気絶の後
昨日の記憶がない。いや、正確には昨日森に入ってからの記憶がない。気づいたらベッドの上で鳥の鳴き声で目を覚ました。これが本当の朝チュン、なんてね。
一応手掛かりはある。というのも、テーブルの上にやたら多くの空き缶が並べられているのだ。もちろん全部お酒。昨日の私は大量のお酒を飲まなければならないほど追い詰められていたらしい。
それと、なんかやけに物騒な水属性の魔法を創ろうとした跡が見える。潰すとか消え去れとか書いているので攻撃する魔法なのは間違いないと思う。まぁこれは今日の私が責任をもって作らせていただこう。強そうだし。
とりあえずログインだ。17日目。セーフティーエリアに帰った覚えがないから森の中でログアウトしたことになってると思うんだけど、その場合は私の体はどうなるのだろう。消えてるなら問題はないんだけど、残ってるなら大変だ。モンスターに攻撃されていつのまにか死んでるかもしれない。そう考えると急がなきゃ。
いつものようにゲームを選択。次の瞬間には私の体は森の中に。良かった、ログアウト中は体が消えるみたい。
「ん・・・?」
なんだろ、変な匂い。それに何だか顔が粘性のある液体で濡れているような・・・。というか、なんか足にも違和感。猫カフェで猫に噛まれたときみたいな・・・
「なにッぅわああああ⁉」
いやいやいやいや!!足元には7匹くらいの蜘蛛が私の体に噛みついていた。いや、よく見たくないけどよく見ると、そのうちの一匹は私の体じゃなく別の・・・そう、自分たちと同じ蜘蛛を食べてるような・・・。
「『星の燃える怒り』!」
そんなん考えてる暇ない気持ち悪い!多分昨日の記憶がないのはこいつらのせいだ。昨日の私はこいつらに精神的に追い詰められてギブアップしたんだ。
そう考えたら少し思い出したぞ。たしか空中で捕まえたところで・・・あっ、やっぱ嘘。これ以上は思い出してない。思い出したくない。
足元にいた蜘蛛は皆灰燼に帰した。私に噛みつくのに夢中で避けることができなかったみたいだ。馬鹿な奴らめ。
というかなんでそんなに私の足に夢中なんだ。蜘蛛に好かれたところでうれしくない。味の問題?手頃だったから?でもそれなら攻撃が通ってない時点であきらめてもいいのに。
あとは何だろう。・・・足を見てみると、いまつけられたにしてはくっきりとし過ぎた鋏角の跡がある。さっき噛まれ始めたばかりでこんな跡つくかな?
ということは、もしかして私の体ってログアウト中ずっとここにあったのでは?それであいつらは動かない私をずっと倒そうと攻撃してた、みたいな。うん、なんか納得できた気がする。
蜘蛛どもの誤算は私の耐久ステータスが馬鹿みたいに高かったことだね。ただでさえ700近いのに、ここからスキルのバフもある。虫ごときの攻撃は効かん!
≪シルクスパイダーたちの魂を収穫しました≫
≪シルクスパイダーたちのステータスを一部収穫しました≫
≪シルクスパイダーたちのスキルを収穫しました≫
流れるシステムアナウンスを見ながら私は決意する。
もう2度と、ここには来ないぞ!




