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静まりかえるグラウンドに仮面の男の呼吸音が繰り返される。1体でも厄介な相手、それが3体同時に出現する事態に京也は身動きが取れない。まもなくシルクハットの男がマリアの命を狙って降りてくる。見通しの良いグランウドに隠れる場所も階段もなかった。
「クローバーは、何を遊んでいるのでしょう」
両手に炎をたずさえた男が、シルクハットの男より速く京也の前に現れた。敵か味方か判断する間も与えず、男の手から炎の槍が具現化する。空中に浮かぶ数、およそ百槍。大気に渦巻く風が急激に暖められてく。ブレスレッドの防御力と持続時間はどれくらいあるのだろう。未知数のシールドを見つめる京也の頭上に炎が降り注いだ。球体を襲い、荒れ狂う炎がグランド駆け巡る。仮面の男たちは、球体を凝視したまま臆することなくたたずんでいた。
全てを焼き尽くすまで衰えない紅蓮の大地。シールドが激しく揺れ、マリアの髪が滑り落ち京也に触れる。初めて見たあのときから変わらない。吸い込まれる赤い髪がきらびやかに炎に溶け込んでいた。王国の姫であろうが、獣であろうがかまわない。殺されるほど憎まれ嫌われていてもいい。最初から京也の気持ちは決まっていた。すくい上げる指の隙間から掴むことができないマリアの気持ちがすり抜けていく。失いたくないと魂が震えた。
『わたしには見える、無数に広がる階段を誰よりも早く駆け上がる京ちゃん』
リフレインする。
ミミが見た無数の階段。
目を閉じた。
『わたしはここにいる。未来へ繋がる階段の先であなたを待っている』
プロミスリングが囁きかける。
現実を侵食していく。
目を開けた。
炎の海に無数のミッドナイトブルーの階段が見えた。覚醒した京也の目が瑠璃色を帯びると、双眼が瞬きする度に階段が位置と向きを変える。そのうちから屋上を結ぶ階段を選ぶ。
「発動」
京也はマリアを抱きかかえ、壊れたフェンスの横に姿を見せた。シールドが消えグラウンドから火柱が立ち上がるのが見えた。瞬きを繰り返して経路を検索する。緑の柱に繋がる直線上の階段を選択する。京也はイメージだけで階段を造りだし、誰よりも早く駆け上がっていった。




