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第22話「統一戦争-序章-」

五大厄災は滅びた

勇者の活躍により世界は平穏を取り戻し

人々は平和をその身に染み込ませていたーーー



ーー晴れ間の街を歩く一人の少女、

ボロボロの赤い頭巾を身につけて、(うつむ)きながらトボトボと歩く、その前方には大きな男の背中があった


「近寄るんじゃねぇ!!向こう行ってろ!!」


男は少女に気がつくと

おもむろに手を伸ばし、少女を地面へ突き飛ばした


男に押された少女は

水溜りの上にバシャリと浸かり、男の方を震えた顔で見上げる


(ヤク)が……!」


男はそう吐き捨てると後ろを向き

街の奥へと消えていった


一人取り残された少女は

静かに下を向き、ポロポロと涙をこぼすーーー



「ーー大丈夫、大丈夫だからね……」


離れにある小さなボロ屋

明るい外とは対照的に中は暗がりの部屋で

中央付近には布団が敷かれ、その前に若い女性が座り、誰かに向かって小さく声をかけていた


「勇者様が必ず助けてくれるから……」


女性が目を落とすその先には

少し歳の離れた女性が横になって静かに眠っていた

灰色に変色した肌を持つその女性に

若い女性は震えるような言葉で何度も声をかけ続けるーーー



ーーー街の中央には装飾の施された大きな木が

(そび)え立ち

根元には供物(くもつ)が並べられ、その周りを人々が囲い、祈りを捧げられていた


「勇者様ァ……」


人々は目を瞑り、木を勇者に見立てて願いを唱えていた


「どうか、娘の病気を……」

「主人を……」

「無事に産まれますように……」


一人一人が願いを込め、祈り続けていると

突然声を荒げる男がいた


「もうダメだッッ!!」


男の声に反応し、祈りをといた人々の視線は男の方へと向けられた


「祈りなんて意味がない!!

無いんだよ、助かる方法なんて……!!

勇者様は助けてくれない!!

……俺たちは見捨てられたんだッッ!!」


男が声を震わせると

何人(なんにん)も深く落ち込んだ様子を見せた


「おいやめろお前!!勇者様を信じろ!!」


一人が反発すると男は負けじと反論する


「何が勇者様だ!!結局あいつはみんなを救えなかったじゃないか!!」


「おいッッ!! 口を慎め!!」


現場は荒れ、揉め事が大きくなっていく

その様子を遠くの窓から眺める二組の男女がいた


「いやー俺厄災にかからなくてよかったよ

(ヤク)にかかった奴は可哀想だけどさ」


「ふふ、ほんとね」


楽しそうに話を交わす男女、また違う場所では

二人の若者が厄災についてこんなやりとりをしていた


(ヤク)って感染(うつ)るのかな?」


「さぁ?一応厄持ちっぽい人は避けてるけど……」


「ーーこいつアザがあるぞッッ!?」

「うわぁぁぁッッ!!」


身体にあざがある人を見てドタドタと逃げ惑う人達


「うちの子に近づかないで!!」


厄災にかかった子らから距離を置く親たち


「あっち行けー!ヤクー!」


厄災にかかった子を囲い、石をぶつける子供達


「いたっ……やめてッ!!」

「うぅ……」


それを見て周りの大人達が嫌な顔をする


「いつまで病気持ち歩いてんだよ……早く死んでくれよ……」


「ちょっと!そんな言い方…」


「お前はどう思うんだよ?」


「そ、それは……」


大人達から排他的な目を向けられ

泣き崩れる子供たち


ーーーその様子を狭間の世界で眺めていた三大の神たちは人間達に対し激しい怒りを向けていた


『やはり人間は愚かだ……ッッ!!』


一人の神がそう吐き捨てると、ほかの神もうんうんと頷く


『人間どもめ、野ざらしにしておけば

好き放題しおって』


『こうなる事は予期されていた事、(おの)が欲のために生きる人間は滅ぼすほかあるまい』


二つの神は人間達の所業に対し

強く非難の意識を持っていた


『なぜ勇者に力を貸した…?!』


赤い竜のような姿をした神が

一人の神に疑問をぶつけた


『……』


疑問をぶつけられたのは

かつて魔王復活の際に勇者に力を貸した神だった


『貴様も愚かな人間の側につくというのか?』


『違う、私も人間は愚かだと思っている』


『ではなぜ?』


赤い神に問い詰められると

神はその意図を語る


『私は試してみたかったのだ、勇者は人間を信じていた、ならば、どれだけ耐えられるかを』


『信じた結果がこれだ、どうする?ツケは大きいぞ』


二つの神に責められ、(しば)し沈黙の後

一つの神は静かに反省の弁を述べた


『すまない、私もまだまだ甘かった

やはり勇者はあの時に説得すべきだったのかもしれない、理解はしていたはずなのに

止めることが出来なかった、失態だった』


『厄災は滅びた……もはや人間を滅ぼす者は他にいない……こうなれば、我々が出るしか道は残されていないだろう……』


『神々が世界を滅ぼすのか……?』


『致し方あるまい、これ以上、人間の好きにさせてはならない』


赤い神が語る


『もともと我々は力を持ちすぎただけの一生物(いちせいぶつ)に過ぎない、これまでは名目上、神として振る舞ってきたが……』


赤い神が言葉を少し濁したあと

すぐに結論づける


『ーー覚悟を決める時だ』


神達が議論を交わす中、

どこからか天の声が聞こえてくる


『勇者よ……勇者よ……』


天の声は勇者の名を呼び続けたーーー



森の広がる草原付近で複数人の兵士を乗せた馬と

その中央に勇者と、馬にまたがる女王がいた


「全員揃ったか」


「はい」


兵士達に人数の確認を取る女王、

勇者達は森の奥を見つめる形でその場に駐留していた


女王

「今一度確認するが、確かなのだな勇者

神が我々を……」


勇者

「はい、意識の者は確かにそう言いました」


女王

「意識の者……お前は今まで幾度(いくど)もそれに助けられ厄災討伐に貢献したのだな……」


女王の言葉に深く頷く勇者


女王

「この森の奥深くから神は我々の世界を襲いに来る

意識の者は確かにそう言った、それで間違いないのだな?」


再度の確認に勇者はまたも頷く


女王

「まさか神と戦うことになるとはな……」


女王はどこか弱々しくそう呟いた後、すぐに勇ましい声色に変え、力強く指揮を取る


「理解した、者共配置につけ!!」


兵士達は馬を歩かせ、女王の号令に合わせて

それぞれの配置につき、待機した


勇者

「しかし女王、いいのですか?

あなたまで参戦する必要は……」


女王

「無駄なお節介だ

兵士ばかりに頼ってはおれんからな

国の、いや人類の一大事だ

五大厄災はお前に任せきりだったが

今回は我々も全勢力で行かせてもらう」


そう言って女王は勇者に作戦を伝える


女王

「お前を神の元まで送る、おそらく敵側もこちらの意向に気づいているだろう、必ず何らかの妨害行為を行なってくるはず……

勇者、我々はお前の盾だ、忘れるな」


勇者はゴクッと唾を飲み

小さく頷く


女王

「それと、これは合意書だ

何かあった時のためのな」


女王は勇者に筒状に丸められた紙を手渡す


女王

「お前たち!しっかり気を研いでおけ!!

神が動き次第、我々も出撃する!!」


兵士たちがウォォォォっと雄叫びを上げて

剣や槍を空に掲げたーーー


ーーー


神を待つ事、数時間

日は沈み、辺りは青い闇に覆われていた


「冷えるな……」


兵士達が神の動きに気を張るなか、

女王はふと呟く


女王

「神は人間を愚かだと言ってるのか」


それに対して勇者は静かに答える


勇者

「……はい」


女王

「そうか」


女王はふと勇者の方を見て再度

森の方へ視線を向けた


女王

「神が動くまでの時間はわからないのか」


勇者

「はい」


女王

「そうか……」


勇者と女王は森の奥を見つめて

気を張らせている


女王

「ーー神の言う通り、人間は愚かなのかも知れぬ」


女王は勇者の方を再度向き、静かに呟く


女王

「勇者よ、辛くなったらいつでも逃げていいのだ」


突然の言葉に勇者は戸惑いを見せる


勇者

「そんな……僕は別に……」


女王

「よいのだ、お前も人間…思うところはあるだろう」


勇者は何も返せず黙り込んだ


二人がそんな小さなやりとりを交わす中

決戦の時は刻一刻と迫っていたーーー


ーーー


青い霧の中

兵士を乗せた馬達の走る音が森の中に響き渡る


強靭な筋力で土を蹴り上げ、木々を避けながら

ズンズン奥へと進んでいく


女王

「ぬしら!勇者様に続けーー!!」


先頭には女王が、その後ろには兵士が

勇者の後を追うように馬を走らせる


森の中心から光の次元が現れ

中から大量の騎士達が現れる


勇者

「あいつらは……!」


女王

「試練の兵士……奴らがそうか?

ぬしら、敵は勇者様と同格だ、ぬかるなよ!」


兵士たちは強化パフを握り、自身の能力を高めて騎士団とぶつかるーーー


激しい戦闘の音が森中に響き渡った


「せやぁ!!」


「おらぁ!!」


剣と剣がぶつかり火花を散らす

兵士たちの戦う声があちらこちらで

聞こえてくる


「ぐあっ」


「がぁっっ……」


戦いは熾烈を極めた

落馬するもの、囲まれて斬られるもの

敵の戦力は兵士たちの力量をはるかに上回っていた


女王

「怯むなーーッッ!!勇者様をお送りするまで

耐えるのだ!!」


兵士達はオオオッと掛け声を上げ騎士達に全力でぶつかった


勇者

「はっ!!……!!」


勇者が騎士と応戦していると

目先に兵士が苦戦しているのを確認する


朦朧(もうろう)とする兵士に容赦なく剣を振るう敵


勇者はすかさず加勢に入り、敵の剣を弾くが

兵士は勇者の助けを拒む


兵士

「勇者様!我々に構わず行ってください!!」


勇者

「し、しかし……ッ」


すると後方から女王の怒鳴り声が響く


女王

「勇者ッッ!!立ち止まるなッッ!!」


勇者が迷っていると

女王の胸から突然剣が突き出てくる


女王

「がっ……」


勇者

「!!」


勇者は驚く暇も与えられず

剣は胸から引き抜かれ、

今度は女王の首元へ振るわれた


ザンッという金属音と共に

女王の首は胴から離れ、勇者の足元へ無造作に転がってきた


勇者は何が起きたのか一瞬理解が追いつけず

目の前の光景にただ目をひくつかせた


残された胴が無機質に崩れ落ちて

その後ろにいた騎士がこちらへ視線を向けた時に勇者の正気はゆるやかに解け始めた


勇者

「………ッッ!!」


勇者が剣を強く握りしめかけたその時


「勇者様!!」


と一人の兵士が叫び、騎士と剣をぶつけた


「行ってください!!」


その声と共に勇者はハッとなり、その兵士が斬られても動揺せず後ろへ向き

何も考えずとにかく神の元まで急いだーーー


ーーー


騎士達を薙ぎ払い、光の輪に飛び込む勇者


そこには白い世界が広がっていた


どこが境界かわからないが、ところどころ凸凹とした壁があったりする


勇者が辺りを見渡していると

上の方からかすかな視線を感じ、静かに見上げるとそこには赤い竜の姿をした神が浮かんでいた


『勇者よ……』


そう(ささや)く神に対し、勇者はしばらく睨んだ後、

剣をゆっくりと引き抜く


勇者

三大神(さんだいしん)の一人だな、

たとえ神であろうと

この世界は滅ぼさせはしないぞ!!」


そう言って勇者は剣先を神の方へ向けた


『なぜそうまでして人間に肩を持つ……

貴様も見たであろう、奴らの愚かさを……』


勇者は口をぐっと閉めて、剣を構え続ける


『奴らには他者に対する(いつく)しみなどない

あるのは自らの欲だけだ、その為なら多くの犠牲も厭わない』


勇者

「うるさい!!」


勇者は神にこの上ない怒りを向けて、間髪入れずに飛び上がる


『厄を取り払うなど不可能だ、アレは病原の類ではない厄災の持つ力、エネルギーそのものだ』


勇者

「ああああっっっ!!!」


勇者は神の声を聞かず、その頭上に剣を振り下ろす


『厄災を取り除けば世界は再び一つになると

お前は本気で信じているようだが、人間などはなから他者と一つになろうとは考えてもいない』


『我が身可愛ければそれで()い、他は要らぬ』


勇者

「くっ……!!」


『それが人間という生き物だ』


勇者

「黙れっっ!!」


勇者は何度も神の頭を斬りつけるが

神は全く応えていない


『やはり説得は無駄か……ならば貴様も

愚かな人間と共に消えるがいい』


神は突如として口を大きく開き

そこから光線を発射する


勇者

「ぐぅっ!?」


光線は凄まじい勢いで勇者めがけて飛んでくる


激しい音と共に白い空間は青い光に包まれた


しばらくすると音は止み、青い光も薄れてきた


神が見下ろす先で

勇者は大の字に寝そべり、はぁはぁと

息を切らしていた


『神の子と言えど所詮はこの程度、本物の神に勝てるとでも思うたか?』


勇者

「ぐっ…くっ…」


勇者は床に剣を突き刺し、ゆらゆらと立ち上がる


勇者

「ぐ……僕は……」


『僕は……なんだ?それでも人々を助けたいとでも言うのか』


『世界を救った後、それからどうする?

見守るのか?人間の残酷さ愚かさを、ずっと眺めて生きていくのか』


勇者

「ぐっ……うっ……僕は……」


勇者が剣を握りしめると

神は勇者の元へ接近し、グルグルと蛇のように勇者の周りを体で巻きつけて、ギュッと締め上げる


『それが優しか、それが正義か、善と悪

お前はそれらを単純な思想で結びつけるのか

はみ出した者はどうなる?お前はそいつらも救えるのか?』


勇者

「ぐっ…ふっ…」


『ならば救ってみろ今すぐに!

あの少女を助けてやれ、水溜りに浸かり、涙を流すあの子に手を差し伸べ、彼女の不安を解いてやれ!!』


勇者

「くっ…」


勇者に対する締め付けがどんどん強くなっていく


『あの子を孤独から救って見せろ!!出来るのだろうお前なら……!!』


《勇者、立ち止まるな!!》


勇者

「くぅっ!!あああっっ!!!」


『……ッッ!!?』


勇者の体から光が放出され

同時に神の縛りが緩くなる


勇者

「はぁ…はぁ…」


『……』


神は勇者から離れ、再び元の位置に戻る


勇者

「神が……」


神は静かに勇者を見下ろす


勇者

「神が……人間を、世界を……滅ぼすのか……?」


それは討議の時、勇者に力を貸した神にも言われた言葉

赤い神はゆっくりと頷き一言


『そうだ』


と、返した


勇者

「……」


『愚かな人間を葬れるのなら

私は何だってやろう、それが自ら矛盾した行為であってもだ』


しばらく二人が眺め合ったあと、神は突如として天井を向き、そのまま彼方まで登っていった


勇者

「?……」


勇者がその行動を不思議そうに見上げていると

やがて神は天井のモヤモヤとした境界へと消えていく


一人ぽつんと取り残された勇者は

何が起きたかわからずしばらく呆然としていたーーー



しばらく経過しても何も起こらず勇者は一旦

光の外に出ることに


勇者

「……?」


外に出ると戦火の音が消えていて

森は静けさを取り戻していた


森の道中には国の兵士の残骸のみが残されていて

それ以外は跡形もなく消えていた


女王の亡骸も確認した


勇者はその後、城に戻り

事の次第を民達に報告、女王の死を知った民はひどく狼狽(うろた)えた様子を見せた


勇者は女王から手渡された紙を広げた

そこにはカゲ族とクロメ族との交渉の(ふみ)が載ってあった


勇者は自室として使っていた部屋に戻り、身支度をしていると一人の女性が訪ねてきた


「失礼します!!」


勇者は驚いた顔で女性を見た


女性は冒険家のような格好をしており

メガネをかけた明るそうな見た目をしている


勇者が「君は?」と尋ねると

女性はおもむろに敬礼し、柔らかい笑みを浮かべたーーー



統一戦争-序章-(完)

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