023
一心に祈る姫野の肩をたたく音。静かに目を開けると楓が立っていた。
「京也は?」
「審判をまだ受けています」
「そう」
楓は、生徒会の命令で京也の監視と姫野の警護を任されていた。ミス学園に選出された者は、次のミス学園が決まるまで護衛がつく。もともとは別の者が護衛についていた。護衛といっても学園内外でイベントがある時、警護をするだけで学園内では一切干渉はしない。姫野と京也が赤の審判を受けた事で、京也の監視役を務めていた楓が任務を兼任していた。
「夜が明けると別のものが柱の任につきます。一旦自宅に帰られてはどうです」
「わかりました」
心とは反対の言葉を姫野は発した。
楓に無理をさせてしまっている。
京也が緑の柱から出てきたら真っ先に向え、声をかけたかった。
空が白々としてくると柱を囲む芝がはためいた。色のなかった暗い世界に少しずつ色の明かりがともっていく。姫野の両手は、未練をまだ持っているかのように固く結ばれたまま離れない。転送魔法で姿を消す姫野の姿を楓は一人見送った。
「出てこい」
「ほう、気づいていましたか」
楓の背後に立つ人影。
「覗き見とは趣味が悪いな」
「いえ、いえ、たまたまここにいて。たまたま声が聞こえてきただけです」
「魔法学園の生徒ではないようだが」
「詮索しない方が身のためですよ」
「学園の風紀を守る者が、侵入者を見過ごすと思うのか」
「無駄だと思います。あ・な・た・の力では」
鞭がしなることなく直線上に伸びたまま男の前で止まる。
停止した鞭は固まったまま動かない。
「無駄です」
男が握ると溶けていく鞭。
ゴムの焼ける匂い。
男が鼻をつまんだ。
「ご心配なく。鼻は大丈夫です」
正面から男は楓に近づいてくる。
「いでよ、雷」
上空から数本の雷光が男をさけるように落ちた。
触れることを許さない領域が男の周りに存在している。
「物理攻撃も魔法攻撃も受け付けない、それがお前の能力か」
「それだけではありません」
合掌した手が離れると、燃えさかる炎が男の両手を包み込む。
「パチン」と指を鳴らすと炎の槍が飛ぶ。
リズムを奏でるように音が響くたび炎が次々に放たれていく。
楓は鞭を手放すと襲い来る槍をかわしながら鎖で囲まれた柱の芝に飛び込んだ。
『ビー・ビー・侵入者です! ビー・ビー・侵入者です!』
けたたましく警報音が鳴る。
鎖を超えることができない炎の槍が跳ね返されて地面に突き刺さった。
「今日はこれで失礼します。能力もないのに意地をはると死にますよ」
男は全身に炎をまとい侵入防止のシールドに巨大な槍となりぶつかってきた。
亀裂が不規則に走る。火の粉が余韻を楽しむように揺られながら舞った。
残された楓は、京也からもらったペンダントを胸で握ったままその場に座り込んでいた。
「能力があれば……」
首にかけられた無色の石が、楓の願いを聞き入れることはなかった。




