ネットで見るより30倍カッコイイよ
面談を理由に事務所に潜入したら、思いがけず選手に会えた件。
スタッフのMさんと面談後、事務所を出たところでハンサムな男の子二人が作業から帰社。なんと、持参した似顔絵のうちの二人である。「初めまして」とか「こんにちは」とか、社会人として言うべき事は色々あるだろうに、口から出たのは
「ネットで見た人だ!!」
……馬鹿なのかな?ええ、私は馬鹿です。頭が真っ白になって、気の利いたセリフは出てきませんでした。
長身のGK、I選手と、小柄で茶髪なMF、O選手。ラフな作業着を身に付けていても溢れるスポーツマンとしての爽やかなオーラ。こんなの見たら一瞬でファンになってしまう!
二人はクラブの事務所を置かせてもらってる会社で社員としても働いているらしい。サッカーも仕事も全力で頑張る男子……素敵だ……目がハート型になって帰路につく私。
結局この日は、NAGAREYAMA F.C.のスタッフになるどころか、ただのファンとしての道を大きく踏み出すだけで終わった。そして、似顔絵の展示は、リーグ戦の日程がやや落ち着いている9月か10月という事になった。
ふいに冷静になる私。
『9月か10月って…一番忙しい時期じゃない?』
そう、私が所属している流山市絵画クラブ「四季の会」のグループ展は、毎年秋に開催される。今年は確か10月だったハズだ。9月は最後の追い込みの時期。額装の手配や作品の手直し、チームに分かれての合同制作、タスク多過ぎてヘロヘロになるのは間違いない。
さらに、7月中旬から8月は子供の夏休みだ。私には小学生の娘がいる。甘えん坊で人見知りな為、サマーキャンプに放り込んだり祖父母の家に一人で泊まらせたりも出来ない。つまり、7月中旬迄にほぼ全ての準備を終わらせる必要があるのだ。
なおかつ、7月中旬には流山市展という、流山市で美術家として活動するには避けて通れない一大イベントも。つまり、更に1ヶ月ほど予定は前倒し。
……詰んだ。これは毎日限界を超えて描いてゆくしかない。何より、さっき会った選手たちがめちゃくちゃカッコ良かった。特にI選手は早急に描き直さねば。写真と本人とが、全く印象が違う。写真でははにかんだ笑顔が可愛い、あどけなさの残る男の子だったが、先程の本人は、仕事の合間だからか責任感や芯の強さが感じられた。
忙しくなるな。でも、これで良い。私はこれから始まるてんやわんやの日々を想像して、鼻歌まじりで帰宅した。
次回、物語は序盤なのにラスボスが登場するよ!