019
定められた運命がある。本人が望もうと望まないと関係なく。
しかし、そんな運命を事前に知ることができればどうだろう。内容を知ることができれば対処方法もある。もし進行中の運命なら断ち切ればいい。断ち切ることができれば生き方も変わるだろう。運命の柱は、運命を知りあらかじめ定められている楔を断ち切る審判。人の運命をリセットできるため生徒だけでなく一般の人々も審判を切望していた。
緑の審判には、生徒会の同意と魔法学園の承認。さらに、古代遺跡研究調査会の評議で3分の2の同意が求められる。運命を大きく左右する大事な審判だけに、慎重な判断と厳格な手続きが決められていた。審査・手続きには何か月も月日をようし、1年先まで順番を待つ人たちがいる。また審判は受けさえすればいいものではない。柱の内部では運命を断ち切るためのさまざまな試練が用意されている。人によって、運命の価値により審判の難易度も変わる。誰もが気軽に受け運命が変えられるという単純なものではなかった。
猶予が3日しかない京也には正式な手順を踏む時間的余裕はない。順番を待つ人には悪いが、姫野と京也は審判を受けるため柱の内部に無断で潜入を試みるしかなかった。
午前0時になると柱をライトアップしていた光線もなくなり学園内には静寂が訪れる。色彩の違いくらいしか外見上の特徴のない緑の柱。暗闇で見ると赤の柱と全く同じに見えた。柱の周囲に張り巡らされた「立入禁止」の鎖をくぐり抜けようとした京也を姫野が静止する。
「侵入防止の結界。ここで待っていて彼女がもうすぐここにくるから」
彼女とは誰だろう? 草木の揺れる音も虫の声も聞こえてこない場所で足音も息づかいもさせず近づく気配を感じた。
「待たせてすまない」
姿を見せたのは風紀委員の響楓だった。
「緑の審判の立会人を務める。以後はわたしの指示に従ってほしい」
風紀委員は、警備上柱の内部に自由に出入りする特権が与えられている。結界を抜け侵入するため楓に応援を要請していた。
「わかりました。京也をお願いします」
「中に入らないのですか?」
「ここで待っています。何か異常があればすぐにふたりに知らせますから」
姫野が左手を京谷に向けた。柱の内部は赤の柱同様に魔法を使うことができない隔離空間。足手まといになりたくないとの思いがあった。運命を断ち切ってもらいたい。語らなかったが、赤の柱から脱出した後ペンタグラムで覗いた未来は「死」で覆い尽くされたままだった。
楓が京也を伴い侵入防止の鎖をすり抜け、柱の前で呪文を呟くと緑の柱に吸い込まれていく。残された姫野は左右の手を合わせ、ぎゅっと強く握りしめた。
祈るしかなかった。赤の柱から救いだし運命を変えてくれた京也にできることは信じて待つこと以外なかった。
『運命に打ち勝って京也』
赤のリングに思いを込め姫野は祈り続けた。




