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国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    
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シーン35 壊れる前に・・・・

  


  シーン35 壊れる前に・・・


 モンタージュ作成さくせいにトロンスキーは協力的だった。要はその右横顔を見て思う。一度、心の結界けつかいやぶれた工作員は出口を求めて流れ出る水のように素直だと。何の為に働き、なぜこの仕事を選んだか、かては、職務宣誓は、任務は、まもるべきはが見事なまでに保身に変わる。



 今のトロンスキーには罪悪感さえないだろう。かえって、正しい選択をしたと思っているに違いない。



 祖国を裏切る罪と罰からのがれる為に、国の内部情報を語りながら内心で納得を深めつつ自我に目覚めてゆく。吐露という名の自由をトロンスキーは選んだ。資本主義には何事にも義務と責任がともなう。その対価たいかが自由だ。・・・トロンスキーはその真髄しんずいをわかっているのだろうか。今後、その代償だいしょうを一生払い続けるであろうトロンスキー。



 マジックアワーが空に幻想げんそうを描くように人の心もうつろいやすい。これからのトロンスキーには宗弥の支えが必要で、宗弥の安定にはトロンスキーが不可欠ふかけつだ。それはわかってる。コロンブスもそう動くだろう。だが、宗弥との接触をどう段取だんどったらいい・・僕にはまだ・・そのさくが明確に見えていない。どうすれば、誰にとっても最善になるの・・か・。



 聴取室のドアがカタンと音を立てて開くや、要がトロンスキーの横顔から視線を移すと、ターキーがせわしない歩調で入ってきた。ターキーの顔色に物憂ものうげを見た要が「どうした?」と声をかけるが、一瞬、要を見たターキーは何も答えず、トロンスキーの左隣に立つと右手に持っていた1枚の写真を机に置いた。そして「この男がマキシムか?」セリフを読むように聞く。鏡前に立っていた要は写真を見ようと広い歩幅ほはばで歩み寄った。



  ピエロだった。



 要はターキーの横顔に一気に視線を駆け上がらせ、要とターキーの間で「ああ、マキシムだ」と答えたトロンスキーの傾斜けいしゃした声がころがる。



 「クソ!!」と吐いた要の青さを増した皮膚のこめかみに太く青い血管が浮く。



 怒りで震え始めた右手を机についた要は「どこにいる?」と色褪いろあせた声で聞き、ファイターは要を目のはしえながらトロンスキーの真後ろに進み出る。



 要を見上げたトロンスキーが「ソウヤは恩赦おんしゃを受けられるか?その約束は固いか?」と力強い声で言い、「ああ!」と要は声を張って答え、それでも念押ししておきたいトロンスキーは両手を机について身体を支え、もがくように立ち上がって要と向き合うや「お前は身をていしてソウヤを守れるか?」と聞く、「お前に言われるまでもない!」要はトロンスキーの目をジロリと見返してそう即答そくとうする。その姿を舐め回すように見たトロンスキーの口元が綻んだ。要の身体に言葉のくいを打ち込んでトロンスキーは誓わせたのだった。



 トロンスキーは「ロシア大使館の向かいにセブンがあるだろう、その近くに“ガスとう“という喫茶店がある。そこにいる」と吐露とろした。速攻の要が[送る。イエーガーからオルガ、こっちに来てくれ。イエーガーからカンマル、看守を3人連れて来い]と入れ、ファイターはトロンスキーの両肩に左右の手をのせ「座れ」と言いながら押さえつける。トロンスキーを見るファイター目には軽蔑という名の冷ややかさがあった。




                    ★




 二人の看守は左右からトロンスキーのわきに肩を入れ、かつぐ肩から伸びた手でトロンスキーの腰をガッチリと掴んで歩き出す。その3人の後ろにいた看守はトロンスキーの背を狩りの最中さいちゅうのような目で睨み付けて続く。ドアが閉まると残された5人の男たちは要を見た。


 

 腕を組んで仁王立ちし、うつむいて思考しながらの要が「ターキー、どっからの情報だ?」と聞く。「イギリス情報機関からです」とターキーは淡々とする口調で答え、うなずいた要が[送る。イエーガーからシータ・チーム長ブリース、聞いていましたか?]と内耳モニターに入れ、ブリーズから[聞いていた。なんだ?]と返信が入ると、要は[宗弥の足取りは取れましたか?]とかさねて聞く。



 [20分前、しゃぶしゃぶ店の駐車場から黒のトヨタ・ヤリスクロスを盗んで首都高に乗った。東京方面に向かっている。シータは追尾ついびに入ってる。追いつくのは時間の問題だ。フレドの遺体も回収した。唾液と水でグッショリ濡れたハンカチが遺体のそばに放り投げてあった。フレドの口に入れたハンカチに水を垂らして何かを聞き出した後、絞殺したと俺は踏んでる。左の肋骨も3本折れていた。今、世田谷にいたウチの鑑識が極秘で現場検証中だ。キッチリと整頓せいとんされた車内の証拠品、ミミズがったような字のお前へのメッセージ、公園の歩道近くに放置したままの遺体、監視カメラの穴でおこなわれた車の窃盗せっとう、フレミングがやってることはあべこべだ。事情を知らない人物が見たら、個々の現場はそれぞれ違う奴の仕業しわざだと思うだろう。精神破綻せいしんはたんきざしが見て取れる。イエーガー、フレミングはこれから何をする気だと思う?お前の意見を聞かせろ」ブリーズは制御不能の怒りがこぼれ落ちる声だった。




 要は腹に力を入れ[おそらく宗弥は世田谷の現場でトロンスキーが死んだと思ったんです。マキシムの情報を引き出したんだと思います]と心情の混乱を押し隠して答えた。[マキシムをやる気か?]とうなるように聞いたブリースに、要は[仇討あだうちです。アルファーはこれから六本木にある喫茶店“ガス燈“の監視に入ります]と伝え、[了解した。合流となりそうだな]と言ったブリーズに、視線を落とした要は[はい]と短く応じ、フリーズは[連携して移動しよう。うちの通信担当ユージンとの通信を途絶えさせるなよ。頼んだぞ]と個性的な低い地声で言い、要は[承知しました]とキビリとする口調で応えた。クソ、、、とうとう人を殺めやがった。これでコロンブスの選択肢はグンと狭まり、サラマンダーは部隊を守る為に粛清にかかる。誰よりも早くブリーズに宗弥を捕縛させなければ。




 総員の注目が集まる中、青きまなこを上げた要は「ターキー、本陣でアルファー、ベーター、シータの通信と情報管理を頼む]、[了]と応えたターキーは部屋から走り出る。なおの要が「カンマル、サラマンダーと調整してアルファーと現場に出てくれ。装備を整えて15分後に地下駐車場に集合しろ」と言うや、カンマルは[送る。カンマルからサラマンダー]と呼びかけながら部屋から飛び出した。  



 急ぎ廊下に出た要がファイターに「フルだ」と言うや、ファイターは走り出し、要の右隣を足早に歩くトーキーは「イエーガー、出る前にビスケットの診療を受けてください」と話しかけ、トーキーに揺るがぬ眼差しを向けた要は「心配するな、オルガがいる。マキシムの身柄確保は一刻いっこくあらそう。宗弥にこれ以上はさせられない」と極度に感情を殺した声で言った。それを聞いたオルガは“クソ、こんな身体で現場に出る気かよ、イカれてる“と思いながらも、1分でも長く装備を整える時間が欲しくて「先に行きます」と言いつつ、責任に押し出されるかのように走り出した。



 ピエロがマキシムだった。あの献身の裏でピエロはいやマキシムは、スパルタンと生物テロの計画を立てていたというのか!クソ!!まんまと騙されていた僕を2人で嘲笑っていたことだろう。マキシムを捕らえて全てをおさめる。標的はマキシムとさだまった。



  要の血潮ちしおたぎる。



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