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第15話「五大厄災-飢饉の幻獣-III」

うめき声が響きわたる洞窟を進む勇者


勇者

「なんだ…?」


警戒しながら奥へと進み

やがて灯のついた広場へと辿り着く


勇者

「!!」


そこは丸い空間に、四本の燭台。

牢屋のような空間が数箇所あり、

天井には何か鎖のようなものがぶら下がっている。


中央には赤いカーペットが敷かれていて

豪華な食事の乗ったお皿や

食べ終わった後のお皿が数枚重ねて置いてあり

その真ん中には動物のようなふくよかな背中が勇者の方を向いて座っていた。


怪物

『げっへっへっ…ほぉれ…』


勇者はゆっくりと剣を引き抜き、

その何かに詰め寄る


勇者

「お前がゲレプルか?」


怪物は静かに答える


怪物

『記憶をなくした者…勇者』

『ムースの忘れ形見』


怪物はゆっくりと勇者の方へ顔を向ける


怪物

『そう…俺はゲレプル…

永遠の空腹をもたらす者』


怪物はそう名乗り、両腕を大きく広げるーー


勇者

「…村のものはどこだ!」


勇者がそう問いかけると

怪物は静かにどこかへ指を指す


勇者が指された方を見るとそこには

痩せこけた村人達が弱々しく地を這っていた


勇者

「……ッッ!!」


ゲレプル

『そいつらは食っても食っても

太らないんだ…腹が満たされないらしい』


勇者

「貴様…!!」


勇者はゲレプルに斬りかかる


勇者

「!!」


しかし、謎のバリアに弾かれてしまい

勇者の体は不本意にゲレプルから離れてしまう


ゲレプル

『慌てるな勇者…エサの時間だ』


勇者

「エサ…!?」


勇者が困惑した表情を見せると

ゲレプルは何もないところから

突然、魚や豚まんなどを出現させ

村人達へ放り投げる


ゲレプル

『ほぉら!エサだ!お前ら!たらふく食えよ!!』


放り込まれた食物が無造作に地面に叩きつけられると

村人達は躊躇せず一斉に食物に群がり

一生懸命に魚や肉まんにかぶりついていく


ゲレプル

『げへへへ…いい眺めだ

そうは思わんか?勇者様』


勇者

「くっ…ふっ…!!」


勇者は歯を強く噛み締め、ゲレプルを怒りの眼差しで睨みつけた



ゲレプル

『何をそんなに怒っている?

お前達もよくやってる事だろう』


ゲレプルは怒りで震える勇者を尻目に

皿を手に取って、飯を頬張りながら語る


ゲレプル

『こいつは餌やりだ、こいつらは可愛いペット達さ』


食物をひたすら放り投げ、げへへと笑うゲレプル


ゲレプル

『俺はこいつら(人間)が大好きだぜ!』


勇者

「黙れ!!」


ゲレプル

『げへへへ』


勇者

「何がおかしい!?」


ゲレプル

『純粋な奴ってのは笑えるよなぁ?

はっきり言っとくがこいつら別にそんな命張って守るほどの価値はないぜ??』


目をギラっと光らせ、ニヤリと微笑むゲレプル


ゲレプル

『俺たち厄災はこいつらクズどもを消すために生まれたが、俺は正直気乗りしねーんだわ』


勇者

「…?」


勇者が戸惑いの表情を浮かべていると

ゲレプルは再び食物を村人達に与える


勇者

「!!」


ゲレプル

『言ったろ?俺は人間が好きなんだ!

俺と似てるところが特にな!親近感湧くぜ!』


勇者

「お前のようなゲスと似てるだと?」


ゲレプル

『げへへ、言ったな?

勇者!言っちまったな??

げへへへ』


勇者

「何がおかしい!!」


ゲレプルは高笑いをし、哀れみの表情で勇者を見つめる


ゲレプル

『まぁいずれわかるさ

俺たちは似たもの同士だとな

そしてお前も人間である以上抗えんよ

俺たちの目的にな』


勇者

「もういい、今お前を楽にしてやる!」


ゲレプル

『げへへ』


勇者

「くっ!!」


勇者は剣を構える


ゲレプル

主人(おれ)をやっちまったら、こいつら飯食えなくなるぜ?お前が面倒見るのか??』


痩せ細った村人達に視線を向けさせるゲレプル


ゲレプル

『俺は自由に食料を作り出すことができるが

お前にはそんな力はないだろう??』


勇者はギリッと歯をすり合わせ、

ゲレプルを睨み続ける


ゲレプル

『大丈夫だ、安心しろ

悪いようにはしないさ

従順であればいい、犬や猫と同じだ

餌やって、一生愛でてやるよ』


げへへと笑うゲレプルに

勇者は我慢の限界が来ていた


勇者

「僕は…今すぐにでもお前を消したい…!!」


剣を強く握りしめる勇者


ゲレプル

『げっへっへ、、いいだろう

だが加減はせんぜ??』


ゲレプルは拳を握りしめ、力強くふんばる


ゲレプル

『無様に逝っても吠えずらかくなよ

お前が選んだ道だ』


関節の鳴る音が洞窟内に響き渡り

ゲレプルの体がみるみる大きく膨れ上がっていく


ゲレプル

『ハァ……勇者様ァ…』


勇者

「……」


勇者はその圧に屈せず、戦闘体制に入る



勇者が剣を構えた瞬間目の前に拳が迫ってくる


勇者

「!!」


ゲレプル

『げへっ…』


勇者は剣で受け止めようとするが

重い拳に押し負けて、奥の壁まで吹き飛ばされる


勇者

「ぐがぁっっ…!?」


壁に激突し、突き出た足場に落下する勇者


勇者

「くっ…かっ…」


ゲレプル

『おぉ、ごめんよぉ?加減が難しくてなァ…?

まだ立てるよな?勇者様』


勇者は肘を使い、なんとか立ち上がる


ゲレプル

『おかわりいくぜ』


勇者の頭上に拳を落とすゲレプル


勇者

「ぐうっ…!!」


ズゥンッと勇者に重い拳がのし掛かる


勇者

「ぐゔっ…!?」


勇者は腹を押さえ、苦しみに悶える


ゲレプル

『げへへ…』


勇者

「ごほっ…ぐぼっ…かはっ…」


血走らせた目で体液を吐き散らしながら

必死に立ち上がる勇者


勇者

「ふぅ…ふぅ…」


勇者はなんとか体制を立て直し、帽子を脱ぎ捨てた後、剣を構え石の力を解放。あたりにバァっと光が放出され

服の色が赤く変化する。


ゲレプル

『おぉう?』


勇者

「かぁぁぁぁぁっっ!!!!」


勇者はその場から高く飛び、

まっすぐゲレプルの方へ向かっていく


ソフィー

『祈りの力はね、君の力をもう一段階あげてくれるんだ』


勇者はゲレプルと戦いながら

ソフィーとの会話を回想していた


ソフィー

『頭の中にそれぞれ色のついた模様が浮かび上がるだろう?』


『あぁ』


『それはエンブレムだ

赤がチカラ、青がマモリ、緑がチユだ

どれか一つを選択すると

その色に応じた力を倍にしてくれるはずだ

服の色も変化するぞ、状況に応じて使いこなせ。』


『ふむ…。』


『ただし、体への負担が激しいから

ゆっくり戦ってる暇はないよ。

その力を解放したらすぐに決着をつけること。』


『…わかった』


勇者

「やぁっ!!」


ゲレプルの攻撃を防いだ勇者は地上へ着地し、

剣を前へ構える


勇者

「はぁぁぁぁぁーーーーっっ!!」


力を貯める勇者の周りを炎が覆い

やがてそれは剣に集約する


激しく燃え上がる剣を強く握りしめ

再びゲレプルの元へ飛び立つ勇者


ーーー


炎を纏った剣とゲレプルの拳がぶつかり合う


勇者

「であっ…!!せやぁッッ!!!」


ゲレプル

『ぐっ…ふんっ…!!』


勇者の攻撃を忙しなく受け止めるゲレプル

二人は一旦距離を離す


ゲレプル

『くっ…はぁ…げへっ勇者ァ』


勇者

「お前なんかに…!滅ぼされてたまるか!!」


勇者は剣を縦に構え、ゲレプルの元へジャンプ

ゲレプルは腕でガードするが

勇者は横に回転し、勢いよく剣を振るう


ゲレプル

『ぐえっ…!?』


勇者の剣はゲレプルの腕を真っ二つに両断した


ゲレプル

『うぐおぉぉぉッッ!!?」


勇者

「はぁはぁ…」


ゲレプルは切られた腕を押さえてもがく


ゲレプル

「腕ェ…!!俺の腕がァァ!!』


ゲレプル

『おのれぇ…貴様ぁぁ…!!』


ゲレプルが振り下ろした拳を交わし

その腕も切り落とす勇者


勇者

「はぁっっ!!」


ゲレプル

『ぐぎゃあああっっ!!』


ゲレプルは断末魔を上げながらのたうち回る


勇者

「今度はお前の首を貰う!!」


ゲレプル

『うぉぉ…!!貴様ぁッッ!!


勇者はゲレプルを鋭い目で睨みつけている


ゲレプル

『ぐぅぅ…ふぅ…ふっへっへっっ…!!』


勇者「!?」


突然ゲレプルは笑い出し、勇者は驚いた表情をする


ゲレプル

『げへへ…』


「なんだ?」と勇者が混乱していると

ゲレプルの切り離された腕がくっつき、再生しはじめる


勇者

「…!!なにっっ?!」


ゲレプル

『甘ェよ勇者様〜』


ゲレプルはわざと痛がるふりをしていた



ゲレプル『げーっへっへっ!!どうだ?名演技だっただろう?』

勇者「腕が!?くっ…!!」


勇者は再び飛び上がり、

ゲレプルに攻撃を当てにいく


勇者

「はぁっっ!!」


ゲレプルの動体を両断するが、すぐに再生される


勇者「なんだ…?この感触、砂…!?」


ゲレプルの体は砂のようにサラサラしていた


ゲレプル『げへへ、まだまだ驚くのはこれからだぜ勇者様』

勇者「ぐっ!!」


ゲレプルは自身の体を砂状に変化させて

地上に砂場を作り、その中に身を隠した


勇者

「くっ、どこだ?!どこにいる!!」


勇者は剣を構え、ゲレプルの位置を慎重に探る


ゲレプル

『げへへ…無駄だぜ勇者、お前に俺の姿は捉えられまい』


勇者

「黙れ!!くそっ、どこだ出てこい!!」


ゲレプル

『それじゃあ、ご要望に応えて出てきてやろう』


勇者は突然体を地面に引っ張られる


勇者

「ぐっ…?!」


ゲレプル

『げへへ』


砂の中からゲレプルの腕が伸び、勇者の腕を掴んでいた


勇者

「く、くそっ…はなっ…!!」


勇者は必死に抵抗するが

砂にはダメージが通らず、腕を解くことができない


ゲレプル

『げへへ、無駄だ』


勇者

「くっ…!!」


勇者は腕から砂の中へ引き摺り込まれ

程なくして全身が沈んでいった


勇者

「あっ…がぁぁぁっ…!!」


勇者を引き摺り込んだ砂は、その後ゆっくりと

渦を描くように回転し、やがて竜巻のようなものを形成、そのまま天へと登った。


ーーー


「ビュオオオオオ…」っと激しく回転する竜巻の中から黒い影が飛び出し、それは地上へ激しく激突する


勇者

「ぐはっっ!!!」


黒い影の正体は勇者だった


ゲレプル

『げへへ…!!どうだ?俺様のタツマキちゃんのお味は?』


勇者

「くっ…かはっ…目が…」


全身砂だらけとなった勇者は

目が開けられず、必死に両手で目を擦る


ゲレプル

『もう降参かい??』


勇者

「くっ…うっ…」


ゲレプル

『こいつは特別フルコースだ!!』


ゲレプルは竜巻状態のまま勇者目掛けて突進し、

ドォーンッと衝突、あたりに砂が飛び散る


砂埃がなくなると勇者は青色のオーラを身にまとい、服が青く変化していた


ゲレプル『…?』


勇者「……」


ソフィー

『付与効果について説明したほうがいいな』


ここで勇者はソフィーとのやりとりを回想


ソフィー

『石の力を解放するとな

その色に応じた特別な属性が付与されるんだ

力は炎を、守りは水を、治癒は風を

それぞれ操ることができるのさ』


勇者の周りを水が覆い始める


ゲレプル

『おぉ…!?新たな技か!?』


勇者は立ち上がり、ゲレプルに剣を向ける


ゲレプル

『ふんっ、面白い!!もう少しだけ付き合ってやるぜ』


ゲレプルは両手から竜巻を出して

勇者へ投げ飛ばす


勇者は剣を構えてゲレプルの方へ真っ直ぐ飛ぶ


二つの竜巻が容赦なく勇者を襲うが

勇者は構わず飛び込み、ゲレプル目掛けて一直線に剣を振るう


ゲレプル

『げへへ、無駄だと言ってるだろう??』


切られたゲレプルは

余裕の表情を浮かべて笑っている


勇者

「……」


ゲレプル

『んおっ…?!』


ゲレプルは切られた部位に違和感を覚え、手でそっと拭った


ゲレプル

『泥…?俺の体が…??』


ゲレプルはふと勇者の方を見て察する


ゲレプル

『そうか…!水か…ッッ!!』


勇者の剣は水で覆われていた


ゲレプル

『あの剣…あの形態は水を纏う能力があるのか…

砂は水に濡れると泥となり、形成維持を保てなくなるのだ…』


ゲレプル

『奴はこれを狙って…』


勇者は更に追撃し、数回切られたゲレプルは

泥化して体が崩れていった


ゲレプル

『げへへ…やるじゃねぇか!!』


着地した勇者の後ろで分解されて固まりとなったゲレプルが落下する


地上は泥だらけになったーーー


ーーー


勇者

「はぁ…はぁ…」


勇者は力を解き、体力回復を待っていた。


勇者の後ろでは泥になったゲレプルの残骸が、ビクビクと鼓動していた


勇者

「はぁ…はぁ…」


村人たちを眺める勇者の背後で

泥たちが動き回り、互いに重なり合って

怪物の姿を形成していく


勇者

「…!?」


勇者もそれに気がつき、勢いよく振り返る


ゲレプル

『休憩は済んだか??』


勇者

「くっ…!」


勇者は再び力を解放し、戦闘体制へ入った



村人が上を見上げると勇者とゲレプルが激しくぶつかり合ってるのを目撃する


勇者

「くっ!!ふっ!!」


ゲレプル

『お〜お〜』


激しいぶつかり合いをしたあと

勇者は攻防に敗れ、地上へ落下する


ゲレプル

『守りに特化した形態か、それならば俺の攻撃も少しは防ぐことができるだろう…だが

それじゃあ俺を倒すのは無理だぜ?パワーが落ちてる、さっきの状態に戻した方がいいんじゃねぇのかい?』


勇者「ぐっ…くっ…」


ゲレプルが勇者を見下ろす


ゲレプル『どうした勇者?お昼寝か?』


ゲレプルは勇者の髪の毛を掴み持ち上げる


ゲレプル

『世界を救うんだろ?

お前を呼ぶ声が聞こえるぞ

勇者様〜助けてぇ(裏声)、ほら寝てる場合じゃないだろう?助けに行けよ、行かないのか?

…薄情なやつだ』


勇者

「うっ…うぅ…」


勇者を壁目掛けて投げ飛ばすゲレプル


勇者は回転しながら壁へ激突

その衝撃で崩れたガレキが住人たちに落下し

彼らを下敷きにする


ゲレプル

『おぉ〜かわいそうに

このままじゃどんどん人間が死んでいくぞ

勇者、お前のせいでな』


円形に窪んだ壁の中で意識朦朧となる勇者


勇者「くっ…!!はっ…!!」


勇者は剣を握りしめて、なんとかそこから

立ち上がり、フラフラと剣を構え

ゲレプルに反撃を仕掛けにいく


勇者

「…はぁぁぁぁ!!!!」


勇者は怒りと悔しさを糧に全力でゲレプルを切りつける


勇者「はぁっ!!」


ゲレプル『うぐぅっ』


勇者「やぁ…!!」


ゲレプル『おごぉっ』


勇者「はぁっ…!!」


ゲレプル『んぐぁっ!!』


ゲレプルはわざとらしく勇者の攻撃を喰らい叫び声をあげる


ゲレプル

『わ、悪かった、許してくれよ〜』


勇者「はぁはぁ…!!」


勇者が再び斬りかかろうと剣を振り上げた瞬間、ゲレプルのデコピンが腹に直撃し、吹き飛ぶ勇者


ゲレプル

『もういいだろう?』


地上に激突した勇者は息を切らしてゲレプルを見上げていた


ゲレプル

『そろそろフィナーレと行こうか?引き出しももうないんだろう??』


ゲレプルは拳を握りしめ、勇者の腹へ何発も高速でぶつけていく


勇者

「「ごほっがはっぐゔっ……ッッ!!!」」


ゲレプル

『はぃ、終わりぃ〜!』


ズシンッとトドメの拳が勇者の腹にのしかかる


勇者

「ぐゔぅっ…!!」


勇者は完全に意識が遠のき、脱力して横たわっていた


ゲレプル

『くたばりやがったか、全く話にならんな』


勇者の様子を見て呆れ返るゲレプル


ゲレプル

『神の子と聞いた時は流石に警戒したが

とんだ拍子抜けだった…

一気に叩き潰したほうが早かったな』


ゲレプルは拳を勇者から離し、淡々と語り始める


ゲレプル

『バティスもとんだ間抜けだ

こんなへなちょこに負けるとは…

様子見してる間に力が弱っちまったのかね?』


ゲレプル

『神を除けば向かう所敵なしの俺ら五代厄災の名が泣くぜ…』


ゲレプルは「はぁっ…」とため息を吐き出し、項垂れた様子を見せる


ゲレプル

『ムースも…何のためにお前の記憶を消したんだろうなぁ?俺らの邪魔ができないよう少しでも

力を弱らせようというのが奴の目論見だったはずだ、だがそいつも無駄骨だったらしい』


ゲレプル

『魔王様を倒す勇者様がこんなに弱いわけがない!…全てはそんな偏見から始まっちまったのかね?』


勇者

「くっ…」


ゲレプル

『なにも守れず、なにも出来ず

お前は無様に死んでいく…お姫様のように?』


ゲレプルはニヤッとした顔で勇者を見下ろす


ゲレプル

『バルテア…いや、魔王か?やつはお前を

ある種恐れていたんだぜ?なんたって奴は大昔に神に封じられたことがあるからな

相当なトラウマを植え付けられてたのさ』


『まだ人間を尊いと妄想していた

奴ら三大神の手によって…しかし、そんな奴らも

今は俺たちと同じ気持ちだ…長い年月の末

人間がどれだけ愚かだったかがようやく鈍感な奴らでも理解できたようだ。最早天敵は存在しないと思われていた…お前が生まれるまではな…?』


突然拳を勇者に振り下ろすゲレプル


勇者

「ぐゔっっ!?」


拳が勇者の腹にめり込む


ゲレプル

『げへっ、でなぁ?勇者さまぁ?』


勇者

「げはっ…がはっ…」


ゲレプル

『バティスもそんなお前を危険視したわけだ

いや、バティスだけじゃない。俺ら厄災達はみなお前を警戒してたのさ、バルテアを葬ったお前の力に』


『バティスは集中を削がれていたぜ

厄災の力を使いながらお前とムースの戦いを静かに傍観していたからな

そのせいで厄災の広がりも遅れていた

今思えばかなり滑稽な話だな』


『ザズーラも俺も、下手に動けなかった

目立った動きをしたらお前に目をつけられちまうからな』


勇者の腹から拳をどけるゲレプル


ゲレプル

『ザズーラ…繁栄の厄災。聡明なあいつは本島から離れた場所に巣を作りじわじわと厄災を広げている』


ゲレプルは「聡明…」と呟くとげへへと笑い出す


ゲレプル

『まぁ、その必要も今回で失くなったわけだが

だが俺は怒りよりもむしろホッとしてるぜ

お前と戦うことになれば急がなきゃなんねぇ

蔓延(まんえん)を早めれば、せっかくの楽しみがなくなっちまうからな。

お前がこんなに弱いなんて

もっと早く知ってりゃ、色々と楽しめたんだが』


ゲレプルは勇者を見てニヤニヤとする


ゲレプル

『俺は人間が好きだからな

できる限り生かして、たっぷりと遊んでから

あの世へ葬り去りたいのさ…』


げへへへとはしゃぐゲレプルに

「黙れ…」と吐き出す勇者


ゲレプル

『げへへ…おぅ〜??』


勇者

「さっきからゴチャゴチャと…」


勇者はよろめきつつも剣を握りしめ、立ち上がる


勇者

「ふぅー…ふぅー…」


勇者のピアスが光っている


ゲレプル

『…そいつも力か?』


勇者は治癒の石により、体力を回復させていた


勇者

「何を言ってるのか…正直全く、頭に入ってこなかったが…、お前がムカつく奴だって事はハッキリとした!!」


ゲルプルはげへへと笑う


ゲレプル

『人の話はちゃんと聞かないとダメだぜ?勇者様』


勇者

「(姫…みんな…そうだ、僕はこんな所で終わっちゃいけない…。厄災を倒し、世界を救うんだ…!)」


姫の事や人々のことを思い出し、勇者は歯をぐぐっと噛み締めてゲレプルを見上げる


勇者

「いくぞ、ゲレプル…ッッ!!」


勇者がゲレプルに飛び掛かる


勇者

「ハァァァァッッ!!」


ゲレプル

『ほれ』


ドゴォンッと拳で殴り飛ばされ

壁へ激突する勇者


勇者

「ぐぅ…くっ…」


勇者は負けじと剣を強く握りしめる


勇者

「うぉぉぉぉっ……ッッ」


再び飛び出そうとした瞬間

拳と壁に挟まれてしまう勇者


勇者

「ぐはぁっっ……!?」


ゲレプル

『げへへ…』


拳が離れると、勇者はまっすぐ地面に向かって落ちていく


勇者

「(やられてたまるか…こんなところで…終わっちゃダメだ…)」


勇者は必死に敗北に抗う


姫/人々

『勇者様!!』


勇者は目をカッと見開き地上へ衝突、

その直後にゲレプルの拳が叩き込まれる


ゲレプル

『げへへ……』


ゲレプルは直後、違和感を覚える


ゲレプル

『げへっ…?』


煙の中で、勇者がジッとゲレプルを睨みつけている


勇者

「……」


白く輝く勇者

ゲレプルの拳は勇者を覆う謎の光に阻まれ届いていなかった


ゲレプル

『なんだ…?この姿…この力は…!?』


勇者は直後ゲレプルに飛びかかる


ゲレプル

『んおっ…!?』


その動きはゲレプルでも捉え切れず

世界はまるでスローモーションにでもなったかのようにゆっくりになった


ゲレプル

『……ッッ!??』


腹部に衝撃が走り、仰反るゲレプル


ゲレプル

『なんだ…?何が起きた…?』


自分が動く前に勇者の攻撃が届き、

狼狽えるゲレプル


勇者は構わず次の攻撃体制に移る


ゲレプル

『ごぉっ…!!??』


またも、体に衝撃が走り

動きが鈍くなるゲレプル


ゲレプル

『こいつは…まさか…?!』


白い衣に身を包み、目は白く輝く勇者


ゲレプル

『神の力…ッッ!!』


勇者はさらに追撃を行う


ゲレプル

『グオオぉッッ…くっ!!そうか…バティスは

こいつで…ッッ!!』


ゲレプルは体制を立てるために

なんとか勇者の攻撃を跳ね除ける


ゲレプル

『ムグアッッ』


ゲレプルは口を大きく開き、巨大な光弾を勇者目掛けて吐き出す


勇者はそれを剣で弾き飛ばし、お返しに斬撃を浴びせる


ゲレプル

『グェッッ…!?!?』


勇者は静かにゲレプルの様子を眺める


ゲレプル

『ムグゥッ…』


ゲレプルは肩を落とし、よろめいている


勇者がトドメの斬撃を浴びせる構えを取ると

ゲレプルは突然静かに笑い出す


ゲレプル

『げへへ…なるほどな…

バティスがやられるのも無理はねぇか…』


ゲレプル

『だがなぁ、てめぇが…俺を倒した所で

もう未来は変えられねぇぜ…こいつらは

お前を必要としなくなる、どんなにお前がこいつらを思ってようがな…。せいぜい後悔するがいい…俺たち(厄災)が正しかったとな…ッッ』


勇者の斬撃を浴びるゲレプル


ゲレプル

『げへへへへ……ーーーッッ』


眩い光に包まれながら

ゲレプルは笑いと共に消滅した


ーーー


ゲレプル

『(後悔するがいい…)』


「はぁはぁ…」と息を切らし、その場にへたり込んでいる勇者


勇者

「僕は何をしていた…奴は…倒した?終わったのか…」


勇者は白く光ってた時の記憶がなく、状況でことの次第を把握した


しばらくして体力も回復し、よろよろと立ち上がる


勇者

「ふぅ…ふぅ…」


勇者がふと目をやるとそこには異様な光景が広がっていた


荒れ果てた広場、血みどろの床

さっきまであった豪華な食事などはどこにもなく

代わりに体の一部が欠けた兵士たちの死体が横たわる



勇者

「これは…そうか…全ては奴の幻覚…

あの食物も…彼らの…」


勇者は気をしっかりと保ち、目の前の現実を受け入れる


勇者

「すまん…」


辺りは静けさに包まれている


しばらくぼんやりと佇んでいると足をガッと掴まれた感触があり、

驚いた勇者が下に目をやるとそこには痩せこけた子供が勇者の方を力なく見上げていた。


「お腹すいた…」


そう静かに呟く子供に

勇者は何も返す事が出来ず、ただただ汗を流しながら

しばらくその場に立ち尽くしたーーー



五大厄災-飢饉の幻獣-III(完)

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