う二人に勇者は動揺を隠せないでいた


ーーー


ウェイド

「さっきは見苦しいところを見せた

俺はウェイドだ、師団長をしている

よろしく頼む」


勇者

「あ、あぁ…よろしく」


胸当てのついた青い部族服に身を包む若者は

無表情でありながらも高い声色で勇者に話しかけてくる


ウェイド

「あんたの話は長老から聞いている

あいつの指示に従うのは癪だが

せっかくの客人だからな」


ウェイド

「まずは村から案内しよう

ついてこい」


勇者はウェイドに連れられ洞窟の奥へと進んだ


やがて明るい穴を抜けると

勇者の瞳に眩しい光が差し込んだ


そこには緑の景色と石で作られた建物

その下で川遊びをしたり、談笑したり

洗濯物を干したりして生活するカゲ族達の姿があった


「ここがカゲ族の村か…」


勇者は周りを見渡しながら歩き

カゲ族達の暮らしを不思議そうに眺めた


ーーー


ウェイド

「ここはバザーだ、狩りなどで仕入れた戦利品や食料などを売買する場所だ」


勇者の目の前には露天が立ち並んでいる


ウェイド

「武器や食糧の他にも古い書物や創作物、おもちゃなんかもあるな」


客引きをするカゲ族と

買い物をするカゲ族達


「我々は基本自給自足で生活を補っているが、狩るのが面倒な時や何か興味をそそる物が欲しい場合にはここを訪れるんだ」


ウェイドはそう言って(そば)に生えてる葉っぱを千切り、お店の人に渡して赤い果物と交換してみせた


「何か欲しい物があるなら

ああやって葉っぱをちぎり渡せばいい

店によっては必要な数が異なるから

そこだけ気をつけてくれ」


「では次だ」


勇者はウェイドに連れられて

金属の音が鳴り響く場所に案内される


ウェイド

「訓練所だ、ここで我々は戦闘の基礎を学び

戦術を磨いていく」


周りにはカゲ族達が剣と剣をぶつけ合い

訓練に励んでるのが確認できる


ウェイド

「ある程度鍛えたら狩りに出て、戦果を上げてくるのだ」


丸い影に潜り込んだカゲ族は

瞬時に相手の懐に潜り込み

上半身だけを出して攻撃を仕掛けていた


「?」


ふと勇者はある若者に視線が向く


勇者

「あれは舟漕ぎの…」


ウェイド

「シャドだ、普段は兵長を任されている」


勇者

「兵長…」


ウェイド

「我々はみな兵士だ、村の者達も含めて

人間は戦闘員と非戦闘員に分けてあるそうだが

ここではこれが平常だ」


思考を動かす勇者を連れて

ウェイドは次の場所へと案内する


ーーー人間を模った木を真ん中に置いて

カゲ族達がひざまづいて祈りを捧げている


ウェイド

「ここは祈りの場だ、島の者はああして祈り、影の誕生を待つ」


勇者

「影の誕生…?」


ウェイド

「我々は影から生まれる、岩でも草木でも

そこに影があれば我らの命も自ずと芽生える」


「我々には決まったカタチが存在しない

すべてはその影の形に委ねられる

人間の形を模したものに祈りを捧げば

そこから人間の形で生まれてくると言われている」


淡々と説明するウェイドの隣で

勇者がふと目をやると石の影から

こちらを覗き込むように伺う子供の姿が見えた


ウェイド

「気になるか?滅多に見ない客人だからな」


ウェイドはそう呟くと

次の場所へと案内した


ウェイド

「ここは風呂だ、狩りなどでついた汚れやニオイを落とすために利用する」


ウェイド

「ここは食堂だ、狩りなどで収穫した食料を食べるために利用する」


ウェイド

「ここは狩り場だ、ここで我々は狩りを行い、食料や生活用品、武器に使う素材などを調達している」


カゲ族達がマモノと交戦している


「我々はその性質から死に対する恐怖が存在しない、だから戦いに対する抵抗感もない」


「唯一恐れるものといえば、それは興味に対する抑圧だ」


マモノに剣を突き刺すカゲ族達ーーー


一通り案内が済み、原っぱで向かい合わせに立つ二人


ウェイド

「何か聞いておきたい事とかあるか?」


勇者

「いや、十分だ」


ウェイド

「そうか」

「俺は一旦準備のため長老の元へ戻らないといけない、何かわからないことがあったら

いつでも聞きにきてくれ」


勇者

「ふむ、…じゃあ一ついいだろうか?」


ーーー


ーーー勇者は石の前に座り静かに祈りを捧げていた


ヨーデル

『勇者ァ、あんたぁ大変だぁねぇ?』


石の上にはパイプを咥えた老人があぐらをかいて座っている


勇者

「悪いが急ぎなんだ、話をしてる余裕はない」


ヨーデル

『なんでぇ?神は猶予を与えたんだろぉ?』


勇者

「奴らの話を簡単には鵜呑みにできない」


ヨーデル

『神様が嘘をつくってのかぃ?』


勇者はググッと顔を強めて

老人を見上げる


ヨーデル

『まぁいいや、俺ぁヨーデル・リゲ

(どん)の聖者だ、名前だけでも覚えてってくれや』


そう言うとヨーデルは勇者の方へ手のひらを向け、ユラユラと揺らし始める


勇者の体がボヤボヤと光り始め、同時に黒いオーラが全身を包み込む


ヨーデル

『こいつが(どん)の石の力だ、一定時間だけお前さんは自身の影の中に潜ることができるぜ

敵の攻撃を凌いだり、懐に潜り込んで奇襲をかけたりできる、無敵の技だ』


勇者の姿が影のように真っ黒になり

目だけが赤く光っている


ヨーデル

『神様によろしくな』


そう言ってヨーデルはゆっくりと消えていった


滝の裏から出てきた勇者は

近くの草原で足を止めた


勇者

「一度石の整理をしよう

効果が多くて忘れてしまう」


「いくつか捨てたものもあるが…」


勇者はベルトを外し、石を地面に転がした


「これは(ひつ)の石、確か会心能力が上がるとか

これは(そく)の石、これは(とび)の石……」


勇者は石を拾い上げ、一つ一つ効果についてふりかえったーーー


(ちから)の石→攻撃力アップ

属性→炎 色→赤】


(まもり)の石→防御力アップ

属性→水 色→青


(いやし)の石→治癒力アップ

属性→風 色→緑


「三大陸で集めた石達だ

力は剣に、守はマントに、癒は耳飾りに

それぞれ加工し、効果を最大限に引き出した」


(そく)の石→走る速度アップ

属性→雷 色→黄


(とび)の石→跳躍力アップ

属性→氷 色→空色


()の石→回避力上昇

属性→闇 色→紫


(うん)の石→運気上昇

属性→土 色→茶


(ひつ)の石→会心率上昇

属性→(しん) 色→金


()の石→鷹の目効果

属性→鉄 色→銀 祈り石→クロメ島


「厄災の一人、ザズーラと戦う前に集めた石達だ

聖者エヌトバに貰ったこのホルダーに付けることで

加工しなくても効果を発揮させる事ができるようになった、祈り石に願えば石本来の力が目覚めるようになる」


「僕が神の力を解放できたのも

おそらく運の石によるものかもしれない…」


「速の石は神の力を温存するためによく重宝しているな」


「視の石はクロメ島で解放した石だな

鷹の目効果で壁を隔てた見えないところまで敵の居場所などが特定できる

クロメ島の祈り石で効果が大幅に上がった、もしかしたらこの先も使うことがあるかもしれない」


(どん)の石→重さが上がる

属性/影 色→黒 祈り石→影の島


(たい)の石→スタミナ上昇

属性→(さび) 色→(だいだい)


()の石→知力上昇

属性→光 色→白


「厄災を倒したあとに集めた石達だ

鈍の石はさっき解放した石だな」


「体の石はスタミナ向上、知の石は知力上昇、

実感はないが、多分効果は出てるのだろう」



「ん?これだけか…あとは捨てたものしかないようだな」


勇者は最後の石を手に取りながら

捨てた石をふりかえる


■【捨て】(きゅう)の石→嗅覚上昇

属性→炭 色→灰 祈り石未回収


■【捨て】(いかり)の石→怒り上昇

属性→鬼 色→桃 祈り石未回収


■【捨て】(からす)の石→羽が生えて滑空できる

属性→鴉 色→濡羽 祈り石未回収


■【捨て】(ゆめ)の石→夢の世界へ行ける

属性→泡 色→虹 祈り石未回収


「嗅覚が上昇する効果を持つ石は

持ってるだけで色々なニオイを運んでくるから

気分が悪くなって捨ててしまったな」


「怒りの石は力の石より数十倍の効果を発揮したが、持ってるあいだ常にイライラが止まらなくなったからやむなく捨ててしまった」


「鴉の石は羽が生えてしまうし、夢の石はウトウトしてしまうから捨ててしまったな」


「唯一捨てなかったのはこいつだけだ」


■【未使用】(けん)の石→健康アップ

属性→骨 色→灰汁あく 祈り石解放済み


「健の石は持ってるだけなら何もないが

力を解放すると骨になってしまうから

使用する機会は滅多にないな」


勇者は静かに石を眺めたーーー


石のおさらいを済ませた勇者は

ベルトを巻いて村へ戻る準備を始めた


「?」


するとなにやら気配を感じ、後ろを振り向くと

そこには先ほど儀式の場にいた子供が立っていた


勇者

「君は…」


しばし沈黙の後

二人の間に割り込むような形でマモノが襲いかかってきた


勇者

「…!!こいつら…!!」


勇者は背中の剣に手を置き、身構えた


その一瞬、一本の黒い線のようなものが目の前を横切り、勇者の体が止まった


そして森にマモノの悲鳴がこだますると

胴体がその場に倒れ、辺りに大きな地鳴りを響かせた


勇者は呆然と立ち尽くし、子供の方を見ている

マモノを仕留めたのはその子供だった


勇者

「こ、この子は一体…?」


子供は無言で勇者の方を見る


ーー子供は少し距離を離しながらトボトボと勇者のあとをついてきていた


勇者は村へと到着し、長老の元へと足早で向かう


途中バザーに寄り、周囲を見渡す勇者


勇者

「うーむ、時間はまだあるか…

少しこの辺を見ていくか…」


勇者は街の売り物を物色した


鉄の剣を手に取る

「(ふむ、なかなかいい剣だ

でも僕の持ってる剣には及ばないな…)」


歪な剣を手に取る

「(剣先が鎌のようになっている…

カゲ族の専用武器か?)」


鉄の盾を手に取る

「(盾かぁ…そういえば初めの頃に拾った盾…火を吹くマモノに燃やされて以来、嵩張るから携行しなくなったなぁ…)」


飛び道具を手に取る

「(正直、剣で間に合っている…)」


マモノ図鑑が視界に入る

「お、これは…生物解体新書…

マモノ図鑑みたいなものか

他にめぼしいものもないし、これにするか」


勇者は葉っぱの方へと歩いた


「いいのかな…?」


勇者は葉っぱを5枚千切り

不安な顔をしながら店の人に手渡した


マモノ図鑑を両手で持って

中身を読み漁りながら村を歩く勇者に対して若者が声をかけてきた


若者

「おや、ザバ様

こんなところでお会いするなんて」


勇者

「ザバ様?」


若者

「そちらの方です」


手のひらを子供に向ける若者


ザバと呼ばれた子はキョトンとながら首を傾げた


勇者

「おぉ…」


勇者は若者に連れられて

図書館にやってきていた


若者

「大図書館です、我々カゲ族は

人間との交流が少ないですが

先人達が残した記録がここにはたくさんあるのです」


勇者

「ほぅ…」


図書館には青服の他に黒いローブにフードを被ったカゲ族達がいた


フードのカゲ族が勇者に対して何かを伝えようとしている


若者

「彼は"ようこそ"と言ってますよ」


勇者

「わかるのか?」


若者

「もちろん」


若者

「我々は元来言葉ではなく

意識で対話を交わすのです」


若者

「元がカゲである性質上、我々は声帯を介して人と話す必要がないからです」


勇者

「ほぅ…」


若者

「強制ではありませんが、みんな伝統に忠実なのでしょう」


勇者

「なるほど…?」


勇者は周りを見渡しあることに気がつく


勇者

「全員男なのか」


「我々に性別の観念はありません

カゲですからね」


その返答に勇者は目を丸くした


ザバ

「アッ…アッ…」


勇者

「ん?」


ザバが何かを伝えようとしている


若者

「ザバ様はまだ産まれて間もないのですよ

まだ気管が完全にできてはいないのです」


「ザバ様はこの島の次期長(おさ)に任命されたお方なのですよ」


「儀式によって誕生した者は次期長に任命される慣わしがあり、ザバ様は儀式によって誕生した選ばれし存在なのです」


ニコニコと若者はそう答え、ザバの声に耳を貸す


「ザバ様、どうしましたか?

ほう…それはそれは…」


ザバは意識で若者に何かを伝えてるようだった


ウェイド

「もういい、あんたには付き合ってられん!」


長老の部屋へ行くと

再びウェイドの怒鳴り声が響き

勇者は体をビクッとさせた


ウェイド

「いまはっきりと宣言してやる

あんたの考え方は古い!

今のままじゃ俺たちは将来を見ても不幸のままだ!今が変わる時だ!」


「村の者も大半があんたの思想に懐疑的だ

俺たちはこのままじゃ崩壊する」


長老は勇者に気づき、無言でウェイドに伝える


長老

「どうしましたかな勇者どの」


勇者

「あ、いや…準備の方はどうなってるのかと…」


長老

「もう間も無くですじゃ、ゆっくりごくつろぎください」


勇者

「う、うむ…」


冷や汗をかいた勇者は

圧に耐えきれず思わず事情を聞いてしまう


勇者

「何かあったのか…?」


長老

「いえいえ、こちらの話です

お気になさらず」


勇者

「そ、そうか…」


勇者は歯をギリッとするウェイドに目をやる


村外れの高台にて

勇者とウェイドが並んで座り、話を交わしていた


ウェイド

「この島は古い伝統に縛られている」


「髪型が違う奴がいただろう?」

みんな口には出さないが心の底では伝統に疑問を抱いている、無言の抗議だ

みんな自由を欲している」


「長老は恐れている、新しい時代が来ることを」


ウェイドの話を静かに聞く勇者


ザバ

「アッ…アッ…」


ザバが勇者の方へ駆け寄ってくる


ウェイド

「ザバ様が懐くとはな…」


「我々は興味によって突き動かされている」


「多種族の生態、趣味、傾向

あらゆるものに我々は感化されてきた」


「元々形すらあやふやなものだった

昔流れ着いた旅人達が我々に形を与え、声帯を与え、狩りを与え、記録を与えた」


「カゲは学び成長していく」


ウェイドは語る

遠くにある見張り台を眺めながら


ーーー食器の音が響く大食堂


リーダー格の男が拳で合図を送ると

カゲ族達は料理を運び、長テーブルの前に座った


食堂は静寂に包まれ

食器やナイフのカチャカチャした音だけが静かに響いた


勇者は周りをキョロキョロと見ながら

食事に手をつけた


勇者

「ずず…(!!)」


音を立てた事に戸惑い、周りを見渡すが

特に気にかける事はなくみんな食事に集中していた


再び勇者が食事をしようとフォークに手をかけたが、緊張のあまりフォークを床に落としてしまった


「…っ!!」


勇者は慌てて椅子から降り、落ちてるフォークに手をのばすと、目の前に食事を運ぶカゲ族が立っていて、勇者は大量の汗を流す


勇者

「あっ、あっ、……」


カゲ族

「……」


勇者

「ご、ごめんなさい……」


勇者は素早く椅子に戻り、食事に目をやる


「お、思わず謝ってしまった……」


勇者はあまりの気まずさから内心気が気じゃなくなっていたーーー


ウェイド

「人間とは不思議だな

この棒は…」


勇者

「うぅ…」


大浴場で勇者の背中を流すウェイドは

不思議そうにそれを眺めていた


ウェイド

「こいつで子孫を増やすのだろう?」


勇者

「そ、そうだが…

あ、あまりジロジロ見ないで貰えるか…?」


ウェイド

「…ふぅむ」


湯船に浸かったあと、脱衣所で服を着て

二人は風呂場を後にした


ウェイド

「お前も生殖活動をしたことはあるのか」


勇者

「う、うむ…記憶にはないが

姫様と一度してるらしい…」


「(で、合ってるよな?姫様のあの、仕草は

それをやったということで…?)」


ウェイド

「じゃあ、すでにお前にも子孫がいるということか」


勇者

「いや、姫様は…厄災に侵されて死んでしまったんだ…子もいないはず…多分」


ウェイド

「そうか、大変だな」


勇者とウェイドはしばらく言葉を交わしながら洞窟を歩いたーーー


ウェイドと狩りをし、マモノの肉を鍋に放り込む勇者


ウェイド

「モゴドーの肉は栄養価が高く、かみごたえも程よくて美味なのだ」


勇者は肉をつまみ、口の中に運ぶと

モニュモニュと頬を膨らます


ーーーしばらく経ち、焚き火を隔てて二人は対話を交わしていた


ウェイド

「我々は新しいものを欲している

自由な髪型、自由な服装、自由な言葉」


「みんな声が出せる、言葉がわかる、手で鳴らす合図もいらない、言いたいことは直接伝えればいい、言葉でな」


「だが長老は新しいものを拒んでいる

古い文化に執着し、我々に圧をかけ、行動を狭めている」


「口は聞けるのにいつまでもみんな

昔の伝統を引きずっている」


ウェイド

「このままでは、この島に未来はない」


勇者

「……」


勇者は焚き火を見つめながら

ふと口を開いた


勇者

「この島には平和がある…」


ウェイド

「…?そうか?」


ウェイドは不思議そうに聞き返す


勇者

「……悪い夢を見てるようだ」


ウェイド

「そんなに酷い惨状なのか?」


勇者

「味方だと思ってたものは敵になるし

守りたいと思ってたものは敵意を向けてくる

真面目な人や大切な人は死んでいく……」


勇者

「時々思う、僕は何をしてるんだろう

何を信じればいいのだろう…なんのために戦ってるのか、僕の行動は正しいのか……」


ウェイド

「人間は色々と難しいことを考えるんだな

俺たちはお前たちに比べるとえらく単純な種族のようだ」


ウェイドは木の枝を追加する


勇者

「いつか争いが、生死を分ける戦いが

この世界から無くなり互いに励まし合うような

そんな平和な時代が来ればいいと僕は思う」


勇者は俯きながら静かにそう語ったーーー


ウェイド

「戻るか、そろそろ準備も完了した頃だろう」


話を切り上げ、村に戻る途中の二人


森を歩いてしばらく、奥に人影が見えた


勇者

「?!」


思わず勇者の足が止まる

それは杖をついた謎の白装束だった


ウェイド

「仲間か?」


勇者

「いいや…」


勇者は相手にただならぬ殺気を感じて

ゆっくりと剣に手を置き、戦闘体制に入ったーーー



統一戦争-影の島-(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ