おかしな店がやってきた
俺とミシェルは与えられた土地までやってきて、夜のうちに一軒家タイプの店舗を設置した。
昭和レトロ感あふれる、例の木造一戸建て店舗だ。
これなら住居兼店にできるから便利である。
伯爵の住む屋敷にしては小さいけど、俺にはこれくらいがちょうどいい。
大きすぎると掃除とかが大変だろう?
駄菓子屋に使用人とかを置くって変だしさ。
ミシェルのリクエストでキッチンだけは大きくしておいたけど、お風呂のサイズは元のままだ。
こちらは変えるなと厳命された。
二人で入ったときの密着感がジャストサイズなんだって……。
俺もミシェルに賛成だけど、やっぱりお風呂は手足を伸ばして入りたいという思いもある。
どうせルガンダへはしょっちゅう帰るし、そのついでにヤハギ温泉に寄っていけばいいか。
朝になるとミシェルは学校へ行く準備をし始めた。
本日は入学式で、ミシェルにとっては生徒たちと初顔合わせの日でもある。
「そ、それじゃあ行ってくるわ」
「そんなに緊張しないで。ミシェルならうまくやれるさ」
「生徒に舐められないかしら?」
それはないと思う。
数年前まで国中を震え上がらせた呪いの魔女だもん。
生徒はおろか、年長の先生だって舐めた態度はとらないだろう。
でも、そんなことを言えばミシェルは気にしてしまうかもしれない。
「こんなにかわいい先生だから、その心配はあるな……」
深刻な表情をつくってみせると、かえってミシェルは元気になった。
「大丈夫よ、ユウスケ。私にちょっかいを出す奴はみんな呪っちゃうから! 脱毛の呪いでしょう、それから脱臼の呪い、あとは脱衣の呪いもあるわ」
「脱ばっかりなんだね」
「ええ、得意なの♡」
呪いを語るときのミシェルは嬉しそうだなあ……。
「脱毛と脱臼はわかるけど、脱衣の呪いってなに?」
「ベルトやパンツのゴムがすぐに切れるの。あと、ボタンもいつの間にか取れていたりするわ」
地味だけど嫌な呪いだ。
「呪いなんてかけちゃダメだよ。嫌なことがあったら俺が話を聞くからさ」
「うん……。ユウスケも嫌なことがあったら私に言って」
「俺が? まあ、報告はするけど、駄菓子屋で嫌なことなんてあんまり起こらないと思うな」
「わからないわよ。生意気な子どもがいっぱい来るかもしれないじゃない」
それはあるかもしれないけど、相手は子どもだ。
殺されたりとかはないだろう。
「ミシェルは心配しすぎだって」
「わからないわよ。王立学院には本当に生意気なのが多いから」
「ミシェルも卒業生だろ? 君も生意気だった?」
「わ、私はおとなしい方だったわ!」
「いろいろと聞いているけどなあ……」
学院にはミシェルにまつわる数々の伝説が残っているそうだ。
無限回廊にセクハラ教頭を閉じ込めたり、いじめっ子が喋るたびに口から蛇やカエル、毒虫が飛び出すなんて呪いまでかけたそうだ。
「わ、若気の至りよ……」
「今は丸くなったから、脱衣の呪いで済ますんだね」
「そ、そういうこと」
ミシェルにいってらっしゃいのキスをした。
「気を付けてね」
「うん、続きは帰ってから……」
ミシェルはぽわんとした表情で仕事に行った。
さて、俺も自分のことに取り掛かろう。
子どもが相手だから、店を開けるのは放課後だ。
それまではルガンダに戻って領地経営をしなくてはならない。
といっても、ナカラムさんから報告を聞いて、欠品している商品を補充するだけだけどね。
時間があったら冒険者たちのところに顔を出して、ルガンダダンジョンの前で露店を開くのだ。
今日一日のスケジュールを確認してから転送ポータルへと向かった。
午後になって本格的に店を開けた。
駄菓子屋ヤハギ王都店、ついに新装開店である。
学院の方はまだ静かだから、きっと授業中なのだろう。
たまに爆発音とかが聞こえてくるけど、あれは魔法の実験か何かだろうか?
とりあえず店の商品を確認して、危険すぎるものは下げておいた。
相手は冒険者ではなく生徒なのだ。
それから、本日のピックアップ商品を目立つところにディスプレイする。
今日のお勧めはこれだ。
商品名:星のコンペイトウ(二十粒)
効果 :奥歯で噛むと高速移動が可能になる(加速装置ではない)。
移動時には星が飛び散るエフェクト付き。
値段 :30リム
小袋に入ったコンペイトウである。
ブルーの小袋に詰められたパステルカラーのコンペイトウがかわいらしい。
高速移動と言ってもせいぜい自力の1・3倍で、距離も五十センチメートルがいいところだ。
まあ、剣の達人とかが使ったらとんでもないことになりそうだけどね。
お、両学院から鐘の音が聞こえるぞ。
きっとあれが終業の合図なのだろう。
そう思ってしばらく待っていると子どもたちが道に現れ始めた。
どちらの学院も寄宿制なので外に出てくる子どもは少ない。
店の前を通る子どもは新しくできた店にさっそく興味を示したようで、友だちとヒソヒソ話しながらこちらの様子をうかがっている。
あれは王立学院の制服だな。
仕立てのいい生地を使った、ブレザーっぽいデザインだ。
ストライプのネクタイもお洒落である。
ここはいっぱつ呼び込みでもしてみるか。
「いらっしゃい、駄菓子屋ヤハギ本日開店だよ!」
ちょっとは興味を示したようだけど、こちらに近づいてくることはない。
しり込みしているのかな?
それともこういうお店に入ってはいけないという校則でもあるのだろうか?
俺は星のコンペイトウを一粒取り出して、奥歯で噛みしめながらステップを踏んだ。
そのとたんに足元から七色の星が散らばり、大地が縮んだように俺の体が流れていく。
「うちのお菓子はおもしろいものばかりだよ。寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
「うおっ、すげえ! なにそれ⁉ 魔法?」
勢い込んでやってきたのは三人の男の子だ。
日本でいえば中学生くらいの年齢だろうか?
こちらは冒険者学院の制服を着ている。
急所部分にプロテクターが付いていて、いつでも戦闘に使えそうな仕様だな。
「ここのお菓子を食べれば今みたいに星が飛ばせるの⁉」
「ああ、他にもいろいろあるから見て行ってくれよ」
男の子たちは喜んで店に入っていったが、こちらを見ていた王立学院の子どもたちは横目でこちらを見ながら行ってしまった。
入りにくかったかな?
「お兄さん、10リムガムってなに?」
「うおっ! モバイルフォースがあるじゃん!!!! これ、滅多に手に入らないんだぜ!」
「ガンガルフ! 俺にガンガルフを売ってよ‼」
「はいはい、今いくよ」
元気のよい少年たちは、門限ギリギリまで遊んでいった。




