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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第三章 火の国フレイナス

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0123.ボス戦 レッド・G・スコーピオン



 視点:俯瞰

 


「グレネード!!」


 まよねこの叫びが荒野に響く。

 

 困った時のグレネード。

 FPSで培った初手は、

 いつだって爆発から始まる。


 ピンを口で引き抜き、

 美しい放物線を描いて投擲。

 ミキのイラストが描かれた

 手榴弾が空を舞う。


(爆発オチなんてサイテー!

 とか言ってる場合じゃない!

 リアルはリスポーン不可!

 ガクブルでござるよぉぉ!!)


 内心で悲鳴を上げつつも、

 身体は勝手に動いていた。

 

 染み付いたゲーマーの性。

 「隊長」としてのロールプレイが、

 彼の足を震えさせながらも、

 地に着けさせている。


「キロロ殿は右舷へ! ミキたそは左舷へ展開!

 リラ殿は後方より援護射撃!

 各員、殲滅を開始せよ!」


 指示を飛ばして、まよねこは、

 AK-47|(ミキ仕様)を構える。

 レッドスコーピオンの群れへと

 容赦なく銃弾を撃ち込んだ。


『ダダダダダッ!』


 乾いた発砲音。

 薬莢が地面に落ちる音。

 硝煙の匂い。


「リロード!」


 あいもかわらず癖で叫ぶまよねこ。

 カシャン、とマガジンを叩き込む。

 その手つきだけはもう、歴戦の兵士のそれだ。


 


 ──右舷。

 

 そこでは黄金の暴風が、

 猛威を振るっていた。


「ぼくのでばんだよー!

 いっぱいたおして、かえったら

 セリアおねえちゃんに

 いーっぱいほめてもらうんだ!」


 無邪気な声と共に、キロロの両手が輝く。

 左右から伸びるは、

 光の粒子の結晶で出来た爪。


 それはまるで、

 神話の聖獣が振るう断罪の刃。

 爪のついた手甲で薙ぐように、

 レッドスコーピオンを屠っていく。


 サソリには使命はあっても、

 個の意思はないが如く。

 カチカチとハサミを鳴らし、

 まとわりつくようにキロロを囲む。


 だが、キロロはそれを意にもかけてない。


「ぼくにはついてこれないよ!」


 背から輝く光の粒子で織られた翼。

 バサリ、と一度羽ばたけば、

 その風圧だけでサソリが浮く。


 囲もうが囲まれなかろうが、

 キロロの行手を阻める者はいない。

 空を駆ける天竜の申し子に、

 地を這う虫ごときが届くはずもない。


「がおーーー!」


 可愛らしい咆哮と共に、口元にマナが収束する。

 

 放たれるは、一筋の閃光。

 極太のレーザーブレス。


『ジュボォッ!』


 それは地にぶつかり、眩い拡散を経て広がり、

 射線上のレッドスコーピオンを溶かしていく。


「ふふん! まだまだいけるよー!」


 蹂躙とも言える、竜族の暴力。

 止められない、抗えない力で。

 右舷のサソリの群れは、

 圧倒的速さで殲滅されていった。



 

 一方、左舷。


 ミキたそこと、初風ミキは、

 サソリの群れに囲まれながらも、

 のんきに構えている。


 構えるは、愛刀ならぬ愛根。

 『牛蒡』。


「換装ヨ!」

 

 身体を白い光が包み込み、

 その装いが変わっていく。


 近未来的な衣装から一転。

 

 頭には学帽。

 あずき色の袴にブーツ。

 大正ロマンを思わせる、

 ハイカラな軍服風の衣装へ。


「これがミキの、新衣装ヨ」


 まよねこの記憶にある、

 某楽曲のモジュールを再現したのである。


 そして、ミキがつぶやく。

 ごぼうを顔の前に立てて。


「舞え……千本紅葉」


『ザワッ……』


 地から、宙からか、ゴボウからか。

 どこからともなく現れた、

 紅と黄の鮮やかな紅葉の葉。


 ふわりふわりと舞い落ちるそれは、

 ただの落ち葉ではない。

 触れた者を焦がし、爆ぜさせる、

 高密度の炎の葉だ。


 だが、サソリに恐怖はない。

 本能のままに詰め寄るサソリは

 十数、いや数十を超える。


「無駄ヨ」


 ミキはごぼうを逆手に持ち替え、

 地に刺すように、

 サクリと突き立てる。


千本紅葉國義せんぼんもみじくによし


 「國義」とは誰なのか。

 それはもうミキにしか分からない。

 

 ごぼうは、ずぶずぶと

 地に吸い込まれていく。


 一瞬の静寂。

 次の瞬間。


『ズゴゴゴゴゴッ!!』


 地面が隆起した。

 

 やがてあたり一面に、

 巨大な“ごぼう”が、何本も生えてくる。


 刀の刃ではない。

 茶色くて太い、ごぼうだ。

 シュールである。

 シュールだが、威力は本物だ。


 ごぼうの林は、

 紅葉の葉を更に生み出して散らし、

 辺り一面を、紅蓮の花畑へと変えた。


 炎熱に巻かれ、サソリたちが次々と炭になる。

 その中心で、ミキは学帽のつばを直した。


「お前らの負けは、驕りの為じゃないヨ。

 ただ純粋に……格の差ヨ!!」


 カッコつけたミキ。

 背中で爆炎が上がる。

 決まった。

 完璧な勝利のポーズ。


 だが、その後ろ。

 燃え残った瓦礫の陰。

 足元にはまだ息のある、

 一体のレッドスコーピオン。


 最後の力を振り絞り、

 ミキのふくらはぎへ──


『チクリ!』


「痛いヨ!!」


 ミキの表情筋は動かない。

 だが声には明確な怒りがあった。

 反射的に、新たなごぼうを具現化する。


「フルボッコだヨ!!」


 ドカッ! バキッ! メメタァ!

 ごぼうで叩いて、叩いて、始末。

 付与された炎の剣の力で、

 サソリの傷口は発火し消し炭に。


「……カッコつかなかったヨ。悔しいヨ!!」


 掃討された左舷。

 

 ただ一人、焼け野原の中心で、

 ミキは地団駄を踏んでいた。



 

 一方、後方支援のリラ。

 彼女は懐から、ゴードンに買ってもらった、

 上質な水晶を取り出して微笑む。


(ボクは今、幸せなようだ)


 かつて、一人で回遊した放浪時代。

 

 誰にも認められず、

 誰にも必要とされず。

 長くも短いその旅とは違い、

 今は、仲間がいる。


 頼りにならないようで頼りになる、

 不思議な魅力と、無限の可能性を持つまよねこ。


 ふざけてばかりだが、まよねこを本気で思い、

 誰よりも強さを求めるミキ。


 自分に甘えてくれる、

 愛らしくも最強の種族、キロロ。

 かわいい。しゅき。だいしゅき。

 胸の奥が温かくなる。


「彼らの為になら、

 ボクはどこまでも頑張れるさ」


 水晶に指を添える。

 マナが込められていく水晶は、

 内側から淡い光を放ち、

 与えられたマナを増幅し、拡散する。


(イメージするのは流星群)


 拡散されて散らばるマナを、

 リラは形成し、加工し、

 直接的な攻撃魔術へと編み上げる。


 そして、土と火と風の複合魔法。

 ゼノンが修行で見せた魔術を行使する。


神の審判(エルミーティア)


 空が、赤く染まった。

 

 降り注ぐは、無数の隕石。

 サイズはテニスボールほどだろうか。

 ゼノンが使ったものよりは小さい。


 だが、豪雨の如く降り注ぐそれは、

 物理的な質量と、魔法的な熱量を併せ持つ。


『ドガガガガガガッ!!』


 前方のボスサソリの前。

 それを守るように進むサソリを、

 一網打尽に砕き、潰し、

 ただの煤塵へと変えていく。


「ふふ、ボクの魔術は危険だよ?

 火傷じゃ済まないからね」


 誰にともなく呟き、

 リラは眼鏡の位置を直した。

 もちろん、その声が

 聞こえるものなどはいない。


 ……少し前に立つ、この男以外は。


 


 ──男は、性格が勇敢になっていた。

 

 銃を握ると人が変わる。

 トリガーに指をかけるとスイッチが入る。


 かつてネットの海で、FPSという戦場で、

 クランチームを率いた隊長として。

 

 名前も覚えてない映画に出てくる、

 かっこいい大佐を理想像として。


 だが、その状態ですら思った。

 戦況を見渡し、冷や汗を流しながら思った。


(拙者いらなくないでござるかぁ!?)


 右を見れば、光の翼を生やした子供が、

 キャッキャと笑いながら敵を蹂躙している。


 左を見れば、炎の紅葉の花畑が広がり、

 サソリが蒸発している。あとごぼう。


 そして、正面は今しがた、

 天変地異が如く降り注いだ流星群が、

 残りのサソリを一掃した。


 男は考える。

 銃口を下げ、呆然と考える。


(もう全部、あいつら三人でいいんじゃないかな)


 だが、現実はそうもいかなかった。

 仲間たちはまよねこをリーダーとして認めてる。

 

 まよねこならやれると、

 過剰なほどに信じている。


 よって……地獄が託された。


「まよねこおにいちゃん!

 ざこはやっつけたよ!

 あとはぼすだけだよ! いっけぇ!」


 キロロが無邪気に叫ぶ。


「良いとこは残しておいてやったヨ!

 まよねこ、やっつけるヨ! 男を見せる時ヨ!」


 ミキが親指を立てる。


「さぁ、見せてやってくれ。

 かの魔物に、迷い猫(ストレイキャッツ)にまよねこありと!」


 リラが期待に満ちた目で促す。


 まよねこは心の中で絶叫する。


(余計なことをしないで欲しいでござるぅぅぅ!)


 部下なのか、子なのか。

 レッドスコーピオンを皆殺しにされたボス。

 レッド・G・スコーピオン。


 その複眼が、憎悪の光を宿して、

 震えるまよねこを捉えた。

 怒りが、ボスサソリを動かす。


『ギシャァァァァァッ!!』


 砂煙を上げ、加速していくボスサソリ。

 小屋ほどもある巨体。

 ガチガチと鳴らす巨大なハサミの音。

 ブンブンと振られる極太の毒針の尾。


 戦車だ。あれは生物ではない。

 装甲車が突っ込んでくるようなものだ。


(あぁ、オワタでござるな……)

(対ありでした……南無……)


 まよねこの足が震える。

 銃を持つ手が汗ばむ。

 

 逃げたい。今すぐ回線切断ログアウトしたい。


 だが、ここで逃げれば、

 またあの頃の自分に戻る。


「……やるしか、ないでござるか」


 まよねこは、覚悟を決めた。

 震える手で、AKのマガジンを変える。

 新しい弾倉。フルの装弾数。


「く、来るなら来い!

 拙者の弾幕は薄くないでござるよォォォ!!」


 

 どうなる、まよねこ!?



 


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