地中から現れたもの
翌日からマニ四駆が駄菓子屋ヤハギの棚に並んだ。
商品名:マニ四駆
説明 :魔力を利用して走らせる自動車型のおもちゃ。
値段 :1200リム
こちらもモバイルフォースと同じく組み立て式だが、もう少し複雑な構造をしている。
接着剤などは必要ないのだが、シャフトを組み込んだり、グリスをさしたりと、やることも多い。
慣れていないと組み立てには小一時間ほどかかるのだが、大人も子どもも夢中になって組み立てている。
「お~い、みんな。仕事に行かなくてもいいのか?」
「今日は休みにしたからいいんだよ。それよりヤハギさん、ここの組み込み方を教えてよっ!」
ガイルたちは臨時休業を決め込んだようだ。
娯楽が少ない場所だから熱の入り方も半端じゃなくなるのだろう。
値段だって決して安くないのに、大勢が有り金をはたいて買い求めていた。
「いっけーっ、私のアバンティラ!」
いち早く組み立てを完成させたメルルが自分のマニ四駆を走らせている。
なかなか快調に動いているようだ。
だけど――。
「うわっ! コースアウトしちゃった!?」
パワーがありすぎてカーブを曲がり切れなかったな。
「あ~ん、どうして?」
「エネルギーパックがフル充填だと勢いがつき過ぎることがあるんだよ。しばらく空回ししてからやってみるといいぞ」
子どもの頃に同じようなことをしていたなぁ……。
エネルギーパックとはミシェルがつくった魔力オーブのことで、ここではほぼ電池のような役割を担っている。
使い方は簡単で、二本の指で自分の魔力を送りこむだけでいい。
フル充電までは三十秒もかからない。
マニ四駆はモバイルフォースよりも必要魔力量も少ないそうだ。
若いルーキーたちは何度も魔力を充填して自分のマシンを走らせていた。
「ミシェルはよく一晩で五十本ものエネルギーパックを作り上げたね」
「うふふ、ユウスケのためだもん。みんながマニ四駆を買ってくれれば、その分だけ結婚資金だって貯まるでしょう?」
「でも大変だったんじゃないか? 寝不足になったりしないか心配だよ」
「平気よ、それにエネルギーパックの制作は比較的簡単で、魔結晶の粉末を特定の固定法で練り上げるだけなの。マニ四駆用は必要なパワーも小さくて済むから、安定化も簡単なのよ」
「さすがは才女の誉れ高いミシェルだな」
俺にはもったいないくらいの恋人だ。
「別にこれくらい……(ヤダヤダヤダ♡ 才色兼備の魔女だなんて、ユウスケったら褒めすぎよ! あ~ん、もっと頑張って明日は七十個作らないと。あ、でも、今夜はユウスケが積極的に愛してくれるかも……。うん、ユウスケの視線がいつもより熱いもの。きっとそうにちがいない。寝ている暇なんてないわね。製造の方は今からでも取り掛からなくちゃ!)」
どういうわけかミシェルはその場に座り込んでエネルギーパックの製造を始めてしまった。
その様子をマニさんがじっと見守っている。
「ふ~む、ミシェルのエネルギーパックはいい出来だな。これの最大出力はどれくらいじゃ?」
「いまのところ248ミガ・マットね。今年中に746ミガまで上げたいけど」
マニさんは考え込むように頭をポリポリと掻いている。
「では1.21ジゴマットは無理か?」
「1.21ジゴマットですって!? そんな大容量、無理に決まっているじゃない! 極大魔法百二十発分の魔力よ」
「そうか、残念じゃ……」
マニさんはがっくりと肩を落としてしまった。
「マニさん、なにがそんなに残念なんです?」
「ミシェルのエネルギーパックがあれば、もう一度あれが動くかと思ったのじゃがのぉ。儂はエネルギーパックの作り方を忘れてしまったし……」
「あれって、なんです」
「二千年くらい前に儂が産みだしたメカ生物じゃ。うむ、見せてやろう」
マニさんが右足で軽く足踏みをすると大地に亀裂が走った。
「うおっ! なんだ?」
「みんな、気を付けろ」
突然の地鳴りにダンジョン前は混乱の極みに達したが、地中から現れたそれを見た瞬間、人々は一瞬言葉を失った。
それはそうだろう、人々が目にしたのは巨大な機械生物だったのだ。
「ド、ドラゴンだぁああああっ!!」
「逃げろおおおおおっ!!」
腰を抜かす人々の中にあって、俺は我が目を疑った。
だって俺はあれによく似たものを知っているから。
まあ、前世においては1/72スケールで、しかもオモチャだったけど……。
「マニさん、あれは?」
「儂の傑作、メカ生物ゾリドじゃ」
「おいっ!」
神様相手に百二十点のツッコミを決めてしまった。
だってねえ……。
もっともマニさんは気にする様子もなくニコニコとほほ笑んでいる。
「全長二十三メートル、全高十三・七メートル。あのジェノスブレイカーが動けば、開拓に便利だと思ったのだがのぉ。収束荷電粒子砲もついとるし……」
いや、武装はぜんぜんいらないからなっ!
だけど、それを聞いたミシェルがいち早く反応した。
「もしあれを動かすことができたら貸してくれるの?」
「貸すなどとケチなことは言わん。くれてやるわい。ホッホッホッ!」
ミシェルが俺に頷いてくる。
「ユウスケ、私やるわ。出力を上げてみせる!」
「だけど……」
そりゃあ、あんなものがあれば辺境の開発は一気に進むだろう。
整地も伐採も思いのままに違いない。
「どうやって出力を上げる? マニさんに聞けば何かわかるかもしれないけど」
俺たちはマニさんの方を見た。すると、マニさんがゾリドを指さして驚いている。
「なんじゃ、このデカブツは!?」
「自分で作ったんだろうがっ!」
う~ん、相変わらずの痴呆具合だ。
記憶をよみがえらせるいい手はなにかないだろうか?
俺たちはため息をつきながら考えるのだった。
コミックアース・スターでコミカライズが始まりました!
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