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プレイヤーの多くが3日を過ごした島より遠く離れた海上の空。そこを飛んでいる何かがいた。
言うまでもなく、これはイベント初日にルピナスへ圧倒的な恐怖を与えた『遍く呪いに賛歌と祝福を』をである。
悍ましい量の呪いを漂わせながら、彼は空で浮遊していた。
そんな『遍く呪いに賛歌と祝福を』は現在、怒髪冠を衝くがごとく怒り狂っていた。
理由は簡単である。獲物を横取りされたためである。
ルピナスは『遍く呪いに賛歌と祝福を』をアウトレンジから狙う際、彼が空を飛ぶために使う羽根の音で場所を特定しようとした。
だがしかし、それは本来無理な話なのだ。なぜなら『遍く呪いに賛歌と祝福を』は空を浮遊する生物。羽で飛んでいるわけではない。
ルピナスもそれに気が付く機会はあった。初めてルピナスが『遍く呪いに賛歌と祝福を』を発見したとき、ルピナスは羽音を聞いていないのだ。島の中で最も高い木の上にいたにもかかわらず。
〈聴覚強化〉を持っていながら羽の音が聞こえないということは、それはすなわち『遍く呪いに賛歌と祝福を』は羽で飛んでいないという事だった。
とはいえ気が付かなかったことは仕方がない。なぜならあの時のルピナスは、レベル差のあまり『狂乱』状態に陥っていた。
しかもルピナスは、デザインセンスにステータスを全振りした所謂あほの子である。気が付かなくても仕方ないのだ、本当に。
ではルピナスは何の羽音を聞いたのか。それは『遍く呪いに賛歌と祝福を』が獲物と捕らえ戦闘を行っていた相手。【嵐龍】である。
『遍く呪いに賛歌と祝福を』にとって【嵐龍】は強大な経験値を持つ相手である。自らがより強大な存在になるため、彼は【嵐龍】を倒すこととした。
そして手際よく追い詰め最後にブレスの撃ち合いとなったところ、急に【嵐龍】の後ろから透明で大きな氷が襲ってきたのだ。
ブレスを吐いていた上に『遍く呪いに賛歌と祝福を』に集中していた【嵐龍】はそれをまともに受けてしまい、HPが0になり死んだのだ。
『遍く呪いに賛歌と祝福を』は吐いていたブレスが運よく氷を打ち消したため特に損傷はなかった。
ここで問題になるのは、『遍く呪いに賛歌と祝福を』が【嵐龍】を倒していないという事である。通常、敵を倒した際にもらう経験値は倒した者が得るようになっている。例外はパーティーを組んでいる時だけだ。
そして『遍く呪いに賛歌と祝福を』とルピナスはパーティーを組んでいない。そもそも『遍く呪いに賛歌と祝福を』はプレイヤーですらない。
結果、追い詰めたはずの【嵐龍】の経験値を遠くから何者かに奪われた『遍く呪いに賛歌と祝福を』は、憤死寸前といったところまで怒り狂っている。
しかも奪った相手が何者かすらもわからないのだ。氷の飛んできた方向に急行しても、青い空が広がっているだけである。
魔力から何者かがいたことを判断することもできない。そのためのスキルを『遍く呪いに賛歌と祝福を』は獲得していない。
その結果、次の日には近くにある島の生物が絶滅するという事態が発生した。言うまでもなく『遍く呪いに賛歌と祝福を』の八つ当たりである。
がんばれ『遍く呪いに賛歌と祝福を』。神の手は君を救わない。自分の力で頑張って、立派なレイドボスを目指すのだ。




