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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第三部

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出張終了


 ベッツエル支店に出張して一週間が経過した。

物見高いお客さんも一巡し、ようやく店も落ち着いてきている。

そろそろ支店はバットに任せられそうだ。


「それじゃあ、俺は一度ルガンダに帰るよ。後のことはよろしくな」


「え~、ユウスケっち、帰っちゃうの~?」


 残念そうにしているのはベッツエル領主のライマスだ。

ここ数日店に入りびたりだったのですっかり仲良くなってしまった。


「ごめんライちゃん。でも、俺だってルガンダの領主だしさあ、いつまでも留守にはしておけないよ」


「まあそりゃそうか」


「商品を補充するために三、四日したらまたくるさ。バットのことよろしく頼むよ」


「ああ、任せといてくれ」


 ライマスは毎日時間を作って駄菓子屋に遊びにくるので安心だ。

領主が立ち寄る店でわざわざ面倒ごとを起こす奴もいないだろう。

安心してルガンダに帰ることができた。


 行きはバットと二人だったが、帰りはミシェルと一緒だった。

あれからミシェルは結局ルガンダには戻らず、ずっとベッツエルに居続けたのだ。


 おやつに食べるダークサンダーチョコレートのせいで、連日のように重たい告白を聞かせてくれたが、まあ今さらだ。

俺が死んだら死霊術で甦らせて愛してくれるという発言以外はドン引きしていない。


「そういえば、ユウスケのレベルはどれくらい上がったの?」


 それはもっともな疑問である。

もともとレベルアップのために支店を出したのだ。

俺たちの目的は、雷がいつ、どこに落ちるかを調べることにある。

レベルを上げて千里眼に磨きをかけるのが当初の目的だ。

だが、期待にそえるほどレベルは上がっていないというのが現実だった。


「実を言うとたいしてあがってないんだよね。千里眼で未来を見るには程遠いよ」


 たぶん今やっても未来は見えないと思う。

それどころか魔法の反動で心身ともに深いダメージを負う気がするくらいだ。


「無理だけは絶対しないでね」


 ミシェルは心配そうに俺を上目遣いで見た。


「わかってる」


「私、あんなこと言ったのを後悔しているの」


「あんなこと?」


「ほら、ユウスケが死んだら死霊術で甦らせるっていう……」


「あれか……」


「あれは訂正するわ。ユウスケが死んだら私も死ぬっ! 天国で一緒に幸せになりましょう!!」


 どっちにしろ重たいけど、多少はマシになったかな? 

どうやら化け物にされることは免れそうだ。


「俺が死ぬことなんて考えるなって。二人の幸せだけを考えようよ」


 俺が死んだ後も生きてくれとは言えなかった。

それがミシェルにとっていいことなのか、それとも悪いことなのかわからなかったからだ。

生きることが幸福で、死ぬことが不幸。

生物の本能的にはそうなのかもしれない。

ただ、一度死んだ俺からすると、なんとも結論のでない問いであった。



 街道を外れるとたちまち悪路になった。

ルガンダへの道はまだまだ荒れている。

いずれゾリドによってこの道がよくなれば住民にとっても便利になるだろう。


「もう少し頑張らないとな……」


 馬上で手を伸ばすと、横に並んだミシェルは無言で握り返してくれた。




 ルガンダには日暮れ前に着いた。

一週間しか離れていなかったけど、なんだか懐かしい気がした。


「ヤハギ様!」


 マッチョな巨体を揺らしながらナカラムさんが小走りに駆け寄ってきた。

相変わらず迫力のある見た目だ。

実は情が細《こま》やかで、争いが嫌いな人なんだけど、見た目だけはかなり怖い。

ウサギを飼うのが趣味で、庭一面にクローバーを植えるような人なんだけどね。


「ただいま戻りました、ナカラムさん。なにかいいことでもありましたか?」


 興奮した様子だけどナカラムさんの顔に憂いはない。

きっとおもしろい事件でも起こったのだろう。


「おかえりなさいませ。実は一昨日、ついにゴールデンシープが討伐されました」


 ルガンダを騒がせていた一攫千金のモンスターがついに討伐されたか!


「それで金羊毛は?」


「きちんとドロップされました。今は私が預かっておりますが、このような貴重品を手元に置いておくのは身の縮む思いでしたよ。昨晩もよく眠れなかったくらいです」


 困った顔で身をすくめるマッチョマンは気の毒なほど目の下にくまをつくっていた。


 ゴールデンシープを討伐したのはゾンダーという冒険者だった。

年齢は三十台前半でソロ活動をしている。

もともとは王都のベテランチームの一員だったけど、地下五階でゾンダー以外のメンバーは全滅したそうだ。


 生き残ったゾンダーだったけど、それ以後は誰とも組まずに一人でダンジョンに潜っていたそうだ。


「心機一転、地方でやり直そうとしたんだが、まさかこんな大物を討伐できるとはおもわなかったよ」


 短い頭髪に精悍な顔つき、体に無数の傷跡がある中年冒険者は静かな笑みをたたえている。


「なににせよおめでとう。これでまとまった金が手に入るね」


「まあそうなんですど、これを売りさばくっていうのも大変だからなあ……。ご領主様、何とかなりませんかね?」


 金羊毛を売るのなら都会の方がいい値段はつく。

ただ、王都までは遠いし、強盗に遭うなどのリスクも多いのだ。

手にした現金を盗まれることだって考えられる。


「心配なら一緒に王都へ行くかい? 月末にはたまった魔石を売りに王都へ行く予定なんだ。エッセル宰相にもお会いするから、よさそうな貴族や商人を紹介してもらうよ」


「そいつはありがたい。ぜひお願いします!」


 これも領主の務めだ。

俺は天秤屋台を出して金羊毛を括りつけた。

その状態で「閉店」と念じたので、金羊毛は天秤屋台と一緒に次元の狭間に収容されてしまう。

お宝を盗み出せる者はもういないという寸法だ。


「それじゃあ、王都へ旅する準備だけはしといてね。護衛にはミシェルもいるから安心だよ」


「騎士団中隊が相手でも蹴散らせますね」


「一個大隊だって蹴散らすわよ。ユウスケのためだもん!」


 世を戦国時代にしたいわけじゃない。

盗賊から仲間と財産を守ってくれればそれでじゅうぶんだ。


「やりすぎはダメだぞ。地形を変えちゃうのもなしだ。王室地理院から文句をいわれるからね」


「わかってる」


 ミシェルの肩に手を置くと、彼女は嬉しそうに頬ずりをした。

周囲のみんなはドン引きしていたけど……。


本日4月14日

アース・スターノベルより第三巻が発売されました。

よろしくお願いします!


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