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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第一章 始まりの時来たれり
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始まりを告げる手紙


 ――救世の英雄、桜ノ宮雪花。

 彼は異世界『地球』より、俺たちの住まう世界へと召喚された、異世界からの来訪者。

 他にも数人、同時に召喚されていたが、戦う力を有していたのは彼一人。


 手には一振りの刀。

 体は成熟しきったとは言えない、少年のもの。

 心は未だ幼く、大人というには少しばかり足りなかった彼。


 だが、彼は戦った。

 かの英雄は、右も左もわからないような俺たちの世界で必死に生きた。

 誰かの流す涙を見たくなくて、誰かの流す血を見たくなくて、彼は必死に誰かを守ろうとした。

 大切な誰か、大事な誰か。

 そして、未だ顔すら見たことのない誰かのために彼は戦った。


 俺は……そんな偉大な英雄に憧れた。

 一度だって彼を見たことなんかない。 全ては伝え聞いたことだけ。

 でも、男なら誰だって一度は憧れるだろう。

 大切な人のために戦い、傷つきながらも何かを成し遂げる、そんな格好いい――勇者という存在に。


 最初は親父の語って聞かせてくれた、彼の英雄譚がきっかけだった。

 未だ幼かった俺の心に響いた、彼の偉業の数々。

 彼の偉業は凄まじいの一言につきる。

 魔術なんて便利な力が一切無い世界からやってきて、ただ一振りの刀を持って世界を救った英雄。

 どんな逆境でも、どんな過酷な戦いでも、たった一振りの刀を手に、彼は全ての戦いを生き抜いた。


 もちろん、彼だけの力で成し遂げたわけじゃない。

 だけど、彼の行動があったからこそ、世界は救われた。

 彼の行動があったからこそ、俺たちという未来は存在する。


 あぁ……なんて遠い存在だろうか。

 俺はいつも思ってしまう。

 なぜ俺は、かの英雄のようになれないのかと。

 なぜ俺は、かの英雄のような力を持っていないのかと。

 確かに俺は、彼が残した剣の流派『桜ノ宮一刀流』の剣技の全てを習得し、皆伝に至った。


 だが、俺は全ての剣技を、ただ受け継いだだけだ。

 俺の剣の道は、彼のような境地には至っていない。

 精神――心もまだまだ未熟すぎる。


 だからこそ、俺は思う。

 いつの日か、かの英雄のような剣士になってやるんだと。

 いつの日か、かの英雄の至った場所に辿りついてやると。

 そして、今は遠き理想の英雄の背中に追いつき、その先へと至ってやるんだと。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 冒険者ギルド職員兼Aランク冒険者。

 これが俺、桜ノ宮雷紅の肩書。

 緑多き肥沃の大地――リハヴァイス大陸、そのほぼ中央に位置するアルファリア王国の南方に存在した(・・・・)ド田舎、『雪花村』の出身だ。

 四百年ほど昔、アルファリア王国は魔王という名の存在の脅威にさらされていた。

 その時に執り行われた勇者召喚という儀式によって召喚されたのが――桜ノ宮雪花。

 俺たちの住むアルファリア王国どころか、世界を救った大英雄。

 そんな大英雄を中心とした、当時の仲間たちによって雪花村は作られたらしい。

 らしいというのも、詳しい事は伝えられておらず、残されていた文献にも詳しい事は書かれていなかったからだ。

 この文献には、他にも色々と面白い情報が書き残されていたのだが……まぁ、詳しくは追々話していくとしよう。


 さて、すでに分かっていると思う。

 俺こと、桜ノ宮雷紅は勇者の子孫である。

 どうやって子孫であることを証明するのか、とても簡単だ。


 俺の右手の甲には、『聖痕』と呼ばれる勇者の証が存在する。

 普段は黒い手袋に覆われているため見えないが、手袋の下には桜の花を象った紋様がある。

 これこそが勇者の証。 かの英雄の血を受け継ぐ者にのみ、発現するものだ。


 しかし、俺には他にも聖痕が存在する。

 これは歴代の継承者には一切表れなかった紋様。

 紋様は勇者の証である、桜の花を象ったものではなく、剣と翼を象ったもの。

 大地に刺さる剣を、翼が覆っているように見える聖痕だ。

 左手の聖痕に関しては、最初からあったものではない。

 王都へ来て少し日が経った頃、朝目覚めて寝ぼけ眼で目をこすっているときに見つけた。

 なぜこんなものが現れたのか、自分自身よく分かっていない。


 まぁ、そもそも。

 この二つの聖痕は今まで何かしらの能力を使えたこともなく、これといって害も無い。

 そんなこともあり、特別気にしていたりはしないのだが。

 

 そして現在、季節は冬。

 外は少し曇っており、寒さを余計に感じさせるような、色の濁った重々しい印象を受ける灰色の雲が空に浮かんでいた。

 時折吹いてくる風は窓へと当り、窓枠を外さんばかりの音を鳴らしながら、その勢いの激しさを物語る。

 すき間から吹き込む風は、俺の首元を撫でるようにして去っていった。

 吹き込む風の冷たさに思わず体を震え上がらせてしまった俺は、あまりの寒さにベッドの上にあるふかふかの布団へと潜り込む。


 今、俺がいるのは自宅のベッド、その布団の中だ。

 体を包み込むように形を変える柔らかい布団は、俺に極上の癒しを与えてくれる。

 布団の中でまったりと過ごしていると、徐々に体は温かさを取り戻してきた。

 程よく体が温まり、ふと顔を布団の中から出してみれば、俺を出迎えたのは窓から差し込む陽の光。

 どうやら、ベッドの中でごろごろとしながら体を温めているうちに、空の機嫌はよくなったようだ。

 窓から差し込む日の光はちょうど真上の辺りにあり、室温の低い自室を徐々に温めてくれていた。 

 

 さて、なぜ俺がそんな日の出ている時間帯に家でゴロゴロとしているのか。

 何も難しい話ではない。 今は長期休暇中だからだ。

 とはいえ、強制的な、と頭につけるべきだろうが。

 ではなぜ、強制的な長期休暇だと言いたいか。

 それは……数時間前に遡る。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 今朝。

 いつも通り起きて服を着替え後。

 朝飯を食べる前、新聞を取りに玄関にある郵便受けを見に行った時だ。

 郵便受けには当然新聞が入っていて、俺は新聞を取り出した。

 すると、どうだ。

 新聞を取り出すのと同時に、ある一つの封筒が足元へと落ちた。

 俺はその封筒を、怪訝な顔をしながら拾い上げた。

 なぜなら、こんな封筒が届くような覚えはなかったからだ。

 (なんだ? これ?)

 見た目は、よくある白色の紙で出来た封筒。

 何かおかしな絵が描いてあるだとか、そんなこともない。

 疑問には思ったが、どうせ依頼関係の感謝状だとかそんなとこだろう、と高をくくっていた。

 しかし、封筒の表に書いていたのは……


 『オルディア魔術学院招待状』


 はて? 何の冗談だろうか。

 俺は自他ともに認めるほど、魔術の才に乏しい。

 周りからは刀を振る事しか能がないへっぽこ魔術師、ということで『刀術師』なんて呼ばれているくらいだ。

 とはいえ、そんな自分も身体強化や武器への属性付与くらいであれば、実戦に耐えられるレベルで使用できる。

 しかし、まともに出来ると言えるのはそれくらい。

 下位四種――火、水、土、風――や上位二種――雷、氷――などの攻撃魔術など論外だ。

 どういう理由か知らないが、俺は一切攻撃魔術を使うことが出来ない。

 だというにもにもかかわらず、招待状が来た。 何かの手違いではないだろうか。

 だが、どう見たって宛名の所に書いてあるのは自分の名前。

 何度見ても、目をこすっても、視界に映るのは全く同じもの。

 俺は一度部屋へと戻り、ベッドの縁へと腰かけると、改めて封筒を見つめて考える。

 (悩んでても仕方ない、とりあえず開けるか……)

 多少の諦めを胸に抱きつつ手紙の封を解いた俺は、中に入っていた一枚の紙を取り出す。


 「えーっと何々?」

 『この度、我が学院へと入学していただくことが決定いたしました。 ちなみに。 様々な事情から、拒否権はありませんので……悪しからず』

 「……はぁああああ!?」


 ……まだ俺は寝ぼけているのだろうか。

 なにやら頭のおかしな文章が見える。

 封筒を開ける前と同じく、俺は目をこすり再度確認する。

 しかし、目に映る文章は変わってくれず、残酷な現実を突きつけてくる。

 (まあ、招待状じゃなかったとかそういう突っ込みは置いておくとして。 拒否権なしで強制入学とか聞いたことないんだが……)

 頭を抱えながらそんなことを考えていると、


「おーい、ライク~。 アンタんとこに手紙届かなかった~?」


 と言いながら、トレードマークの赤いロングコートに身を包む、細身の若い女性が部屋へとやってきた。

 短い黒のベアトップドレスの裾から伸びるしなやかな足は、思わず目を背けてしまいそうな程に白くて艶めかしい。

 左右の脚には一本ずつベルトが巻きつけられており、艶めかしく映る太ももは柔らかさを主張するように形を歪めている。

 ベルトで固定されたホルスターには、彼女の愛用の魔道具である、黒と白の魔道銃が一丁ずつ。

 華奢で均整の取れた体の中でも着ているコートを押し上げ自己主張する胸のふくらみは、嫌でも世の男性達の視線を集めてしまう程の魔力を秘めている。

 腰辺りまでありそうな長いブロンドの髪は左右でそれぞれ纏められ、まるで夜空を彩る星々のような輝きを湛えていて。

 他の女性が見れば嫉妬してしまいそうなその華奢な体の上には、少し幼気な印象の女の子のような童顔がちょこんっと乗っている。

 俺を見つめる瞳の色は、鮮血のような紅玉色ルビー

 ――赤いロングコートに身を包んだ、赤目金髪の女魔術師。

 声と口調、それに気配で分かっていたが、この目の前に居る女は俺のよく知る人物だ。

 歴代最年少で俺の所属する冒険者ギルドのトップに君臨した、最高ランク『S』の冒険者でありギルドマスター。

 王国でも五本の指に入ると噂される、女性の中でも屈指の実力を持つ魔術師。

 【雷帝】アルカ・エインズワース。


「あ? ああ、今見てたとこだ。 アルカ、おまえなんか知ってるのか?」

「ええ、たぶん知ってるわよ? オルディア魔術学院からの手紙だったら……ね?」


 アルカの顔には、いかにも何か企んでいそうな悪い笑みが浮かんでいる。

 柔らかそうに震える唇は、軽く俺を煽るようにして言葉を紡いだ。

 (ふぅ……落ち着け。 頭はクールに、だ)

 今にも爆発しそうな感情を抑え込み、軽く睨みつけるようにしてアルカを問い質す。


「だったら、これはどういうことなんだ? なんで俺の所にこんなおかしなものが来る?」

「もうっ。 そんなに睨まないでよ。 訳なら説明してあげるわよ。 そのために来たわけだし」


 アルカは少し顔をしかめながら言葉を返してきた。

 そんなアルカへ対し、俺はぶっきらぼうな声音で言い返す。


「だったらさっさと話せ」

「もう……せっかちなんだからっ」


 アルカは片方の眼を軽く閉じ、少し弾んだ声で楽し気に話す。

 どうしてだろう。 今無性にコイツの頭を叩きたくなってしまった。

 素材が無駄に良いせいで、彼女は軽くウインクをするだけでも絵になってしまう。

 そんなことを思った自分をぶっ飛ばしてやりたいほどに苛立ちを抑えられない。


「い・い・か・ら・は・な・せっ!」


 俺は強調するように言葉を返し、アルカの返事を待つ。


「わかったわよ……つれないわね。 とりあえず、簡単に説明するなら、私が推薦したのよ」


 しかし、そんな俺の心情など全く考えもしていないのか、なんの悪びれもなくアルカはサラリと疑問に答える。

 そうではないかと内心思っていたものの、アルカを信じていた自分の気持ちを返してほしい。

 そんな気持ちと共にふつふつと怒りがこみあげてくる。

 先程我慢した気持ちは烈火のごとく爆発し、思わず立ち上がって叫ぶようにして言葉を放った。


「はぁああああ!? 何やってんだこのバカが!」

「バカって言わないでよ!? 仕事だってちゃんとやってるのにぃ……」


 アルカは心外だと言わんばかりの勢いで言葉を返してきたかと思えば、次の瞬間には消え入るような声でつぶやく。

 そしてなおも俺は、アルカに対し強い口調で言い放った。


「バカにバカと言って何が悪い! だいたい、その仕事だって俺が大半手伝ってんじゃねぇか!」


 やはり一度、灸を据える必要があるか……?

 しかし、いったいどんなことをすれば良いものやら。

 そんなことを考えていると、


「うぅ……そんなに怒らないでよぉ……」


 と、アルカはその赤い瞳をうるうると潤ませながら、軽い鼻声で言ってくる。

 (――っ! 泣き顔とかずるいだろうが! くそっ)

 整いすぎるアルカの顔は、泣き顔と相まって非常に心をえぐる一撃となっていた。

 自分も少し怒鳴ったとはいえ、度合いで言えばアルカに非があるだろう。

 そんなことが関係ないと思わせられるほど、今の状況は俺に厳しいものだ。

 アルカの表情に良心を苛まれた俺は、しぶしぶといった雰囲気を全身から醸し出しながら、謝罪の言葉を口にする。


「あー……悪かった。 悪かったよ。 俺が言い過ぎた。 それで? なんで俺なんかを推薦したんだ? お前、俺が魔術らしい魔術は碌にできないってこと知ってるだろうが」

「だからよ」


 アルカは先程の泣き顔が嘘だったかと思うほど、さっぱりした表情で短く言葉を返した。

 そんな簡潔すぎる言葉に一瞬時が止まったかのように停止し、


「……は? なおさら、意味がわからんのだが?」


 と、少しの間をおいて疑問を返す。

 本当にどういうことなのだろうか。

 そもそも自分は魔術師になりたいわけじゃない。

 出来ることなんて魔力操作以外であれば、後は桜ノ宮家に代々伝わる『桜ノ宮一刀流』の剣技と王都に来てからアルカ自身から教わった『雷鳴流』という流派の技くらいのものだ。

 なぜそんな魔術師になるためにあるような学院に、こんな魔術師として生きていけないようなへっぽこ以下の俺なんかを推薦するのだろうか。


「もう、察しが悪いわね。 学院へ行って魔術の勉強してきなさいってことよ。 アンタ、碌に魔術の勉強とかしたことないでしょ?」

「いや、ある程度は村に居た頃習ったぞ? ……まぁ学院レベルじゃないってのは確かだろうが」


 そう、俺だってきちんと魔術が扱えるように勉強はした。

 ただ、他の追随を許さない程に攻撃系統の魔術への適性は低かった。

 しかし幸いというべきか、全属性への適性と固有属性を持っていたため、一般的な人よりも多くの属性の魔術を扱える。

 とはいえ、魔術――攻撃系統――自体はどれだけ頑張ってもからっきしダメで、辛うじて出来たのは前述の通りといった散々な結果だったが。


「でしょ? もしかしたら、ちゃんとしたとこで学べば、アンタだってもう少しまともに魔術を使えるようになるかもしれないじゃない? そ・れ・に、その年で同じ歳の友達が一人もいないとか……色々ダメでしょ」

「う、うるせーっ! 俺だって好きでボッチやってねーよ! というか、余計なお世話だ!」


 自分だって冒険者として働き始めた頃は、仲間とか作ろうと思って頑張っていた。

 同じ新人冒険者とかと一緒に仕事を受けて、今後も仲良くやっていけるようにと。

 しかしだ。 なぜか知らないが、皆依頼が終わったら即さようなら。

 ホントどうしてなのだろうか。 別に仕事できないわけではなかったのだが。

 もっと世界は俺に優しくあるべきだと思う。 俺の心は案外脆いんだぞ?

 とはいっても、現在はギルド職員としても働いてるため、そっち方面での仕事仲間はできたのだけれど。


「はぁ……ま、とりあえずそういうことだから頑張りなさいな」


 アルカは俺の返した言葉に少し呆れたように息を吐き、軽く肩を叩きながら言ってきた。

 そして何か思い出したかのように、アルカは話を続けた。


「あ、後ね。 魔術学院って名前だけど、他の戦闘技術……アンタで言えば刀とかの武器を使った、魔術以外の授業もあるみたいよ? 興味あるならそっちもやってみたら?

 魔術は必修科目らしいけど、こっちは選択科目って言って、受けたい授業を学生が決められるようになってるらしいから。

 あぁ、ちなみに。 学院に行ってる間、ギルドの仕事はもちろんお休みだからね? ま、長期休暇だと思って楽しんできなさい」


 まさかの突然降って湧いた長期休暇の話。

 俺は驚きと若干の困惑の感情をにじませながら、アルカへと問いかける。


「えぇ……これ、マジで拒否権ないのか?」


 本気で拒否したい気持ちでいっぱいだ。

 その感情をこれでもかと顔へと出しながら、心底嫌そうに聞いてみた。

 噂で耳にした程度だが、教育機関というのはいじめがあったりするのだとか。

 絶っっ対、自分ごときへっぽこ以下の魔術師モドキなぞ、そういう対象になる候補第一位だろう。

 拒否権がある、と言ってほしい自分の期待をアルカは応えてくれる気がさらさら無いようで、


「ないわっ!」


 と、無情にも言い渡されてしまう。

 そんなアルカの表情は見ているこちらがあっけにとられるほど、美しく愛らしい咲き誇る花のごとき素晴らしい笑顔に彩られている。

 声は楽し気に弾んでおり、それが逆にこちらの心をえぐってくる。

 情け容赦の一切ない、曇りなきその言葉に関心さえしてしまいそうだ。

 アルカの整いすぎるその笑顔を見ると、

 (その笑顔、殴りたい)

 なんて過激なことも考えてしまう。


「……おう……えぇ…… マジか……」


 俺は哀しみの表情を浮かべ、静かにつぶやく。


「ええ。 色々(・・)と事情があるのよ。 諦めて学院行く準備しときなさいな。 これは決定事項よ」


 そんな俺の態度に少し苦笑を漏らしたかと思えば、アルカは無情にも現実を突きつけてくる。


「はぁ……わぁーったよ。 行きゃあいいんだろ!行きゃあ!」


 諦めの境地、といった風に体中から諦めオーラを漂わせながら俺はベッドへと体を投げ出し、やけくそになって言い返す。


「ふふっ、精々頑張ることね。 あ、後。 明日夕方くらいにギルドに来なさい。 それじゃあね」


 なんだか色々と気になることを言っていたが、今の俺にはそれを聞けるだけの体力がない。

 学院への強制入学という珍事に全てのリソースを持っていかれたからだ。

 なので、俺は気だるげに手を振るだけにとどめ、全力で気の抜けた声を出す。


「へーい」



 こうして、強制的にオルディア魔術学院への入学が俺の意思に関係なく決まってしまったのであった。


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