密談
両者は鋭い踏み込みで剣を合わせた。
両手で持っている分だけグフフの攻撃は重く、ミシェルのキャンがわずかによろめく。
刹那に見せた隙をついて大男は連撃に出た。
だが、ミシェルも伊達に初代チャンピオンをやっているのではない。
攻撃を紙一重でかわしながらするすると後ろに引き、一気に距離をあけるべく後方へ大きく跳んだ。
しかも着地の反動を利用して前に飛び出し、今度はカウンターのように突きを繰り出すではないか。
キャンは他の機体と比べて突き技が非常に鋭いのだ。
キャンの突きの軌道を大剣で変えたグフフだったが躱しきれず、肩に一撃を浴びてマジックリンクが切れてしまった。
手に汗を握る攻防だったが、勝利したのはミシェルだった。
「くぅ……参った」
「…………」
ミシェルは無言のまま一礼する。
「さすがはチャンピオンだな。これほどの手練れはそうはおるまい。おぬしは冒険者か?」
「ああ」
「いやあ、いい経験をさせてもらった。いずれ再挑戦をさせてもらうよ」
決着がつくと、ミシェルは興味を失ったように自分の定位置に戻って座った。
健闘を称えあうとかはしないようだ。
なるべく喋らないようにしているようにも見える。
ひょっとして知り合いか?
俺は戦いを終えた男に声をかけた。
「惜しかったですね。商売柄いろいろなモバフォー遣いを見ていますが、貴方の腕は相当なものだ」
「ありがとう。都ではこれの大会があったんだって?」
「ええ、ダンジョンの地下二階でやりました。うちのお客は冒険者が多いので」
「なるほど、だったら今度は地上のどこかで大会をやってみないか?」
男は愛想のよい表情で提案してくる。
「規模も大きくして、華々しくさ」
「できたらいいですけど、会場をとるのも大変でしょう。経費も掛かりそうですしね」
「まあな。だが、そのうちに実現するかもしれんぞ。ふぅ、今日は大いに楽しませてもらった。またよろしく頼む」
大男は手を振りながら、美女を引き連れて去っていった。
俺はミシェルの横へ行って座る。
「お疲れさん。なんだか独特の雰囲気がある人だったね」
「あれが国王の弟、バルトス将軍だ」
声を落としたミシェルが教えてくれた。
「あの人がそうなのか! 祭り見物に来るかもしれないとは聞いていたけど、まさか本人に会うとはな」
「遊び好きのところは兄と一緒だ。私は好かない」
ミシェルは弟であるバルトス将軍にもいいイメージは持っていないようだ。
「うーん、ミシェルは有能スケベ将軍って言っていたけど、実物を見るとまさにそんな感じの人だな」
覇気が強く、この世のすべてを手にしたがるような印象を受けた。
悪い人じゃないと思うけど、俺も苦手なタイプではある。
俺はのんびり楽しく生きていきたいのだ。
「まあ、相手が偉い人ならそうそう会うこともないだろう」
事実、後に俺と将軍が顔を合わせる機会はそれほど多くないのだが、バルトスという人は俺の人生に大きな影響を与えてしまうのだった。
◇
エッセル男爵の館の居間でくつろぎながらバルトス将軍は大杯に注がれた酒をかたむけていた。
将軍のすぐ横ではクレスがしなだれかかり、ラナは背筋を伸ばして座っている。
向かい側では男爵がニコニコと酒の相手を務めていた。
「れいの駄菓子屋とやらを見てきたぞ」
「お眼鏡にかなうものはございましたかな?」
「これを買ったよ」
将軍は購入したばかりのグフフをテーブルの上に置いた。
新品のモバイルフォースだというのに肩のところに小さな亀裂が入っている。
「いかがでしたか?」
「気に入った。よくできたおもちゃだ。俺は自分の体で闘う方が好きだがな」
「それはそうでございましょう。閣下は歴戦の古強者でございますから」
男爵はボトルから新たな酒をバルトスの杯につぎ足す。
「兄上はこれに夢中らしいな」
将軍は意味深な視線を男爵に投げかけた。
「はい。すっかり気に入られてございます。毎日臣下を相手にモバフォー三昧ですよ。それはもう王妃様も呆れるほどの入れ込みようで……」
「どうせ手抜きをされているのにも気づかずに実力で勝利していると勘違いしているのだろう?」
「まあ、そんなところです」
将軍は鋭い視線で男爵に問いかける。
「それでどう思う? モバイルフォースの大会が都で開かれれば、奴は宮殿から出てくると思うか?」
「おそらくは……。それくらい最近の陛下はモバフォーにご執心です」
無能の放蕩者でありながら、現国王は用心深い性格をしていた。
贅沢の限りを尽くして遊ぶのだが、自らは決して安全な宮殿を出ようとはしなかったのだ。
将軍は酒に濡れた唇をなめて一息つく。
「宮殿には何代にもわたって施された魔法結界が随所に存在する。軍を展開するのは無理なのだ。奴を捕えるには外へ出てもらうしかない」
「陛下が宮殿を出たとしても、近衛騎士の護衛がありましょう?」
「外へ出てしまえば近衛騎士など軽くひねりつぶせる。要は奴を宮殿の外へ出すことが肝心なのだ。兄上がモバイルフォースに釣られて外へ出れば……」
この二人は軍事クーデターのためにモバイルフォースを利用しようとしているのだ。
「あの男、ヤハギといったかな? 我が陣営に組み込めぬか? 奴のパートナーである死神ミネルバというのにも興味がある」
「さてそれはどうでしょう。ヤハギ殿は富貴というものに興味がない男なのです」
男爵は可笑しそうに含み笑いをした。
「なんだと、そんな男が世の中にいるのか? 男として生を受けたからには、美味いものを食い、美酒を飲み干し、美女を抱く。それが普通の男の望みだろう?」
「なんといいましょうか、ヤハギ殿も興味がないわけではないのです。ただ、彼は多くを望まない性格なのでしょう」
「ふーむ」
バルトスはわかったような、わからないような曖昧な顔をしてうなずいた。
「まあよい。とにかくヤハギを優遇してやれ。情報によると彼の店は売り上げが伸びるほどに大きくなるそうではないか」
「そのようでございます。今回はそのためにグランサムの祭りに招待したのですからな。今は一日に四十箱しかないモバイルフォースですが、店の規模が大きくなれば販売数も増えるやもしれません」
「都の一等地での営業権でもやればよかろう。私が手をまわしておく。とにかくモバイルフォースを広め、国王が興味を示すような大会を開かせるのだ」
「お任せください、閣下」
エッセル男爵は深々と頭を下げた。
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