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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第一部

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49/141

一等地は窮屈だ


 三日続いた祭りも終わり、俺はホテルの部屋で売上の計算をしていた。


「へぇ、たった三日半で十七万近くも売りあげているぞ。やっぱりお祭り効果は大きいな」


 モバイルフォースの他にもスーパーボールなどのオモチャや単価の高い飲み物がよく売れたのだ。


「よかったわね、ユウスケ」


 ミシェルは仮面を外してニコニコとしている。

服もゆったりとした部屋着に着替えてくつろいでいた。


「これで欲しかったブーツが買えるよ」


 前世から履いているスニーカーは毎日のダンジョン通いでボロボロだ。

そろそろ底がすり切れてしまいそうなのだ。


「ミシェルにもなにかプレゼントしようか?」

「私に!? 確かに私たちが付き合い始めて三十日記念がそろそろだけど……」


 ごめん、俺は何日経過したかは覚えていないよ。


「そんなに細かいことまで記憶しているの?」

「これがあるから」


 ミシェルが取り出したのは闇の紋章が付いた防水ノートだ。

呪いのノート……もとい、ポエムノートも十冊目のようである。

そういえばガチャポンの中身もそろそろ在庫がなくなるなあ。

次は何が補充されるのだろう……。


「そうだ、今のやり取りもメモに残しておこう。ユウスケが三十日記念のプレゼントはなにがいい? と尋ねてきた」


 ミシェルは鼻唄まじりに小さな鉛筆で描きこんでいる。


「そこまで詳細に人生を記録しなくてもいいんじゃないか?」


 しかも微妙に歪曲されているぞ。

歴史修正主義はどうかと思う。


「いいの。私はこのノートを読み返すだけで幸福になれるんだもん。いつも持ち歩いているのよ」


 そう遠くない将来、彼女は百冊のノートを持ち歩くようになるのだろうか?


「ユウスケ……」


 ポエムを読んだミシェルがうるんだ瞳でにじり寄ってきた。

自分の文章に酔ってしまったらしい。

ミシェルは俺の横に座ってほんの少しだけこちらに寄りかかってくる。

それだけで満足のようで、頬を赤らめてほほ笑んでいる。


「しかし、日記を書くのはいいことだよな。俺も書いてみるか」


 売上伝票も書かないような俺だけど、日々の生活のメモを取るのは楽しそうでもある。


「うん、ユウスケもやってみるといいよ」


 ミシェルは俺の腕に頭を当てながら、自分のポエムを読み返していた。


       ◇


 グランサムでの日々はあっという間に終わり、今日は都へ帰る日だ。

俺とミシェルは挨拶をしに男爵の屋敷までやってきた。


「おかげさまでいい商売ができました」

「いやいや、こちらもモバイルフォースを広めてもらって喜んでいるよ。ところでな、実は君にいい話がある」

「それはどのような?」

「駄菓子のヤハギを都の一等地へ出店してはどうかという案が出ているのだよ」


 何を言っているのだ、このおっさんは? 

そいつは銀座の一等地に駄菓子屋を開くようなもんだぜ。

有名ブランドのビルに挟まれる昭和の木造一戸建てを想像してしまったぞ。


「私は単なる駄菓子屋ですよ。必要としてくれるのは子どものポーターや駆け出しの冒険者ばかりです。とてもじゃないけど、身の丈に合わないお話です」

「君の店の商品の中には、とても値段に釣り合わないようなものがあるじゃないか。モバイルフォースや万能薬のことだ。モバフォーなど三千リムの値段をつけたって、飛ぶように売れると思うのだがなあ」

「儲けの問題じゃないのです。俺が駄菓子屋でいられるのは俺のことを求めてくれる人がいればこそだと思っているので……」


 シャネルやグッチに囲まれていたら委縮しちまうだろう? 

銀座・和光こうきゅうしょくりょうひんてんの隣で店を開けってか? 

嫌なこった。


 男爵は気を悪くするかと思ったけど、小さく笑っただけだった。


「やはりヤハギ殿は富貴ふうきにこだわらぬ性分のようだ」

「え?」

「いや、つまらないことを言った。今の話は忘れてくれ。ただ一つだけ頼まれてくれないか?」

「何をですか?」

「地上でもモバイルフォースを売ってもらいたいのだ。私は都でモバフォーを流行らせたい」


 それはいいけど、基本はダンジョンでの出店だからなあ……。

俺の顔色を読み取ったのか、エッセル男爵が提案してくる。


「なんなら私が委託販売を受けてもいい。当然手数料は取らないし、転売で稼ぐ気などもない」


 男爵は大金持ちなので、せこい転売ヤーになる心配はないだろう。

純粋にモバフォーを浸透させたいだけのようだ。


「わかりました。それでは一日につき三十箱を男爵にお渡ししましょう」

「そうか、それは助かる! これで近いうちにモバイルフォースの大会を開けそうだ」

「モバフォーの大会ですか?」

「そうとも。私が主催して大々的にやろうと思うのだが問題はあるかね? いや、ひょっとしたら国王陛下が主宰されるかもしれない」

「陛下が!?」

「実を言うと私が献上して、陛下はモバイルフォースに夢中なのだよ」


 いつの間にやら大事おおごとになっているな。

でも大会なんて誰が主催してもいいと思う。

みんなが楽しめればそれでいい。俺はそういうスタンスだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  痛いポエムを書いてそう……(良い点?) [一言]  まー男爵の企みには気付けませんよね。  ユウスケ君お人好しっぽいし。
[一言] 日記なんて書いて大丈夫? 毎日チェックされない? 「今日も私のこと書いてない。これで今月3回目」とか言ってドス黒い感情蓄積させない?
[一言] きっと一番くじが来る筈・・・・・。
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