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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第一部

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53/141

黙れブス! と傾国の美女とやらに叫ぶ


 国王の目は俺の手にあるジャア・ザコに釘付けだった。


「お前が持っているのは何だ?」


 王はつかつかとこちらへ近づいて、当然のように俺の手からジャア・ザコをひったくった。


「これはザコじゃないか。だが、余の知っているのとは少し違うな」

「特別製とのことでございます、陛下」


 俺の代わりにエッセル男爵が説明した。


「特別製だと、何が違うのだ?」


 王は男爵に更なる質問をしたけど、それをさえぎる者がいた。


「ちょっと待って! あなた……」


 王妃のティッティーがミシェルのことをじっと見つめている。

ミシェルの認識阻害は、他人に仮面をつけている違和感すら覚えさせないという完璧なものだ。

ところが王妃は険しい顔で銀仮面を睨んでいるではないか。

王妃も高名な魔女らしいから、ミシェルの正体に気づいてしまったか? 

これはまずい事態だ。


「そこの貴方、王の御前で無礼ですよ。仮面を外しなさい」


 王妃がミシェルに命令する。


「ひどい火傷があります。お見苦しいものを見せるわけには」

「お見苦しいねぇ……」


 王妃は大袈裟に肩をすくめて、わざとらしい溜息をつく。


「たしかに、貴女の暗い顔は見苦しいけど久しぶりの再会じゃない。素顔を見せなさいよ。ねえ、ミシェル」


 やっぱり気づかれたか。

ミシェルはどうするのかと見守っていると、なんとあっさり仮面を脱ぎ捨ててしまうではないか。

ごまかしきれないと判断したのだろう。

一体どうなるんだ……。


「どうしてわかったの?」

「男のくせにぜんぜん私を見ていなかったから気になったのよ」


 王妃ティッティーは妖艶な美女だ。

大抵の男なら気にするだろう。

それなのにミシェルは視線を逸らしていたからバレてしまったのか。


「それに、あなたは昔から緊張すると、そういう指の組み方をするの。気が付いてなかった?」


 見るとミシェルは左右の指をすべて使って複雑に絡ませている。

そんな癖があったんだな……。


 護衛騎士は全員が剣を抜き、一触即発の雰囲気が場に充満している。


「私をどうする気?」


 ミシェルは恐れる様子もなく王と王妃に訊ねた。


「余に呪いをかけた罰を受けてもらうぞ!」


 国王がいきり立って叫んだ。


「それは貴方が私に失礼なことをしたからでしょう? それにもう呪いは解けているはずよ」

「そんなことは関係ない! あの呪いのせいで余がどれだけ苦しんだと思っているのだ」

「ふふふ、姉さんもこれまでね。ずっと目障りだったけど、ようやく決着がつけられるわ」


 ティッティーは紅い唇を歪ませて笑みを浮かべた。


「これまで? 勘違いしないで欲しいわね。この程度の兵士で私を捕えられるとでも思っているの?」


 百人はいる護衛騎士に囲まれているというのに、ミシェルはまったくと言っていいくらい落ち着いた態度を崩さない。

それくらい魔女ミシェルの力はすさまじいのか? 

だが、ティッティー王妃の笑みはさらに深くなり、ほとんど邪悪と言っていいくらいの顔つきになった。


「余裕でいられるのも今だけよ。これをごらんなさい!」


 ティッティーは手にしていた杖を地面に突き刺した。

すると杖を中心に大地を光の亀裂が走り、周囲の空気を震わせていく。


「これは……」


 今日初めてミシェルの顔に焦りが滲んでいる。


「ふふふ、これは姉さんをやっつけるため、特別に開発させたマジックアイテムよ」

「私をやっつけるためって、どういうことなの……」

「この杖は、誰かが魔法を使おうとすると逆位相の魔力波をぶつけて、魔法をキャンセルさせてしまう装置なのよ。姉さんが私の前に現れたときに使おうと思って、ずっと待っていたの。今日こそミシェルを私の前にひざまずかせてやるんだから」


 王妃は勝ち誇ったように高笑いをしている。


「いいぞ、王妃よ。魔女ミシェルにはさんざん煮え湯を飲まされたのだ。拷問で心ゆくまではずかしめてから、処刑してやるとしよう。ふふふ……」


 王妃も国王もたいがいだな……。

こんな奴とミシェルは結婚しなくて本当によかったよ。

しかしどうする? 

俺たちは百人以上の武装した護衛騎士に囲まれ、ミシェルは魔法を使えない。

考えるまでもなく俺史上最大のピンチに直面しているぞ。

最悪、ミシェルは捕えられ、ひどいことをされたうえで死刑。

おれもまあ似たような運命かもしれない。

それとも、命くらいは助けてもらえるのかな?


 自分のものとはいえ、人生において己で選べるものは多くない、か……。

だけど、ここぞというときはやっぱり自分で選択しなくてはならないのだろう。

たとえ親は選べなくても恋人を選ぶのは己自身だ。

そして俺はミシェルを離す気はない。

駄菓子屋の力を信じてみるか。


「王命である、逆賊ミシェルを捕えるのだ!」


 王が高らかに宣告して騎士たちが殺到する。

しかし突如巻き起こった一陣の強風がミシェルを捕えようとした騎士たちを吹き飛ばした。


「な、何事だ!?」


 爆風のメンコが巻き上げた埃が周囲の視界を悪くしている。

思った通り逆位相の魔力は俺のおもちゃには反応しない。

ミシェルにだけ作用しているようだ。

俺はミシェルをかばうように前に出た。


「汚ねえ手でミシェルに触るんじゃねえ」

「な、何なのよあなたは!?」


 キーキーとうるさい王妃の足元にロケット弾を投げつけてやる。

爆発で小石が飛び散り王妃がガクガクと震え出した。


「黙れ、ブス!」

「ブ、ブスですってぇぇぇ!?」


 これまで言われたことがないであろう罵倒にティッティーは絶句した。

見た目がどんなに美しかろうが、性格がブスならブスなのだ。

俺にとってはそういうことである。


 剣を持って殺到しようとする騎士たちに俺は一等の巨大ロケット弾を見せつけた。

ラグビーボールくらいあり、これの威力がどれくらいなのかは俺も知らない。


「全員動くんじゃねえ! こいつが爆発したら王も王妃も粉々になるぞ!」


 特大ロケット弾を両手で高々と持ち上げて騎士たちをけん制する。

こうなりゃ自棄やけだ。

王を人質に取ってこの場を脱出してやる。

とりあえずミシェルの魔法を封じているマジックアイテムの効果が及ばないところまで移動しよう。


「ミシェル、動けるか?」

「うん」


 ミシェルと俺が移動しようとすると、外から突然大きな声が聞こえてきた。

同時に大剣を引っ提げたバルトス将軍が部下と共にこちらへ走ってくるではないか。

副官である二人の美女も一緒になってやってくるな。

どうせあいつらも凄腕なのだろう。

逃げ道となる外へのゲートはバルトス配下の兵士たちで瞬く間にうめつくされてしまった。


 脱出は無理かもしれない……。


「ミシェル……」

「ユウスケ……」

「「ずっと一緒だぞ(よ)」」


 絶望的な状況ながらも互いの想いは一つであり、俺とミシェルは笑顔だった。



次回は第一部の最終回です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  魔法をキャンセル(相殺?)する杖の攻略法、いくつか 思いつきました。  予想が当たっているかどうかも含めて、今後の展開を 楽しみにしております。
[一言] 勝ったッ!第1部完! ユウスケの男前な言動良いですね
[良い点] 勝ったな、風呂入ってくる!
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