目に入れたくない8本足
「ひぃぃぃぃ⁉」
見たくない見たくない見たくない!攻撃、攻撃しなきゃ!落ちつけ、冷静に。あいつは動いてない、当てれば殺せる。大丈夫、できる。
「『炎の槍』!ッ無理無理無理⁉」
最悪だ躱された!〈真髄〉を最大にして打ち込んだものだから、外れた『炎の槍』が地面に当たって土煙がひどい。おかげであれの居場所がわからない。
大体なんで躱されたんだ。これまで躱されたことなんてなかったのに・・・ってそうじゃん。いつもは土属性で拘束して動けなくしてから攻撃してるんだから躱されるわけない。今回は焦って拘束するのをすっ飛ばしてしまった。そりゃ躱されるのも当然だ。そもそもあいつは動きも早いし。
「『土の拘束』!」
くそ、こっちも躱された。おちつけ、おちつけ。深呼吸だ深呼吸。まだあいつは私を狙ってる。不規則に動き回る草がそれを証明してる。なら次に来た時に拘束してしまえば確実に倒せる。虫ごとき『炎の槍』で一発だ。そうに決まってる。そうに違いない。
なら私は『炎の槍』を当てられるように動きを止めるのに全神経を集中すればいい。動きが速いうえに体が平べったくて姿は見つけにくいけど、〈視覚強化〉のおかげで動いた時に同時に動く草はほとんど目で追えてる。
たまに追いきれないときもあるけど、その時も音まで消えるわけじゃない。がさごそ音を追えればあいつの位置はわかる。
今はまだ私の前。右にずれた。まだ飛び掛かってこない。背中側から反対に。まだ飛び込んでこない。仕切り直して私の前に。
そんなことを数回繰り返すと、私があいつの位置を追えてることに気付いたのか、近くの木も使ってより立体的に行動し始めた。それをされると少々つらい。木から木に飛び移ってる間、音がなくなるのは飛んでいるからか動いていないからか見えないとわからない。
ならわかるようにしてやる。あいつが飛び移ったのと別の木に私の背を密着させて下方向に注目する。こいつは多分、私が隙を見せないと攻撃しない。他に見てる人がいるなら、私は上に敵がいるのに下ばっかり見てる間抜けな奴だ。でもあいつにとってはこれ以上ない隙。
あいつの頭がよければ隙に見せてるだけに気付くかもしれないけど、拘束魔法と一撃で殺せる魔法を見せてるのに逃げない時点でそこまで知能は高くないはず。
「『土よ、縄を模り』・・・」
あとは私がタイミングを間違えなければいい。奴が飛び込むために木を踏みしめる音、それを聞き逃さなければ・・・ッ今!
「『敵の四肢を拘束せよ』!」
とらえた!空中で土の縄に四肢をとらえられたそれはそのまま勢いを失わず私に・・・あれ?なんでこっちに来るの?私の魔法成功してるよね?確かにそこに脚が・・・。
あっ、そっかぁ。飛び込む勢いを殺さずに空中で動きを止めるなんてしたら、虫の脆い身体じゃ脚がもげて突っ込んでくるのは当然かぁ。あはは。
そのままそいつは体液をまき散らしながら、私の顔面に顔から突っ込んできた。大きな鋏角。目の前で大きく開く口。汚物のような匂いをまき散らす口臭。口内の端っこに付着している謎の液。
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きゅう。
個人的にとてもお気に入りの話。




