第129話 揺らぐ裏切り者
敵の到着は、誰も予測できないほど速かった。
いつ来ていたのか、僕たちのうち誰も、はっきりとは言えなかった。
茂みが先に動いた。
すぐ近くで、ガサガサという音が立ち上がった。
ユウキが勇気の剣を抜いた。
ワカナが僕の左に並んだ。
フェアリーはもう手の中に風の魔法を集めていた。
ネズミ王はその場から動かなかった――まるで、人質を握っている以上、何が来ようと僕たちが食い止めるのを、確信しているかのように。
そして、敵が姿を現した。
彼は急ぐでもなく、慌てるでもなく、登場のタイミングを自分だけが選べるとでも言うように、茂みの中から歩み出てきた。
彼にも分かっていた――僕たちはすでに、その接近を察知していたと。
体はこちらのムカデより大きく、四本の足が一歩踏み出すごとに、サバンナにかすかな振動が走った。
毛並みは濃いオレンジ茶色で、瞳孔は細い縦長――まるで金色に刻まれた二本の亀裂のようだった。
猫だった。
途方もない大きさの猫。
「あの爪痕の形だね」
ユウキが静かに言った。剣を握る手は緩めなかった。
猫は開けた場所を見回し、僕たちに一瞬視線を留めてから、ネズミ王のほうへ向きを変えた。口角がほんのわずかに引き上がっていた。
「俺の名はビュゴル」
喋った。
「喋る猫?」
ワカナがどんどん僕に身を寄せてきた。
「そんなに珍しいか?」
僕は横目で彼女を見た。
「この世界、猫が喋るんだよ!」
「大したことないだろ――ロブスターとだって会話できるんだから……」
「猫は別なの!見て、この毛並み♡」
「ちょっと……なんで急にファンガールモードになってるの」
「この世界で、マスミ以外で一番可愛いのは猫なんだから」
ビュゴルの視線がこちらに戻ってきた。声に言いようのない気だるさを宿していた。
「ネズミ王に手を貸すなんて、少し意外だ」
「こっちにも事情がある」
僕は言った。
「事情は知っている」
彼は欠伸をして、歯を一列、丸ごと露わにした。
「だからこそ、お前たちは愚かだと言うんだ」
「どうして愚かなの?」
ユウキが聞いた。口調は僕が思っていたより、ずっと真っ直ぐだった。
「ネズミは、お前を脅威と見なした瞬間、噛みつく」
ビュゴルが前足を一本持ち上げて、舐めた。
「あいつが今お前と組んでいるのは、お前が必要だからだ。あいつがお前を必要としなくなった日には――」
「言いたいことは聞いた。でも、その日が来るとは思っていない」
僕は言った。
ビュゴルは前足を下ろし、もう一度僕を見た。
あの縦長の瞳孔がわずかに収縮した――何かを計算し直しているように。
「面白い。じゃあ、その日が来ないようにできるか、見届けようじゃないか」
彼が突進してくる速度は、僕がまったく予想できなかったものだった。
あれだけの巨体で、あれだけの速度――
僕は横に飛び、ユウキは別の方向に跳び、ワカナはもうライターを取り出して投げつけ、その炎の爆発を踏み台にして後ろに跳んだ。
戦場全体が、その一瞬で混沌に呑み込まれた。
ムカデが突っ込み、蛇部隊が両翼から押し寄せ、ネズミも動き出して続き、僕の戦力は水のように猫へと流れ込んでいった。
でもビュゴルはトカゲでもヤマカガシでもなかった。
彼が振り下ろす一爪一爪に重みがあり、一払いごとに何匹ものゴキブリが十数メートル先まで吹き飛んでいった。
獰猛に振る舞っているわけですらなかった――どちらかと言えば、用務員が掃除でもするように、悠長に床を掃いているという雰囲気だった。
猫が虫と戯れる時の、あの上の空な様子そのものだった。
殺意というものを数値化できるなら、今の彼のそれは間違いなくゼロを示しただろう。
「ワカナ!」
僕は叫んだ。
「了解!」
彼女が後ろからアルコールのボトルを何本も投げ、僕が風の魔法で炎をビュゴルの顔に向かって押し流した。
彼は脇に跳んだ。速度があまりに速くて、一瞬姿が消えたかと思うと、左側に現れた。
ユウキの勇気の剣が彼の脇腹に切り込み、刃の赤い光が傷口を引き裂いた。
HP -1247
効いている。
しかも、それなりのダメージだ。
でもビュゴルを見ていると、その傷を全然気にしていないようだった――まるで毛繕いの最中に、ほんの少し皮を引っ掻いてしまっただけ、みたいな様子だ。
ムカデと蛇が交代で彼の足を絡めとった。食料部隊は下がって、僕とユウキとワカナの三人で、別々の角度から攻撃を仕掛けた。
戦術は機能していた。
ビュゴルのHPは一巡ごとに減っていき、彼もこちらに爪を振り回し始めた――でも、最初に見せていたあの余裕の構えは、もうそこにはなかった。
HP -4892
HP -3107
HP -2566
こいつのHP、なんでこんなに恐ろしい数字なんだ?
「ねえ、こいつ、本当に何の猫なの?」
僕は半ば呆れて叫んだ。
「私だってそう聞きたいよ――HPもう一万超えてる。恐竜級だよ!」
ワカナも驚きを隠せていなかった。
相手が猫だったから、二人とも全力で戦いきれていなかった。
でも、見て取れる――ビュゴルは、もうそう何発も耐えられない様子だった。
明らかに、回避に重心を寄せ始めていた。
僕がトドメの命令を出そうとした、その瞬間――
背後で悲鳴が上がった。
振り返ると、ネズミ王が向きを変え、群れを率いて、こちらの隊列の後方に襲いかかっていた。
ちょうど、焼きジャガイモと老昆布のいる場所だった。
「あの腐れネズミ、何のつもりだ!」
僕は叫んだ。
「これは……戦闘中の寝返り!何の得があるの?」
ユウキの顔には疑問が溢れていた。
ビュゴルが前方で低く笑った。
「やはりな。あのネズミ、前にもこの手を使っている」
僕はネズミ王のほうを見た。
彼はその場に立ち、僕を見返していた。
その目には、計算が満ちていた。
「最強の二者に殺し合わせて、勝った方から獲物を奪う」
ビュゴルが一拍置いて、尻尾を一振りした。
「あのネズミたちは自分が賢いと思っている。一つの勢力を借りて、別の勢力を倒せると」
背後で食料部隊の悲鳴がもう一つ上がった。
「ふっ。連中は毎回、辛抱が足りない。担いだ塔の登攀者を、いつも少し早すぎる段階で裏切る」
ビュゴルの口調は、まるで高額の懸かった一局を観戦するプロ棋士のようだった。
僕は猫のほうへ顔を向けた。
「ああ、俺はお前を助けない」
彼は三日月のような形の笑みを浮かべた。
「お前が自分で巻き起こした騒ぎだ。観戦させてもらう」
ビュゴルはその場で、悠々と座り込み、前足の一本を軽く胸元に折りたたんだ。
その完全にくつろいだ姿勢は――あとはポップコーンのバケツと、ソーダの一杯さえあれば完璧、というところだった。
彼は首を曲げて、戦闘で乱れた毛並みを整え始めた。同じ動作のついでに、鋭い爪と歯を、さりげなく見せつけた。
僕に思い出させるためだ――いつでも、ネズミと向き合っている僕に飛びかかれるのだ、と。
「マスミ、こっちのほうが急ぎ!」
ユウキが急いで僕を巨大猫から引き離した。
このネズミの裏切りで、隠密部隊で築き上げた優位は、もう失われていた。
残されたこの戦いは、ほぼ互角の戦力同士の正面衝突だ。
これはまずい……
他の勢力が介入しなければ、結末はもう見えている――どちらも甚大な被害を出すことになる。
その時、東側の茂みが、突然動いた。
その気配は、ビュゴルが最初に現れた時のあの空気にとてもよく似ていた――でも彼は、まだ僕の目の前にいた。
ほとんど聞こえないくらいの、かすかな足音……
茂みの上に、久しぶりに見る馴染みのある顔が見えた――
サチ!
彼女はもう一匹の猫の背に乗っていた――毛並みの色はもっと薄く、瞳孔は同じく縦長で、でもその眼差しにはビュゴルの気だるさはなく、代わりに、僕には名状しがたい何かがあった。
「マスミ!」
彼女が僕を呼んだ。
僕が固まっていた一瞬の間に、彼女は乗っている猫の首元の毛に手を差し入れ、幸運の指輪を取り出して、高く掲げた。
「助っ人連れてきたよ!」




