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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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魂のレベルで


 俺とバットが扉を開ける頃、行列は五十人に達していた。


「おはようございます。ゆっくりと進んでください」


「押さないように! 押さないようにお願いします!」


 二人で大声を張り上げてお客さんを誘導した。


「本日、モバイルフォースとマニ四駆はお一人様につき一点のみの販売となります。皆様に商品がいきわたりますように、ご協力をお願いします!」


「グフフをください!」


「こっちにはググレカスを!」


 値段が安いということもあってモバフォーが大人気だ。

人々は買った端から組み立てて遊んでいる。

しばらくするとマニ四駆を買い求める金持ちも現れ始めた。


「はっはっはっ、大盛況ですな、ヤハギさん」


 陽気な声をしたライマスさんがやってきた。

家族総出で来てくれたようだ。


「これはライマスさん。おかげさまでご覧のとおりですよ。そうそう、鍛冶師のサナガからご依頼の品を預かってきましたよ」


「おお!」


頼まれたのはライマス家の紋章が入った特別製のニッパーだ。

プラモづくりには欠かせない道具で、これが有ると無いとではマニ四駆の仕上がりに雲泥うんでいの差が出る。


「これは素晴らしい。さっそくモバフォーやマニ四駆で試してみましょう」


 ライマスさんは新しい車体とカスタムパーツを何点か買ってくれた。

ライマスさんだけじゃない。

お客さんは行列を作って会計を待っている。

娯楽が少ない地方だから目新しい店が気になって仕方がなかったのだろう。


 俺とバットだけじゃ手が回らなくて、ライマス家の使用人が手伝ってくれて、なんとか午前中の商売が終わった。



 午後になるとルガンダから駆け付けた手伝いも増え、少しだけ余裕が出てきた。

売り上げを確認したけど、ルガンダでの商売とは比較にならないくらい多い。

初日ということもあるだろうけど、これだけ売れれば俺のレベルもまた上がるだろう。


 主力はやっぱりおもちゃなんだけど、お菓子の売り上げも好調だ。

ラムネを飲むと魔力循環が整い、モバフォーをスムーズに動かせる。

そのことが知れて一気に売れてしまった。

ライマスさんなんて一人で三本も飲んでいたくらいだ。


 俺は店を回ってお客さんたちの様子を確認していく。

みんなが遊びに興じているのを眺めるのはいいものだ。

おや、グレーテルさんが浮かない顔をして立っているぞ。

お父さんに叱られでもしたのだろうか?


「どうしたんだい、グレーテルさん? ずいぶんと悲しそうな顔をしているじゃないか」


「あ、ヤハギさん……」


 事情を訊いてみるとグレーテルさんはマニ四駆で勝てなくて落ち込んでいたようだ。


「父や母はともかく、兄さんにまで負けてしまって……」


 ライマス家は勝負ごとに手を抜かない方針らしく、領主夫妻はカスタマイズした車体でグレーテルさんに圧勝してしまったようだ。

ライマス家の家風をとやかく議論するつもりはないが、落ち込んでいる女の子を見るのは忍びない。


「ヤハギさん、もっと速くなる方法はないでしょうか?」


「あるぞ」


「どうすれば!?」


「肉抜きという方法がある……」


「なにそれ!?」


「他にもシャフトが真っ直ぐなものを選んだり、モーターの最適化なんてのもあるんだ」


 グレーテルさんはキラリと目を輝かせた。

この瞳の色……代々魔道具師をしていたというライマス家の血か。

齢八歳にして並々ならぬ情熱を感じる……。


「効果があるかは保証できないんだけどな……」


 俺は自分が知っている知識を残らずグレーテルさんに伝えた。



 開店二日目はお客が減ると思ったのだが、初日より増えていた。

評判が評判を呼び来店人数が増えたようだ。

おかげで俺のレベルも久しぶりに上がり、新商品が棚にならんだ。


 商品名:ダークサンダーチョコレート

 説明 :愛がイナズマ級! 食べれば愛の告白の勇気が湧いてくる。

 値段 :30リム


 こんな駄菓子もあるんだなあ。

男女を問わず若い人にヒットしそうな商品だ。

俺にはミシェルがいるから、今さら告白もないけど、味を確かめるために食べてみた。


 ザクザクの食感とどっしりとしたチョコレート感が非常に美味しい。

これはミシェルの好みの味に違いない。

帰ったら食べさせてやろうと思っていたら、あちらからベッツエルへやってきた。


「いらっしゃいませ。お探しの商品がありましたらお声がけください」


 領主の婚約者としてミシェルは落ち着いた物腰で接客をしながら入ってきた。

以前だったら「ユウスケが心配で来ちゃった!」とか言いながら駆け寄ってきたのになあ。

しっとりと大人の雰囲気が身に着いたミシェルはさらに魅力を増している。


「お店が大変だと聞いて助っ人に来たわ」


 俺のところまできたミシェルははにかんだ笑顔を見せた。

ゾリドを動かすエネルギーパックを開発するためにルガンダに残ってもらったのだが、結局心配をかけてしまったようだ。


「来てくれて嬉しいよ。長い旅で大変だっただろう? ほら、コーヒーをいれてあげるから、座って新商品を食べてみてよ。きっと気に入るから」


 店の隅のテーブルに座らせてダークサンダーをミシェルに渡した。


「まあ、チョコレート?」


「食感がとてもいいんだ。それにね、これを食べると愛の告白の勇気が湧いてくるんだってさ。ちょっと面白いだろう?」


「そうね、ユウスケと付き合う前にこれが発売されていればよかったのにって思うわ」


 ダークサンダーを食べたミシェルが顔をほころばせた。


「美味しい! これなら毎日食べてもいいくらい」


 ミシェルの甘いもの好きはいまだに変わらない。

特にチョコレート菓子には目がないのだ。


「次回のダンジョン探索にはこれを持っていくかい?」


「うん、十個持っていく! それでね……」


 ミシェルがもじもじと体をくねらせる。


「どうしたの?」


「私、ユウスケが好き!」


 はっ? 

今さら告白?


「死ぬほど好き。死んでも好き! 来世でも好き。魂のレベルで大好き!」


「わ、わかった。俺も好きだから……」


「それでね、今からここにいるお客さんに全部帰ってもらって、店の真ん中でイチャイチャしたいくらい大好き。たぶん今夜は寝かさない!」


 しっとりとした大人の雰囲気? 

あれは勘違いだった!


 幸いお客は駄菓子やモバフォーに夢中で、重すぎる愛の告白に気が付いている人はいないようだ。

こちらを気にしている人は見当たらなくて、安堵のため息がこぼれてしまう。

しばらくは昼夜を問わず忙しくなりそうなのでスタミナ回復系の駄菓子を食べておくことにした。


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