第1話 今日をもってお前との婚約を破棄する!
「号外~、号外~~! 皇太子殿下が聖女様との婚約を破棄したよ~!!」
新聞売りの少年が軽やかに、石畳で整えられた城下の広場を駆け抜けていく。
少年のまわりには人々が群がり、金子とざわめきが飛び交う。新聞を手にした人々が声を上げ、手に入らなかった人々は隣の新聞を覗き込んだ。
「聖女様がお妃になれば、この国はこの先も安泰だったはずなのに!」
「婚約破棄なんて、皇太子殿下は何バカな事やってんだ!?」
「どこの誰だよ? あの皇太子殿下の新しい婚約者の赤毛の令嬢って?」
夕暮れの王都。
城下の広場は、ついさっきまでとは打って変わった熱気に包まれていた。
その広場の騒々しい様子を、串焼き屋の列に並びながら眺めている者たちがいた。
騎士風の若い男と、その小姓風の少年。男はグレーの瞳が飛び出さんばかりに目を見開き、少年はピンクの瞳を細め人々の様子を眺めている。
「……こんな、すぐさま……新聞になるものなのか?」
騎士風の男が、すぐ隣にいる小姓風の少年に呟いた。
――風、と言うのは、男は帝国騎士団の礼服を纏っているが、騎士の命とも言える剣を佩いていなかった。
実のところ、この男は騎士ではないのだが、隣に連れている小姓の方も実は小姓ではないし、ついでに言うと少年でもなかった。
そして、よーく観察すればこの二人、連れられているのは小姓の方ではなく、実は騎士の方だと気づくかもしれない……。
「知らないんですか? 宮廷ゴシップって高値で売れるんですよ」
小姓風の方が、中性的な声で答える。
夕日のせいか、ピンク色の瞳の色が少しオレンジを帯びてキラキラときらめいた。
「……いや、だが、アレは、ほんのついさっきの出来事ではないか。……あまりにも早すぎではないか?」
騎士風の男は広場の熱気を呆然と眺めていた。
「あの時、婚約破棄の現場にいたお貴族様のどなたかが、市井の情報屋と繋がってるってことですね」
「……はぁ。なんてことだ……」
「明日には隣町の酒場で詩人が謳って、来月には劇場で音楽劇になってるかもしれないですね」
小姓風の連れがそんなことを言ったそばから、広場では子どもたちが集まって騒ぎ出した。
「セイジョ、イリス! きょーをもってオマエとのコンヤクをハキする!」
「こんやくはきだ!」
「コンヤクハキ〜!」
現場を見てもいない子どもたちが、真似事を始めだす始末だ。
騎士風の男は、この世の絶望を見たような目でその様子を眺めると、大きく息を吐いて片手で頭を抱えた。
そう、この騎士風の男こそが、ついさっき婚約者だった聖女イリスに婚約破棄を突きつけた張本人、
――カシアス・フォン・グラナート。
今この国で一番偉い方の、一番目のご子息だった。




