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第13話「五大厄災-飢饉の幻獣-I」

祭壇にある祈り石の前で手を合わせる勇者


勇者

「(感謝する、僕1人じゃどうにもならなかった…)」


洞窟を出る勇者を後ろで黙って見送る聖者アレクトロム


勇者

「(バティス…伝染の厄災は確かに倒したようだ

天から僕を助けてくれたあの声の主は未だにわからないが…とにかく、一難は去った!)」


勇者はふもとに降りて、村の入り口だった場所に行き、村に向かって手を合わせる


勇者

「(すまない…力及ばず、村を救えなかった

せめてどうか、安らかに眠り、向こうでは幸せであってくれ…。)」


勇者はしばらく手を合わせた後、背中を向けて

村をあとにするーーー。


ーーー


勇者

「(厄災は全部で5人

うち3人は倒した…残り2人…)」


そんなことを考えながら勇者は

次のゆかりの地、海の村を目指し歩いていた。


勇者

「(次は漁村…あそこは確か…)」


海の村は以前、魔王を倒すヒセキを貰うために訪れた村。生殖機能に異常が発生し、子供たちが

ドロドロに溶けて産まれてくるなどの被害が発生したエリア。


勇者

「(…ムースは五大厄災の事を詳しく話していた。バティスの例を考えると…

おそらくあそこは繁栄の厄災とやらが巣食っているのだろう。)」


勇者は海の村へと続く林を寂しい顔をしながら通る


勇者

「(この林で確か、あの親子と…)」


勇者はマモノに襲われた子供の事を思い出し

胸が苦しくなる


しばらくして村へとたどり着いた勇者は

まずはじめに村長の家を訪ねた。


村長

「おぉ…勇者様…!ご無沙汰しております!」


勇者

「うむ」


勇者はこれまでの事を村長に話し、厄災の居場所について心当たりがないかを尋ねた。


村長

「おぉ…あの雲はやはりそなたが…。

厄災ですかな…?うぅむ…あいにくですが

そんなモノは見たものも聞いたものも…」


勇者

「そうか…」


勇者は深くため息をつく


村長は「そういえば」と何かを思い出し

こう続ける


村長

「この村から沖に出た先の砂漠にある集落で飢えに苦しむ者が続出しておられるそうです。

ひょっとしたら勇者様が先程お話しした、

飢饉の厄災というものと何か関連があるかもしれません」


村長

「急ぎならワシらよりまず

その村を救ってやってください。

いずれこの村は滅びる運命…

厄災を倒したとてそれは同じこと。」


勇者

「しかし…」


村長

「大丈夫ですじゃ」


優しい笑顔を向ける村長に勇者はやるせない気持ちになった


ーーー


海岸の裏に行き、洞窟の中に入る勇者


勇者

「お、あった…祈り石」


そこにはポツンと立ち尽くす祈り石があった。


勇者

「村長に聞いた通りだ」


勇者は村長から祈り石の場所を教えてもらっていた


勇者

「(厄災は手強い…今のままでは苦戦は必至だろう。しっかりとお祈りして、少しでも力を蓄えておかなければ…)」


勇者は静かに祈り石の前でしゃがみ

手を合わせてお祈りをする


勇者

「(静かに…集中して…何も求めず…)」


しばらくすると祈り石が点滅し、光がブワァッと出てきて勇者の中に入り込む


勇者

「……?(そろそろいいかな…?)」


勇者はゆっくりと目を開けて、状況を確認


勇者

「(石は光ってない…成功したって事でいいのかな…??)」


勇者が立ち上がろうとした時、祈り石から声が響いてくる


???

『よくぞ参られた勇者よ…

我は守りの石を創造せし者…』


勇者

「!!」


勇者の前にボウッと光る影が現れる


???

『アレクから聞いておる…

五大厄災討伐に力を貸そう…』


勇者

「お前も聖者なのか…?」


???

『さよう…我はそなたに力を授けるために

ここでずっと待っていて、それで…』


声の主が言葉を詰まらせる


???

『それで…えーっと…そなたを…』


勇者

「?」


???

『なんだこれ…?読め…チッ』


声の主は姿を表す


???

『はぁ、やっぱやめた。キャラじゃないわ。』


それは長い髪を左右に結んだ女の姿をしていた。


女は持っていた紙をピッと後ろへ放り投げ

続けて語りはじめた


『アレクから聞いたよ、理解力のない天然バカがいるってね』


勇者はキョトンとしている


『うちら聖者同士は別の場所でいろんな話をしてるんだ

全部で17人いるんだよ、凄いでしょ?

でもまぁ他の奴らは正直役に立たない。

アレクと私とメナスさえいれば十分だけどね』


『祭壇みたいなところの中央に集まって色々と世間話を…まぁこの辺は別にいっか端折っても、君には関係のない事だから』


『ああ、私は守りの聖者エヌトバ。

気さくにソフィーと呼んでくれ』


勇者

「ソフィ…?名前が違うぞ」


ソフィー

『正直エヌトバってダサいんだよね

男の名前じゃん?やっぱ女は女らしく可愛い名前がいいよね』


ソフィー(エヌトバ)を名乗る女は

そう言って勇者に顔を近づける


ソフィー

『それで?どう?感想は?』


勇者

「どうっ…て言われても…」


自身の体に特に変化が無いことを

ソフィーに伝える勇者


ソフィー

『まぁ…いいや、強くはなってるはずだから。

アレクと違ってうちのは守りだから

表面的な変化はないんだろう』


ソフィー

『祈り石はあと15箇所…まぁあんたは

癒ししか持ってないから

あとは森回ればオールオッケーだけどね』


ソフィー

『さぁ勇者様、次は森だ。

そこでメナスが待ってる』


勇者は一方的なソフィーに対し

難しい顔をして答える


勇者

「何を言ってるんだ?僕はこれから砂漠に…」


ソフィー

『うわ…察しワルッ…!』


ソフィーは勇者に呆れかえり、語りを続ける


ソフィー

『はぁ…アレクの言った通りだ

めんどくさいけど…全部一から話した方がいいかね』


ソフィー

『アレクが言ってたんだけど

その厄災とやら、かなり手強いんだろう?

あいつも悔しがってたぞ

自分の力を使って苦戦するなんて…ってね』


ソフィーは色々な動きをしながら

勇者に説明する


ソフィー

『今のキミじゃ厄災には苦戦必至!

ならどうするか…"祈り石巡り"でしょう?

もうわかるよね!』


勇者

「い…祈り石めぐり…?」


ソフィー

『たっはー…わからない?

祈り石を探し回って、キミの力を強化して万全の状態で厄災に挑むっていう単純な話なんだけど』


ソフィーはガクッとしながらも

話を続ける


ソフィー

『石の力はね、強化すれば強化するほど

力が増幅していくんだよ。

力の石なら力10.癒し5.守り3

守りの石なら守り10.力5.癒し3…って具合にね』


ソフィー

『アレクも同じこと言ってたっぽいけど

キミ聞いてなかったよね?』


勇者

「(そ、そういえば…祈りをしている後ろで何かブツブツ言ってたような…)」


勇者はアレクとのやりとりを微かに思い出して汗がふき出る


ソフィー

『つまり、アレクと私とメナスの祈り石に祈りを捧げて強化すれば厄災なんてイチコロって事だ

もうわかるね?だからちゃっちゃと

森に行って最後の仕上げをして来いって事だよ』


ソフィー

『森の祭壇はここからそう遠くない

森の村からちょっと行った洞窟にあるから』


勇者

「う、うむ…しかし時間が…」


ソフィー

『時間がないからこそ寄り道だ

焦って軟弱なまま戦地に飛び込んでも

結局ロスって時間を無駄にするだけだ

今が一番大事な時期なんだよ?』


勇者はソフィーに言われるがまま、海岸を後にし

一旦森へ引き返すことに


ーー


勇者はその後、森の村を経由して

洞窟を発見し、中に入った


勇者

「ふぅ…ようやく見つけたな。

ソフィー…詳しい場所まで教えてくれなかったから、村の者達に聞いて回って大変だったぞ…

これはロスにはならないのか…?」


勇者は愚痴をこぼしながら

洞窟の奥へ向かうと、祭壇の上にある青白く光る

祈り石を発見する


勇者は早速祈り石の前で手を合わせ

お祈りを開始する


勇者

「ん〜〜」


祈り石は海岸の石と同じくボワァッと光り

勇者の中へ光が入っていく


勇者は軽く瞑った目を開けて

石を確認する


???

『よくきました…ゆうしゃさま』


祈り石から幼い少女の声がする


勇者

「キミがソフィーの言っていた…メナス…?」


???

『はい…メナス・アルバトーレ…

癒しの聖者メナスです…』


勇者

「すまん、もう話してる時間はない

これから砂漠に行くんだ、僕は強くなったのだな??」


メナス

『え…!えっと…はい…』


勇者

「よし!待ってろ厄災!!」


勇者は立ち上がり、洞窟を後にしようとする


メナス

『あ、待ってください…!

えっと…折角ですから石のことについて

ちょっと…』


勇者

「…?」


メナス

『聖者の石は…』


メナスは勇者に以下のことを話す


・聖者の石

大昔に聖者が特別な力を込めて作った石

勇者が集めた色のついた石の正式名称。

石は各地にばら撒かれそれぞれ鉱石となって自生した。


・祈り石

聖者の石の本来の力を引き出す石

各地方の祭壇に置かれている。

火山では力が、海では守りが、森では癒しが

それぞれ強化される傾向がある。


・強化値(目安)

火山の場合→力10、癒し5、守り3

海の場合→守り10、力5、癒し3

森の場合→癒し10、守り5、力3


・能力解放

石と呼応すれば光の剣を飛ばす技が解放される。

更に各石の力を信じれば、信じた石に応じて強化値を倍にする能力が解放される。


メナス

『光の剣を飛ばす技は通常、呼応状態と呼ばれるものです。石の力を目覚めさせる準備段階。

この状態でそれぞれの石に思いを懸け、信じる事で石と共鳴し、強化値を倍にする能力形態へと移行するのです。』


ーーー


メナス

『石はただ祈るだけでは

その真価は発揮されません

石と共鳴し、繋がり、育み、絆を深める事で

真の力が解放されるのです…』


勇者

「な、なるほど…?」


メナス

『しっかりとメモしておいてください…』


勇者

「わ、わかった…。

し、しかし、なぜ今そんな事を…?」


メナス

『アレクとエヌ…ソフィーに言われて…

その…あまり、察しの良くない方だと

だから、あの…まとめて話してメモを取らせて覚えさせろと…』


勇者は複雑な表情をする



勇者

「要するに人間と同じく

石にも真摯に接してやればいいのだな?」


メナス

『はい…』


勇者はメモを取り終え、荷物にメモの切れ端を入れて立ち上がる


勇者

「呼応状態の時に特定の石を想ってやれば

その石に特化した強化がされるって事だ。」


メナス

『そうです…』


勇者

「僕は理解力高いだろ?」


メナス

『あ、はい…』


勇者は真顔でメナスにそう迫ったあと

砂漠に行く準備を始める


勇者

「では、そろそろ僕は行くぞ

もう用はないんだろ?」


メナスは静かに頷き、勇者の背中を見つめる


メナス

『頑張ってください…勇者様』


勇者はメナスと別れ、海の村に戻り、

砂漠へ渡る用意をする


ーーー


勇者

「ここから船でまっすぐ進むと

砂漠の大地にたどり着けると

そう村長が言っていたな…」


船着場で漁師と挨拶を交わす勇者

漁師の船に乗り込み、砂漠へと向かう。


漁師から釣り上げた魚を振る舞われ

船の上で食事を取りつつ目的地へ向かう勇者。


やがて陸地に到着し、漁師に挨拶を交わしたあと

勇者は1人、その大地に降り立つ


勇者

「ここが砂漠か…全然砂漠っぽくないが…」


勇者がいる船着場にはまだ緑が生い茂っていた


漁師から「砂漠はその先だよ」と言われて

勇者は少し照れながら、先を目指し歩き始める。



歩いてしばらく、勇者は人の気配を感じない事に

胸騒ぎを覚えていた


勇者

「誰もいないな…一応テントのような物は何度か見かけたはずだが…」


森を抜けるとジャリッと砂を踏みつけ、地面に足跡がくっきりと付く


勇者

「おぉ…」


勇者の目の前には広大な砂漠が広がっていた。


この先、何が待ち構えているのか

飢饉の厄災…勇者は果たしてそれを打ち払うことができるのか。


不安と緊張の中、勇者はグッと気を引き締めて足を一歩前に出したーーー。



五大厄災-飢饉の幻獣-I(完)

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