034
本能に目覚めるまでマリア・クロッカスは幸せだった。ペリウス王国の姫として大切に育てられ、欲しいものは何でも手にすることができた。洋服、宝石、もちろん兄さえも思い通り。クリスはマリアのため献身的に兄を演じる。そうあの日まで問題はなかった。
王家に脈々と受け継がれる赤い血筋はマリアを獣に変える。肉体は赤毛で覆われ2倍以上に膨れあがる。裂けた口から犬歯が生えると抑えがたい欲望が支配する。生きる物全てを殺し、ちぎり、喰らう。渇望する欲求に初めて負けた時、研ぎ澄まされた聴覚が無意識に発した兄の言葉を拾う「バケモノ」。褐色の目に映り脅える獲物。家臣が止めなければ兄を殺していただろう。
心配はいらなかった。兄が逃げ出しても別の兄が現れる。今は何人目のクリスだろう? 3人目以降、数えることをやめてしまった。中身はいらない形があればいい。両親の他、誰もマリアを理解してくれない。血筋こそが絆。それ以外はまやかしに過ぎなかった。
交換留学に興味はなかった。しかし、王が兄クリスに「時空エクスプローション」を調べる任務を命じると、兄にくっつき魔法学園に赴くことにした。新たな地に獲物を求めて。
魔法学園はマリアにとって窮屈だった。狩りはできず、兄は任務に忙しくかまってくれない。保坂は、最小限のことだけ口にする。仕方なく兄を手伝うと、バカな男がうれしそうに能力の話をしてきた。くだらない。
「こいつも同じ。獣の姿を見せれば笑顔が消える」
来るべきではなかった。面白いことはひとつもない。
マリアは面倒くさくなり対象を殺すことにした。
脅える小動物が浮かぶ。ギャップがたまらない。
生から死に転落する命の手綱をにぎる快感に興奮していた。
あの日、何かが変わった。鳥獣変身で倒せない脅威。逆にマリアが命を握られる。感じたことのない痛みと恐怖が連鎖反応を起し萎縮していく肉体。小動物に助けられる屈辱がプライドを引き裂いた。
死を決意する者を助ける。
「なぜ?」
醜い獣に脅えない。
「どうして?」
マリアは、滝本京也を理解できない。
緑のボールと小動物が戯れていた。初めて生まれた感情を制御できず、マリアは透明なクリスタルに触れてみたい衝動にかられていた。




