十二 初陣の【Tシリーズ】。
「勇夫さん、すごい……」
【トライツヴァイ】が【敵】機を打ち砕くのを見て、思わず華夕はつぶやいた。
一樹は機体マニュアルを見ながら舌打ちする。
「速水君……!」
智美もその姿を見て感嘆の声をあげた。【トライツヴァイ】はさらにもう一機、もう一機、と撃破していく。強敵と認識した【敵】機が総がかりで【トライツヴァイ】を包囲した。
「速水君!」
智美は思わず操縦桿を【敵】集団に向け、ペダルを力いっぱい踏み込んだ。
「倉科!」
【トライツヴァイ】のコクピットから、勇夫は無数の【敵】機で狭まった視界の中、接近してくる倉科機を視認した。視認した次の瞬間には数メートルの距離に接近していた。進路上で接触した【敵】機が弾き飛ばされ、きりもみ回転をしながら落下していく。
「ちょっと勇夫君、避けて! 智美ちゃん!」
瀬里奈が悲鳴混じりに叫ぶ。勇夫はかわそうとするが、Gコントローラーへの出力供給が不足していた。動きが重い。
「うわぁあっ!」
思わず喉から声が漏れ出た瞬間、勇夫の視界が明るくなった。
智美は操縦桿を右に倒しながら悲鳴を上げていた。【敵】機に囲まれた【トライツヴァイ】を救いたくて、何も考えずにそちらへ機を向けたのだが、そのスピードが想像をはるかに超えていたのだ。
機体は【トライツヴァイ】に衝突する直前で方向を変えた。飛行している物体としてはあり得ない角度で瞬間的に進路を変える。速度を保ったまま、【敵】機を蹴散らして離脱した。その翼に触れた【敵】機は両断され、落下しながら爆散した。
モニタで戦況を確認していた華夕は、智美の操る【トライアイン】の軌跡を驚嘆の目で見つめていた。エンジンによって加速する事が全ての基盤となるそれまでの航空機では、絶対に描くことの出来ない軌跡だ。
華夕は一樹を刺激しないよう黙ったまま、全センサーを総動員して、戦況のデータを収集し続けていた。一樹が動こうとしない以上、彼女が他にできる事はなかった。
「なるほど~。これは偵察、情報収集をメインに設計されてるってわけか。センサーの塊だな。で、水中も地中も行動可能、と。そのうち試してやるか」
一樹は戦っている二機の事など眼中になく、機体のチェックに熱中していた。
「で、このPコントローラーってのはなんなんだ?」
Pコントローラー。圧力制御システム。重力場制御を応用し、大気圧や水圧をはじめとする圧力を制御する。
「なんだ。武器っつー感じじゃなさそうだな」
確かに、圧力の制御を攻撃に転用するのは難しそうだった。しかし、水中や地中などで行動する際には大きな力を発揮するだろう。この機体の設計思想が戦闘そのものではなくサポートに特化しているのは明白だった。
「じゃあ、試してみるか」
一樹がPコントローラーを起動し、出力を上げていく。華夕はすかさずコクピット内の気圧を固定しておいた。
機体の周囲の気圧が急激に減じていく。自然なものではない、バランスを欠いた気圧変化が急激な気流を生んだ。周囲の空気が大量に機体に吹き付け、逃げ場を失った空気は上方に吹き上がる。小規模な竜巻が発生していた。高さは天然のものに遠く及ばないが、地表付近の気流の激しさは最大級の竜巻と同レベルだ。
「へぇ、使いどころによっちゃあ色々遊べそうだな」
一樹は【トライドライ】のコクピットで口の端をゆがめて笑った。
「これはどえらいな、大榊ィ」
宮司が何度目になるかわからない「どえらいな」を口にした。望遠カメラで捉えた戦況は、それほどまでに彼らの常識を逸脱していた。
防警軍には全く歯が立たなかった【敵】の軍勢を、【Tシリーズ】は完全に圧倒していた。
航空力学を無視した軌跡を描いて飛行し、その翼で【敵】機をなぎ払っていく【トライアイン】、【敵】機を次々に殴って破壊していく【トライツヴァイ】、【トライドライ】は戦闘に参加していない様子だったが、竜巻のようなものを発生させ、大榊たちの度肝を抜いてみせた。
「まともな武装を搭載していなくてこれなんだからな。これはどえらいぞ」
宮司の声は明らかに高揚して弾んでいた。戦闘データを早く検討したい。その期待にうずうずしているのがわかる。大榊としてもそれには同感だった。
「大尉、【敵】機が撤退を始めたようです」
金富の報告通り、数の大半を失った【敵】機は筑波方面へ後退を開始していた。視認できる残存機は、ドローンと特殊車両の組み合わせで十数ユニット。実に四分の三を撃破したことになる。
「追撃させますか?」
金富は信号弾の準備をしながら大榊にたずねた。
「いや、こちらも撤収だ。追撃はしない」
大榊が短くそう言うと、宮司は大きく頷いた。
「【敵】に戦闘データ持って帰られるのは面白くないが、彼らは軍人じゃないしな。初陣でこれだけの戦果を上げれば充分すぎるってもんだ」
金富は頷いて、撤退命令の信号弾を発射した。
「昨日大変な目にあったばかりですしね。ゆっくり休ませてやらないと」
11:14。
大きな炸裂音とともに、信号弾が撤退命令を伝えた。
コクピット内の六人は、その光を見て、身体の力を抜いた。
今更のように襲ってくる疲労。身体だけではなく、心も疲弊しきっていた。
戦闘時間94分。撃墜数38ユニット(76機)。
六人の初陣は、こうして幕を閉じた。
【次回予告】
初陣を飾った六人。その戦果は輝かしいものだった。
しかし彼らを待っていたものは賞賛だけではない。
非難、疑念、嫌悪、畏怖、嫉妬、猜疑……。
勇夫たちは、自分自身の感情とも戦わなければならなかった。
次回
第六話 「それぞれの確執」




