表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気を読めない男、空気を読んで最強に至る 〜奴隷の坑道で磨いた"物理的な空気読み"。死闘を重ねて俺は這い上がる〜  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/206

0175.マンモーニとパッポーニ



 『第二試合、先鋒戦開始ィッ!!』


 銅鑼の音が、熱気に満ちた

 コロッセオの空気を震わせる。

 

 『アンチ』の先鋒、テッシと、

 『自由の風』の先鋒、アノン。

 対照的な二人が、

 石造りのリングで対峙していた。


「へへッ! 相手はガキかよォ!

 兄貴ィ、見ててくれよなァ!

 俺の『宣言する青年(リーチボーイ)』の凄さをッ!」


 パイナップル頭の男、テッシが

 短剣を片手に奇妙なポーズをとる。

 その全身からは、

 異質なマナの波動が立ち上っていた。


 対するアノンは、

 真紅のローブを優雅にはためかせ、

 不敵な笑みを浮かべている。

 

 その手には愛用の杖。

 だが、その構えは魔法使いの

 それとは明らかに異なっていた。


「ふん、やかましい男じゃ。

 その減らず口、妾が塞いでやるとしよう」


「ハッ! 出来るもんならなァ!

 『俺の刃は……届くッ!!』」


 テッシが叫んだ瞬間、

 彼の手にした短剣が輝いた。

 

 切っ先からマナが噴出し、

 実体のない刃となって伸長する。

 それは本来の刀身の五倍もの長さになり、

 アノンの喉元へと迫った。


「ほう?」


 アノンは眉一つ動かさず、

 半歩だけ身体をずらす。

 風を切る音が頬を撫で、

 数本の赤い髪が宙に舞った。


「避けたか! だがなァ!

 『俺の斬撃は鋭いッ!!』」


 テッシが再び宣言する。


 伸びたマナの刃が、

 今度は石畳をバターのように

 切り裂きながら横薙ぎに走る。


 物理的な鋭利さだけではない。

 物質の結合を断つような、

 概念的な切れ味が付与されている。


「鬱陶しいのう!」


 アノンが杖を振るう。


 ──カィィィン!!


 甲高い音が響き、魔力の刃が弾かれた。


 アノンの杖に纏わりつく

 濃密な『土の保持』が、

 テッシの攻撃を完全に相殺したのだ。


「チッ! 硬ぇな! ならばッ!

 『俺は誰よりも速いッ!!』」


 テッシの足元で空気が爆ぜた。

 

 姿がブレる。

 次の瞬間には、アノンの背後へ。

 

 瞬間移動にも似た超高速機動。

 それは風の『循環』と火の『活性』を、

 言葉一つで強制的に引き出した結果だ。


「死ねやオラァッ!!」


 背後からの刺突。

 反応できるはずがない速度。

 

 だが。


 ──ドォォォンッ!!


 爆音が響き、テッシが吹き飛んだ。

 アノンの肘打ちだ。

 後ろも見ずに放たれたその一撃は、

 ロケットのような推進力を伴っていた。


「ぐべッ!?」


 地面を転がるテッシ。

 すぐに受け身を取り、

 顔をしかめてアノンを睨む。


「いってェなコラァ!

 魔法使いが肉弾戦なんて、

 聞いてねえぞッ!!」


「ふんっ。時代遅れじゃな。

 妾は『紅蓮の大魔導師』じゃが、

 殴っても強いのじゃ!」


 アノンが杖を構え直す。

 その全身を陽炎が包んでいた。

 

 純度の高い『火の活性』。

 それによる身体能力の極限強化。

 さらに、体内を巡る『風の循環』が、

 思考と反射速度を加速させている。


 魔闘術。

 ガレスとの特訓で手に入れた、

 アノンの新しい戦闘スタイル。


「くそッ! なんだそのデタラメは!

 だがなァ! 俺の能力は無敵だ!

 『俺の傷は治るッ!』」


 テッシが宣言すると、

 肘打ちで凹んだ胸当ての下から、

 ポキポキと骨の戻る音がした。

 強引な自己再生。

 これもまた、法術の応用だ。


「宣言するだけで事象を書き換える……か。

 便利な能力じゃな」


 アノンが冷ややかな目を向ける。

 その瞳は、テッシの能力の

 “正体”を見抜いていた。


「だが、貴様。その力の『中身』を、

 理解しておらぬな?」


「あァ!? なんだとォ!?」


「貴様のやっておることはただの自動化じゃ。

 『速くなりたい』と願えば、

 勝手に風と火のマナが組まれる。

 『硬くなりたい』と願えば、

 土のマナが壁を作る」


 アノンは一歩、踏み出す。


「だが、それは所詮お仕着せのプログラム。

 貴様自身がマナを編んでおらぬゆえ、

 燃費が悪すぎるのじゃ」


「うるせェッ! 知った風な口を!

 俺の『宣言(リーチ)』は最強なんだよッ!

 『俺の攻撃は……必中だッ!!』」


 テッシが短剣を投擲する。

 

 投げられた刃は空中で軌道を変え、

 まるで生き物のようにアノンを追尾した。

 

 因果律への干渉に近い、高度な術式。

 だが、それを強引に発動させた代償に、

 テッシの顔色がわずかに青ざめた。


 マナの急速な枯渇。

 アノンの指摘通りだ。


「必中などと、安い言葉じゃ」


 アノンは避けない。

 代わりに、左手をかざした。


連鎖する灼焔(チェインフレア)


 掌から放たれた小さな火種が、

 迫りくる短剣に触れる。


 ──カッ!


 小規模な爆発が起き、

 短剣が弾き飛ばされる。

 だが、それだけではない。

 

 爆発の炎は連鎖し、

 次々と新しい火種を生み出しながら、

 テッシの方へと伸びていく。


「なッ!? 爆発が生きてる!?

 だがッ!『俺の壁は……鉄壁ッ!!』」


 テッシが慌てて防御を宣言する。

 目の前に透明な障壁が展開される。


 ──ドォォォン!!


 連鎖爆発が障壁に直撃し、

 黒煙が巻き上がった。


「へッ、防いだぜ……!」


 冷や汗を拭うテッシ。

 だが、煙の向こうから、

 赤い影が飛び出してきた。


「よそ見をしておる暇があるのか?」


「なッ!?」


 アノンだ。

 

 爆風を目隠しにして、

 一気に距離を詰めていたのだ。

 杖を振りかぶり、

 その先端に爆縮したマナを宿す。


「魔闘術・爆砕打(バースト・インパクト)!!」


「『俺は……受け流すッ!!』」


 テッシが咄嗟に叫ぶ。

 身体が液体のように柔軟になり、

 衝撃を逃がそうとする。

 

 だが、アノンの攻撃は、

 単なる物理打撃ではなかった。


 接触の瞬間、

 杖先で圧縮された風と火が、

 指向性を持って炸裂する。


 ──ズドンッ!!


「がはァッ……!?」


 受け流しきれない衝撃が、

 テッシの内臓を揺らす。

 身体が吹き飛び、地面を転がる。


「はぁ……はぁ……ッ!

 クソッ、なんでだ……!

 俺の宣言通りになるはずだろォッ!」


 テッシがよろめきながら立ち上がる。

 その顔には、焦りと困惑が滲んでいた。

 自分の能力は絶対のはずだ。

 望めば叶う、魔法の言葉のはずだ。

 なのに、なぜ押し負ける?


「わからぬか、凡人」


 アノンが杖を片手に、

 悠然と歩み寄る。

 その背後には、揺らめく陽炎が、

 まるで悪魔の翼のように見えた。


「貴様の『宣言』は、

 自動で最適な術式を組む。

 それは確かに早くて便利じゃ。

 だが……そこに『意志』がない」


 アノンの赤い瞳が、テッシを射抜く。


「マナの量も、術式の密度も、

 貴様が制御しておらぬ。

 ただ垂れ流しておるだけじゃ。

 対して妾は全てをこの手で編み上げておる」


 活性の出力。循環の速度。

 爆発のタイミング、使うマナの量。

 その全てをアノンは自らの意志で制御し、

 最適化し、組み合わせている。

 

 借り物の力と、鍛え上げた技術。

 その差が、この結果だ。


「うるせェッ! 黙れ黙れ黙れェッ!

 俺は選ばれた能力者なんだよォッ!」


 テッシが逆上する。

 残ったマナを全て振り絞り、

 最大の宣言を叫ぶ。


「『俺の目の前の敵は……消滅するッ!!!』」


 ──ゴゥンッ……!!


 空間が歪む。


 それは、ただの攻撃ではない。

 存在そのものを消し去ろうとする、

 因果への干渉。

 禁忌に近い領域の魔法だ。


 テッシの鼻から血が噴き出す。

 キャパシティを超えた行使。


「消えろォォォォォッ!!」


 歪んだ空間の波が、

 アノンへと押し寄せる。

 避けられない。防げない。

 触れれば、存在ごと削り取られる。


 だが、アノンは笑った。


「……やはり、馬鹿じゃのう」


 アノンは杖を突き出し、静かに紡ぐ。


「無理を通せば道理が引っ込む。

 通らぬ無理は自壊するのみ」


 アノンの周囲に風の渦が巻き起こる。

 『循環』の極致。

 マナの流れを読み、整え、そして逆流させる。


風の法術(アーツ・ウインド)──『還流』」


 アノンが杖を一閃させる。


 ただそれだけで迫りくる空間の歪みが、

 ピタリと止まった。そして──。


 ──ギュルルルルッ!!


 歪みが、渦を巻いて反転する。

 テッシの放った力が行き場を失い、

 制御を失ったマナの奔流となって、

 主のもとへと逆流した。


「な、あ……!?

 俺の宣言が……戻って……!?」


「貴様のマナが足りておらぬのじゃ。

 未完成の術式など、

 風に乗せて返せば崩れるわ!」


 アノンが地を蹴る。

 逆流するマナの波に乗り、

 紅蓮の彗星となって突っ込む。


「終わりじゃ! 魔闘術奥義──紅蓮衝プロミネンス・ドライブッ!!」


 杖の先端に超高密度の爆炎を圧縮。

 さらに全身の『活性』を、

 一点に集中させる。

 魔法と物理の完全なる融合。


「ひ、ひぃぃぃッ!?」


 テッシは動けない。

 自らの放った力の反動と、

 アノンの放つ圧倒的なプレッシャーに、

 金縛りのように縫い留められている。


 ──ドゴォォォォォォォォンッ!!!


 閃光が弾けた。

 アノンの杖がテッシの腹部に深々と突き刺さる。

 その瞬間、圧縮された爆炎が解放され、

 テッシの身体を遥か後方へと弾き飛ばした。


「ぶべらァァァァァッ!!」


 テッシは錐揉み回転しながら宙を舞い、

 場外の壁をめり込んでようやく止まった。

 黒焦げになり、白目を剥いて気絶している。


 静寂。

 そして、爆発的な歓声。


『しょ、勝負ありぃぃぃッ!!

 勝者、自由の風! アノン選手ゥゥッ!!』


 アノンは杖をくるりと回し、

 背中に担いでふんぞり返った。

 

 ローブの裾が焼け焦げ、

 息も少し上がっている。

 だが、その表情は晴れやかだ。


「ふん、口ほどにもない。

 宣言する前に、実力を磨くことじゃな」


 アノンは小さくピースサインを送る。

 そこには、呆れながらも拍手を送る、

 ヴェルたちの姿があった。


「……まったく、派手にやりやがって」


 ヴェルが苦笑する。

 

 だが、その横顔は誇らしげだった。

 あの小さな身体で、

 魔法使いの常識を覆す立ち回り。

 

 S級の娘という看板だけじゃない。

 彼女自身の強さを、

 確かに証明してみせたのだ。


 こうして第二試合は、

 アノンの圧勝で幕を閉じた。

 

 だが、戦いはまだ終わらない。

 次なる強敵たちが、

 牙を研いで待っているのだから。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ