ホットドクトルペッパー
冷え込みが厳しくなってきたが、代表選手に選ばれた五人は大会に向けて毎日特訓をしている。
昼間はダンジョンで討伐の仕事をし、練習は夕方からだ。
かなり大変だとは思うのだけど五人とも手を抜くことはなかった。
「ガルム、防御が雑になっている! 貴方の悪いところよ」
「おう、姐さん!」
ミシェルは鬼コーチと化している。
「メルルは慎重になりすぎよ。チャンスのときはもっと積極的に攻めないと!」
「わ、わかった!」
「ミラは小さくまとまりすぎ。相手の意表をつく攻撃を取り入れて!」
「はい!」
「ティッティーは……、いい感じね。いやらしく敵の裏をかくし、攻撃がねちっこくて悪くないわ。自分の特性を活かしきっているって感じよ……」
「ねえそれ褒めているの?」
なんだか放課後の部活動を思い出すな。
ミシェルの指導は厳しいけど、メルルたちの技能は確実に上がっている。
それはダンジョンでの戦闘にもいかされているそうで、みんな喜んでいた。
「おーいガキども、頼まれていた武器が出来上がったぞ」
サナガさんとミライさんが練習場にやってきた。
代表選手一人一人に合う武器を作ってきてくれたのだ。
「悪いね、サナガさん」
「けっ、ミシェルはともかく、他のやつらは危なっかしくてしょうがねえや。ちっとはマシな武器を持たせてやらねえとな……」
サナガさんは仏頂面でモバイルフォースの武器を並べていく。
どれも、各選手の要望を反映しながら、芸術的にも凝った造りになっている。
「いい仕事をしているなぁ。ありがとうございます」
「あたりめえだ。大勢の人が見に来るんだぜ。面倒くせえが、みっともねえ道具なんて作れねえよ。まったく、こいつのせいで肩がこって仕方がねえや!」
ブツブツと文句を言うサナガさんを見ながら、ミライさんがクックと含み笑いを漏らした。
二人は最近になって一緒に暮らし始めたのだ。
こうしてみるとお似合いの夫婦である。
「あんなことを言っていますが、大会を一番楽しみにしているのはあの人なんですよ。この武器だって毎晩嬉しそうに試行錯誤を繰り返していたんですから。そんなにありがたがることはないんですよ」
「けっ、別に楽しみになんかしてねえや! ただ、どうせやるんならウチの代表には優勝してもらいてえじゃねえか……」
サナガさんはいつも通りのツンデレだねえ。
「よしみんな、さっそく新しい武器を装備させてもらおう」
選手たちは嬉しそうに自分の装備を手に取った。
練習を続けること二時間ほど。日もとっぷりとくれ周囲は真っ暗になってしまった。
吹き込む風は寒く、メルルたちはブルブルと震えている。
「う~、さむっ! これ以上は限界かもしれない」
メルルはブルブルと体を震わせている。
他の四人も唇を青くしているぞ。
ついに俺の出番だな。
「任せておけ。いま体が温まるものを出してやるからな」
「カレーせんべい?」
「違うぞ、メルル」
カレーせんべいは体が温まる定番商品だけど、今日は新商品を出してやるつもりなのだ。
天秤屋台を呼び出して銀色に光るサーバーを取り出した。
商品名:ホット ドクトルペッパー
説明 :十種類以上のフレーバーブレンドが織りなす独特な味わいの炭酸飲料。
三回飲めばクセになる!
暖かい刺激が魂を震わせ、なにかが起こる!?
*効果には個人差があります。一人一回限りです。
値段 50リム
ドクトルペッパーはメジャーな飲み物ではない。
日本では関東や静岡など、限られた地域でだけ流通していたそうだ。
しかもそれのホット版となると、もはや伝説級の飲み物である。
今回俺が取り出したのはロゴが大きく描かれた銀色のサーバーだ。
ただ、昔の駄菓子屋では瓶を鍋で湯煎したり、ヤカンでドクトルペッパーを直接温めてカップに注ぐなんて形で提供していた店もあったらしい。
喫茶店で提供されたなどという記録も残っているのだ。
「なんだか独特な香りがするのね。これは……シナモン?」
「そうそう、さすがはミシェル、よくわかったね」
同じように匂いを嗅いでいたティッティーも口を挟む。
「それにバニラの匂いもするわ。なんだか、愛の媚薬と同じ系統の香り……」
「ちょっと、ユウスケの商品をあんな下品なものと一緒にしないで!」
「なによ、私は感想を言っただけじゃない!」
「姉妹で喧嘩をするなよ。そんなことより冷めない内に飲んでみてくれよ。一人につき一回だけだけど、いい効果が表れるそうだぜ」
俺が促すとミシェルたちも喧嘩をやめてホットドクトルペッパーに口をつけた。
「美味しい!」
「う~ん……」
どうやら好みがわかれたようだ。
ミシェルとメルルとガルムは好き派で、ミラとティッティーはあんまり派のようだ。
ドクトルペッパーって好みがはっきりと分かれる商品だよね。
ちなみに俺はけっこう好きだったりする。
でも、ホットより冷たい方が好きだな。
「それで、なにか効果はあった?」
聞いてみると、まずメルルが反応した。
「あっ! ……」
「どうした?」
「放出系の魔法が使えるようになったかも……」
「なんだって!」
なんと、メルルは無属性の魔力を剣から飛ばせるようになった。
「これはすごい効果だぞ。他のみんなはどうだ?」
「私は……」
「どうしたんだ、ティッティー?」
「ネコが好きになったかも……」
「はっ?」
「これまでネコはどうしても好きになれなかったんだけど、今はモフモフしてネコを思いっきり吸いたい気分なの!」
「そ、それは……よかったな……」
必ずしも能力がアップされるわけではないんだな……。
だけど、これも劇的な変化と言えば変化だ。
「ミラはどうだ?」
「私はいままで嫌いだったエンドウ豆が食べられるようになった気がします」
うん、好き嫌いがなくなるのはいいことだよな。
「ガルムは?」
「二の腕が1センチ太くなったぜ。へへへっ、カッコいいな、俺」
脳筋気味のガルムは嬉しそうだ。
「で、ミシェルはどうだ?」
ただでさえ強いミシェルが更なるパワーアップを遂げたらどうなるんだ? 緊張しながら答えを待っていると、ミシェルは羞恥で赤らめた顔を寄せ、俺の耳元で甘い吐息を漏らした。
「私……、キスが上手になったみたい……」
「え……」
そんな効果もあるの!? すごいぞ、ドクトル!
「こ、今晩試してみる? その……ユウスケさえよかったら……」
「そ、そうだね。お願いしようか……」
俺たちの内緒のやり取りをみんなは不思議そうに見ている。
この中で一番遠慮のないガルムが質問してきた。
「姐さんはどんな効果が現れました?」
「内緒よ!」
「え~、そんなこと言わないで教えてくださいよ」
「ダメ! ユウスケ以外には誰にも言わないんだから!」
ミシェルの様子でみんな何かを察したらしい。
それ以上は誰も訊いてこなかった。
「ホッホッホッ、おかしな味のする飲み物じゃのぉ」
不意に後ろから声がしたら、マニさんがホットドクトルペッパーをすすっているところだった。
「こんばんは、マニさん。練習を見に来てくれたの?」
「うん……、ぬおっ、なんじゃこれは?」
おっと、ホットドクトルペッパーの力は神様であるマニさんにも及ぶようだ。
「どうしたの、マニさん?」
「急に思い出したんじゃ」
「ひょっとしてエネルギーパックの作り方?」
「そんなもんは知らん」
自分で開発したくせに、知らんって……。
「じゃあ何をおもいだしたの?」
「エレベーターじゃ」
「エレベーターというと、いわゆる昇降機?」
「それじゃ。ダンジョンエレベーターじゃ」
とんでもないワードが飛び出てきたけど、どうなるのだろう?
緊張をほぐすために俺もホットドクトルペッパーを飲んだ。
冷たいときよりシナモンやバニラが強く香る気がするな……。
さて、俺にはどんな効果が表れるのだろう?
魔力が強化されて千里眼で未来が見えるようになるといいんだけどな……。
いや、違った。
魂が揺さぶられ、自分の中の隠れた能力が開花した結果、俺はメンコ名人になった。
役には立たないけど、まあ嬉しいか……。
それよりも今はダンジョンエレベーターが先だな。
マニさんの記憶がなくならない内に詳しいことを聞き出さないといけない。
『駄菓子屋ヤハギ』のコミカライズが発売されました!
(コミック アース・スター)より。
読んでみてください




