訪問1
子爵家の訪問編。
朝食から少しして、メシルスキー子爵家の馬車が伯爵家の門を潜った。
馬車から降りてきた子爵は、ミーツェと同じ瞳の色をしており、顔が少々引き攣っているのが遠目からでも分かる。
緊張しているのだろう。茶色の上下セットのスーツの袖には、握って付いたしわが寄っている。しかし、それ以外は、とても穏やかな印象の人だ。
ミーツェとよく似た顔立ちの夫人は、ラベンダーとホワイトカラーのスレンダーに近いAラインのハイネックパゴダスリーブを身に纏っていて、髪の毛を左サイドで軽く結い、色的におそらくべリベットであろう、宝石が葉っぱの形を模した髪飾りとして添えられ、右に流している。
こちらも、伯爵同様、穏やかで、慎ましやかな人だという感じがする。
顔が引き攣っていない分、彼女の方が話しかけやすいかもしれない。
そんな両親の後ろを、ミーツェは、嬉しさを顔に出さないよう必死に顔を作っていた。
マリーゴールドのプリスンセスラインで、フレンチスリーブの襟の部分に花や葉っぱの刺繍が施されていた。
髪は、ゆるく内巻にして巻き、ドレスと同系色でフリルのついた大きめのリボンが飾られていたその姿は、一夜明けても覚めない夢の中で踊っているように、軽やかだった。
「ようこそ、メシルスキー子爵。」
通された応接室で、子爵家を迎える。
「伯爵、この度は、ご息女に娘を助けていただき、誠にありがとうございます。」
子爵が深々と頭を下げると、夫人とミーツェも同じように頭を下げた。
「頭を上げて下さい、子爵。こちらこそ、うちの娘が、ご息女を連れまわしまして・・・。」
グルーシャは、事情は分かっているが、チェルミンの今後の為に、こちらにも非がるように言う。
「とんでもない。ご息女がいなければ、家の娘は噂の的にされていたことでしょう。」
「主人と私が、すぐ迎えに行ければ良かったのですが、昨夜は友人達と話が弾んでしまい、例のことに気付くのが遅れてしまいました。チェルミン嬢。何とお礼を申し上げたら良いか。」
「お礼など。昨夜、ご息女と踊れたことで、私はとても満足しておりますので。」
「しかし、あのような素敵なドレスまでいただいてしまっては・・・。」
夫人が言うのは、ミーツェがチェルミンと踊った時に着ていたドレスのことだろう。
チェルミンは、例のドレスや装飾を、プレゼントとして一式渡してしまったのである。
帰りの馬車で、そのドレス姿を見た子爵夫妻は、とても驚いたのだ。
「あれは、あのバッチィ愚か者の為のドレスを着ているミーツェ嬢を見ていたくなかった、私の我儘ですわ。なので、お気になさらずに。」
「しかし、あのドレスは、ゼローゼ商会で売り出した最新モデルだと聞きましたわ。それを、宝飾品や靴までいただくわけには・・・。」
ゼローゼ商会とは、ドレスをはじめとした宝飾品、絵画や壺等のアンティーク品、食器等の日常品、または武器や防具といった、ありとあらゆるジャンルの物を取り扱う商会だ、その中でも、ドレスや宝飾品は、季節ごとに様々なモデルを売り出しており、パーティードレス、デイドレス、カジュアルワンピース型ドレス、どの型も高い人気を誇っている。
なので、お値段もそれなりにするのだ。
それを、『お礼』ですと言われて、貰えるほど、この夫妻は強欲でない。
「夫人。あのドレスは、あの男に合わせたものでは無く、ミーツェ嬢が、自分の意思で選んだドレスです。私は、そのドレスを着たミーツェ嬢と踊りたかった。なので、踊って下さったお礼と思い、受け取っていただければと思います。」
チェルミンの言葉に、子爵夫妻は困惑した表情を浮かべ、互いを見る。
礼を述べたり、まして、何か礼の品をを贈らなければならないのは、子爵家の方であるのに、チェルミンは、逆のことをしているのだ。
相手からすると、どうしていいか分からなくなってしまう。
その後ろで、ミーツェだけは、うっとりとチェルミンを見ているのだ。
「子爵、夫人。御覧の通り、娘は少々、変わっておりまして・・・女性とばかり踊りたがる子なのです・・・。女性達と踊りたいと、男性パートを習い、パーティーの度に、可憐な女性達を見つけては踊っているのです・・・。」
ネルリカが、子爵夫妻の困り顔を見て、間に入る。
「は、はぁ・・・。」
「そ、そうですか・・・。」
目を反らし、言葉も濁しながら答える二人。
正直な夫婦だ。
おおよそ、腹の探り合いの貴族社会では生きにくい人物と言っていいだろう。
変わり者の伯爵令嬢の噂など、知らない筈がない。
しかし、それを爵位の序列が上なうえ、
その本人が目の前にいる中で、苦言を含め言葉を紡げるはずもないのだ。
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