初めての海
転移門と似た光から解き放たれると、目がくらむような太陽の光が上から襲ってきた。目の前には白樺と似た柄をした木が生い茂っている。森林地帯みたいだ。
木の上には木の実や鳥のモンスター、少し離れた先の地面ではトイプードルサイズのリスが木の実をもって走り回っている。この島は自然が豊からしい。
呼吸をすると、嗅いだことのない匂いがする。同時に後ろから、一定の間隔で繰り返す波の音と何かにぶつかる音が耳に入ってくる。
「うわぁ・・・」
後ろを振り返ると、そこには視界に収まりきらないくらい広大な海と砂浜があった。思わず飛んで向かってしまう。目にした瞬間飛んでしまうとは、これからは自動販売機の光につられて集まる蛾を馬鹿にできそうにない。
精霊の私を引き付けるのだから、さながら海は誘精灯といったところだろうか。もとになった誘蛾灯から考えると、私は駆除されてしまうのだが。
潮の満ち引きによって境目のできた砂浜に降り立つ。潮の匂いがもっと強くなった。これが海の匂いというやつだろうか。
初めて嗅ぐ匂いだけど、特に不快に感じるということはない。寧ろ心地よいと感じる。プランクトンの死骸の匂いらしいけどね。ただ死骸の匂いにしては、人に元気を与えすぎると思う。少なくとも私はこの匂いを嗅いで元気が出るし、思わず深呼吸までしてしまった。
少し沖の方を見ると、大小色々なサイズの岩が設置されている。何かにぶつかっていた音はこの岩に波が当たっていた音らしい。
岩の下にはカメノテらしき貝がおびただしい数付着していた。集合体恐怖症の人はこれを見ても大丈夫なのだろうか。海の中が見えるくらい海水が透き通っているものだから、見たくなくても見てしまいそうだ。
それにしても綺麗だ。私が海を始めてみるからということで少し感情に補正が乗っている可能性もあるが、それでもきれいなのは間違いないと思う。
なぜなら私以外にも感動に震えている人がいるからだ。少し離れた先にいる私より少し大きいくらいの女の子なんて、海水を蹴飛ばして遊び始めている。
っと、感動している場合じゃなかった。私もあの女の子みたいに少し遊びたいけど、リーゼがどこかで待っているかもしれない。それに三日もあれば、どこかで遊ぶ時間くらいあるだろう。
というわけでとりあえずあたりを見回すのだが、ここで気づいた。人が少なすぎない?
そりゃ全員がイベントに参加できるわけじゃないだろうから人は少し減るだろうけど、それにしたって少ない。だって見た感じ、200人もいないと思う。
ほかのプレイヤーは海を見慣れていて、見なくてもいいから森の探索に行ったとか?イベントの目玉であろう巨イカの出る海を放置して?さすがにないと思う。
あとは・・・転移先が違うとか?考えてみれば、参加者全員が同じ場所に送られたらまともに動けなくなっちゃうだろうし。その対策として転移先を変えるというのはあるかもしれない。
そうなると、リーゼはどこにいるだろう。マップを見た感じ今私がいる場所が島の最南端だから、時計回りで東西南北を見て回ろうか。流石に島の中心に沸くなんてことはないだろうし。
別に海の近くにいたいわけじゃないヨ!




