子どもたちがやって来た。
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この地に店を開いて二~三日もすると、放課後の駄菓子屋ヤハギは子どもたちで賑わうようになった。
うちに来るのは冒険者学院の生徒が多く、王立学院の生徒は少ない。
割合でいくと九対一くらいだろうか。
特に熱心な常連はカーツ、ゴート、キッカの三人組だ。
彼らは冒険者学院の中等科で、元気いっぱいの十四歳である。
カーツは三人のリーダー格。
ゴートは無口でクール、顔もいい。
キッカは面倒見のよさそうな女の子だ。
三人は今日も店に来て、カゴにお菓子を詰めている。
「お、今日はたくさん買うんだな」
「ついに明日は実習なんだ」
カーツは期待と不安が入り混じった顔をしていた。
「実習というと、ダンジョンに潜るの?」
「地下一階だけだけどね」
地下一階は、俺でもどうにかできるような弱いモンスターばかりだが、それでも命の危険があることは変わりない。
「だったらしっかりと準備していかないとな。味や好みだけじゃなくて、効果にも注意して買うんだぞ」
「うん、おやつは500リムまでだから、しっかり吟味するよ」
冒険者学院中等科の一年生は九十人くらいいるそうだ。
実習は六人一組のチームでまわるらしい。
ちょっと心配にもなるが、教官も各所に配置されるそうだから大丈夫か……。
「それにしても、みんな張り切っているな」
「討伐で出たお金や魔石はお小遣いになるから、気合の入り方がちがうぜ」
なるほど、そういうことか。
「私、お小遣いが手に入ったら絶対にザコⅡ改用の装備武器を買うんだ! あと、ニッパーも」
ほう、キッカはザコがお気に入りか。
そのうちメルルを紹介してみようかな。
気が合うかもしれない。
「ヤハギさん、どんなお菓子を買ったらいいと思う?」
クールなゴートは冷静にアドバイスを求めてくる。
ゴートには結構ファンがいるらしい。
確かにモテそうな感じだよな。
「基本はやっぱり大玉キャンディーや10リムガムだね。傷を治すモロッコグルトや呪いにかかったときの用心にぶどう味の粉末ジュースも持っていくのもいいな」
ゴートは素直にそれらの品をカゴに入れていく。
「今はまだ必要ないかもしれないけど、連携を高めるためのココアシガー、撤退時のリスクを減らすモンスタースモークなどもあると便利だよ」
地下一階なら、まだその辺は要らないかもしれないけどね。
「他にお勧めは?」
「こんな新商品があるぜ」
新商品:ミルキーボーロ
説明 :サクサクしているのに、口の中に入れた瞬間にサーッととけていく不思議
食感。
食べると防御力が上がる。
値段 :20リム
俺のおじいちゃんやおばあちゃんの世代からあるロングセラー商品だ。
コストパフォーマンスに優れ、探索おやつの一角を担う実力を持っている。
緊急時にさっと食べられるのも魅力だ。
「この値段なら一つは買っておきたいな」
ゴートはミルキーボーロもカゴに入れていた。
「やれやれ、こんなクソ安い菓子に頼らないと、ダンジョンにも入れないのかよ」
嫌味な声がすると思ったら王立学院の制服を着た少年が立っていた。
年齢はカーツたちと同じくらいだろうか。
銀髪をオールバックにして頭に撫でつけてある。
「ケッ、面倒なのが来たぜ」
カーツはぼそりとつぶやきながら少年を睨みつけた。
「はあっ、20リムのお菓子だって? こんなのが探索で役に立つのかよ?」
少年はことさら驚いた表情でおどけてみせ、取り巻きの少年たちはそれを見て笑っていた。
「まったく、正気を疑うよ。俺ならこんな情けないお菓子に頼るなんて絶対に嫌だけどな。プライドが許さないよ。これだから冒険者ってやつは御しがたいのさ」
うーん、商売の邪魔だな。
みんなが楽しんでいるのを邪魔するのは感心しない。
それに、俺はダンジョンに潜る人間の味方だ。
相手は子どもだけど、冒険者をバカにするのは許せなかった。
「君はダンジョンに潜ったことがあるのかい?」
「そんな場所、子爵家の長男たる僕が行くわけがないだろう」
傲慢な態度はそのせいか……。
「なるほど、だからそんな、駄菓子より甘いことを言うんだね」
「なっ、なんだとっ!」
「頼れるものがあるのなら何にだって頼る、ダンジョンとはそういうところだよ。知りもしないで、殊更に自分の無知をひけらかすもんじゃない」
カチンときてつい言いすぎてしまったかな?
少年は青白い顔を真っ赤にして怒り出した。
「僕をバカにするのか? 僕はパーマネント子爵家のマールだぞ!」
「バカになんてしていないよ。事実を言っているだけさ」
自分が否定される経験をあまりしていないらしい。
少年はワナワナと震えながら拳を振り上げた。
「クソッ、覚えていろよ! 父上に言い付けて必ずほえ面をかかせてやるからなっ!」
恥ずかしげもなく言いつけるとかいうんだな……。
ちょっとカルチャーショックだ。
マールという少年は捨て台詞を吐いて店から出ていってしまった。
「ヤハギさん、大丈夫かな?」
カーツが心配そうに聞いてくる。
「なにが?」
「あいつ、けっこう有名人なんだ、悪い意味でね」
「他でもこんなことをしているの?」
「アイツのせいで実際につぶれた店も何件かあるらしいんだ……」
カーツたちはしょんぼりとしている。
「心配するなって。うちは大丈夫だから」
「でも……」
俺は逆にパーマネント家とやらが心配だよ。
こんなことがミシェルに知れたら、パーマネント家がチリチリにされてしまうぞ。
これは内々で済ませないとなるまい。
「まあ、なんとかなるさ。そんなことより実習の心配をしろよ。おやつは決まったのか? そうそう、俺のお勧めだけど超・ヒモきゅうきゅうもいいぞ」
「なにそれ?」
「127センチもあるひも状のグミなんだ。食べて美味しいだけじゃなく、傷口に巻くと医療用の応急処置テープに早変わりするんだ」
「おもしろそう!」
子どもたちは笑顔に戻ってお菓子をカゴに詰め直していた。
事件は翌日の昼間にさっそく起こった。
ルガンダで用を済ませて家まで戻ってくると、店先で騒いでいる二人組に出くわしたのだ。
どちらも体格がよく人相が悪い。
二人とも大きなハンマーを持っているけど何をするつもりだろう。
「おうおう、出てきやがれ! 出てこねえと扉をぶち破るぞっ!」
白昼堂々と無法なことを言うやつらだ。
だが、本気か?
そんなことをすれば大変なことになるのだが……。
「今さらビビってんじゃねえぞ! 俺たちはパーマネント子爵家の使いの者だ。さっさと開けねえか!」
ああ、昨日のマールとやらがこいつらを寄こしたんだな。
だったら注意をする必要もないか。
少し痛い目に遭ってもらおう。
しばらく放っておくと、俺が居留守をしていると勘違いしている二人はハンマーを振り上げた。
「いいか、脅しじゃねえぞ! 今から扉をぶち壊して、てめえの面を見てやるからな!」
二つの大きなハンマーが扉に向かって思いっきり振り下ろされる。
ところが弾き飛ばされたのはハンマーを持つ男たちの方だった。
おお、五メートルは吹き飛んだな。
さすがはミシェルが張った結界魔法だ。
攻撃に対して自動で反応しているぞ。
あいつら、大丈夫かな?
「いてて……」
「何が起こりやがった……」
見かけ通りタフだな。
開店時間までいられても迷惑だし、そろそろ対応するか。
まあ、話せば何とかなるだろう。
俺もダンジョンや戦場を経験して少しは度胸がついたようだ。
「店の前で何してるの?」
後ろから声をかけると二人は慌てて起き上がり、虚勢を張った。
「てめえが店主か?」
「そうだけど、お菓子を買いに来たの? 開店はまだだよ」
「バカ野郎、誰が菓子なんか食うかよ。俺たちはパーマネント子爵家の使いだ。うちの坊ちゃまがてめえに恥をかかされたそうじゃねえか! どう落とし前をつける気だ?」
やっていることは貴族じゃなくてヤクザだね。
ひょっとして金を出せとでもいうのだろうか?
それとも単純に店を壊しにきたか?
結界があるからそれは無理だと思うけどね。
「落とし前をつけるもなにも――」
とりあえず、引き取ってもらおうと喋り出したら、男の片方が店の看板と俺の顔を見比べて青くなりだした。
「ま、待て! この方は……」
「なんだよ?」
青い顔の男はゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの、もしかしてヤハギ伯爵で?」
「うん」
こいつ、俺の顔を知っているのか。
だったら話は早い。
「じ、自分は北方部隊第二連隊に所属しておりましたあっ!」
ああ、あの戦争のときに俺を見たんだな。
「オマエ、何言ってんの?」
「ば、ばかっ。こちらは救国の英雄、ヤハギ伯爵だぞ」
「あぁ?」
「機械仕掛けのドラゴンで並みいるモンスターを討ち果たしたヤハギ伯爵だって!」
「ああっ!」
二人とも俺の素性に行き当たったらしい。
「大変失礼いたしました。は、伯爵はこんなところで何を?」
「ここ、俺の店なんだ。子どもが委縮するといけないから伯爵であることは内緒にしておきたいんだよね。ばらさないでもらえる?」
「も、もちろんです!」
「で、何か用?」
「な、な、なんでもありません。失礼しましたぁっ!」
あ、逃げていった。
まあ、これで嫌がらせもなくなるだろう。
とりあえずはそれでいいや。
俺はいつも通り夕方に合わせて開店準備を始めた。
ちなみにその夜、店を閉めていたらマールと父親がやってきた。
マールはぶん殴られたのか顔に痣を作っていた。
親子して平謝りしていたけど、事の次第は組み立てグライダーでエッセル宰相に報告済みだ。
マールが庶民の店を潰したというのは許せないからね。
きちんと調べて、法の裁きを受ければいい。
これでも穏便に済ませた方だぜ。
もし、ミシェルの耳に入っていればパーマネント家は親子してチリチリになっていたはずだから……。




