第142話 神すら彼を見ることができない
ベルゼブブを殺せるのは人間でなければならない。
つまり――ベルゼブブを殺せるのは、俺しかいないということだ!
俺の仲間たち――
フェアリーは人間じゃない。彼女はピクシーで、体を巡る魔力と自然の本質が、彼女を常にその境界線上に留めている。
サチは言うまでもない――彼女に命を奪うことなんてできるはずがない。この子の瞳には、これまで一度も「殺意」なんてものは宿ったことがない。
ユウキは刑事だった。彼女のあらゆる動きの最優先事項が「殺さないこと」だというのは、俺が全財産を賭けてもいい。剣の一振り一振りは、計算し尽くされた外科医のメスのように正確なのに。
ワカナがその一線を越える可能性が一番高かったが、彼女の神器は直接戦闘向きじゃない。あくまで補助や支援寄りだ。
「よし!やっぱり俺が行くしかないな!」
俺は深く息を吸い込み、知恵の書を開いた。ページが風に持ち上げられるように独りでにめくれていき、金色のルーン文字が表面を流れていく。
まずは一番強い化身を選んで戦おう!
『雷靈鳥』
次の瞬間、肩甲骨の間が引き裂かれるような激しさで焼けつき、藍色の翼が一対、筋肉と骨を突き破って強引に生えてきた。
羽根は金属のような光沢を帯びていて、羽根同士が擦れるたびに小さな電気の火花が弾けた。
髪は深い藍色の羽毛に変わり、まっすぐに、雷で焼かれたように鋭く逆立った。
指先からは鉤爪が伸び、空気に細かい切れ目を残せるほど鋭かった。
雷が体にまとわりつき、まるで電流に支えられているかのように軽く浮き上がった。
戦場の後方では、塩昆布とジャガイモが全軍の攻撃目標を指揮していた。
二人の声は混乱の中でも澄んで通り、まるで二本の頑丈な灯台のようだった。
アンドリアス・サピエンスたちが巨大な食卓の上でぬめった尾を引きずり、大群のウルフフライと絡み合って、肉の塊のような混沌を作り出していた。
ゴキブリと白蟻が空中を旋回し、羽ばたきの音は無数の刃が一斉に空を切るようだった。
ピクシーたちが観の門を通してエインヘリャルを送り込んでいた。門の向こうの光は、まるで別世界の日の出のようだった。
食料部隊は命を惜しまずベルゼブブへ突撃するあらゆる隙を見つけていた。蠅の王の黒い霧の中で体を腐食され、引き裂かれても、彼らは決して怯まなかった――二度目の生があるからだ。
誰かが倒れた瞬間、俺はすぐさま彼をさらに強いエインヘリャルへと変換できた。
ヘイムダルは俺を見た。その視線は俺の魂全体を見透かすようだった。
「人間よ、だいぶ強くなったようだが……」
「地獄の七魔王の一撃を受け止められないことくらい、分かってる……」
その言葉を口にすると、胸の中の雷がさらに圧縮されていくような感覚がした。
「だから……」ヘイムダルは俺から視線を外さずに続きを待った。
俺はにやりと笑ってみせた。
「だから、こそこそ行くしかないだろ!」
俺は隠密の風のフードを引っ張り出した――隠密セットの最後の一つだ。
フードを被った瞬間、世界の音が半分吸い取られたように感じた。呼吸も、心臓の鼓動も、雷が弾ける音さえも、強制的に抑え込まれていく。
ヘイムダルは知恵の書に感嘆した様子で話しかけた。
「ジェフティ、この装備、どこで手に入れた?」
彼は笑った。「羊の毛が伸びる音だって聞こえる俺が、今はあの人間の呼吸の音すら聞こえない」
知恵の書がページをめくった。何かの符号を打ち込んでいるかのようだった。
ヘイムダルは首を傾げて耳を澄ませ、眉間の皺がどんどん深くなっていく。
『ほう……なるほど……ふむ……理解した……そんな出所は、口にするのも恥ずかしいほどのものだな』
この二柱の神様……知りたい気持ちがますます強くなるじゃないか!
ヘイムダルは俺の仲間たちに、悪戯っぽい視線を投げた。まるで甥っ子を喧嘩に連れ出そうとする、やんちゃな叔父さんのようだった。
彼はおおよそ俺のいる方向に向かって話しかけた。
「人間よ、お前には一撃しか許されない。その一撃で、最大限の被害を与えなければならない」
彼の視線の焦点は定まっていなかった――本当に俺の姿が見えていないのだ。
「俺はもう一度あの巨大な蠅に挑む。全力でお前のために隙を作ってみせよう」
そう言うと、ヘイムダルは剣を掲げた。雷が刃の上で踊る。彼は踵を返し、食料部隊とエインヘリャルの戦列へと戻っていった。
一歩踏み出すごとに、まるで軍太鼓が地面を打ち砕くような音が響いた。
同時に、ジェフティも密かに力を貸してくれているようだった。
セット全体の機能が整理された情報として、頭の中に直接送り込まれてきた――まるで誰かが脳の中で明かりを灯したかのように。
隠密セット 5/5
隠密の地雷砲――地雷を設置する
隠密の壁伝いブーツ――壁を登る
隠密の迷彩マント――色を変える
隠密の毒牙ガントレット――近接攻撃に毒の効果を付加する
隠密の風のフード――敵を強制的に盲目にする
セット効果
その一――敵意感知
その二――サイレントフィールド
その三――反応速度トリプル恒久化
その四――完全不可視
ワカナのほうに目をやった。
彼女の周りは台風の目のようになっていた。フェアリーが無数の風刃を呼び出して、彼女を守っている。
ワカナは真理の鏡から機関銃の弾帯を引っ張り出して、二人の兵士に手渡していた――
一人はベトナム戦争時代のアメリカ軍の迷彩服、もう一人は南方作戦時代の日本軍の軍服を着ていた。
二人とも、慣れた手つきで弾帯を受け取った――異なる時代の戦士たちが、同じ瞬間に肩を並べて立っていた。
次にユウキのほうを見た。
サチが彼女の前に出て突撃していて、両手に持った翠甲羅でベルゼブブの杖の一撃を防いでいた。
ぶつかるたびに大きな鐘を打ち鳴らしたような音が響き、その衝撃で周りの空気が歪んだ。
盾の後ろでは、ユウキの剣が赤と青の光を交互に閃かせていた。彼女の足運びは、まるで線の上を歩くように制御されていて、一撃ごとにベルゼブブを守勢へと追い込んでいく。
俺は自分の気配を完全に封じた。
一歩、また一歩。音を立てず、着実に蠅の王へと近づいていく。
地面は腐食の跡に覆われ、黒いヘドロが生き物のようにうねっていた。
ベルゼブブの姿は黒い霧の中で明滅していた。翼を一振りするたびに、悪臭を放つ風が吹いた。
彼は絶えず位置を変えて、サチとユウキに隙を見せようと誘っているようだった。
巨大な蠅にしては、その足運びはあまりに軽やかだった。まるで戦場で死の舞踏を踊るダンサーのように動いていた。
そのせいで、俺は彼に近づくのがなかなか難しかった。
ヘイムダルもそれに気づいていたのだろう。
戦いに加わった瞬間から、彼はベルゼブブが動ける時間を削ることに全力を注いでいた――
剣の圧力で逃げ道を封じ、雷の爆発で足を止め、翼の羽ばたきそのものを力ずくで抑え込んだ。
ついに、俺の手がベルゼブブの背中に触れた。
激しい戦闘のせいで、さっきまでの詩人めいた優雅さを保つ余裕は、彼にはもうなさそうだった。
今、その背中は氷のような甲殻のようで、ぬめっていて、腐敗の温度を帯びていた。
彼の膜翼の一枚をつかんだ。翼は絞られている濡れた布のように、俺の手の中でもがいた。
『サンダー』
俺は持てる力のすべてを注ぎ込み、電流を解き放った。
腕から雷が噴き出す――まるで空全体が一本の稲妻に圧縮されたかのようだった。
『ぎゃあああああ――』
ベルゼブブが悲鳴を上げた。その声は金属同士が擦れ合うような、耳障りな響きだった。
全身から煙が立ち上る。黒い霧が雷に引き裂かれた。彼は苦悶にもがきながら、全力で大きく前に跳んだ。
彼は振り返って俺を睨みつけた。怒りをむき出しにして。
複眼は焼け焦げたようになっていて、狂気じみた光がちらついていた。
「濁世の人間よ……貴様、何をした!」
かつて、神はベルゼブブの翼を二枚引き裂いた。
そして今――俺の手の中にあるのは――三枚目だ。




