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夢の世界より  作者: ていきょー
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西暦2023年6月 妻の様子がおかしい④

「嘘・・・ 私、まともな思考ができなくなってる?・・・あれ?嘘・・・!!」


医療Podの中から俺と目が合うや否や、その顔はみるみる青ざめた。

Podが開いてすかさず体は大丈夫かと声をかけるが、まるで自分のことなんてどうでも良いと言わんがごとく、反応がない。額には汗をにじませ、絶望した顔でうつむいている。


改めて肩を揺する。

「目が覚めていきなりどうした?なんだよ、まともな思考ができないって?」


麗美は震えながら言った。


「私の中の、・・・多分これは、もう一人の私が居なくなったってことなのかな・・・。」


「?? どういうことだよ。もしかして、二重人格?」


「今思えばそうなんだと思う。でもこれが当たり前だと思っていてみんなそうだと思ってた。普通の人って、みんな単純にこういう感覚、意識が一つしかない状態なんだね・・・。片方が意識を占有とか、そういう二重人格はドラマで見たことはあるけど、たぶん私の場合は今まで意識が二つあったんだ。今もう一人の私が消えて、ようやくわかった。」


「・・・?どういうこと?意識を二つ持つなんてことできるのか?」


「常に複数の思考を私の中で回していたというか・・・やりたいことは常に2つあるというか・・・小さい時からずっと私の中で一緒に二人で考えて1つの表情でどするかを決めて1つの口から言葉を発して、1つの行動を共にしてきたの。だから色んな場面で助けてもらったり励ましあったり、でも全く別方面の生きる目的が二つあって、私の中で葛藤したりしてた。」


「それって、普通の感覚じゃないか?俺たちもそういうことあるよな?」


麗美の顔がさらに引きつっていく。


「・・・違うの。そのもう一つの目的が目が覚めたら消えてた。今はあんな会社近づきたくもないから。」


涙がぽろぽろとあふれ出ている。妻の中で何かが消えたようだ。


「さっき話していた地獄絵図のような記憶は?」


「今は、きれいに記憶から消えてる・・・さっきまでは確かにあの話をした方がいいと判断しながら鉄平にはなしていたんだけど。・・・ああ、そういう場面が、よくあった。今の私には出せないような言動とか行動が。でも、そこには思いやりが詰まってて・・・やだ!消えないでほしい。それのおかげで正しい判断が出来ていたのに・・・!」


その様子をどうしたものか、俺は焦っていた。ロス平もそうに違いない。


「じゃあ、蝶名林の件とかスブーティの件は覚えてるか?もうあのイバリュエーションって会社に関わらないようにもしあの会社辞めたとしても、身の危険はないんだよな?」


「ぐすっ・・・ 全部覚えてるよ。でもスブーティの件は忘れて!もしこのことが鉄平たちにバレても探らないでほしいってあの子は強く思ってた気がするの。私もあの会社はもう辞めようと思ってるけど、確かに突き止められたら何をされるかわからない。」


「じゃあこうしよう。一緒に辞めることは言うことは言ってきて、もうなるべく関わらない。でも何かされそうになった時に対処する。どう?」


「わかった。」


ロス平が小さなマグカップをテーブルに置いてから、ふわふわと医療Podのふちに座った。


「で、生きる目的って今の麗美とどう違ったんだ?」


「ものすごく強い憎悪と怒り、最終的にはそれらの復讐・・・だった気がする。なんとしてもそれを辿らないといけないって、さっきまでそう思って行動していた。でもそれが何でなのか、までは細かくは思い出せないの。本当に心優しくていろんな人への思いやりが深くて・・・でも、もう、私・・・」


俺と結婚したのもその人格と盤上一致で決意したらしい。この人なら信用できると。この人となら幸せになれると。麗美は泣きながらその頃のことを忘れまいと、強い口調で話していた。


「忘れたくないことは書き留めておけばいい。ペリロイドになることを拒否していたのは記憶が詳細にデータとしてDBに残る可能性があったからかもしれないな。」


「今私は1つの意識だけど、今のこの私でも、いいのかな・・・?鉄平にふさわしいお嫁さんでいられるかな・・・?」


「安心しろ。事実がどうあれ、俺はお前に一生をささげると決めて結婚したんだからな。そのままでいい。人はどうせ変わるもんだし。飯でも食いにいこう。」


麗美はむせび泣いている。

コーヒーを淹れて落ち着かせると、食事はいらない、しばらく一人になりたいと、家に戻って麗美は自分の部屋でしばらく自分のパソコンに記録をとることにしたようだ。


しかし人の思考は分からないものだと改めて思い知らされた。人一人でもおおよそ自分の思考と同じほどに毎日毎日いろんなことを考え、想像して生活している。そんな膨大な情報量の上に立つ人の心は、見たり会ったり、付き合ったり結婚したとしても一生かけてもきっと、100%は理解できないだろう。さらに言うなら自分ひとりの頭の中でさえも、受ける情報量の多さに抱えきれずに忘れてしまう。

しかし人格は経験により複雑に絡み合って形成されてゆく。人はその出来上がった人格に惚れ込んでは出会い、別れるのだ。


妻とは、その人格や人柄に接してみて運命のようなものを感じ、理由もなく守らなければならないという使命感で告白し、求婚したのを覚えている。今思うと縁とは不思議なものだ。

実に数奇な二人の数奇な境遇に出会った、数奇な出会い。


人は見かけによらない、とは良く言ったものだ。

周りを見たときに「普通の人」と感じても、自分の知らない内面がある以上、それは100%確実なものではない。自分が見ているだけのその人の人柄は、ほんの表面の想像に過ぎない。

俺は親よりも妻のことを知っているはずの妻でさえも、その行動の一つ一つ、今回の場合は「たかがパート」だったが想像を絶する真実があった。だからきっと、かなりの場面で勝手な推測をしているのだ。


さらに、その人格を形成してきた意識ですら、2つが同時に思考するケースがあるなんて想像もしていなかった。二重人格のように2つの意識が別々に2つの人格を形成することがあるのはなんとなくあり得るとしても、共存して一つの行動にしているなんて。どんな感覚か全く想像できない。さらにその一端が、途中で突然消えるなんてこともだ。誰が想像するだろう。自分が異常で、周りはそれが普通なのか?


人というのは分からない。

いや、人だけでなく別の種はどうだろう。例えばアリだってそうだ。せっせと夏場は餌をとりに出ては女王や子のために巣に持ち帰るが、その間どんな思考がなされているのか。単純ではないかもしれない。時にあの小さな体で、怒りによってギ酸を吐いて600万倍もの体重がある大きな人間を死に至らしめることもある。頭脳は小さくたって、その思考量は測れない。


俺は、俺の今までの経験と比べて「きっとこうだろう」と想像する世界で生きているのだと改めて実感した。


バンッ!・・・ドドド、バタン!

目を見開いた麗美が日記を書く俺の部屋に来た。


「・・・ねえ鉄平!覚醒者!覚醒者を特に警戒してた!」


「突然どうした?覚醒者?なんだよそれ。えーと、突然能力が発揮されるみたいな?」


「アニメとかドラマとか映画ではそうだよね。でもそういう覚醒とは違うの。私の中の覚醒者は、『この世界のを形作る世界を知り得た人間』。あんたもほかの星行ったりで知ってるんでしょ?『vw』とか言ってたっけ。知らんぷりしてたけど、内心では『鉄平も覚醒しちゃったか』程度には思ってたの。この話してなかったよね?」


鉄平も・・・?

・・・地球には他にも上位の世界があることを確信している者が居るのか?

ますます想像を超えた世界にいることを思い知らされた。


「その覚醒者ってどれくらいいるのか知ってるのか・・・?」


「そりゃ、具体的な数まではわからないよ。でも・・・想像以上だとは思う。みんな隠してるからね。私たちと同じように。こんなに身近な存在ですら。」


「!!!」


人は見かけによらない。

そうだ。こんな身近な存在ですら覚醒者なのだ。


ならば、隣に住んでる住人ですら覚醒者であっても何ら不思議ではないのだ。

またしても、真実を知っているのは地球じゃ自分たちだけだと、勝手に思い込んでいたことが明るみになった。確かに、きっと警戒して息をひそめているのだろう。俺たちと同じように。


どれだけ覚醒者がいて、どんな能力を持っているかわからない。今も監視されているかもしれないがまだ手を出してこないだけかもしれない。


「待てよ。一部の人格が消える前の麗美があの会社にパートに突然出たということは、その辺も関係していたりするのか?」


嫌な予感がした。

確かに多くの女性の体に墨を入れ、大奥のような場所があると話していたが、もし本当だとしたらそれは尋常じゃない。普通の人間の力、財力や権力だけで、そこまでの統率が取れるものだろうか?


「有り得ると思う。あの会社は特に異様。おかしかった。退職を願い出ても知らぬ存ぜぬでは済まないかもしれないね・・・」


ロス平も怪訝な顔で寄ってくる。


「そうだな。もし、ただ裏稼業があって警察や政治家とつながってるなんて、そんな話ならかわいいものだよな。俺らはそれくらいなら何とかできるから。でもそれくらいの能力があると知っての麗美は、それでも関与するなと警告した。ということは・・・」


辞めだ辞め!頭がパンクしてしまう。


「いったん、今日のところは休んで、明日は麗美の退職を一緒に願い出よう。」


窓の外に広がる日本はもう深夜25時だ。

明日のことを考え始めたら、みんな寝れない。体調を崩してしまったらどうなるか分かったもんではない。

寝よう。まずはそれが先決だと寝室の電気を消す。


しかし俺は一向に寝れず、ようやく深夜29時にうつらうつらのレベルでしか朝まで寝れなかった。

もし、さっきの会話も監視していたとしたら、と思うと・・・

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