あなたがいい
カランカランとベルを鳴らして店のドアが開いた
「いらっしゃいませー!」
マキは暇から開放された喜びを胸に客の方へ向かっていった。
「ご注文はいかがですか?」
ここぞと言わんばかりに死に設定になりかけていたアホっぽさを出すマキ
「あら、可愛いお嬢さんね。新人さん?」
マキのめちゃくちゃな日本語をスルーして笑顔で対応する女性。
「はい!マキといいます。」
「へえ〜、マキちゃんかぁ。このお店女の子いなかったから華が添えられたわね。」
ははは、と愛想笑いをするマキ
「ところで、店長さんは?休憩?」
女性が店の中を見回す。
「今は休憩に入っていますね、よろしければお呼びしましょうか?」
「お願いするわ、あとブルーマウンテン1つちょうだい。」
「かしこまりました!」
オーダーを受けたマキは店長を呼びに裏へ下がった。
「店長〜なんかお客さんが店長に会いたいって……」
そう言って休憩室へ入ると髭男がフロアをそっと覗いていた。
「なにしてるんですか……」
「呼ばれた?やっぱり?不在って言ってくれない?」
髭男の顔色は悪かった。
「いや、もう休憩に入ってるって言っちゃいましたよ。早く行ってあげてください。」
髭男はすごく嫌そうな顔をして女性の方へ向かっていった。
「なんであんな嫌そうなんだろう、美人さんなのに」
そう言ってマキはコーヒーを淹れはじめた。
「あ〜ら、久しぶりじゃない?前行った時も顔出してくれなかったし」
女性は外の景色を眺めながら静かに言った。
「あぁ、久しぶりだな。……俺に何か用か」
「また言いに来た、あなたと復縁したいって」
女性が髭男の方へ振り向いた
「私は親の言いなりになるつもりは無いしあなたを愛してる、だから」
その先を言わせまいと髭男は口を開いた。
「だめだ。君はもう俺のことを忘れてくれ。」
女性は何かを言おうとしたが何か考えた後
「そう、分かった帰るわ。はいコーヒー代ね。」
と言って机に小銭を置いた
「いらないよ……君はそろそろ自分の道を歩むべきじゃないかな。」
「何言っても無駄、また来るかも」
髭の男は何も言わずにため息だけついた。
女性が店を出てすぐにマキがコーヒーを持ってきた。
「あれ?お客さんは?」
「帰ったよ、そのコーヒーはマキちゃん飲んでいいぞ」
裏に戻ろうとする髭男にマキは女性との関係を聞いてみた。
「店長、さっきの方と何かあったんですか?」
店長は少し間をおいた後ため息をついてマキの方を向いた。
「さっきの女性は私の昔の恋人だよ、私は昔レーサーをしていたんだ。でもそればかりに熱中して彼女の両親を怒らせてしまった。それで私は別れなくてはいけなくなったんだ。」
マキはそれでも髭男に近づこうとする女性の気持ちを考え胸が痛んだ。
「店長!それじゃあさっきの女の人が可愛そうじゃないですか!好意を抱いてここまで足を運んでくれているのにあんな対応じゃ可哀想ですよ!」
見てたのか、と髭男は肩をすくめる
「あの方はきっとこれからも何度も来ます、それは店長がいつまでもあの人との問題をうやむやにするからです!今から追いかけてちゃんと話つけて来て下さい!」
マキが言い終えるとしばらくの沈黙が訪れる。
沈黙に耐え切れなくなった髭男は店のドアへ足を運び
「分かったよ、マキちゃん。ありがとう」
そう言うと女性を追っていった。マキはしばらく追う姿を見つめた後
「これでよし、さてと仕事しないと」
と仕事に戻った。
「待ってくれ!」
呼び止める声に女性はハッとなり振り向いた。
「珍しい、自分から追いかけてくるなんて。」
息を切らす髭男に女性は水を差し出した。
「いやいい、いらない。ハァ…ハァ…それより君と少しだけ話をしたくなった。」
「マキちゃんに説得されたのかしら。」
「ははは、じつはそうなんだ。」
女性はニコリと笑った、場の空気が少し軽くなる。
「私ね、両親とは縁を切ったの。私の親は何もわかっていないあなたは自分を責めすぎてるわ。」
「縁を……」
「そう、それだけあなたが好きだった、あの時は夢を追う姿がとてもかっこよかったのに。あの人達はあなたを否定したけどそれは表面しか見えていないからよ。」
髭男はうつむいた。
「でも俺はいつも君を考えていなかった、君の両親もそれに怒ったんだ、今日だってそうだ。マキちゃんに言われなければまた気づかないところだった。」
「別にいいの今のあなただって立派よ、だからこれから私の事を受け入れてほしい。」
「君を幸せにできるか分からない、また君が見えなくなるのが怖いんだ。君には幸せになってほしいと考えているから」
「嘘よ!」
それまで落ち着いていた女性が声を荒げた。
「あなた何も分かってない!私に幸せになってほしいなら幸せにしてよ!怖がって逃げてるだけじゃない!嫌いならはっきり言ってよ!その方がずっと楽だよ!」
声を震わせる彼女を見て髭男は彼女に笑顔を向けて静かに言った
「すまない……そうだよな。俺が幸せにしてやらないとだよな、君が嫌いなんてことは決してない。それだけは信じてくれ。」
「じゃぁ……」
「うん、これからはずっと一緒にいよう。寂しかったよなすまなかった。」
そう言って髭男は女性を抱きしめた。
「うん……本当だよばか」
女性の頬に一滴の涙が流れた。
一方その頃マキは必要のなくなったコーヒーを飲んで暇を潰していた。
「あの二人うまくいったかな?しっかし暇だなー」
マキは背伸びをしてだれた後漏れ出るような声で言った。
「この小説はほのぼのコメディでーす。」




