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第21話「五大厄災-最後の厄災-」

ーーー勇者と厄災はお互いに剣と拳を交わし

激しくぶつかり合っていた


勇者

「ぐっ……!!かっっ…!!」


ムース

『フンッ!!』


勇者の振るった剣がムースの攻撃をいなし

反動でムースはクルクルと回転しながら後方へと弾き飛ばされた


ムース

『ッッ!!』


勇者はグッと剣を握りしめて

ムースのいる方を見上げる


ムースは勇者をその赤い眼で睨みつけると

自身の8本の尻尾を逆立たせ、槍のように尖らし

全方位を勇者の方へ向ける


ムース

『ーーいくぞ勇者』


勇者が身構えるとムースは勢いよく下降し

勇者に突進してきた


勇者

「ぐあっ……!!くっ……!!」


勇者は鋭い尻尾を剣で防ぎ、ムースをまた空高く跳ね返した


クルクルと回転しながら下がるムースは

体勢を立てたのちまたすぐに突進を開始


剣で弾かれてはまた突進、

その後、何度もその応酬を繰り広げる


ーー何度目かの時、ムースは突進の合間に突如体勢を変えて拳を振り下ろしてきた


勇者

「ぐっっ……!!??」


振り下ろされた拳は地面に叩きつけられ

白い表面に亀裂が走る


ムース

『……』


勇者は間一髪でそれを回避し、後方へ下がろうとするが、ムースはそれを逃さず直ぐに姿勢を変えて前蹴りで勇者を蹴り飛ばす


勇者

「ぐぅっ……!?」


勇者はなんとか姿勢を崩さずに

前のめりで地に足をついたまま後方へ足を滑らすも

ムースは凄まじいスピードで勇者の背後に回り込み、地に手をつけて下から突き上げた蹴りで

勇者を宙に浮かした


勇者

「がはっ……!!」


ムースはその場から高く飛び跳ね

今度は前に回り込み、裏拳で勇者を地上へと叩き落とす


勇者

「ごほっ……!!」


勇者は地面に接触する寸前で体勢を変えて

足で着地し、その衝撃で白い煙が舞い勇者を包み込む


勇者

「くっ……!はっ…!」


勇者はすぐさま立ち上がり、再び剣を構え

ムースの攻撃に備えて辺りを見渡す


煙の中に紛れてムースの蹴りが飛んでくる


勇者

「ぐあっ……!!」


勇者は反射的に剣を構えガードに成功するが

物凄い衝撃で後ろに滑るように下がり、構えた剣はふるふると震えていた


ムースはさらに追撃し、勇者の懐に潜り込んで拳を連続で打ち込んでいく


勇者

「ぐあっ……!!かっ……!!くっ……!!」


勇者はそれを必死に剣で弾き、反撃しようと

何度も剣をぶつけにいくがムースに全ていなされてしまい、攻撃するうちに剣の握りも甘くなり

ムースの蹴りを浴びた事で手から剣が離れてしまい、彼方へと飛んでいってしまった


勇者

「がっっ!?」


剣は勢いよく回転した後、遠くの地面に突き刺さる


勇者

「くっ……!!」


ムース

『……』


勇者は剣を一旦忘れ、拳を強く握りしめて

次の攻撃に備えた


ムース

『ーーまだ足りない』


勇者

「……?!」


ムースがそう呟くと攻撃を止め、おもむろに天へと登っていき、ある地点で止まり勇者の方へ手のひらを向けた


勇者

「???」


ムース

『これならどうだ?』


ムースの手のひらから光の玉が現れる


勇者が構えるとムースの様子に変化が起きた


勇者

「!!」


ムースの体が分離し、二人になったのだ

勇者が驚くのも束の間

ムースの体は更に三人、四人と増えていき

いつの間にか勇者の周りをドーム状に囲っていた


逃げ場のない監獄のような状態になり

そこから光の玉が無数に勇者を捉えている


ムース

『行くぞ、勇者』


その合図とともに複数のムースが同時に光の玉を勇者目掛けて発射するーーー



勇者

「くぁっ、!!くっ…!!がぁっ…!!」


勇者は無数に飛んでくる光の玉を腕でなんとか防ぐも段々と体力が落ちてきて

何発か被弾してしまう


勇者

「ぐっ…!!(まずいな…、このままでは……!!)」


徐々に息が上がっていく勇者

攻撃を止めないムース

もはやなす術はないと諦めかけた

と、その時勇者の耳元で聞き覚えのある声が聞こえて来る


『勇者よ……』


勇者

「ーー!!お前は……!?」


その声はかつて、伝染の厄災と戦った際に

力を貸してくれた天の声だった


天の声

『勇者よ、あなたに神の力の解放を教示(きょうじ)します』


勇者

「ッッ!?」


天の声

『さぁ、力を抜いて……』


勇者は天の声の指導に沿って行動をする


勇者

「これは……」


その瞬間、勇者は自身の体が軽くなるのを感じた


天の声

『目を閉じて、集中してください』


勇者

「……誰だかわからないが

お前には助けられてばかりだな

ーーーすまない、恩に着る」


ーーー勇者は言われた通りに目を閉じた


しばらくすると勇者の体はやわらかい光で覆われて、やがて全身を優しく包みこまれていった



ムース

『ーーッッ!?』


ムースが異変に気づき、攻撃を止めて勇者を注意深く凝視(ぎょうし)する


勇者

「スゥゥゥ……」


勇者はググッと拳を握りしめ、そして目一杯力を込める


「ハァァァァァァッッ!!!!」


勇者は包まれた光を解き放ち、激しく揺らめく眩しい閃光、神の力を解放した


ムース

『…………』


ムースはその光景にしばらく無言を貫いた後、

『ついに来たーー』とどこか満足めいた顔をしながら全身の力を緩め、分身も解き、その後自分の中にある全ての力を解放し、勇者を迎え撃った


ーーー


ムース

『隠された記憶を今こそ、我が元へーー』


ムースが構えると同時に勇者は凄まじいスピードで

ムースの元まで接近、ムースの顎を拳で砕いた


ムース

『グォッッ……!?』


突然の出来事に動転しているムースを尻目に

勇者はさらに追撃、腹に重い一撃を喰らわす


ムース

『グヴッッ……』


更に連続で腹を殴打したあと、顔面目掛けて拳を振るい、ムースを遠くまで殴り飛ばす


ムース

『クッ…!ウッ…!』


なす術のないムースは無様に飛んでいき、回り込んだ勇者によって地上へと叩き落とされる


更に勇者はムースの方まで素早く降下して

ムースが地面に接触したのと同時に拳を何度も腹に打ち込んでいく


ムース

『ヴッ……!!ア"ッ……!!ッ"ッ"……』


凄まじい速さと重さが乗った拳が

容赦なく何発も腹に叩き込まれ、ムースは血を吐いて

息をすることも困難な状態になる


ムース

『(ーー想像以上の破壊力……これが神の力……

この厄災持ってしても手も足も出んとは……し、しかし……)』


それでも尚、ムースの頭の中では

勇者の隠された記憶を奪い取ろうと

今か今かとその瞬間を待ち侘びていた


ムース

『ッ"……!!(もうすぐだーーあと、少しっっーー』


段々と意識も遠のいていき、次元が少しづつすり減っていくような状態になる


『(見えーー』


勇者

「「ガァッッ!!!」」


勇者が雄叫びを上げながらムースの顔面に

トドメの一撃を喰らわし、それによって引き起こされた衝撃波により、二人は真っ白な空間に包まれたーーー


ーーー


ーーー


ーーー



ーーー雨が降り注ぐ森、木々が倒れボロボロになった地点でムースが空を見上げるような形で力なく腰からへたり込んでいる


ムース

『がはっ……かっ……』


地面に突き刺さった剣をシャキッと抜いて

ムースの喉元へそれを向ける勇者


勇者

「お前の負けだ!!」


そう叫び、勇者は剣を振り下ろそうとする


ムース

『……なぜだ』


ムースは小さく吐露する


ムース

『何者なんだお前は…?まさか我々が…敗れることなど……』


勇者が構わず剣を振り下ろそうとした時、ムースの周囲から衝撃波が放たれ、勇者はよろめいてしまう


勇者

「くっ……!?」


ムース

『まだだ……もはや隠された記憶など知ったことかーー』


ムースは立ち上がり、再び天へと舞う


ムース

『わ……私は記憶の厄災ムース

役目を果たし……我らは帰還するーー!!』


ムースはそう叫び、拳を強く握りしめ

最大限まで自身の力を膨れ上がらせる


天の声

『勇者よ、トドメを』


天の声がそう(ささや)くと勇者は剣を強く握りしめ

ムースの元まで飛び上がる


勇者

「「ハァァァァアアアッッ!!!」」


勇者の剣がムースに振り下ろされたーー


ムース

『なぜ奪えないーー』


ムースの中でいろんな景色が見える

それは、死の間際に見る走馬灯のようなものか

あるいはーー


ムース

『……?(お前はーー)』


その時ムースの目の前には強く輝く(まばゆ)い光が広がっていた


ムース

『(そうか、そういうことか……

私たち厄災は、いや、私たちだけではない

勇者、お前もーーー)』


ムースは何かを察したあと、静かに光に飲まれていったーー



ムース

『ぐーーあ"っっ……』


勇者

「ッッ……」


ムースはトドメの一撃を喰らい、全身をどす黒い膜で覆われたあと、ゆっくりと崩れるように消えていく


ムースが完全に消滅したあと勇者は地上へ着地し

しばらく残った静けさを肌に寂しく受けながら

剣をそっと仕舞い、遠くを見つめた


勇者

「終わったのか……」


天の声も聞こえなくなり、勇者は

ムースの言っていた言葉に引っ掛かりを感じていた


勇者

「(隠された記憶……僕はどこから産まれた……

僕は光のように現れたのか……)」


しばらく困惑するも一旦それらを忘れ

勇者は五大厄災が完全に滅びたことをまずは受け入れ、ひとまず帰路についた



ーーー



勇者の目的は達成された、全ての厄災は滅び

世界はようやく平穏を取り戻した

人々は平和を謳歌し、心からそれを喜んだ


しかし勇者はまだ納得していない

この世にはまだ多くの救うべき命がある

それらが完全に浄化するまで

勇者の戦いに終わりはない


世界がまた闇に覆われた時

勇者はまた剣を取り、冒険へ旅立つだろうーー



五大厄災-最後の厄災-(完)

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