果し状
水刀がスマホを見せた。
「このチャンネルを、エイヤのチャンネルにしない?」
「え?」
「今もう、逆エビの動画見た人がいっぱい登録してるんだよ」
「俺のチャンネル?」
「そう」
「何するの?」
「練習とか試合とか。エイヤが思ってること話してもいいし」
「…………」
「三熊みたいに勝手なこと言われるなら、自分で話した方がよくない?」
エイヤがスマホを見る。
「ちょっと考えさせて」
「うん」
その日の午後。
エイヤはジムで新聞の取材を受けていた。
「前回の試合の感想を教えてください」
「勝ててよかったです」
「あの技は狙ってましたか?」
「いいえ、プロレス好きなんで出ちゃいました」
「動画が話題になってますが」
「そうみたいっすね、通知が止まらないです」
「三熊さんの動画について、どう思われますか?」
「嘘ばっか言ってます」
「例えば?」
「俺、無理やり試合に出されたわけじゃないです」
記者がメモを取る。
「3週間で試合に出たのは事実ですよね?」
「はい。でも自分で出たいって言いました」
「不安はありませんでしたか?」
「そりゃありましたけど」
「ジムで働いていることについては?」
「俺がやりたいって言って働いてます」
「待遇に不満は?」
「ないです」
「女性については?」
エイヤの表情が変わる。
「それは俺から話すことじゃないです」
「分かりました」
取材が終わり、記者が帰った。
エイヤが椅子にもたれる。
「疲れた……」
ピコン。
スマホに通知が届いた。
『三熊チャンネル 新しい動画が公開されました』
「また?」
エイヤが画面を開く。
『ボクシングコーチのヤバイ過去』
「これ……」
動画を再生する。
『今話題の逆エビファイター』
『情報提供者によると、実はボクシングも習ってるんですよ』
『そのコーチが、またヤバイんです』
エイヤが画面を見つめる。
『昔、人を脅して金を取ってたらしいんですよ』
『そんな人間にボクシング教わってるって、どうなんですかね』
エイヤはすぐに、けい太へ電話をかけた。
プルルルルル。
プルルルルル。
「出ない……」
もう一度かける。
その日けい太からの連絡はなかった。
次の日。
コンビニで新聞を見かけた。
昨日の取材が載っている。
『炎上ジムの18歳ファイターが告白』
『3週間で試合へ「不安だった」』
「え?」
記事を読む。
自分が話した言葉は書いてある。
でも。
読んでいると、まるで黒和田に無理をさせられたみたいだった。
「言ってることと違うじゃん……」
自分のことなのに。
自分以外の人が、傷つけられていた。
エイヤは水刀に電話をかけた。
「もしもし、水刀?」
「どうした?」
「あの話」
「チャンネル?」
「うん」
「やりたい」
「マジ?」
「うん」
「じゃあ今日会える?」
その日の夜。
水刀の部屋。
スマホをテーブルの上に置く。
「じゃあ撮るよ」
「ちょっと待って」
「何?」
「何話せばいい?」
「最初なんだから自己紹介でいいじゃん」
「自己紹介?」
「うん」
水刀が録画ボタンを押した。
エイヤがカメラを見る。
「…………」
一度、息を吸った。
『みなさん初めまして』
『張切エイヤです』




