ラブ・マギナ
ジジジ―…………
『……ん? これでカメラ回ってるのかな?』
『おい、お前だろこれ作ったの? なんで疑問形なんだよ』
『試作品だからだよ。魔力とのコラボだって完全に解明されたわけじゃないんだよ』
『……爆発炎上はごめんだからな?』
『皆それ言うね。月に一回あるかないかまで減ったでしょ?』
『あること自体がダメなんだんだがそれは』
『ていうかこんな感じの会話が前にもあって……まあ、いいやつだったよ』
『遠い目をするな遠い目を』
『まあまあ雑談はこのくらいにして………さて、始めようかな』
ジジ、ジジジジジィィィィィ――――――………………
・・・
「えーっと……」
「ねえ」
「確かこの通りを右に曲がって……」
「ねえって、ミセバヤ」
「ん? どうしたのエムバ?」
肩を叩かれてミセバヤはようやく持っているメモから顔を上げる。
二人は今買い出しで町に出ているのだ。あの会議から「出発するなら当然早いが良い」ということになり、準備が整い次第出発するということになったのだ。
もっとも、その準備に少々時間がかかるため、出発は明日以降、予定では明後日ぐらいということになっているのだが。二人はその準備のための材料を買いに町の隅にある『店』を探している。
のだが、
「本当にこの道なの?」
エムバがそう不審げに訊くと、ミセバヤも少々不安そうにメモをチラリと見て、
「たぶんこの辺りのはずなんだけど……」
何とも頼りない返事を返してくる。
それに珍しくエムバの方がため息を吐き「しっかりしてよ~」と頬を膨らます。
蠱毒が抜けたからだろう。それとも責任感からか。
「もう疲れたよ~」
訂正。あまり変わってなかった。
心の中で湧きかけた尊敬に蓋をし「ごめんね」とミセバヤは謝る。内心失礼なことを言っているが、ミセバヤも目的の店を見つけることができていないのだ。早く見つけないとエムバにもさすがに申し訳ない。
と、メモを見ながらあーでもないこーでもないと探し回った結果、十分後。
「あ……あった!」
「ホントに!?」
その見つけた本人のミセバヤの声よりもエムバの歓喜の声の方が大きく、少しクスリと漏らしてしまう。
目的の店は町の隅の隅。廃れ気味のジメッとした場所に生えるように立っており、外観は緑化……というわけではないのだろうが、放置された緑が這い回っている。
まるで童話に出てくる魔女の家そのものだ。
最も、それに彼女たちは逆に信頼感を抱く。
『魔法屋』
それが彼女たちの探していた、そして見つけたこの店のジャンルである。
普通の道具屋はいわば広く浅くの商売だ。様々な商品を扱っていて、情報の編も広い。しかし専門知識はやはり狭く深くな職人と呼ばれる人の方が強い。
この店は名前の通り魔法の道具を専門に扱っており、この町では唯一にして最も有名な魔法屋なのである。
そのわけは……
カランカラン―――――――――
ドアを開くとドアベルが軽快に来客を迎えてくれる。
そして、
「いらっしゃい!」
「「え……」」
二人が思わずそう零してしまったのも頷ける。そこは外の荒れ具合からは想像できないほどきれいに整っており、白をベースとした空間に、カウンター、テーブル。玄関には花の香りがフワリと漂い、見ると立派な花々たちが花瓶に活けられている。
「あら、新顔さんね」
そう声をかけてきてくれたのはカウンター奥の女性。歳は二人よりも当然上で、癖のある栗色の髪を束ねてポニーテールにしている。顔には少々そばかすがあり、雰囲気的にはお姉さんといった感じだ。
「改めて、いらっしゃい! ようこそ『カフェ・ラブ・マギナ』へ」
若干狼狽する二人に店主らしき女性はにこりとひまわりのような笑顔を向けてくる。
そう、ここは知る人ぞ知る通なカフェなのだ。
コンセプトは秘密基地で、その中身と外身の雰囲気のギャップにリピーターになるお客が増え、秘かに人気スポットとして繁盛しているらしい。
彼女に二人はぺこりと頭を下げる。そしてミセバヤが歯切れ悪く「えっとぉ」と店内を見ながら彼女の方に行き、
「ここって魔法屋……ですか?」
その問いに女性は一瞬きょとんとして
「ああごめんごめん。おばあちゃんの方のお客さんだったのね」
と少し恥ずかしそうに頭を掻くと「ちょっと待ってね」と食器棚の法へ歩いていき、カップを二つ取り出してコーヒーを入れてくれる。
「砂糖はカウンターにあるからお好みで。っと、その前にコーヒーで良かった?」
「え、いや、私たちは……」
「お金ならいいよ。うちでは初めてのお客さんには毎回こうしてコーヒーをただで出してるんだ」
と、話している間にコーヒーは注がれ終わり、二人はそれを受け取る。それに素直に礼を言って砂糖をお好みでいれる。
「……エムバ、今何杯入れたの?」
「五」
そうして二人がコーヒーを飲んでいる間に彼女はカウンターから出てきて、
「このカウンターの奥がおばあちゃんの店なのよ。急いでないならここでゆっくりコーヒーを楽しんでいくといいよ」
「なら少しゆっくりしていきたいな」
エムバはそう言って腰を下ろしていたカウンター席に突っ伏す。それにミセバヤはクスリと笑い、
「ここに来るまでにかなり迷っちゃったからね。お言葉に甘えさせてもらいます」
それに彼女は「どうぞどうど」と温かく進めてくれる。と、そこで彼女はまだ自分の名前を名乗っていないことを思い出し、「そう言えばまだ名前を言ってなかったね」と申し訳なさそうに笑い、
「私は『スリーズ』。見てのとおりここの店主よ。よろしくね」
しばらくするとカップがすっかり空になっていることに二人とも気が付いた。スリーズと話している間にか飲み切ってしまっていたみたいだ。『美味しいコーヒー』というものの定義は人それぞれだろうが、こんな風に違和感なく自然に飲み切ってしまえるものもまたその部類に入るのかもしれないとミセバヤは少し思った。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
返されたカップをスリーズは嬉しそうに受け取り、カウンターの方に通してくれる。そして向かう二人の背中に手を振って「いってらっしゃい」と見送ってくれた。
それにエムバもミセバヤも会釈をして、奥の扉に手を掛ける。
扉はそこまで重たくなく、すんなりと開いた。
その瞬間、すぅと空気が冷えた。
足元を無数の蛇が這うように冷たい空気が一瞬抜けていき、
「……地下にあるみたいね」
エムバが言った通り、扉の先には地下に続く階段があり、左右には魔法のランプが灯されている。
魔法屋では薬品なども扱っているので日光や暑さを避けるために地下、もしくは窓の無いシェルターのような店を構えることが多い。
と、理由は分かっていてもそのおどろおどろしさ拭えない。
しかし立ち止まっている訳にも行かず、二人はその階段を降りていく。
が、思ったりと階段は短く、すぐにもう一つ扉が現れる。
一度ごくりと小さく息を飲むと、ミセバヤは取っ手に手を掛け、開く。
と、
「……いらっしゃい」
漂ってきたのは薬品の匂い。しかしギルドの医務室のものとは違う、どこか毒々しい臭いだ。
そしてそう出迎えてくれた老婆は「ヒヒ、」と嗤いを漏らし、
「ようこそ。魔法屋『ラブ・マギナ』へ。わしがここの店主『スリズィエ』だよ」




