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誰よりも早く階段を上り僕は君に逢う  作者: T-99
三本の柱:青~未来編
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「ワスレ。いるか」

 京也は叫びながら円形状の部屋に飛び込んだ。入口付近でワスレを見つけ瞬時に移動する。クリスタルの前に姿を現した訪問者に、浮かびあがった目玉が親しみを込めてくるりと回る。

「京也じゃないか。目の色が青いが大丈夫か」

 顔色を心配せず、目の色の心配かい。突っ込みを入れたくなったがやめた。視界に映り込むものすべて青みかかっているのは事実だ。

「ワスレ、マリアを頼む」

「えーーー」

「どうした」

「恐ろしい獣と一緒にいるなんて無理、食われてしまう。すぐに連れ出してくれ」

「そんなこと言うなよ。あとでグルグル回してやるから」

「本当か!」

「頼むよ。安全な場所はここしかないから」

 ワスレを転がしながらご機嫌をうかがう。

「よし、3回で手を打とう」

「手なんかないじゃないか」と思ったが京也は言葉を飲み込む。ワスレとバカな会話を続けたかった。だが連中が呑気に待っていることはありえない。すぐに緑の柱に入り込むことはないとしても、遅かれ早かれここにも来るだろう。ワスレの力があれば連中とも互角以上に渡り合える。しかし、これは京也の運命。決着は京也自身でつける必要があった。後ろ髪魅かれる気持ちに鞭を打ち、グランドへの最短ルートを探しだす。

「発動」

 言い残して京也が消える。



 ワスレがそれを確認するとトーンを下げる。

「もう、いいぞ」

 反応するようにマリアが起き上がった。

「あんた誰」

「吾輩はワスレ、柱の審判を司る者のひとりじゃ」

「ふーん」

 興味なさげに答えるマリアが、円形状の部屋を物色しはじる。クリスタル以外特別なものはない。手についた砂を払いのけた。

「顔に似合わず、なかなか過酷な運命を持っておる。どうじゃ審判で」

 鋭い眼光が向けられた。

 恐怖で言葉を失い縮こまったワスレが視線を泳がせる。

「だから言うたんじゃ。獣は嫌じゃと」

 やっと絞りだした声を唸り声が呑み込む。

「食い殺すよ」

「すみましぇん」

 しゅんとして転がり落ちるワスレをマリアがキャッチした。

「能力のこと何か知っている」

「階段を3秒で上る能力のことを言っておるのか」

 最初はマリアもそう思い込んでいた。階段を早く上り下りできる単純な能力。

 別の思いが心に渦巻く。5階から先に飛び降りた者に、後から飛び降りた者が追いつくことなんてあるのだろうか。死ぬ気で飛び降りた。階段はないし、魔道具の力を借りてもおおよそ不可能なはず。いや絶対に物理的に不可能なのだ。なのに、京也は追いついた。

「少し覚醒したみたいじゃが、本来の力を使ってはおらん。まだまだじゃ」

「本来の力?」

「目に見えるものだけが現実だと思うか」

「あたりまえだろ」

 砂上に並んで座る獣とボール。

「亡くなった人を思い続けていると、ふとした瞬間、その人の声を聞いたり存在を近くに感じたりすることはないか」

「だから」

「誰もそれが現実ではないといいきれない」

 ワスレが言葉を捜しながら話す。

「ただ見えないだけ。そうじゃないのう。見ようとしていない。見る方法を忘れただけかのう」

「ばかばかしい」

「真の力は、もっと先にある。それに気が付いた時、京也はどうなってしまうかのう」

「意味不明」

「その時は主が支えてやれ」

「なんで」

「京也にとって主が一番大切な存在だからかのう」

「殺すのに……」

「そうか」

 マリアはワスレを膝にのせ、京也がすり抜けた壁をずっとずっと眺めていた。

 


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