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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第一部

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52/141

特別な機体


 夏も終わりの頃になってモバイルフォースの大会が始まった。

なんでも応募総数が五百人を超えて予選まで行われたそうだ。

そこまでの人気になったのかと思うと感慨深いものがある。


 事前に選ばれたベスト100にはメルルやミラ、ガルムなどの知り合いも多い。

ヤハギ温泉大会でミシェルと決勝を争ったベテラン冒険者コムサイさんも入っていた。


 本大会の会場は街の競技場で、コロッセオを小規模にした感じだった。

けっこう広い会場なのに人がごった返している。

俺はエッセル男爵の用意してくれた場所で今日も出店だ。

もう少ししたら店舗にモバイルフォースを並べる予定である。


 今大会はなんと国王と王妃が試合を観覧するそうで、会場にはロイヤルボックスが用意されている。

間もなく王による開会宣言もされるそうだ。


「ミネルバ、開会式を見に行くか?」

「行かない。王と王妃の姿なんて見たくない。声も聞きたくない」


 ミシェルが行ったらティッティー王妃に呪いをかけそうだから、それでいいと思う。

会場には数百人規模の護衛騎士も控えている。

俺も血まみれの大会にはしたくない。


「じゃあ俺はちょっと見てくるから店を頼むね」

「うん」


 国王と王妃がどんな人間なのかは少し興味があった。

どちらも国民には人気がないみたいだけど気にはなる。

ミシェルにひどいことをしたのだから俺だっていい感情は持ち合わせていない。

いちおう面を確かめておいてやる、そんな気持ちで会場に入った。



 スピーチをしている国王を見たけど、はっきり言って胡散臭そうな男だった。

それなりに美形なんだけど軽薄さと傲慢さがにじみ出ているのだ。

ミシェルはあんな男と一緒にならなくて本当によかったと思う。

だいたい話が長い。

つまらないおしゃべりを聞くのも退屈なので、俺は目立たないようにミシェルが待つ店へと戻った。


「ただいま。王と王妃の顔を見てきたよ」

「ふーん……」


 ミシェルは気のない返事を返してくる。

全員が会場へ行っているので店の周りに人はいない。


「姉妹って言うから少しは似ているかと思ったけど、王妃とミシェルはぜんぜん似ていないのな」

「昔からよく言われたわ。ティッティーの方がずっと美人だったでしょう?」

「そうかあ? みんなが傾国けいこくの美女だなんて言うから期待して見に行ったけど、俺の好みではなかったな。まあ、派手なつくりの顔ではあった。妖艶な色気もある。だけど底意地の悪さが見えるんだよね」

「……」

「俺なら確実にミシェルを選ぶ。絶対にだ」

「ユウスケ……」

「うおっ、仮面が赤くなった! どういうこと!?」


 普通は顔が赤くなることがあっても、仮面は赤くならないだろう!?


「ごめんなさい、興奮で認識阻害の魔法が……」


 魔力波が乱れてしまったらしい。

慌てて周囲を見回したけどこちらを気にしている人はいなかった。



 大会はつつがなく進みベスト16にはメルルが残った。

次の試合に勝てば入賞になるはずだったけど、残念ながらメルルは敗退した。

相手が前回準優勝のコムサイさんだったのだ。


「私がいちばんザコをうまく使えるのに……」


 がっくりと肩を落とした姿は見ていられないほどだった。


「百万リムを稼いで小さな雑貨屋を開く準備資金にしようと思ってたんだ……」


 冒険者は死と隣り合わせの商売だ。

いつまでも続けられるもんじゃない。

メルルもミラもいずれは違う商売に就こうと、開業資金を貯めているそうだ。


「そう気を落とすなよ、今日は俺が昼飯をご馳走してやるから」

「お昼なんか要らない、それよりもあれをちょうだい、ヤハギさん!」


 メルルが指し示したのは非売品のモバイルフォースだ。


 商品名:ジャア・ザコ

 説明 :推力が30%アップしたカスタム機。その分制御は難しい。深紅のペイントが施されている。

 値段 :非売品


 レベルが上がったおかげかモバイルフォースの販売促進グッズを手に入れた。

このジャア・ザコはディスプレイ用の特別機だ。

ただ機体性能がいいというだけではなく、独特の品格というものを持っている。

ザコ遣いのメルルとしては垂涎すいぜんのモデルだろう。


「これはダメだよ。優勝賞品にするんだから」

「そこを何とか!」


 メルルはかわいい常連さんだけど、こればっかりは叶えてあげられない。

それこそえこひいきになってしまうからね。


「いつまでも飾っておくからメルルが未練を持つのだ。さっさと男爵に渡してきたらどうだ?」

「ミネルバの言うとおりだな。行ってくるからちょっと待っていてくれ」

「私も行こう」


 男爵は闘技場の貴賓室にいるはずだ。

特別なモバイルフォースを見せれば取り次いでもらえるかもしれない。

俺とミネルバは連れ立って歩き出した。



 男爵や王の控室がある建物は厳重に警備されていた。

普段は宮殿でふんぞり返っているらしい近衛騎士たちが、忙しそうに何人も出入りしている。

真っ直ぐにゲートへと向かっていくと、すぐに止められてしまった。


「どこへ行く?」

「自分はモバイルフォースを販売しているヤハギと申します。エッセル男爵に御用があってまいりました」

「どういったようだ?」

「こちらの特別なモバイルフォースをお届けに来たのです」


 俺は箱にしまったジャア・ザコを取り出して守衛に見せた。

ところが守衛たちはいい顔をしない。


「ここはお前のような平民の来るところではない。場所と時間を改めて来い」


 場所と時間を改めていたら大会が終わってしまう。

それでは優勝賞品としてお披露目できないじゃないか。


「急ぎの用なのです。なんとか男爵に取り次いでいただけないでしょうか?」

「ええい、帰れ、帰れ!」


 お手本のような門前払いだな。

無理をして投獄なんてされてもつまらないので、あっさりと諦めるとしよう。

権力に関わるとろくなことはなさそうだ。

俺はミシェルに向き直った。


「仕方がない、直接優勝者に手渡すとするよ」

「それがいいだろう」


 その場から立ち去ろうとした俺たちだったが、なんと男爵がこちらへ向かってくるのを見つけた。

外へ出かけていて、ちょうど戻ってきたところだったようだ。

男爵は俺たちの姿を見つけるとなぜか焦った顔つきになった。


「これはヤハギ殿、このような場所で何を?」

「ちょうどよかった。実は特別な機体を手に入れたので優勝賞品に加えていただこうと持ってきたのです」

「ほう……」


 どういうわけか、男爵は心ここにあらずといった様子で、しきりに建物の中を気にしている。

と、いきなり護衛騎士の一団がこちらに向かって駆け出してきて、俺とミシェルと男爵は脇に避けた。


「なにごとだろう?」


 俺の質問に答えてくれる人は誰もいない。

だが疑問はすぐに氷解する。

建物の中からはなんと国王が出てきたのだ。

エッセル男爵が一緒じゃなかったらとっくに排除されていただろう。

国王は王妃を連れてのんびりと歩いてくる。

俺はちらりとミシェルを見た。

変なことをしないだろうな? 

だけどミシェルは平然とした態度を崩していなかった。

国王のことなどどうでもいいのことのようだ。


「おおっ!」


 俺の目の前までやってきた国王が不意に叫び声を上げた。

どういうわけか俺を見ている。

いや正確に言うと俺の手元を見ている。

ああ、男爵に渡そうとしていたジャア・ザコを見ているのか。

あ、いやな予感がする……。



第一部も残すところあと2話です。

さあ、どうなる!?

1部終了後は引き続き2部が始まります。


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― 新着の感想 ―
[一言] ついに禁断のシャー、ザコがww
[良い点]  ジャア・ザコ「めっかっちゃった!(国王に)」 [一言]  ジャアの二つ名は赤い凶星とかどうでしょう。
[一言] 非売品の販促グッズで武器セットとかどうですかね?
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