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転生迷宮 ―リバイバルラビリンス―  作者: 梅雨ゼンセン
最終章 下 ―コドクな世界で―
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解体者

「……」

 言葉を失う。

 その分、思考が脳内を駆け巡る。


 一体、私は何をしているのか。

 一体、私の身に何が起こっているのか。


 しかし、思考したところで分かるはずがない。

 幻覚だろうか。

 それにしては、感覚が妙にはっきりしている。

 何だろう。『コレ』は、――――――イッタイナニ?

「……?」

 ふと、周りが騒がしいことに気が付く。これは、逃げているのか。

 住民の大移動。道の真ん中で突っ立っている私は川の中の石のように来る人にぶつかって、よろける。

 一体今度は(・・・)何が起こったのだろうか。

 そう思って空を見上げた瞬間。

「……」

 ああ・・なるほど・・・・

 自分でも妙だと思うくらいに落ち着いて、私は空から降ってくる『ソレ』を見た。


 赤い石の群れ。

 いや、紅い岩石の雨か。

 

 まだお昼だというのに、いつの間にか世界は真っ暗になっていて、空には巨大な隕石があった。

 しかし、あれは隕石ではない。

 それをカエデははっきりと覚えていた(・・・・・)

 アレはどこかの頭の悪いチートが放った、岩石の魔法だ。

 そしてこの『事件』は、今から確か百年ほど前に起こった事件。

 カエデは、そこでようやく理解する。

 いや、確信したというべきか。薄々感づいてはいたのだ。

 これは、

 この世界は――――――偽物だ。



      ・・・



「中々苦戦しているようだね」

 白い廊下を歩きながら、ヴィルトエルはスマホの画面に言葉を投げる。

 悠々と歩く彼女に対して、画面の中ではハルがアンと激しい攻防戦を繰り広げている。ハルが居るところには仕掛けられているカメラの映像が、リアルタイムで映し出されているのだ。ヴィルトエルの声は向こうの廊下のスピーカーからハルたちに聞こえている。

 形勢は、ハルがやや不利。

 力のチートの突進力に二刀流の多彩な剣戟。

 あのガサツな性格と、ユキとの大戦時からは想像もできないほど、

『……うまいな』

 画面内のハルはアンの攻撃をいなして距離を取り、自然とそう零す。

 が、剣の腕だけならハルの方が勝っている。

 今度は彼の方から突進し、アンはそれを受け止め、再び剣戟の応酬が始まる。

 ヴィルトエルのスマホのスピーカーから鉄の衝突音が幾度も鳴る。

 それを彼女はアニメを観賞するかのような目で見つつ、

「ま、精々頑張りたまえ。その子は君とすこぶる相性が悪いはずだからね」

 なんて嫌味に笑って、

『知っている』

 ハルは舌打ちをする。



 ガギンッ――――――



 重い一撃同士がぶつかり、二人は一度距離を取る。

 戦闘中も、そして今も終始無表情なアン。息一つ乱していないのはチートという理由だけでなく、彼女の体に染みついている技術と経験の賜物だろう。

 対してハルは少しだけ苦しそうだ。無理もない。

 何せ洗脳されている彼女には、幻覚の魔法が一切効かないのだから。

『早い者勝ちと、お前は笑っているんだろう?』

「さて、どうだかね」

 画面越しの彼の問いに、ヴィルトエルはそう答えつつ嗤う。

 それにハルはまた舌打ちをした後、大きく息を吐いて剣を構え直す。それを見たアンも自身の獲物である二本のダガーを構える。

 衝突前の、空白。

 その空白時にハルはヴィルトエルに問う。

『……お前、今どこに居る?』

「さてね。自分で探しなよ。まあ、どこにでもいるけどね」

『……お前は何をするつもりだ? 目的は何だ?』

「ん? 可笑しなことを言うね。それを知っていたから君は来たんだろう?」

 それとも、

「聞きたいのはもっと、根本的なこと(・・・・・・)かな?」

『……お前は――――――』

 そこで彼の言葉は途切れる。声の代わりにスピーカーから発せられたのは鋼鉄同士の衝突音。

 今度はアンから仕掛けたのだ。

 その様子を、ヴィルトエルはスマホを操作してパシャッと、

「おお、良い顔が撮れたよ」

 と不意打ちを食らったハルの顔をスクショし、フォルダに保存する。

 そして彼女はカメラ映像に戻して、

「私はね、ハル君」

 スピーカーから聞こえてくる、激しい戦いの音。

 血肉を削る戦いをしている二人の衝突音。

 そんな中でもヴィルトエルの声は、蛇が滑り込むように耳孔に響いた。

 


「世界を、解体しようと思ってるんだ」

 

 


      ・・・



「……意外と地味だよね」

 目の前の現れた扉を見て、エムバは言う。

 カズ、ユキ、ルナと別れたエントン、エムバ、ミセバヤは機械の魔王のアジトらしき扉の前に立っている。

 人工的に作った丘にめり込ませるように設置されている、重厚で巨大な鉄の門。大型のトラックがすれ違えるくらいの大きさだ。

「そりゃあ地味だろう。隠してるんだし」

 彼女の感想をサラリと流して彼は「行くぞ」と扉を開けようと近づく。

 


 ギイィィ―――――――



 と、近づいただけで、彼が触れる前に扉は開く。ここも自動式になっているようだ。

 招かれている。

 もはや指紋認証なしで開くこの扉が、そのことをありありと示していて、

「ナメやがって……」

 いくらマゾのエントンでも、さすがに頭にくる。

 まるで『中に入ったところでどうしようもないだろう』と言われているようだ、と。エントンはそう感じた。

 一方、その扉の様子を見たミセバヤとエムバは違う考えを持っていた。

 いや、『中に入ったところで』の部分は同じだった。ただエントンとは解釈の仕方が違った。

 それだけの力を持った何かが、この中にあるに違いない。そう思ったのだ。

 そして一行はゆっくりと、施設内に足を踏み入れる。

 扉を潜ってから初めは長い通路になっており、白色LEDの明かりがぼんやりと左右から内部を照らしている。ここはおそらく地下に向かっているのだろう、やや勾配がある。

 その通路を壁伝いに歩いている最中、誰も口を開く者は居なかった。

 緊張からか、それともそう思わせる何かがあったのか。

 通路への印象は、三人とも内心で一致していた。

 まるで蛇の腹の中を進んでいるようだ、と。

 通路の先は闇。まるでそこへ誘われているかのような、飲みこまれているかのような。

 と、しばらくすると通路が終わり、三人は何かの部屋の中に入る。

 今度は電灯もない、真っ暗な、奥が見えない大空間だった。

「……何でしょう?」

「とりあえず壁伝いに歩いてみる?」

「そうだな」

 三人は、今度はその部屋を壁伝いに進んでみることにする。

 と、

「……?」

「何だ?」

 その音に、三人は気が付いた。

 ミセバヤは音の出所を探そうと辺りをキョロキョロし、

 エントンはやや体制を低くして、同じく辺りを見回す。

 そしてエムバは、

「ミセバヤ、伏せてッ!!」

「キャッ!!」

 エムバの声で反射的にミセバヤはその場にしゃがみ込む。

 刹那、そのしゃがんだ頭頂部スレスレを何かがかすめて、後ろの壁に突き刺さった。

「何だ!?」

「攻撃よ! 皆構えて!」

 敵だ。

 エムバは声をあげつつ詠唱をし、その飛来物が来た方へと風の魔法『風切ウィンドスラッシュ』を放つ。無数の風の刃が射出される。

 が、それは部屋の中央辺りで、

「甘い甘い!」

 パチン、と。泡のように払い消されてしまう。

 そしてまた何かを彼女たちの方に向かって投擲する。

 ソレをエムバは横に転がって避けるが、

「またまたあまーい!」

「え……」

 ミセバヤの時と同様にソレは壁あたった。しかし今度はそこから弾け、進行方向を変えてエムバに襲い掛かる。

 その時、彼女はその武器の形状を視認した。

 回転する輪状の刃。直径は約1メートル。

 そしてそんなに大きいのに暗闇で全く見えなかったのは、

「っ! ワザと黒く塗装して!」

 そう呻くが回避が間に合わない。

「エムバ!」

 その状況にミセバヤは咄嗟に自分の持っていたナイフを投げて、リングに当てる。

 が、

 カンッ――――――

 それは小さな弱々しい音を立てて軽々と弾かれてしまう。

 当たり前だ。刃渡り10センチ程度のナイフと直径1メートル鉄の輪だ。

 質量差でまず敵わない。加えてリングは回転しているので弾かれて当然だ。

 しかし、

「まだだあああああああああああああああああっ!!!」

 その弾けたナイフをエントンは掴み、飛んでいたリングをナイフを振って弾き飛ばした。

 ガギンッ――――――と。今度は手応えがあり、黒いリングはエムバから逸れて床に落ちる。

「は?」

 そんな声を出したのはリングの投擲者だった。

 声音からして少女。

 少女は唖然としていたのか一拍置き、次いで呆れてため息を吐く。

「あんたってそんなにハイスペックだったっけ?」

 聞いてないんだけど、と言う少女にエントンはナイフをミセバヤに返しつつ、声の方を見て、

「これだけ規格外どもの中に居たんだ。俺もそれなりに成長したんだよ」

「嘘つけ」

 その声とともに、部屋の電気が一斉に点く。いきなり明るくなったことで三人は目を抑える。が、目が慣れてくると徐々に敵の正体が見えてくる。

 完全に露わになったドーム状の巨大な空間。

 今三人が出てきた通路の対面には奥に続いている通路への入口がある。

 そして『そいつ』は部屋の中央に立ち、

「ども~」

「お前は……」

 その見覚えのある顔に、エントンは驚愕する。

 黒の全身タイツじみたスーツを来た一人の少女『ロベリア』。それがさっきの円盤を投げた敵の正体だった。

 見るとそのタイツじみたスーツの表面には血管を模したようなラインが這い回っており、胸の所には動力源らしき丸い装置が埋め込まれている。

 いや、それは体に直接埋め込まれているようだ。これも機械の魔王の作品の一つであろうことは、見た瞬間に全員が理解した。

 三人が眩しさに慣れた頃、ロベリアは一度飛ばした輪を見て、招く様に指を動かす。次の瞬間、地面と壁にめり込んでいたリングはひとりでに彼女の手の中に戻り、ロベリアはそれを担ぐように構える。

 小柄な少女が、一メートルはあろう刃物を二つも構えている。それは異様な光景で、

「さて、じゃあ戦闘の続きで!」

 その刃物をいとも容易く放り投げることができるその事実は、より異常なものだった。

 第一投目はさっき弾いたエントンに向けて放たれた。

「散らばれ!」

「はい!」

「言われなくても分かってる!」

 彼の一声で全員が臨戦態勢になり、エムバとミセバヤはロベリアを挟むように左右から回り込む。

 エントンはその場で刃を伏せて躱す。風を切る音が背中の上を通過し、それを合図に三人は一斉にロベリアに突撃する。

 あのリングの刃は飛ばした後、再装填リロードまでの時間がある。

 その時間内に、一個でも武器がないこの時間内に手傷を負わせる。

 そのつもりだった。

 気づいたのはミセバヤだった。

「エントンさん!」

「ッ!」

 風を切る音が、背後から迫っていた。

 顔だけ振り返ると、もはや避けようのないところまで刃は迫っていた。

 警戒すべきだったのだ。

 再装填の時に使ったアレは風の魔法。それで操っていたのだ。

 なら、飛んでいる最中に操れないわけがないのだ。

 塗装された黒い刃が、眼前まで迫る。このままいくと眼球を半分に、いや、脳に新たに横の割れ目を入れることになるだろう。

「ほんと、それなりの成長だったね」

 そうロベリアが言った気がした。

 刹那、エントンの頭は、真っ二つに―――――――――









 
















 なる寸前だった(・・・・・・・)

 部屋側面の壁が吹っ飛び、そこからハル(・・)アン・・が出てきたのは。



 

 

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