敵が味方で味方は、敵?
壁を破って現れたのは、ハルとアンだった。
激しい戦闘の中、壁を破壊したのはアンの方だった。
そして破壊で吹っ飛んだ瓦礫たちは、今まさにエントンを切らんと迫っていたリングの刃を横から殴りつけ、その軌道をズラす。
「ちょっと!」
いきなりのことにロベリアは驚き、慌てて魔法で軌道修正をする。が、既に遅く刃はエントンの左腕に切り傷を負わせただけ。
リングは彼女の手の中に戻り、彼女は慌ててそれで防御をしようとする。が、その行動はほんの少しだけ遅れた。
突然の二人の登場。
それにより生じた一瞬の狼狽。
その微かな隙間、
エントンは躊躇くことなく、
そのまま大きく一歩踏み込み、
「ッ!!」
「なっ―――――――!?」
硬く握った拳を、ねじ込んだ。
野球の投球フォームのように振り抜いた拳により、ロベリアは後ろに仰け反る形で吹っ飛ぶ。
ブンと風を殴る音の後、ロベリアが地面に倒れる音が空間内に反響した。
一撃。
その幕引きに、場を見ていたミセバヤとエムバも言葉を失う。
……が、
ガギンッ――――――――、
「「「ッ!」」」
直後に響いた金属音で、一気に現実に引き戻される。
三人の視線は途中に侵入してきた二人に集中する。
「アンさん!」
「……」
ミセバヤの声にアンは反応せず、そのままハルに突進する。
それをハルは受け流して反撃するが、それを躱されて再び二人は互いに距離を取る。
一目瞭然。
これだけ激しい戦いをしていて、二人とも傷らしい傷を負っていない。服の汚れ等は地面を転がったりしたときに付いたものだ。
化け物と化け物の戦い。
が、
「やめろ! てめえ何やってんだ!」
溜まりかねたエントンはハルに叫ぶ。第三者視点でもはっきりと分かる。
ハルはアンを殺す気で剣を振るっている。
さっきの反撃も胴を真っ二つにするつもりで放っていた。
しかしそれはアンも同じ。
「……」
「……」
二人の間に会話はない。エントンの声に反応する気も、様子もない。
そして二人は互いにゆっくりと、すり足で間合いを詰めて、
「「ッ――――――」」
踏み込み、衝突。
二刀の重い連撃を受け流し、その合間合間に切り返す。
その切り返しを一刀で防ぎ、もう一刀で反撃する。
その剣戟の応酬は、思わず周りが見入ってしまうほどだった。
しかし、
「やめろって言ってんのが……」
「ま、待ってください!」
怒りのあまり、刃の嵐の中に飛び込もうとするエントンの前に、ミセバヤは慌てて立ちはだかる。
突然割り込んできた彼女にエントンは始め驚くが、すぐに額に青筋を浮かべて、
「ふざけんな! なんでお前が止めるんだよ!」
「危ないからです!」
怒りの炎が燃え盛っている瞳を、ミセバヤはまっすぐに見返す。
そしてはっきりと言う。
「エントンさんがあそこに入って、何ができるんですかっ!!」
「なっ―――――――」
「死ぬだけです」
その言葉に、エントンは思わず言葉を失った。
歯に衣着せぬ、ミセバヤの言葉。そして真正面から見つめ返してくる真っ直ぐな瞳。
「……やめてください」
決して咎めるように睨んでいる訳ではない。
とても力強く、そして同じくらい優しい、彼女の心。
「……」
「……」
ガキン、ガギンガギン、――――――、
金属音が響く空間。
ミセバヤの目を見返したまま、エントンは動くことができなかった。
彼女の言葉は、全部正しいと。そう、理解している自分が居るからだ。
チートとチートの戦い。
そこにチートでないエントンが入っていくことは無謀以外の何物でもない。
戦地のど真ん中に素手で突進していく大馬鹿者、
それか津波を目の前にしつつも漁に行こうとするいかれた漁師か、
そんな、秤にかけるのもバカバカしいと思うくらい無謀なことだ。
二人の後ろで、剣戟は激しさを増していく。しかし、衝突している両者の目は、冷たい。
互いに相手の次の手と、如何にして急所を突くか。それ以外に考えていない、ロボットのように無機質な目だ。
このままこの状態が続けばどうなるか。結果を想像するのは難くない。
「だからって、このまま放っておけって言うのか」
「……」
「アンは俺たちの仲間だ。それはお前も分かってるだろ」
「……はい」
「あっちのハルとかいうのは、ルナ、カズ、ユキ。あいつらの仲間だ。なら俺たちの仲間だ。それも分かってるだろ」
「……はい」
「なら、このまま放っておいたらどうなるか、分かるだろうがっ!!」
金属の衝突音が一瞬聞こえなくなるくらいの怒号。
それは彼の心の叫びだ。
どちらも助けたい。
どちらも傷ついてほしくない。
アンが傷つけば、自分たちが傷つく。
自分たちから見れば悪人であるハルでも、傷つけばルナやカズ、ユキが悲しみ、傷つく。
だったらたとえ悪人でも、助けないといけない。
……否。
そんな義務的なものではない。
ただ単純に、エントンは助けたいと、そう思っているのだ。
「っ――――――」
彼の言葉に、ミセバヤはギュッと唇を引き結ぶ。
彼女だってそれは分かっているのだ。
優しい彼女だからこそ、誰よりも深く、理解している。
だからこそ、エントンの前に立ったのだ。
エントンが傷つけば、誰が最も悲しむか……
「……」
故に、ミセバヤは問う。
心を押し殺して、
優しさを踏みにじっても、この鉄砲弾のような男を止めるために。
一つの言葉を使う。
「……カエデさんを、捨てるんですか?」
「なっ――――――」
先と違って、今度はエントンを責めるように、冷めた目をする。
彼女の口から飛び出した言葉に、彼は思わず声を漏らして固まってしまう。
しかし無視してミセバヤは続ける。
「話が逸れている、なんて言わないでください。ここでアンさんとハルさんを助ける場合、あなたは無事ではすみません」
はっきりと、反論の隙を与えないように、
「それはつまり、カエデさんに今以上の苦痛を与えるということです。それを――――――」
捨てる以外になんと言うんですか? と。
彼女には珍しく、凛とした声音だった。しかしその内容は、後藤の戯言よりも挑発的で、残酷なものだ。
故に、言い切った刹那。
エントンは有無を言わせず彼女の胸ぐらを掴む。
まさに火に油を注ぐ結果となった。
エントンの怒りの炎はさっきに比べて爆発的に燃え上がり、歯を食いしばって獣のような表情になっている。
それを前にしても、ミセバヤの表情には怯え一つなかった。
が、少ししてから目を逸らす。その表情は怯えとか、苦しさというモノではなく、
「……ごめんなさい」
申し訳なさそうに言葉を零した次の瞬間、
「ぁっ――――――」
エントンの意識は電源を切ったようにブツンと切れて、彼の体は力なくその場に崩れて倒れた。
そしてエントンの背後には、
「ミセバヤって案外酷いんだね」
ワンドをクルクルと回すエムバの姿があった。そのワンドの先からはパチパチと残り香のように電気が出ていた。彼女が背後から気絶させたのだ。
気絶したエントンに「よいしょっと」と肩を貸しつつ、ミセバヤは浮かない表情をして答える。
「私も好きでやっているわけじゃないですよ」
「まあね。それは分かってるよ」
エムバも反対側から肩を貸して、同情するように言う。
ミセバヤがエントンを挑発したのは彼を説得するためではない。いや、もちろんそれもあるのだが。
注意を引き付ける。それがさっきの一方的な言葉の主な目的だった。
エントンの前に立ちはだかる前に、ミセバヤはエムバとこの作戦を立てていたのだ。
彼を担いだ二人は、部屋で戦っている二人を……主にアンを見る。
「アンさん、やっぱり操られてる……」
「機械の魔王に掴まったときにかかったんだよ」
エントンが分かっていたかは怪しいが、二人はそれは理解していた。
そして、
「アンさん……」
「……今の私たちじゃ無理。そう話したでしょ?」
「うん……」
エムバの言葉に、表情を暗くして頷くミセバヤ。
エントンにはあんなことを言ったが、ミセバヤだってアンを助けたいのだ。が、それをぐっと押し殺して背を向ける。
様子を観察していて分かったが、アンはこちらに襲い掛かってこないようだ。標的はハルのみ。
おそらく幻覚の魔法か何かでそういう風にプログラムされているのだろう。
……今は、直接脳を弄られていたり、脳に魔法を刻まれたりしていないことを祈る以外にできることはない。
今は、逃げるしかない。
逃げて、先に進む。
そうしなければ、機械の魔王にたどり着けない。
たどり着かなければ、アンも、ハルも、カエデも、誰も助けることができない。
そうして奥の通路への道へ向かう。
その途中、
「逃がすわけないじゃん」
「っ!!?」
いち早く気が付いたのはエムバだった。
咄嗟に彼女はワンドを取り出し、振り返りざまに、
「『雨粒よ 無数の刃となりて敵を穿て 氷刺』」
短い詠唱で唱えることができる魔法で、飛来したリングを迎撃しようとする。が、氷の針の威力などたかかしれている。
多少軌道はズレたが、それはエムバの右腕の方に向かい―――――――、
「ぁ――――――」
一瞬痛みはなく、彼女の視界の端に真っ赤なモノが溢れた。
びちゃ、―――――――
何かが落ちた。
いや、落ちていない。
背中の方でミセバヤが息を飲むのが聞こえた。が、それ以上に、また腕の痛み以上に、エムバは右側の気持ちの悪い感触が気になった。
揺れている。
……ゆっくりと、彼女は自分の右腕を見る。
右肩にだらしなくぶら下がっている、切断された右腕を。
「ひっ――――――」
「うわぁ、気持ち悪いね」
そう腕を切った本人であるロベリアは、腫れた頬を抑えながら抜けた声で言う。
大量の出血。全身の血がものすごい勢いでなくなっていく。
慌ててエムバは左手でワンドを持ち、回復の魔法を唱え、とりあえず止血だけは素早く済ませた。が、血が圧倒的に足りない。意識が朦朧とする。足もふらつく。
それを見たミセバヤは、咄嗟に彼女に駆け寄ろうとする。
「エムバ!」
「行ってっ!」
しかしエムバはそれを拒む。
そして足を止めたミセバヤとエントンの前に立ち、ワンドを構える。
「……行って。自分で言ったでしょ」
「っ、」
エムバからの言葉はそれだけだった。
痛みのせいか、血がなくなったせいか、彼女は額に大量の脂汗を浮かべつつ、毅然とした声で詠唱を始める。
そして、
「轟流突波!」
「っ―――――――!」
大量の水が放出される。
それと同時に、ミセバヤは強く歯を食いしばって自分の体を動かし、きびすを返して、エントンを担いで通路の奥へと向かった。
それを見て、その強い後ろ姿を見て、エムバは微笑む。
「さて。まあ、これで一日一善の目標は達成かな」
なんて、さっきと打って変わってケロリとした顔で言った。
刹那。
パンッ―――――――、
銃声ではない。
まるで弦を弾いて出した高い音のような。
そして次の瞬間、エムバの放っていた魔法は縄が解けるように霧散し、
「さて、次はどうするの?」
ロベリアはリングを肩に担ぎ、にやりと笑う。見ると、彼女の来ているスーツに刻まれている血管のような模様が光っている。
これもまた機械の魔王が作り出した技術の一つ。
「魔法を弾くスーツって……それこそチートじゃん」
「まあね。これ『対魔法用魔力走行鎧』を小さくして、対チート用に改良したものだし」
そうロベリアが説明している最中、エムバは垂れ下がっている右腕を掴む。
そして、自らそれを引き千切った。
残っていた繊維がブチブチと千切れて、引きずり出されたように右肩から垂れる。
が、直後。新たな腕が肩から生えてくる。そして残った腕は、
「ん~……大鎌かな」
なんてクルリと回転させて腕を上に投げると、腕は宙で紅い大鎌に形を変えて手元に帰ってくる。
それを彼女は構え、対するロベリアもそれを見て「さて」とリングを構え、エムバを見据える。
いや、それは『エムバ』ではなく……
「本気出さないなら、そろそろ狩らせてもらうよ。『毒の魔王』さん」
「……全身幻想殺し仕様とか、面倒な相手だなぁ」
そうして毒の魔王『フレシアラ』はロベリアと対峙する。
「……」
その様子を、アンと対峙していたハルは、見ていた。
そして、踏み込み、
「ッ――――――」
魔王の背中を取り、剣を振るう。
「やっぱりあなたも来ちゃったか」
フレシアラは大鎌を旗振りダンスのように華麗に操り、彼女の背中で火花が舞った。
・・・
「エントンさん、重いです……」
「……」
ドームの中にエムバを……否、毒の魔王を置いてきたミセバヤは気を失っているエントンに、一人で文句を言う。
真っ暗な通路。やはりここもやや斜め下に向かっている。
どこに続いているのか、先は目を凝らせば凝らすほど真っ暗が際立つだけ。
後方のドームの光も気が付くとほとんど見えなくなってしまっていて、そろそろ足元すらも見えない状況になりそうだ。
と、少ししてミセバヤは足を止める。
「分かれ道……」
薄らと、通路の右手に新たな通路の入口が見える。現在の通路から垂直に伸びる通路だ。
もと来た通路もまだ先がある。
「……」
ミセバヤはそこで少し考えた後、右手側の新たな通路を進むことにした。
右の通路に入った彼女。しかしそこは、床が平らになったこと以外はさっきと同じで、ただただ真っ暗な空間が続くだけ。
と、
「また……」
分かれ道だ。
今度は左と前。
左の通路は現在のところに対して垂直で、床はやや傾いている。
つまりこの通路はさっき通っていた通路と平行に伸びている。
ミセバヤはその通路を左に曲がる。
そうするとまた曲がり角が現れて、今度は右に。
次は左、
次は右、
左に、右に、……、
「……さすがに適当過ぎますかね」
なんて自嘲気に笑うが、笑みは疲労を帯びている。エントンを担いでの移動はさすがに辛い。
しかし下手に起こしてここでもめることになっても困る。
なので彼女はエントンを起こさず、ここまでやってきたのだ。
と、ミセバヤは足を止める。
通路が終わっていたのだ。
分かれ道の後は行き止まりか。なんて思っていると、
「あ……」
よく見ると、左側に曲がり角がある。
ここに来て、曲がり角。
「……」
妙な予感を感じつつ、今更引き返すわけにはいかないと腹をくくり、ミセバヤはその曲がり角を曲がろうとする。
その時、
「っ……」
「あ、エントンさん」
「あぁ……」
エントンが目を覚ます。
彼は呻きを漏らして頭を振って辺りを見る。
そして起きたばかりで寝惚けているのか、
「……俺、まだ寝てんのか?」
「おはようございます。大丈夫起きてますよ。辺りが真っ暗なだけです」
「ああ、そうか……」
と彼は抜けた声を出したが、次の瞬間、状況を思い出し、ミセバヤの顔を見ようとする。が、真っ暗で全く見えず、
「おいミセバヤ! ミセバヤ!?」
「耳元で叫ばないでください! 顔近いです!」
「うるせえ! お前アンはどうした! ていうかお前だけか? エムバは!?」
「……」
「答えろよ!」
「……置いてきました」
「はぁ!? てめえ、いい加減にしろよ!」
そうエントンはミセバヤを掴もうとするが、突き出した腕は力無く空を切る。
「っ、暗過ぎだろ! 何にも見えねえ」
「ちょっと暴れないでください! まだ私に凭れないと立ってられないですよ?」
「ぅるっせえ! お前、自分が何をしたか理解してんのか!?」
「……」
「俺にしたことを言ってんじゃねえぞ? あいつらにだ! 俺は、お前があいつらにやったことを言ってんだよ!」
「……」
「おい! 聞こえてんのか! 耳どこにあんだよ!」
「……聞こえてますよ」
そう、彼女は押し殺した小さな声で、
「……聞こえて、います」
繰り返した。
まるで自分に言い聞かせるように。
そして、
「それでも、私は間違ったと思っていません」
次いで出た彼女の言葉は、同じように小さな声だったが、比べ物にならないくらい力のこもったものだった。
言葉を聞いたエントンが、真っ暗で彼女の顔が見えないにもかかわらず、ミセバヤは前を向いていると思わせるほどに。
それほどに、覚悟と、決心の籠った声だった。
故に、エントンは何も言い返せなくなってしまう。
何の策も、力も持っていない自分が今ここで何かを言ったところで、ただ子供が駄々をこねているのと同じ。頭が少し冷えた今、エントンは自身の立ち位置をそう理解した。
その後、しばらく二人の間に会話はなく、暗い通路には足音がコツコツと響く音だけになる。
気まずい沈黙。
ミセバヤは、ずっと考えていた。エントンの気持ちが理解できないわけではない。むしろ気持ちの面では全くの同意見だ。あんなの見捨てたも同然だ。
しかし、今後悔している時間はない。
カエデを助ける。アンを助ける。そして、エムバ本人を助けるためにも、今は機械の魔王のところに行かなければいけない。
ミセバヤは気が付いていたのだ。
種明かしはあの実験場のモニタールームで既に行われていた。
切り替わったモニターに映っていたのは囚われたカエデと、アンと、そしてエムバだった。
故にあの場に居たエムバが『毒の魔王』であることをミセバヤとルナは知っていた。その場にいた本人からはっきりと種明かしをされたのだから。
きっとカズたちが別行動をとったのは、ルナの変化に気が付いたからだろう。今頃二人とも情報を得ているはずだ。
「……」
だが、あそこで彼女が守ってくれた、というのは驚きだった。一体なぜだろうか。何かカッコいいことを言っていたが。そういう人種なのだろうか?
……とにかく、今は皆を助けるために少しでも早く機械の魔王の所に行かなければいけない。
早く、
早く、
早く、……
早、く?
「……………………………………………………………なんで?」
「あ? 何か言ったか?」
エントンは呟きを零したエムバの方に顔を向ける。が、やはり目が鳴れていないで顔がどこにあるのか今一つ分かっていないようだ。肩を貸されているので、だいたいの位置は分かっているようだが。
「つうかお前、よくこんな真っ暗な中でモノが見えるな」
「え、ああ、はい。目が慣れましたから」
「いやそういうレベルじゃねえだろ。だって俺、結構経ったけど真横に居るお前の顔すら見えねえんだぞ?」
もう夜目とかいうレベルじゃねえだろ、と。
「え……」
その言葉に、若干の違和感を覚えた。が、彼女はそれを「アハハ……」と、
「自分でもびっくりです」
笑って誤魔化した。
と、
「あ、エントンさん。あそこに……」
「いや、だから見えねえって……」
「部屋があります。突き当りの右側に」
「いやだから、突き当りって言われてもな……」
全く見えないエントンはそう言われたところで確認のしようがない。が、さっきと同様、引き返すわけにはいかない。とりあえず進めるところまで進んでからだ。
そう思ってミセバヤは「とりあえず行ってみましょう」とエントンに言い、エントンはそれに頷き、二人はその部屋に向かう。
そして、その部屋の前まで行くと、一度通路の壁に隠れる様に背中を付け、そっと中を覗いてみる。
刹那、
「うあっ!」
「きゃっ!」
今まで真っ暗だった世界が、一斉に明転する。
一体いくつあるのか。LEDのまばゆい光が二人の網膜を真っ白に焼く。
そして、明順応が間に合うよりも早く。
「ご苦労様」
聞き覚えのある声で、淡々と放たれた言葉。
そして、ようやく光に目が慣れてきたとき、
「これ、は……」
「どうなってんだよ……」
ミセバヤの目に入ったものは、巨大な空間に整列した円筒状の水槽のような、培養器のような物の群れ。
そしてその中には、あのロベリアという少女が……
「ロベリアかと思った? 違うよ」
「っ!」
「ここはルリの部屋だから」
背後からの声に振り返った瞬間、ルリは二人の顔面にスプレーで何かを吹き付ける。
「あ、しま―――――――」
「エ、ント……さん……」
それを浴びた二人は数秒も経たないうちに意識を失い、床に倒れた。
ルリはその様子を見てから、
「……」
念のためにもう一度ずつ二人の顔にスプレーをかけて、白衣のポケットからスマホを取り出し、
「ハックシュンっ! 寒い……」
さっき出てきたばかりなので裸にぶかぶかの白衣という格好なのだ。仕方がないとはいえさすがに寒い。
と、番号を打ち込み、電話をする。
「もしもし魔王様? 二人確保しました……はい。うち1人はちゃんとあの『神』です」




