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第二十三話「買い物にいこう1」

 ゴブリンやギガントオーガとの戦いの報告書をまとめ終えると、風間は皆と買い物に出掛けることになった。

 その理由のひとつが武器の調達だ。ギガントオーガとの戦いで、ディステルに借りた風間の小太刀は刃こぼれをし、曲がってしまった。

 また、ディステルのナイフやブリッツの剣も洞窟の崩壊に飲みこまれてしまっていた。

 これでは次に奇襲を受けた時、万全の状態で戦うことができない。

 もうひとつの理由が風間の戦闘着の調達だ。これも伝導率を高めるためにギガントオーガに被せて光雷を落とし、灰にしてしまった。

 攻撃力も重要だが、防御力をあげるのも大切なことだ。特に、風間のような防御力が低い者にとっては、一撃受けただけで致命傷となるのだから。

 そして、ブリッツは薬やアイテムの調達もマリアに頼まれていた。

 ゴブリンの奇襲を受けた直後、城にはたくさんの怪我人が運びこまれてきた。

 その時、応急処置として消毒薬や包帯が使用されたのだ。

 風間の治療を終えたマリアは他の者の治療もすることになった。そこで予想以上に治療薬が減っているのがわかったらしい。

 ゴブリンよりも強いモンスターが侵入してきた時に対処はできるのか。

 悩んでいたところで、馬を戻して帰ってきたブリッツとすれ違ったのだ。

 マリアはディアナ王女直属の従者だ。常に王女の健康を気遣い、隣にいなければならない立場である彼女は、外出する時間も範囲も限られている。

 マリアの知名度が外部にほぼない理由は、そのためなのだ。

 その心境を察したブリッツは「では俺が引き受けます」と、調達を引き受けたということだった。

 この倫理なき世界において、誰よりも気遣いできるのがブリッツだと風間は思う。若いというのに関わらず、婚約者がいるというのも納得できた。

 エッガは武器の購入だけではなく、ステータスの確認もしたいと言ってきた。

 風間が神樹の上で見た家や店舗の間から突き出たツクシのような塔。あそこで詳細なステータス確認ができるという。

 マリアに治療魔法の効力が高まるステータスを持っているのではないかと言われた風間も、自分のステータスが気になったので、武器の調達後に行くことにした。

 そういうわけで、買い物に出掛けるグループが形成されたのである。

「結界や神樹のことはゴードには言わないほうがいいかもね。訓練がエスカレートしそうだし」

 城門を抜けると、ディステルがそう伝えてきた。

「それなのですが、ゴード将軍って理解力がそこまで不足している人なんですか?」

 自分の友好度が低かった時には訊けなかったが今では訊けると思い、風間は思い切って質問した。この風間の質問にエッガがため息を吐いた。

「年に一度、新兵を迎えるのだが、その一年後にゴードと新兵の直接訓練が行われるんだ。あいつは誰にも容赦しない。手合いで骨折をした者もいるし、武器の当たり所が悪くて、意識不明になった者もいる。そんな奴に理解力があると思うか?」

「つまり、ゴード将軍に言ったら、訓練で兵士全員が怪我する可能性があると」

 風間はブリッツに視線を向けた。すると、場が悪そうにブリッツが目をそらす。

 その反応で風間は確信した。独房にいた時、ブリッツは右腕を痛めていた。その痛めていた右腕は、ゴードとの直接訓練で痛めたものだったのだ。

「ゴードは頭脳派じゃなくて武闘派だからね。両親も兵士だったし。国内最若で将軍に抜擢されたから、誰でも強くなれると思いこんでいるんだよ。けどね、強いし自信家だから、信頼している人も数多い」

「誰でも強くですか……」

「ゴードはシンゴとは真逆の考えを持っているからね。だから、ゴードはシンゴ相手にイライラしているんじゃないかな。そこが面白いんだけど」

「そこで面白い発言ですか」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて語るディステルは、こんな時でも健在だ。

「少なくともゴードはシンゴのことを強く意識しているだろうね。今まで出会ったことがないタイプだろうから」

 そこでディステルの足がとまる。どうやら、目的の武器屋に到着したようだ。

 武器屋の隣には鍛冶屋もある。数件先には薬やアイテムを売っている店の看板も見えた。 これは風間が知っているゲームの設定と、ほとんど同じだ。

 ディステルが扉を叩いて入ると、奥にいた店主が慌てた様子で席を立った。

「いらっしゃいませ。毎度贔屓にしていただいてありがとうございます。本日は、どのような商品をお求めでしょうか?」

 手揉みしながら寄ってくる姿は完全な商人だ。とはいえ、掌は荒れているように見えた。

 奥に鍛冶場があるということは、武器を売っているだけではないのだろう。

「先日のゴブリンとの戦いで小太刀が曲がってね。今まで以上の強度の小太刀に打ち直してほしいの。それと武器も今まで以上の一級品を見せて」

 そう言ってディステルがカードのような物を提示する。

 店主が渡されたカードを領収書のような物にかざすと、焦げた香りとともに王家の刻印が刻まれていた。

「確かに、王家の刻印を確認しました。奥の部屋にご案内します。どうぞこちらへ」

 どうやら、ディステルが店主に渡したのは、風間の世界でいうキャッシュカードのような物らしい。そのカードの軍資金から、一括して支払われるということなのであろう。

 店主の案内に従い、ディステルとともに奥の部屋に入る。その部屋の中には、所狭しと武器が置かれていた。

 壁に掛けられているもの。陳列棚に置かれているもの。これらは基本装備なのだろう。

 武器も切れ味も効果も一級品と思える武器たちは、金の装飾を施されたガラス張りのケースに飾られていた。

 奥にはポスターのような物が貼られている。ドイツ語なので風間は読めないが、武器のイラストがあるので何となくわかる。おそらく種別や効果が記されているのだろう。

 ディステルは他の武器には見向きもせず、ガラス張りのケースに入っている武器を見た。エッガも同じように見ている。

 ブリッツはというと、陳列棚に置かれているものを見はじめた。

 これは、それぞれが得意とし、使いこなせる武器や価値が違うということだろう。

 風間はというと、ディステルに渡された小太刀が使いやすいので、修復を待つのが第一と考えていた。とはいえ、直らないうちは代わりが必要になってくる。

「シンゴ、ギガントオーガとゴブリンの討伐報酬が出ているから、シンゴも程度の武器は買えるよ」

 どの小太刀がいいのかと考えたところで、ディステルに声をかけられた。

「自分は小太刀がいいと考えています。皆より戦闘経験がないのに、欲を出していろいろ手を出すのは逆効果だと思うので」

「程度極めてからということか。だったら壊れた代わりの小太刀をさがすことになるね」

「参考として訊きたいんですけど、ディステル将軍とエッガ将軍は、どんな武器を買うつもりですか?」

「今まで使っていた武器の一段階上の武器だね。私はダガーを二本。エッガは手甲。できたら、魔を打ち払う効果がある武器かな」

 そういえばと風間は思い出した。ディステルが渡してくれた小太刀は魔を打ち払う効果があったことを。それだけ魅力的な効果のひとつなのだろう。

「私がシンゴに渡した小太刀には、ちょっと変わった配合があってね。説明するから、しゃがんでみて」

 ディステルが何をしたいのかわからないまま、言われたとおりにしゃがんでみると、頭にチクリという痛みがはしった。

「痛っ、禿げる!」

 あろうことか、ディステルは風間の髪の毛を数本抜いたのだ。

「人によっては、血や髪の毛といった物に魔力が含まれているの。シンゴに渡した小太刀には、私のお母さんと私の髪の毛も溶かされて入ってる」

「えっ、ということは……」

「他の人には内緒だよ。シンゴも治療魔法の効力があがるステータスがありそうだって言われたし、せっかく小太刀を打ち直すんだから試してみよう」

 風間はディステルの話から深い因縁めいたものを感じた。ただ、ここでは深入りするべきではないと判断し、ディステルの案を了解した。

 最終的に風間はディステルに勧められた小太刀を選んだ。前に使っていた小太刀より、すこし長く太めの刀身だ。これは、もし長剣を扱うことになった時のためとアドバイスを受けた。

 ディステルは違う効果を持つダガーを二本選んだ。一本は魔を払う効果があるもの。もう一本は風の効果があるものだ。風の効果がある武器は、刃の切れ味と攻撃のスピードを増大させることができるらしい。

 エッガもブリッツも選んだ武器を店主に伝える。エッガは耐久力がある手甲を選んだ。ブリッツは連続攻撃をしやすくなる前よりも小振りで軽い長剣だ。

 それぞれが、今後訪れるであろう激戦とギガントオーガとの戦いで得た反省点も踏まえて武器を選んでいた。

 会計を済ませるとともに小太刀と風間の髪の毛をディステルは店主に渡した。直るのは、はやくても三日かかるらしい。その間は、買った小太刀を装備することになった。

 武器を選び終えると今度は薬屋に向かう。マリアに渡されたメモを見ながら買い物をするブリッツを見て、風間は笑うとともに少し和んだ。

 おそらく、婚約者相手にも同じようなことを任されているに違いない。良くも悪くも、ブリッツは物事を頼みやすい性格なのだ。

 決して、嫌だとは言わずに実直に誠実にこなしていく姿は、まさに上司のいうことを必死になって聞く新入社員のようであり、妻の尻に敷かれる若旦那のように見える。

 損な役割と人によっては思うかもしれないが、ブリッツは悪くは捉えていないようだ。

 思った以上に大荷物になったため、風間も荷物を持つよと言って一緒に運ぶことにした。

 そして、ステータスを皆で確認しに行くことになった。

 活気づいている店の前を通り過ぎる。風にのってくる料理の香り、食材を売る店長の声。それを求めて商店街に来た客たちが将軍を見ると慌てて道を譲る。

 将軍たちと民との確執は、ここでも感じられた。

 商店街にいても、ツクシのように伸びた塔は確認できた。自分の存在を主張しているかのような塔は、それだけ重要な癒しの場になっているのだと感じた。

「子供でもモンスターと戦った後は、ステータスを確認するからね。時には特殊な能力が追加される時もあるし。それを切っ掛けに兵士に推薦される者もいるから、必死になって訓練するんだよ」

 教会に入った時、鐘の音が繰り返し鳴った。正午になったという合図らしい。礼拝をしている者たちが、神を形どった像の前に果物や野菜といった食材を置いていく。

 像は女性と木と獅子のような獣の三つで構成されていた。木は神樹なのだろう。では、女性と獅子は何を象徴しているのだろうか。

「決まった時間に食材を捧げることによって五穀豊穣や健康を祈るの」

「木が神樹とはわかるのですが、女性と獣がいるのは?」

「神樹は姿を変えるとも言われているの。時には優しい女性だったり、モンスターに牙する獣だったり」

「なるほど」

「ステータスを調べられるのは、こっちの部屋だよ。ついてきて」

 ディステルに案内されるまま、赤いジュータンが敷かれている先へと進んでいく。

「私がここにきたのは一週間ぶりかな。ほら、あれが詳細なステータスを調べることができる水晶だよ」

 ディステルが指差した先には、セーブポイントと同じ心地よい光を放つ、扉のかたちのような水晶があった。

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